洞爺湖にビバークした。台風から変わった熱帯低気圧の直撃を受ける。熱帯低気圧なんて言うのは嘘だ。台風だ。東北でもこんな暴風雨を食らったこ |
とがない。風の中テントを張る。初めてペグを打つ。中に荷物と人がいないと飛ばされそうになる。今日中の昭和新山アタックを断念する。北海道は最 |
後にちょっとだけ牙を見せた。北海道ツーリングも最終局面だ。長かった北海道巡りも終わろうとしている。南下しようにも先がもう無い。小樽へ出て |
は時間がかかりすぎる。走りようがないのだ。悔しくもあり寂しくもある。走行距離ではピンと来ないが地図で見るとかなり走り回ったものだ。昨日は |
ずいぶん早く寝たのだ。ツーリングも最後の方になるとすぐ寝付けるようになった。それだけ疲れがたまっているのだろう。朝6:30に起床する。広 |
いテントは寒い。コンロを付けコーヒーを入れる。体をゆっくり慣らす。小雨のパラつく音がする。久しぶりにラジオを聴く。今日は雨になるらしい。 |
地元のニュースが流れてくる。”滝の上の橋の上で午前1時頃熊が寝そべっているのを新聞運搬トラックの運転手が見つけ…”とアナウンスしていた。 |
今日は特に見るものもない。なるべく道の駅を通るようにルートを選定する。大まかに支笏湖、昭和新山辺りを目指すことにする。フェリーは室蘭か函 |
館か未定だ。本当は決めたくないのだが。8:30キャンプ場を出発する。路面はウェットだ。国道274号石勝樹海ロードヘ入る。いきなり峠だ。し |
かも雨の峠。車ほど限界が深くはない。路面を注意して走る。途端に濃霧で視界が無くなる。霧ではない。雲の中を走る。なぜか道路工事が多い。峡谷 |
の上を国道が通る。何ともいえず怖い。とりあえず道の駅を目指す。峠を降りると路面はドライに戻った。道端に夕張メロンの直売が並びだした。気が |
つくと夕張市に入っていたらしい。ついでに昨日から気になっていた紅葉山も近くにあるらしい。走っていくと滝の上の地名が現れた。なんと今朝ラジ |
オで聴いた場所ではないか。熊の警戒に地元警察でも出ているかと思ったが誰もいなかった。R274号をそのまま進み三川を過ぎて道の歌マオイの丘 |
公園についた。風が強い。近づきつつある台風の影響か。ここの道の駅に来る途中ハイジ牧場の看板をかなり目にした。見るつもりなど無かったのがせ |
っかく近くまで来たのだから寄ってみる気になった。行ってみる。道は狭く悪い。そんなにいい観光スポットがあるとも思えない。ハイジ牧場の入りロ |
に着いた。何とも安っぽいのだ。さらに奥に建物が見える。ハイジ。ボリの気配を感じる。羊さんを見るなら小岩井でもっと楽しめるのだ。切り返して |
千歳市に向かうことにした。支笏湖に向かうには千歳市を抜けるしかない。千歳市に向かう国道はかなり寂れている。本当に国道?と思うような道だ。 |
進行方向の空がかなり黒い。嫌な感じだ。千歳市郊外に入ってきた。ヘリや自衛隊が目に付く。何となく戒厳令でもしかれた感じだ。早く起きたためか |
腹が減る。昼時になる前に済ませてしまおうとする。ガソリンも無い。どちらか先に来た方にまず寄ろうと決める。いつものことだが探すと意外と来な |
いのだ。本当に街外れまで来たときラーメンの寶龍が見えた。北海道でよく見るチェーン店だ。計3、4回食べただろうか。11時開店と書いてある。 |
腕時計では10:57分だ。のれんは出ている。入ってみるとおばさん2人だ。もう開店しているそうだ。明らかに一番乗りだ。まだお湯が十分に沸い |
ていないとのことだった。それまでと、なんとインスタントコーヒをごちそうになる。これも双子で入った効果だろうか。やはりただの兄弟よりは似て |
いると思ったのだそうだ。ここでも今年の天候不良の話題となる。昭和新山に登れるとの情報を入手。これは登るしかない。いろいろ話をした後店を出 |
た。やはり大衆食堂は情報の宝庫だ。寶龍と言えばseicomartも北海道ではずいぶんお世話になったコンビニだ。道道16号を支笏湖へ向かう。 |
ところがとんでもない濃霧になる。まわりの木にエゾマツと書いてある。エゾマツと言うが広葉樹のように見える。道は単調で霧で何も見えないので長 |
く感じる。ガソリンも給油しないで来てしまった。支笏湖湖畔にスタンドがあるとは地図に出ているが。支笏湖駐車場に付いたが料金所の文字!パスす |
る。そのままだらだら進んでしまう。この先には北海道3大秘湖オコタンペ湖があるらしい。ガソリンをかなり気にしながら向かう。湖岸沿いを走る。 |
視界はすこぶる悪い。すぐ近くの湖面しか見えない。湖面は揺らぐ。なのに上に乗っている霧は微動だにしない。決して混じりあわないのだ。その2者 |
が不思議な印象を与える。ただ波の音だけが聞こえる。湖の主でも現れそうな気配だ。途中トイレのためキャンプ場に寄る。ノーチェックのキャンプ場 |
だったので名前は不明だ。秘湖オコタンペ湖は結構遠い。やっと看板に出会う。だがそこには砂利の広場があるだけで、その奥へ獣道程の道が続いてい |
るだけだった。寒さで震え、気力も無くなった今となってはただ引き返すだけだ。全くの徒労となった。洞爺湖と道の駅方面に向かうため今来た道を引 |

静寂の中、苔の回廊が続く。
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き返す。そして支笏湖でガソリンを給油する。オクタンを入れるのは雨なので |
嫌だ。ハイオクにする。ライダーもめっきり見なくなった。霧と寒さでピース |
サインを送ってくれるライダーも減る。こっちの反応も鈍る。国道276号を |
走る。支笏湖のそばを走っているはずだが極たまにしか湖は見えない。途中で |
路面がドライとなったがすぐウェットに戻った。するといきなり目に”苔の洞 |
門”の文字が飛び込んできた。ラッキー!気になって昨日見ることにしていた |
のだがすっかり忘れていたのだ。マイナー臭い名前の割には駐車場もあり車、 |
バイクどちらも結構入っている。即席のトイレもあった。雨は少し強くなって |
きたようだ。苔の洞門。全くビジョンが浮かんでこない。パンフも見たことが |
ない。楽しみだ。小雨の中進む。歩いて行きは20分程度だそうだ。結構人が |
歩いていく。川砂で道を整備している。かなり歩いていくと木の階段が現れた。 |
登り詰めると庭石にちょうどいいような大岩に苔が全面にむしていた。これだ |
け?庭石の高級品が転がるだけ?少しあせる。だが細い道はまだ奥へ続いてい |
る。進んでみると言葉を失った。細い道の両脇に10mはあろうかという崖が |
そびえ、その全面に苔の絨毯がむしているのだ。小雨と相まってしっとりとし |
た世界が広がる。目の前全てがどこまでもグリーンに染まる。これだけの苔が |
むすのにいったいどれだけの時間がかかっただろう。クレパス状の回廊はどの |
ようにして出来たのだろう。数100mに渡る苔の回廊。自然は人間の想像力 |
を簡単に凌駕する。苔の洞門。名付けた人のセンスが光る。芭蕉ならどんな句 |
を詠んだろう。一番奥まで行って引き返した。これ以上は熊出没の危険がある |
そうだ。石が詰まれていた。帰りは回廊に引っかかった岩のオブジェを利用し |
てアホな写真を撮る。言葉を失った状態で苔の洞門を後にする。続いて道の駅 |
フォーレスト276大滝へ向かう。どれくらい走ったのだろうか。寒さで放心 |
状態となり思考は止まる。道の駅の看板が頭上に現れた。道の駅フォーレスト |
が見えてきた。立派だ!大滝の道の駅のログハウスは立派なのだ。さすがマッ |
プルにも載るほどだ。雨に打たれみすぼらしくなったライダーなどとても入れ |
そうにない感じだ。だがスタンプをゲットするため入る。中もログハウスのイ |
メージを壊さない作りだ。売っている小物も結構いい趣味をしていると思う。 |
自然をよくアピールした小物が多い。飾りの銃が売られていた。欲しかったが |
何しろ大きい。さらに店内ではピアノが流れていた。トイレの脇にピアノが置 |
いてあったが自動伴奏だった。サイモシ&ガーファンクルの曲が流れる。続い |
て次の道の駅と昭和新山に向かう。国道453号に合流するはずがその場所を |
間違えたようだ。と言うより間違えたかどうかも分からない。一応国道のマー |
クは出ている。えらく寂れた国道だ。町道レベルだ。とにかく狭い。コーナー |
が続く。途中温泉街を抜けた。湯煙の中赤い橋を渡った。周りは木々が茂る。 |
紅葉はさぞきれいだろう。頭上では雲が切れ、青空が一瞬見えた。雲の流れが |
とにかく速い。天気は何とも予想しにくい。すると道が少し広くなった。道の |
駅そうべつサムズに近づいた。!目にオレンジと白の物体が飛び込んできた。 |
昭和新山だ。縁の山間にいきなりオレンジの山肌をした山がそびえる。どぎつ |
い配色だ。なんとしても登ってみたい衝動に駆られた。道の駅は風が強かった。 |
小さな道の駅だ。時間的にまずキャンプ場に入ってから昭和新山に向かおうと決める。洞爺湖湖畔にはキャンプ場は多い。ただどこが無料かは分からな |
い。洞爺湖ぐるーっと一周線をまわる。道道2号だ。とにかく最初に来たキャンプ場に入ることに決める。初めに来たキャンプ場は最悪だ。テントサイ |
トも木の根などででこぼこだ。バイクで進入するのも困難だ。ここはパスする。さらに進んでみる。風が出てきた。木の葉が舞う。カルデラだけに山の |
エッジから雲が吹き下ろしてくるのが貝える。そっちサイドに近づくにつれ風も強まる。空もドンドン光度を失ってきた。3:30前なのにかなり暗い。 |
強風の中黙々と走る。前の車につられてボート乗り場らしきところに来てしまった。明らかに違う。だが看板を見ると浮見堂の近くまで来ているようだ。 |
雨はぽつぽつと降り出している。淫見堂公園キャンプ場に決める。湖畔に突き出た小さなお堂が見えてきた。あれが浮見堂だろう。すぐそばにテントが |
数個見える。本当に湖畔沿いだ。チェーンなどで進入するにもこつがいる。バイクなのでテントサイトに直接乗り付ける。と言うより勢いを増してきた |
暴風雨の中で荷物の運搬をなるべくしたくないからだ。まずテントを張る。ヘルメットはかぶったままだ。装備をほどく暇も惜しい。風と雨の音で周り |
が埋め尽くされる。さすがにペグを打った。あまり意味はなさそうだ。1本は抜けてくる。とにかくテントを建ててその中に荷物を全部放り込む。そん |
なこんなしていたらバリオスのライダーも入ってきた。隣に建てるようだ。さすがに一人では無理だと思ったので手を貸す。風でフライシートが飛ばさ |
れそうになりながら彼のテントを建てる。多くのライダーがすぐ横の道路で止まるが躊躇して通り過ぎてゆく。この雨風の中こんな湖畔にテントをわざ |
わざ張ろうとはしないだろう。髭の旅慣れた感じのオヤジはテント張りにさんざん苦労していたがトイレの陰にテントを張っていた。やはり経験豊富だ。 |
トイレには雨宿りのライダーがたくさん集まっていたそうだ。テントに荷物だけでは不安なので弟を残して買い出しに行くことにした。幸い近くは店が |
数件ある。どれかは食料を扱っているだろう。ホクレンの前は生協だった。生協からテントに帰る頃が一番雨がひどかった。風でバイクがスライドする。 |
テントの中でコーヒーを飲んだときやっと全てから解放され一息着けた。日誌を書いていると雨も風も収まってきた。後で指導員が料金の徴収に来るら |
しい。いつか分からず落ちつかない。それまで明日のルートをいろいろ考える。室蘭では近すぎる。天気次第だが函館が最候補になる。距離はそれほど |
無い。1日で着いてしまうだろう。何とも言いがたい。洞爺湖では8月末まで毎晩花火が打ち上げられるらしい。そういえば中学の時も見たのだ。8: |
30ジュースを買いに外に出てみた。空は快晴。満点の星空だ。洞爺湖の花火も対岸で始まった。明日は晴れそうだ。最後の北海道、悔いの無いように |
走りたい。 |
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