●クワガタ虫〜木曜深夜、ホンダのCMに涙する。
BGMは Ben E. King の“Stand by Me”。
色褪せた古い写真。
自宅の前で CB750 Four K0 に跨る半ズボンの少年。後ろから見守る父親。
初めての単車の鍵を握り締める十代の少年。コムスターホイールの MB5。
二十代の青年。防波堤に停めた CBX400 と VT250。
彼女を乗せて街中を走り抜ける Steed400。
ワインディングをひとりで走る CB1300 SuperFour。
“あなたは今もライダーですか。”と問い掛け、
再び、30年後の自宅前で CB1300 SuperFour に跨る少年。
後ろから見守る父親は、かつての少年。
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“翼ある人。”木曜深夜のホンダのCM。
あのCMをリアルだと感じるのは、子供を載っけて走っていないからだと思う。
ワインディングを走ってゆくCB1300のタンデムシートに、
ヘルメットを被った子供の姿は無い。
ただそれらしく作ろうとするなら、
子供とのタンデムシーンを撮ればいいのかも知れない。
小ぶりのジェットヘルに、幼い笑顔。
だけど、あえてそれをしていない。確信犯。
同じ自宅の前であろう場所で、
K0に跨るかつての少年。CB1300に跨る現在の少年。
無言の継承。
Boys Meet the Motorcycles.
やがて勝手に走り出す。
30年近くも前、
トタン屋根のガレージの隅で、親父のBMW R69Sに跨ってたよ。
ハンドルが遠くて、辛うじてステップにつま先が付くぐらいだったか。
横に張り出したシリンダヘッドやマフラーでよく火傷をした。
そういえば、少し意外だけど、親父が走っている姿を知らない。
いったい、どんなスタイルの単車乗りなんだろう?ってね。
この週末、玄関先で捕まえたクワガタ虫みたいなもんで、
飛べる事は知ってるし、何処かを走っている事を知ってはいるんだけれども、
でも、佇む姿しか、実際には目にしていないんだ。
ガレージに停めたクワガタ虫と同じ色の車体の傍に。
自分が飛べるようになって、
飛ぶ姿を目にする事が出来る、鳥や蝶のような単車乗りを見てきた。
鳥や蝶のように見てきた・・・のかも知れない。
左右に揺れながら遠ざかる先輩達のテールランプとか、
ミラーに映る後輩達のヘッドライト。
若干の歳の差こそあれ、いずれにせよ同世代の仲間達の姿だね。
信じられない動きをする単車達に、
信じられない距離を走って辿り着いた単車乗り達に、
衝撃を受けた。
いつかは・・・それまでは・・・
乗り続けよう、走り続けようと思った動機だね。
それとは別に、
乗ろう、走ろうと思った瞬間が何処かにあった筈だ。
いつか、クワガタ虫のような単車が欲しいと思った。
サービスエリアの片隅で、自宅のガレージで、
火を落とした単車の傍らに、ひとり、静かに佇む単車乗り。
細やかな金属音を奏でながら徐々に温度を下げるエンジン。
10年後 BMW R850R Roadster
2004/06/25+23:42:55
岸本健治
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