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from bookland 209号       ★今月の新刊紹介★  <2003年4月>



1993年『ゲド戦記』シリーズ4巻、『帰還』が出版された時、『ゲド戦記』1〜3巻を読んできた読者に大きな波紋を投げかけました。 1〜3巻で充分にファンタジーの中でも至高の作品として多くの読者を魅了してきたのに、まだ何を書こうというのだろう、と期待と不安が交錯していました。
老いたゲドは魔法の力を失っています。第2巻で登場したテナーは1人の女性として、また、男たちに心も体も傷つけられ、 テナーの養女となる少女テハヌーという新たな登場人物を得て、物語は個から類へ、現在から始源へ、人間の世界を超えて、 アースシーという世界へと広がります。『帰還』のサブタイトルは「ゲド戦記 最後の書」でしたが、これでは終わらないと予感させるものが残りました。
そして、本当の完結編『アースシーの風 ゲド戦記X』が出ました。第4巻でもすでに提起されている「フェミニズム」「知の相対化」(第4巻の解説より)に加えて、 「異文化の理解」(第5巻の解説より)等、今、私たちが突きつけられている問題が示されています。
3月23日付の朝日新聞読書欄に、川上弘美さんの書評が出ていました。『「役立たず」の何か、が世界を救う』。 魔法の力を失って「役立たず」となったゲドの変化を焦点に、読み応えのある文です。
第5巻の原題は「THE OTHER WIND」(もう一つの風)です。今、この時に私たちに求められているのは、 もう一つの風をおこし、それにのることかもしれません。
最後に一言。第5巻解説にも触れられているように、第4巻と第5巻の間に『外伝』と言える本があり、追って訳されるそうですが、その中の一編だけが 『伝説は永遠に』(ハヤカワ文庫、860円)に収録されています。 第5巻の主要登場人物の1人、アイリアンの「わたし、ここに住んでいたのよ、トンボだったとき。」というセリフに、 「おや?」と思った方だけお読みになってはいかがでしょう。清水真砂子さんの訳ではないので多少違和感がありますが。

アーシュラ・K・ル=グウィン作 清水真砂子訳 『アースシーの風 ゲド戦記X』(1,800円)
T・U巻(各1,600円)V巻(1,700円)W巻(1,800円)   *全巻揃えてます。

         



さて、「ゲド戦記X」が出たのと、ほぼ時を同じくして「イラク戦争」が始まりました。
毎日、新聞やTVで報道される戦況に「慣らされ」てしまいそうで、そのことの方が怖い気さえします。 どこかに「当事者でない」という意識があるのかもしれません。しかし、戦闘の当事者ではなくとも戦争の当事者ではないと言い切れるでしょうか。
「ゲド戦記」の作者、ル=グウィンさんも反戦アピールに名を連ねていると聞きました。訳者の清水真砂子さんも抗議集会に参加されたそうです。 アカデミー賞の受賞スピーチでブッシュ批判をした監督もいました。
世界に「NO」の声をあげる人が拡がれば、この戦争を少しでも早く終わらせる可能性もあります。 今、自分のいる場所で「NO」の意思表示をすることは、同時に、将来、自分たちが同じ過ちをしないという意思表示でもあると思います。
「大義」「正義」をふりかざし、武力で「秩序」を押しつける立派で勇ましい人間よりも、平和に暮らし、人間を信頼し、 戦争に「NO!」と言える弱い人間でありたいとオヤジは思っています。



そしてもう一つ、「教育基本法」の改正(?)にも、「NO!」の声をあげなければならないと思います。ぜひ、お考え下さい。



2003年4月 もとはる



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