『PRUNABLE WORLDS』 第一章「少年、幻想を嫌悪する」 |
「──ほな、今日はこの辺で 眼鏡の位置を指で直しながら、教壇の女性教師が授業の終了を告げる。時計の時刻は午後二時五〇分を指しており、本日の授業も最終限まで 「このまま続けて しかし女性教諭は退室せずにそのまま続けて終礼の宣言をする。彼女は大守たちのクラス担任でもあるからだ。名前は ──でも、そのくせ人気あるんだよな、この先生。 その異国の血を感じさせないという相違点が逆に親近感を与えるのか、生徒たちの間の人気は相当に高い。それは大守のクラス内に限った話ではなく、恐らく校内の教師全体を対象として考えても人気上位に入るであろう。 「メグたん、ちょっと休憩入れさせて、 「ちゃっちゃと終わらすから少しくらい我慢しとき。モクは逃げへんから」 「って、生徒の喫煙 どっ、と教室内が笑い声に沸いた。このように生徒たちとも気軽に軽口を叩き合う、 ちなみに、いま発言した生徒は当然ながら大守ではない。かと言って凡平というわけでもなく、まったく別の男子生徒である。確かに凡平はお調子者ではあるのだが、実のところは人前で率先して ──いい気なものだな。いま、この世の中は ふと、そのようなことを考える。 ──でも、今朝がた久遠と話をして舞い上がっていた俺に言えた義理じゃないか。 そのようにも考える。確かに今朝、想い人である唯一華と会話していたときは気分が舞い上がっていたが、後になってそのことに気が付く程度には、大守はまだ冷静なつもりではいる。 そんな大守の意識の裏通りを、目の前の小柄な女性教諭が告げる伝達事項が通過していく。それらの大半は清掃当番や日直への指示だとか、別に聞き逃してもそう大きく影響しない事柄ばかりである。だから別段、大守もそう意識的に耳を傾けようとはしていなかったのだが、 「──ところで」 突然意味深げにトーンを落とした口調につられ、つい意識がメガラの方に向く。 「例のテロリストとかいう奴、最近この 「買い食い」って小学生じゃあるまいしー、とクラスのあちこちから声が上がり、またも教室内は歓声に包まれた。だが大守は独り、神妙な顔で下を向く。 「例のテロリスト」。ここ一年ほど前から、各地で建造物の損壊や人身に被害が及ぶ事件が続発しており、警察当局はこれらを同一組織による破壊活動と判断し、捜査を開始した。しかし便乗的な犯行声明や しかし、物事の移り変わりの激しいこの世の中では、散発的にマスコミが取り上げ ──奴らが 大守は恐らく、いや間違いなく一般大衆よりもこの「テロリスト」騒動に対して、より深く事情に精通している。そして、この一連の破壊活動の目的が単なる政治思想に基づいたものではない、寧ろより深刻で、危機的かつ致命的なものであるかを理解している。だからこそ、この世の中が「とんでもないこと」になりつつあることを予感、いや確信している。 「ほな今日はここまで。また明日なー」 独り暗い表情の大守を ──まあ、考えてても仕方がないか。今の俺に何かが出来る訳でもないし。 大守も椅子から席を立ち、帰り支度を始めることにした。 |
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