Influenza Topics

インフルエンザワクチンと免疫の問題

インフルエンザワクチンは効果があるのか?
インフルエンザワクチンの効果については諸文献が報告されている.効果を疑う根拠としてそのウイルス特性、疫学的事実、抗原原罪説等が報告されている.
(1) インフルエンザは,抗原性を変異させながら免疫を逃れているウイルスのひとつである(ウイルス特性).
遺伝子変異率から見るとインフルエンザの一年はヒトの百万年分に匹敵するという.高率で変異を起こすウィルスに対して,ヒトは流行を阻止する有効な免疫を持っていない.⇒終世免疫は不可能.流行すると思われる株を想定して毎年接種している状況.
(2) インフルエンザワクチンで抗体は上昇するか?
感染を阻止する抗体といわれるHI抗体について.ワクチン株に対する抗体が4倍以上に上昇する率は,研究によってまちまちであるが,おおむねそう高くなく,特に高齢者の方が低い.例えば1994年のDouglasの報告によると,H1N1で65才以上で30%,40才以下でも50%しか上昇していない.98年のウィルデの報告でも,成人で57%(H3N2)でしかなかった.予想以上にワクチンによる抗体上昇率は悪い. ⇒2回接種でブーストしているのが現況.
(3) ワクチン接種で抗体上昇があっても,それが感染阻止抗体として有効に働くのか?
ワクチン後のHI抗体上昇はワクチン株に対して反応したものである.そもそもHI抗体が感染を阻止する抗体として働くかどうか?
⇒抗体は鼻粘膜表には表現されない.従って感染は防止できない.感染後の重症化を防止するというのが適当である.流行株とワクチンの型が一致する(想定ワクチンが当たる)と効くという報告も確認が困難.流行株とワクチン株の一致率は、フェレットという動物の抗体反応で決められておりヒトに当てはまるのか?
(4) 抗体上昇が「抗原原罪原理」による現象ではないか?
「抗原原罪原理」免疫学者T・フランシス:幼少時にあるウイルス株に初感染すると、それによる免疫抗体が「原罪」のようにその後の免疫機能を支配するので、新しい流行株に型合わせしたワクチンでは予防効果のある抗体が形成されない.ワクチンでの抗原原罪原理を臨床的に証明したのがウェブスター論文.彼はH3N2ワクチン接種で,2/3の人で上昇したのはワクチン株抗体でなく,既感染株に対する抗体であることを報告した.抗原原罪原理に従えばインフルエンザワクチンの効果は期待できないものとなる.⇒反論は出ているが、原理はいまだに覆されてはいない.上昇した抗体が接種した抗原に一致するのかは、インフルエンザでは(3)のように難しい.

近藤誠氏の著「成人病の真実」第六・七章を読んで

第六章 インフルエンザ脳症は薬害だった→日本で報告されるインフルエンザ脳症の盲点を突いているが、解析不足!
幼児(おもに4才以下)に発症する脳炎・脳症ですが、年長児もかかります.掲載のとおりです.高熱、頭痛、意識障害、痙攣、嘔吐が主症状です.大部分の症例は、発病後2日以内に発症し死亡率は20%以上、神経後遺症を残して治癒したもの27%という重篤な合併症です.脳炎とは、中枢神経系よりウイルスゲノムが検出されたり、炎症所見があった場合をさし、中枢神経症状はあるが、これらの所見が見あたらない場合を脳症と呼ぶようです.4つに分類されています.(1)Reye症候群:アスピリンとの因果関係が証明された脳症です.低血糖、高アンモニア血症を伴います.急性のミトコンドリアの機能不全が見られ、肝臓に脂肪沈着を認めます.罹患年齢は、4〜6才であり、他のインフルエンザ脳症より年長児に多いと言えます.検査所見では、GOT、GPT、LDH等の上昇、血小板の低下を認め、これらの程度の強い者は、予後がよくありません.(2)小児急性壊死性脳炎:乳幼児に好発する脳症です.脳の多発性の浮腫性壊死性病変が、視床、内包、橋等に左右対称に見られます.(3)出血性ショック脳症症候群(4)ウイルス性脳炎・脳症.2)が最も臨床と画像が合致します.インフルエンザ脳炎、脳症の奇妙なところは、Reye症候群を除いて、日本でしか報告されていません.日本人と人種的に近い香港でも報告はありません.インフルエンザウイルスそのものが、このように急速に中枢神経障害を起こすとは考えられず、嗅神経、嗅球、辺縁系を介したグリア細胞の活性化が、中枢神経系内の高サイトカイン状態を招き脳症を起こすのではないかとも考えられています.その原因がアスピリンやメフェナム酸、ジフロフェナクNa等の解熱剤が惹き起こすReye症候群かもしれません.また、血管内皮細胞障害によると思われる血栓がみられ、血液検査にて凝固系に異常を示す(3)は予後が悪い.インフルエンザ脳症が、HHV-6脳症と類似点が多いことから、インフルエンザウイルスとの混合感染やインフルエンザウイルス感染を契機としたHHV-6の再活性化が脳症の原因となっている可能性が示されました(4)(2002年、菅谷).HHV-6は、突発性発疹の原因ウイルスとして知られています.このウイルスは、初感染時に突発性発疹を起こした後、体内に潜伏感染をします.潜伏感染は、唾液腺、単球、マクロファージ等にて起こることが知られています.潜伏感染には、IE1、IE2という特殊蛋白が必要であり、通常はこの蛋白は免疫寛容により保護されていますが、何らかの理由で免疫寛容が破綻すると機能低下し、病原性を発揮するという説があります.HHV-6は、突発性発疹の際に高率に中枢神経系に移行することが知られており、脳内にも潜伏感染するようです.マクロファージに潜伏感染すること、マクロファージは脳血液関門を通過すること、ミクログリアはマクロファージ起源であること等は、HHV-6が中枢神経系疾患に関与する印象を与えます.もう一つ、tss毒素の関与もとりだだされております.つまりブドウ球菌毒素によるtoxic shock symdromeです.脳症発生は、以前は年間100例ほどありましたが、2003年の時点では、数十例に減少している.解熱鎮痛薬を禁止したことが大きいといわざるを得ない.
第七章 インフルエンザワクチンを疑え→掲載論文の評価が変である!
学童に対するインフルエンザワクチンの歴史は、1948/49任意接種、1962勧奨接種、1976接種義務、1994任意接種となっている.1992にインフルエンザ予防接種被害集団訴訟で国が敗訴したことが、任意接種になった大きな理由といいます.又、世界でインフルエンザワクチンが義務接種の国はありません.ランセットの73/79の論文(私は要約のみ確認)では、ワクチンは流行株を予想して作られるけれども当たらなければ有効ではないことが判明累積予防効果もなさそうだけれども、過去の予測の株の感染がないのでこれは不明でしょう.副作用における前橋市医師会の論文は、診断基準と地域比較対照に問題があり信頼性にかけワクチンが無効とはいい難いが、ワクチンの副作用の警鐘を喚起しています.問題は60歳以上を対象としたオランダのくじ引き試験!残念ながら要約しか手に入らないのですが、近藤氏の数字が違っている!確かに発症率は少ないがプラセボ群12%、ワクチン群6%である(臨床的にインフルエンザである人と血清学的に確認された%.自己申告は含まれず).これだと100人に対して6人の予防効果になるが、発症率からみれば1991/92はインフルエンザが流行しなかったものと思われますのでなんとも言いがたい.その後の論議もありますが数字を確認してからにしたいと思います.このオランダの文献では抗体獲得率も研究されており接種3週間後の抗体獲得率は43-68%となっております.一度形成された抗体で終生免疫を得られるようですが(IgG抗体)、ウイルスの方が変異してしまうので毎年接種が必要になります.ワクチンの予防効果はIgG抗体によるので、感染防止作用(IgA抗体が担当)は弱く、重症化予防には効果があるといわれています.
ワクチンが、インフルエンザ脳症を防ぐかどうかはわかりません.2000年は、202例のインフルエンザ脳症が報告され、そのうち3人がワクチン接種者であることが判明しています(3人のうち2人が死亡).なので、ワクチンを打てば大丈夫とは言えません.Reye症候群を防ぐには解熱鎮痛剤の使用を控えることでしょう.さて、日本では1994年から学童へのインフルエンザワクチン接種が減りました.その結果インフルエンザと肺炎による死亡率が再上昇したという報告がなされています.NEJM,344:889,2001Mar22.420名の接種につき死亡1例を救う事ができるとの報告となっています.
私の結論
インフルエンザワクチンは有効である.医師はワクチン接種に際して、厳格な注意義務を果たすべきである.ワクチンの有効期限は5ヶ月.9歳以上は1回接種でも充分効果がある.インフルエンザ脳症に有効かどうかは不明です.