Influenza infection

インフルエンザウイルス基礎知識

インフルエンザとは、インフルエンザウイルスによってもたらされるウイルス感染症:
感染が成立すると、発病は急激で発熱(38〜40℃)、頭痛、腰痛、筋肉痛、全身倦怠感などの全身症状が現れ、これらの症状と同時あるいは遅れて、鼻汁、咽頭痛、咳などの呼吸器症状が現れる.通常の風邪より焦燥感・重症感がある.通常であれば、諸症状は次第に緩解し1週間程度で寛解治癒に向います.
インフルエンザウイルスが分離されたのは1933年:
ヒトに病原性を持つインフルエンザウイルスは、A・B・Cの3型があり、A型とB型がいわゆるインフルエンザ(感染症).C型は小児期に感染して呼吸器感染症の原因になり、正式にC型インフルエンザと呼ばれる.
インフルエンザウイルスの構造:
ウイルスは微小粒子構造で膜に包まれている.内部を核といい、ここにRNAからなる染色体がある.核蛋白質の抗原性の違いによりA・B・Cの3種に分類する.ウイルスは膜の表面に2種類の突起を有する.この突起は糖蛋白でできており、ヘマグルチニン(赤血球凝集素、HA)とノイラミニダーゼ(NA)と称する.
インフルエンザウイルスの病原性は、2種類の突起によリ決定される:
HAはウイルスの細胞への感染に関与し、H1〜16の16型があり、NAはウイルスの細胞からの遊離に関与し、N1〜9の9型がある.従って2つ突起の組合せによって亜型が多く存在する.このうちヒトの病原となるインフルエンザの亜型が明らかなのは、H1N1、H2N2、H3N2の3種類(組合せは、6種類)で、現在問題となっている鳥インフルエンザはH5N1であり、他H9N1などいくつかの種類がヒトに感染した例が報告されている(H1、H2、H3、H5、H9?).多くは鳥・哺乳類が宿主となっている.例を挙げると、HAに関しては、ブタでは(H1,H3)、ウマでは(H3,H7)、アザラシでは、(H4,H7)の2種類.トリでは16種類すべて.NAは、ヒトでは(N1、N2)の2種類だけで、ブタ(N2,N3)、ウマ(N7,N8)、アザラシ(N6,N8).トリでは9種類全てが確認されてる.従って、鳥インフルエンザには144の亜型(16x9)がある.
新型インフルエンザ:
インフルエンザウイルスの亜型は多くある.又HA・NAを構成する糖蛋白は変化しやすいので、年によって流行するウイルスの型は詳細には異なる.それに加え、遺伝子の変異の問題がある.B型は遺伝子がかなり安定しており、C型では遺伝子がほとんど変化しないので免疫は保たれるが、A型は時々遺伝子が大きく変わるので、新型A型インフルエンザが定期的に大流行を起こすことが懸念されている.過去の大流行の型を挙げると以下となる.詳細は以下に、
1918年  スペイン風邪 (H1N1)
1957年  アジア風邪  (H2N2:Aアジア型)
1968年  香港風邪   (H3N2:A香港型)
1977年  ソ連風邪   (H1N1:Aソ連型)
新型インフルエンザのヒト感染分布http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/toriinf-map.html
鳥型インフルエンザの温床はカモ(常在菌)である.国際獣疫事務局(OIE)は「最低8羽の鶏に感染させて、10日以内に75%以上の致死率があるもの」と定義している.現在東南アジアなどで確認されている高病原性のH5N1は毒性が極めて強く、鶏は1、2日で100%死亡すると言われ、高病原性・強毒性と言われる所以である.弱毒性ウイルスは、鶏では腸管、人間では呼吸器と特定の部位でしか活性化(細胞感染)しない.一方で強毒性ウイルスは、ほぼ全身で活性化するため、重い全身疾患を引き起こす.出血などの症状が似ていることから「鳥エボラ」とも呼ばれる.過去の新型インフルエンザは、すべて鳥由来のウイルスである.病原性はH5N1が際立っているが、実際に何型が流行るのか?いつ出現するのか?は全く不明である.
過去のパンデミック概要:
発生年 通称 発生地 推定死者数
1918年 H1N1 スペイン風邪 北米/中国 世界で4、5000万人が死亡、日本で39(45?)万人.
当時の世界人口8-12億人(日本は5500万人:推定)で、6億人以上が感染したといわれている.人類未知の初ウイルスパンデミク.
1957年 H2N2 アジア風邪 中国 世界で200万人が死亡、日本で5.7千人.
抗生物質発見後の大流行.スペインかぜの1/10の規模といわれているが一概には言えない.
1968年 H3N2 香港風邪 中国 世界で100万人が死亡、日本で2千人.
発生直後に50万人が瞬時に感染.新型ウイルス感染に従来の免疫機構は無効であることが実証された形となった.
1977年 H1N1 ソ連風邪 中国/ロシア H1N1の再感染.
スペインかぜから60年経っており、免疫保有者がいないため大流行した.「60年周期説」で、次流行はH2N2?
インフルエンザウイルス同士には生存競争があると言われ「スペイン風邪ウイルスはアジア風邪ウイルスに駆逐され、そのアジア風邪ウイルスは香港風邪ウ イルスに押されて消滅したと推測されている」.現在のインフルエンザで最も毒性が強いA香港型(H3N2)で、香港風邪の子孫に当たるという.
H5N1鳥型インフルエンザの特徴:
感染獣禽類の濃厚接触でヒトに感染するが、通常感染力は低い.
一たび感染すれば、死亡率は高い.主死因は呼吸不全.
養鶏業者は、H5N1ワクチンを接種した方が良いが、現在不可.
治療薬はタミフルだが?
ヒト感染が報告されている鳥型インフルエンザの亜型
年・地域 規模
A(H5N1) 1997年香港 18例うち死亡6例
2003年香港 2例うち死亡1例
2003〜4年ベトナム 18例うち死亡13例
2004年タイ 5例うち死亡5例
A(H9N2) 1999年香港 2例(軽症)
2003年香港 1例(軽症)
A(H7N7) 1996年英国 1例
2003年オランダ 89例うち死亡1例
インフルエンザワクチン:A型ウイルスの表面にある赤血球凝集素(HA)という糖蛋白が主要なウイルス抗原で、HA蛋白に対する抗体(ワクチン)が免疫の中心的な役割を果たしている.しかし、HA蛋白をコードするHA遺伝子には突然変異が起こり易く、HA蛋白の構造は頻繁に変化して抗原性が異なってくる.抗原性が異なれば既存のワクチンや過去の感染で得た抗体では充分対応できない.インフルエンザウイルスが頻繁に抗原性を変えるので終生免疫を得ることは不可能.簡単に言えばHの数字が違えば、それに合わせたワクチンが必要であり、同じ数字でも有効性にはバラツキがある.終生免疫は不可能.
現行のインフルエンザワクチンは、エーテル処理によってウイルス粒子の形態を壊して作成したスプリットワクチン(主たる抗原はHA糖蛋白に対する抗体)で、ウイルス粒子をそのまま不活化した全粒子ワクチンよりも副反応は少ないが、免疫原性は低く、免疫獲得率が低いので有効性には限界がある.従って、有効なアジュバントを研究し抗体保有率を上げる必要がある.現行ワクチンは A/H3N2型(香港型)、A/H1N1型(ソ連型)、B型の混合であり、毎年の流行株予測を基に株が選定されている.
H5N1プレパンデミックワクチン:現在日本で作られているプレワクチンは、ベトナム株500万人分・インドネシア株500万人分・アンフイ株1000万人分の3種で、2000万人分の備蓄がある.その効果については後期治験中である.全粒子ワクチンであり副作用は現行ワクチンよりある.実用に向けては、大変難しい問題を含んでいるので下記を参照して下さい.
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/pandemic/topics/200808/507456.html