2003年12月中旬、モンサラシュで1泊する機会を得た。他の町で用を済ませ、モンサラシュに辿り着いたのは日暮れ時。この村には何度か足を運んでいるが、淡いピンク色の雲がたなびく夕焼け空を背景に、いつにも増して懐かしい感じがする。また、この日はクリスマス前とあって、村の通りでプレゼピオの展示が行われていた。

 キリスト生誕に関する聖書物語の中の光景をミニチュアの人形などで再現したプレゼピオは、この時季よく見かけるが、人間と等身大のものを、人々の生活空間となる路上に展示しているのは珍しい。まず、村の城門の両脇。番兵たちがこちらを警戒している。門をくぐってすぐ、水のみ場のある小さな広場には羊飼いと羊たち。その近くのベンチには誰か腰掛けて休んでいる人。通りを左手に曲がると、今度は家の戸口に腰掛け、あたかもこちらに話しかけそうな様子の人影。そんな具合に、小さな村の通りのあちこちに人形たちが展示されているのである。

 早速、常宿のペンションで部屋を借りて荷物を置き、夕食前の散歩に出かける。ペンションのすぐ前にも、ロバを引く人形の姿がある。近づいて見ると、人形は余り精巧な作りではない。はっきり言って大雑把である。材料はガムテープのようなゴム引き加工された粗い布。こんな材料できめ細かい細工を施すとしたら、相当骨の折れる作業になるだろう。小高い丘の上の村モンサラシュで、クリスマス前後の数週間、吹きさらしの展示だから、やはり見かけより耐久性重視なのかもしれない。

 そんな飾らない素朴な人形たちは、薄闇の通りの隅々に違和感なく溶け込んでいる。地味な色合いも手伝ってとても自然である。だが、平日の夕暮れ時の路地には彼ら以外の人影はない。旅行者はおろか村人すら歩いていない。自分の靴音がコツコツと響くほかは、しんと静まり返っている。やがて遠く地平線には日が沈みかけ、空は濃い茜色に変わり始める。加速する見事な赤い落日を惜しみながら見届ける。時計を見れば、レストランの開店時間にはまだ早い。それまでペンションで一休みしようと、コートのポケットに両手を突っ込み、来た道を引き返す。一段と闇の濃くなった通りを「また会いましたね」と言いそうな人形たちとすれ違いながら。
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第6便
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第6便(2004年3月)は、アレンテージョの国境の村モンサラシュ。昨年のクリスマス直前、プレゼピオと呼ばれる人形たちが息づく夕暮れの小さな砦に、透明な空気が宿る。
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第4便


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モンサラシュのプレゼピオ
第5便
日暮れ時の風景。 
門を守る番兵たち。 
羊たちが出迎え。 
井戸水を汲む。 
夜は雰囲気が増す。 
日没の瞬間。 
落日後、茜色の空。 
黄昏の通り。