『PRUNABLE WORLDS』 第一章「少年、幻想を嫌悪する」 |
「大守、今日もバイトか?」 後ろの席から掛けられた凡平からの問いに、ああ、と軽く返事をする。大守は部活動には入っておらず、 「じゃあ、明日はもっと萌え萌えな作品持ってくるから、 「 即座に切り返す。 だがそう言ってみたものの、どうせ凡平はまた持ってくるに決まっている。 ──俺は、 凡平に別れを告げた大守は、校門を出ていつもの帰宅路──正確にはアルバイト先へと向かう道の事であるが──とは違う方向へと歩いていた。唐突に ──結果的に寄り道してるじゃないか俺。 ふと先程の担任教師の言葉を思い出す。大守は友人との交友も少なく、また個人で出歩く趣味もあまりない為、このようにバイト先から買出しを依頼される場合以外に駅前の商店街へ向かう事は極めて少ない。そのためか、今こうして普段と違う帰路を採っている自分に、 ──って、もともと家に帰らずにバイト先に直行すること自体「寄り道」なんだけどな。 心の中で自分の思考に切り返しを入れる。 大守は目立つことを控えているために感情を人前に だから大守自身が、外見上の印象から ──俺のために気を遣ってくれてる……のか? 一瞬そのようにも考えるが、 勿論、それが照れ隠しであることは言うまでもなく大守本人が解っている。凡平がそのような態度で接してくれているからこそ、大守は彼の前では素の自分を出すことが出来るのだから。 しかし、同時に後ろめたさも感じてしまう。 大守は、意図的に他者と距離を置くような接し方をしている。そのため「親友」と称べるような存在が凡平しかいないわけなのだが、果たしてそれで良いのだろうか、とも思っている。 大守にはあまり公には出来ない そして、それはともすれば自分の生活環境や、更に突き詰めれば 今はまだ命に危険が及ぶような事態には巻き込まれてはいない。勿論、知人友人を巻き込ませるつもりもない。だが、いつ だから、思い悩む──このままでいいのだろうかと。 ふと、足を止める。 そしておもむろに伸びをして、深呼吸する。 ──くよくよと考えていても仕方がない。 なるだけ ──さっきも言ったじゃないか、俺に何が出来るわけでもない。 ──そのために、あの人たちがいるんじゃないのか。 それは、決して数は多くはないが、大守と「秘密」を共有するものたちのこと。彼らは、大守に対しこう言ってくれた。 ──君はまだ学生だ。君は君の人生を、おだやかに過ごすべきなのだ、と。 だから、大守はこうしていま普通に学生としての生活を過ごしている。 ──そう、だから、俺は──。 今日もまた、いつも通りに平穏な生活を、と心に思ったとき。 大きなエンジン音とともに、後ろから黒塗りの乗用車が猛スピードで通過していった。 それを見た途端──大守は凍りついたかのように固まった。 |
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