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詩を書いていると不思議に気持ちが少し軽くなったような、
まとわりついていたものが少し消えたような、
新しい希望が見えたような、
そんな気持ちになれる事があります‥‥

『 救済詩 』は 、何かのことで、今、思い悩んでいる全てのひとに捧げる詩集です。


■救済詩<URGE編>

Vagueness

光と闇の中で揺れ動く
儚く美しい運命達
細いろうそくの炎のように
消えかけては物憂い息をする

朝の日差しにうつむいて
日没の夕暮れに戸惑い
短い命の終わりにたどり着いた時
はじめて気づくのが運命

誰もいない場所
何も見えない風景
静寂にかき消された途切れた銃声
突然世界が止まったように
そのひとは瞳を開けようとはしない
いつか来る恋人を待つように
幸福そうにほほえんだ

流れてゆく時は気づかない振りをするだけ
孤独にきつく抱かれた人々は、魂は
光と闇の間で揺れ動く
儚いかげろうのようだ
消えかけては物憂い夢をみる


■救済詩<URGE編>

天使と娼婦

思い出すのは
なくした心のかけらと心の痛み
忘れかけていたのは
情熱と夢と希望と……

美しい娼婦は無邪気に笑い
僕は背中の羽をまたひとつ彼女に捧げる
君の手は僕の頬をつたい
鍵を掛けていた心の扉を解き放つ

止まっている砂時計
傷ついた足
慈悲にあふれた透明な瞳
孤独なのは君も同じ
恐れることはない

光と闇の間、深淵にある世界
その天使と美しい娼婦は姿を消し
二度と戻ることはなかった

深く沈んだ青い夜が明ける
低い地響きとともに
霧に包まれた夜が明けてゆく
人々は眠りから目覚め
はじめて喜びの涙を流した


■救済詩<URGE編>

Mortal anxiety

頭のない殉教者
光る十字架
暗い大地
果てしない闇
沈黙という歌声
天使に汚された足首

私は重ね合わせる自らの運命を
魂は不滅なのだろうか
愛は消え去るだけなのか
頭のない殉教者は微笑むだけで
何も答えてはくれなかった

私は歩き出す
私は立ち止まる
幸福はいつもこの森にのみ込まれてしまう
鋭い棘をもつ茨の大地
沸き立つ血のような赤色の棘

獣達が眠る奥深い森の中
犯してきた罪は消えることはない
耳元で誰かが囁く
その声は自分の声に似ていた
この森は枯れるだろう
燃えてゆく指先を見つめながら
私は重ね合わせる自らの運命を


■救済詩<URGE編>

Devil

黒い翼に包まれて眠りについた
しめやかで心地よい静寂に身をゆだねて

鋭い無数の鋼の羽
やわらかい肌が震えている
あなたが私を見ている
三日月のような優しく残酷な瞳で

まどろむ私は願う
この美しい魔物の餌食となることを

その鋭いくちばしで胸を裂かれれば
血反吐を吐いて恍惚にふるえる喜びを……
安らかな悲鳴を、深紅の肉片を、暗闇に堕ちていく身体を……

私は本当の喜びを知り
真実の涙を流す

流れでる深紅の血は涙とともに
深淵の谷間に注がれ
切り裂かれた肉片は
瑠璃色の結晶にかわる

まどろむ私は目覚める
生まれかわった意識となって

私は羽ばたく果てのない闇を
いまこの身体は
美しい魔物の翼となり瞳となり
私は永遠の眠りについていく


■救済詩<URGE編>

Last Regret

ただ一切は過ぎてゆく
喜びに溢れた夏の日差しも
我が身を呪ったあの時でさえも

愛 夢 希望 全ては幻に過ぎない
天使の歌声、マリアの微笑み、キリストの慈悲
せめて果てのない闇へ飛び立つその前に
その無常の喜びをこの胸に刻めさせたまえ

美しさに溺れ、罪の上に罪を重ねた
夏が過ぎ、秋になり、冬が訪れると
女は突然姿を消した
あざけりの笑いを残して
今は 悲しみも不幸もなく
ただ一切は過ぎてゆく

私の身体は傷つき動かない
暗黒の鳥達が瞳を貫き
野獣達が幾千にも身体を引き裂いても
身体は痛みを求め続ける
魂は罪を求め続ける


■救済詩<URGE編>

美しい夢

僕はいつも夢を見ていた
かぐわしく甘い夢
寝ても覚めても
決して終わることのない
途切れることもない
永遠に続いてゆく綺麗な時間

目覚めれば美しい君の横顔
その吐息
打ち寄せるさざなみは
きらきら光りその白い素肌に
鋭い感覚を映しだす

その細い身体はいつまでもあでやかで
その瞳はいつまでも透き通るようで
僕は君の奴隷のような王のような
支配者のような召使いのような
物乞いのような存在

幻想とかげりのある世界
美しくこの甘い世界
霧と霞に守られてひっそりと
確かに存在する世界


■救済詩<URGE編>

Last Regret

枯れ果てた大地の上で
心は痛み続ける
ああ、なぜこれほどまでに
罪の十字架を押しつけるのか
君の微笑みを思い出すたびに
灰色の空を見上げる
すべてが終わった後だとゆうのに……
さらさらと指から流れ落ちてゆく砂は
枯れた涙を誘うよう
愛しい君に抱かれて眠れたら
壊れたビルの谷間をさまよい
ガラスに映る太陽が
まぶしくて、きれいさ
みんな夢だったと思いたい
乾いたアスファルトに君の姿が滲んで消えた


■救済詩<URGE編>

Remitted

懺悔の部屋で
ひざまずき
祈り捧げれば
一条の光さしこみ
乾いた唇照らす
愛の果て
盲目の闇の中で
So litu de 一人眠る
救いの手は天上の彼方に
やさしいぬくもりが
そっと体をつつむ
なつかしい微笑みを
今、やっとできるように


■救済詩<URGE編>

Anxiety

罪は犯すためにあると、神は言った
愛は絶望と恋に落ち
裏切りは悔恨を求めてさまよう

君が引き裂いていった僕の心は
烏さえも寄り付かないほどに
腐りかけ汚い虫が湧いている
傷口から流れ出る溜息が
瞳から溢れ出る悲しみが
荊の鎖みたいに心を締め付ける

ひび割れてゆく手のひら
ぼろぼろと崩れ落ちて
過去に滅んでいった都市のよう

砂に返る指先
さらさらと灰になって
黄昏に散っていった君のよう
純粋と狂気の間で人は何を思うのだろう
自らを愛し、憎み、呪い、卑しみ、
最後には……
絶えられない苦痛と苦悩だけが残るのか

罪は絶望と恋に落ち
裏切りは悔恨を求めてさまよう
愛は裏切るためにあると、君は言った


■救済詩<URGE編>

Angel's song

その地上には、幸せの花咲き乱れ
その大空には、限りない太陽のまなざし

生命、自然、愛と君
天使の歌声に導かれ
満ちたりた時に包まれる

すべての憎しみは消え去り
ただ永遠の夢とたわむれる
この世界に暗黒はなく
風の匂いはやわらかく澄んでいる
僕はもう一度深く息を吸い込んだ


■救済詩<URGE編>

死にゆく母親へ

あなたが永遠にその瞳を閉じるまで
私はわがままな子供でした
ほんの少しの御飯も食べられず
わずかな水も飲めないまで
弱くなってしまうなんて
いつものやさしいあたたかい声も
かすかに返事をするのがやっとになって
あなたがずっと遠くへ行ってしまうまでに
もう一度言わせてください
今まで私はわがままな子供でした
わたしはあなたの子供になれて
とても幸せでした


■救済詩<URGE編>

黄色い小船

遠くで僕を呼ぶ声がする
いろいろ心配をして声をかけてくれる
分かっているよ、十分すぎるほど
あなたは僕を救ってくれた……

だけど今は少し疲れているんだ
毎日少しずつ情熱が冷めていくのに
わがままかもしないけど
今は何もしたくない

――普通の人にはちょっと長い時の中で
――瞳を閉じると広がっていく世界がある

静かで美しい海辺
打ち寄せては、、引いていく波に
そっと耳をすませて
僕は待っていたい……

いつの日かやってくる
黄色に輝く帆を立てた小船を
ずっとあてもなく
明日も、あさっても
ひとりで待っていたいんだ


■救済詩<URGE編>

赤い虹

この愛が終わらないように
この心の叫びが途切れないように
夢の中でも続くように
僕は君を思い続けていく

この愛は始まりと終わりが最初からあって
神聖と邪悪が求め合って
絶望と希望が重なり合って
身体と心が混ざりあって
夢の中でもまだ求め合って
蘇り繰り返されていく

魂の呪縛が心を引き裂いて
僕はあなたの中で砕け散って
その破片はこの世界に深く突き刺り
まるで夕焼けのような
美しい赤い色をした虹を大空にかけて
新しい死と命を目覚めさせていく
手がかりとなるだろう


■救済詩<URGE編>

Blue fish

きらめいて揺れる街の灯り
行き場を無くした熱帯魚
透明な水に身をゆだねながら
水槽という楽園でおまえは何を思う

高鳴る鼓動と冷めた情熱
あてもなくむさぼりあう夜に漂い
いつものように抵抗もできず
逃れられない闇に落ちてゆく

自由という檻の中
窓の外で降りだした冷たい雨
ガラスに映る自分の影が
冷たい顔で気がつくのが遅いと呟いた
ゆがんだ愛が心を狂わせ
愛なんて信じてないなんて
愚かなことを口走る

楽園という檻の中
透明な空気に身をゆだねながら
水槽に飛び込む自分は何を思う


■救済詩<URGE編>

Dumb city

朝の匂いが肌を湿らせると
浅い眠りが身体を締めつける
アスファルトのベッドは冷たすぎて
目覚めればまたあてもなく
さまようだけなのに

通り過ぎてゆく人の影
涙がでないのはなぜだろう?
何も聞こえないこの街で
ビルの谷間迷い疲れて
また瞳を閉じる

乾いた唇が君の名前を呼ぶ
この想いはどこに行くのだろう?
街の片隅にあふれるくらい
二人の愛がころがっていても
君には見えないだろう

何も見えないこの街で
届くことのない想いを叫ぶ
色あせた記憶
真実の愛
君に会いたい


■救済詩<URGE編>

Birds

赤い大地の地平線の向こう側へ
傷つくことさえ忘れた俺は
夢見ることを捨てきれずに
Still I will be dreaming.
あてもなく歩き続けるだけの
やせたこのからだを踏みしめて
ハートに翼をつけた鳥たちと一緒に
どこまでもゆきたい
愛することを知り傷つくことを覚えた
偽りのない愛はどこへゆこう? Birds
偽りだけの愛はどこへゆくのさ? Birds
おまえとともに翼を広げれば
俺もいつかたどり着けるのだろうか


■救済詩<URGE編>

調子のいいときだけ

調子のいいときだけやさしくなって
調子いいときだけ笑っていて
調子いいときだけ涙を流し
調子のいいときだけ強くなり
調子のいいときだけ愛を語り
調子のいいときだけ強くなり
調子のいいときだけ博愛の精神を押しつける
私はいったい何者なのか?
調子のいいときだけ親切になって
調子のいいときだけ人を助け
調子のいいときだけ感動し
調子のいいときだけ人を慰め
調子のいいときだけ人を傷つけ
調子のいいときだけ金を払い
調子のいいときだけ友情を語り
調子のいいときだけ愛をほしがり
調子のいいときだけ貧しい人を助け
調子のいいときだけ人をねたむ
私はいったい誰だ?
調子のいいときだけ礼儀正しくなり
調子のいいときだけ頭が良くなり
調子のいいときだけ道を譲り
調子のいいときだけ動物をかわいがり
調子のいいときだけ規則を守り
調子のいいときだけ素直になって
調子のいいときだけ感謝をして
調子のいいときだけ人に謝って
調子のいいときだけ……


■救済詩<URGE編>

Genuine stranger

何もつかめないまま、行く先もないまま
現実と夢想の狭間で道に迷ってる

夜が明ける、物言わず寝静まっていた街が目を覚ます
物思いにふける夜が、彼方に消えていく
光輝く朱色の太陽が、街を鮮やかに照らしていく

異邦人、もどかしい思いに苛立ちながら旅を続ける人
そして、漂泊者、過去を清算しながら旅を続ける人

朱色の太陽が昇り
ぬくもりにも、やさしさにも、はじかれて歩いても
朱色の太陽が沈み
痛めつけられても、現実と夢想に心奪われ、吼えるしかないなんて


■救済詩<URGE編>

はなびら

春の終わり――
ふらつく足元に、たよりない自分の影が、蜃気楼のように揺れる
そして、今の僕には……、明るい太陽の光は本当に不似合いだ
薄紅の桜の花びらが散り始めるたびに、
僕はある過去を噛みしめ、あの過去を憎んでしまう

――誰もいない桜の木の下で、一人椅子に座っている思惟……
そう、幸福なんていうものは、そんなにすぐ見つかるものじゃなくて
たぶん、絶望なんていうものは、ありふれるくらい、ありふれている

ここから見える景色は、まぶしく明るいばかりなのに
冷たい椅子に座っている僕は、無意味に心を尖らせ
こうして、桜の花びらが散っていくのを見ているだけなんだ


■救済詩<URGE編>

君と僕と死について

僕達は遥か遠い未来に出会うだろう
終末の叫び声がだんだん近くなる
僕は君と出会うために
全てを捨て、全てを失い
魂も商人に売り渡してしまった

僕達は遥か遠い過去に会っているだろう
まぶしいほどの太陽の光が降りそそぐ
あの夏の日の
君の優しい微笑みを僕は忘れない
君のさしだしだ手のひらは暖かく
僕は君のことを……

僕達は遥か遠い未来にまた殺しあうだろう
君への愛は憎悪に変わり
僕は君の全てを奪い燃やし尽くすだろう
そして、最後にかわす口づけは
甘い果実の匂いがするだろう

僕達は知っている
狂おしいほどの二人の記憶も
憎しみも嫉妬も狂気という愛も
手のひらからこぼれてゆく砂のように
さらさらとかすかな音を残していくだけなのを……

僕達は待っている
僕達が手したナイフが
海中深く沈んでいく寂しい涙のように
嘆き悲しむ声も上げられないまま
その胸を貫いていくことを……


■救済詩<URGE編>

非常階段

どこでも駆け上がる
くたくたになるまで駆け上がる
地上の世界が見えなくなるまで
いや君の姿が見えなくなるまで
どこまでも続くこの鋼鉄でできた階段
こんなに心臓が破裂しそうなのに
この足は走ることをやめない
ガラスでできたビルは高く
いまでも成長を続けているガラスの生き物
胸が苦しい血が沸騰している
水蒸気のようにからだが軽い
鉛のようにからだが重い
突然襲った嘔吐に混ざっていたものは
意味不明な意識の塊だった


■救済詩<URGE編>

迷い子

飼い主に見放された犬が
通り過ぎる動物を睨みつけて
一日中吠えることを止めない

飼い主に捨てられた猫は
街の中をうろうろするだけで
自分ひとりでは何もできないみたいだ

ごみ袋をあさるカラスは
あり余る知恵を使って
優雅に空を舞っている

迷路に迷った人間は
いつでもどこでも
行くべき道を選びかねている

足元を縦横無尽に走り回る鼠は
邪魔者扱いされても気にしない
生きる事が何であるか知っているから


■救済詩<URGE編>

自画像

この白い家は亡霊が住んでいる。
打ちひしがれ泣く気力も失せた悲しい人の亡き骸、
その顔はよく見ると僕そっくりにみえた。
僕はぞっとして目をそらすと、この家を後にした。

少し歩いていくと、今度は黒い家が目に入った。
扉をたたくと鍵が自然にはずれ、家の中は静まりかえっていて、
悲しいすきま風が薄暗い室内を優雅に舞っていた。
僕は気が狂いそうになり、その陰気で憂鬱な家を後にした。

足早に夕暮れのさびしい並木通りを歩いていると、
今度は赤い家が目に入った。
僕は不吉な胸騒ぎを感じたので、そのまま通りすぎようとしたが、
自分のからだは気持ちとは逆に、赤い家に向いていた。

その家は壁も屋根も入り口のドアも、ぬれた血のような赤い色だった。
僕は高鳴る鼓動を抑えながら、赤い家に向かって歩きつづけた。
家の前に来ると、僕はためらわず玄関のドアを開け、そっと家の中に入った。

目に飛び込んできた光景は、僕の気持ちをさらに憂鬱にさせた。
テーブルも椅子も大きな柱時計も階段も天井のシャンデリアも、
みんな鼻をつくような生臭い血の色をしていた。
僕はめまいを感じたので、目を閉じて大きく深呼吸をした。
そしてもう一度目を開いた。
すると目の前に信じられないものが立っていた!
真っ赤な血に染まった自分自身が、僕を怖い目でにらんでいた!
声にならない悲しみと驚き、体は氷のように硬くなり自由がきかない。
憎悪に満ちた怒りの目でにらみつけているその男は、
僕をドアの外に突き飛ばし、大きな音をたててその扉を閉めた。

呆然とドアの外で立ち尽くした僕の胸には……、
べったりと濡れた手の跡が、今にも動き出しそうな気配を残していた。
しばらく赤い家の前で座り込んでいると、景色はすっかり夜の闇にのみ込まれていた。
僕は震える足を無理に立たせて道を急ぐことにした。
澄みきった空に浮かんだ白い月が、ぼんやりした光で足元を照らしている。
夜の闇がゆらゆら揺れている。

しばらく歩くと、今度は半透明に輝く青い家が目に入ってきた。
この家は透明であり、外からでも中の様子がよく分かった。
僕はドアをノックしようとしたが、手はドアをすり抜けて冷たい感触が僕をお そった。
家の中には色のない透明な人影が行ったりきたり……。
すっかり落ち着きを取り戻した僕は、青い透明なベッドを見つけるとすぐ横になった。

そして長く深い眠りがどのくらい続いたろう。
いつになくまぶしい朝の太陽の光で、僕はやっと目を覚ました。
不思議なことに身の周りには何もなく、僕は広い草原で寝ていた。
僕は立ち上がりまた歩きはじめてはみたが、いったいどこへ向かって歩いているのだろう?
目の前に今度は黄色い家が見えてきた。
僕は少しうれしくなった。


■救済詩<URGE編>

銀のピストル

ただ人を信じていただけなのに
ささやかな明日を信じていただけなのに

ポケットには色あせた家族の写真が
今もあのときのまま微笑んでいる
流せない涙を流したい
乾いた唇にもう一度ぬくもりを取り戻せるなら

僕は思い出す
こめかみにピストルを突きつけられた感触
轟音とともに耳鳴りが響き渡り
頭にめり込んでくる鉛の銃弾
張り裂けるような痛みのあとの静寂
暗闇に落ちてゆく感覚

悪い夢を見ているようさ
母は元気だろうか
もう会うこともできない
冷たい身体に熱い血を流してほしい
姉は無事だろうか
もう会うこともできない

でも心配しないでほしい
僕は永遠に待つことができる
無常にも僕の命を奪った奴らを
太陽も届かないこの世界で
僕は銀のピストルを授かった
だから悲しまなくていいよ


■救済詩<URGE編>

ある詩人が見た夢

人影は夢のように消えていった
命は砂のようで
魂は不滅かもしれない
言葉は消えた
彼女は消えた
友は消えた
母は消えた
家族は消えた
僕の影も消えた

目を開いて周りを眺めてみた
透き通るように青く澄んだ空の下に立っているけれど
背の高い壁に囲まれてここから外に出られないようだ
この中には誰もいない
時が流れているだけ
僕は年老いてゆくだろう
情熱はいつまで続くだろうか
希望は、夢は、絶望もある確かに
もう夏が過ぎようとしている背の高い白い壁に囲まれて
僕は風になびく草原の息吹に耳をすませ
青く晴れた空を見つめた

風が強くなってきた
うしろに見える山のような大きな白い塔は
僕を中に入れてくれるだろうか……


■救済詩<URGE編>

まどろみ

僕は朽ち果ててゆくだろう
喉を切られたバラのように
僕は死んでゆくだろう
何も出来ずに

消え去った過去は美しくはかない
夢のまどろみに消えてゆく未来は蜻蛉に似て
かすかな絶望を僕に抱かせる。
現実が僕を抱きしめる
僕は立ち尽くす
目の前に広がる海は金色に輝き
彼女は泳いでゆく太陽に向かって

僕は叫びながら彼女の名前を呼んだ
彼女は泳いでいる手を一度だけ休め
僕に振り返り笑いかけた
かすかな絶望は美しくはかない
僕は穏やかな海をあとにした


■救済詩<URGE編>

聖霊のささやき

眩い光に照らされて
うつむくその姿、その横顔
気高く純粋で罪を知らない乙女が祈る
大天使の羽音に耳をすませて

聖なる風が岩窟を駆け抜ける
心地よい音楽のような言葉が耳に響く

――祝福の時が来たのです
私たちは今日から一つになるのです
人々のすべての罪を許すために
神は我が子をあなたの内に宿すことを決めました
同じ地上で人々と共に歩む、慈悲深い我が子を――


■救済詩<URGE編>

ソドム

湿った鱗を光らす蛇のように
冷たい石の隙間から舌を出すトカゲのように
背中の暗闇から、妙に若作りした女が這い出してきて
うつろな目をぬらして大きな口を開けた……

それはいつもの儀式
不条理な欲望と渇いた肉体の儀式だ
先の割れた舌からたれ流される毒薬
体中を心地よく痺れさすどろどろした甘い液
僕はまるで飢えた赤子みたいに
うまそうにのどを鳴らしてその毒を飲み干す

至上最悪なこの場所
人間の抜け殻だけがうごめく腐食の都市
僕は不自由な心をもてあまし
何の抵抗もしない
ここには時間がない
ここには過去がない
人間の魂がさまよう牢獄

――ただ、いつも気づいていた
――ずっと前から分かっていた
僕はここでしか生きられない、悲しい生き物であることを……

震えているのは自分自身で
這いつくばりのたうち回っているのは
哀れな自分自身で
ネズミや虫の餌になるのは
動かなくなった僕であることも


■救済詩<URGE編>

憂鬱な蟷螂

胸が揺らめく
欲望と嫉妬への気持ちが高鳴る
八つ裂きにしたいほど狂おしい熱情
湿った肌によだれを垂れ流す

闇の亡者、黒服の落武者達
ヴェールに隠れた美しい顔の女
なぜか今気持ちが高ぶっている

破裂した内臓を食べる少年
血の池に身を投げる少女
仏陀は眠たそうにちらと僕を見た
キリストは磔にされ身動きがとれないようだ
アッラーは黒い箱の中に入ったきり姿を見せない
森の精は陰気な歌をさえずっている

愛は人を裏切るために嘘をつく
憎しみは美しく孤独の扉を開いてゆく
這いつくばりのたうちまわる輪廻の運命
呪いの言葉は沈黙の炎をたぎらせる


■救済詩<URGE編>

Sora

白い閃光に会いに飛ぶ
闇と闇が触れ合ってうつろう
やわらかな光ににも似た愛撫
螺旋の記憶を呼び覚まして
+と−の宇宙へ

体内の細胞の目覚めを解き放つ
閉じた世界を今解き放つ
+と−の宇宙が交わる時
すべてがまた始まる

白い閃光とともに
永遠の神も堕天使もその闇の中へ
永遠の喜びも悲しみもその光の中へ

遠い記憶呼び覚ます愛撫
眩いほどに白く明るく膨らんだ静寂の中で
体内のエネルギーが解放される

どこまでも広がりゆく宇宙
愛にも似た微笑
無数の細胞が目覚めるとき
白い身体は二番目の太陽へ

目覚めた生命は白い陽炎
喜びと悲鳴が一つになり
祝福と破壊が一つになり
私はまた一つの白い光に帰る


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