『PRUNABLE WORLDS』 第一章「少年、幻想を嫌悪する」 |
「おはよ、『ボン』に『ちーたん』」 背後から声を掛けてきたのはクラスメイトの 大守と向かい合っていた凡平の方が先に彼女の姿を認め、挨拶を交わす。 「うす。──でもよ、その『ボン』ての何とかならねぇ?」 「別にいーじゃないの。あんたの頭文字とって『 純菜の切り返しに対し、大守も 「だよな。つか、苗字を逆さにして『 「平凡とか言うなっ!? じゃあそう言うお前はどうなんだよ、『ちーたん』?」 「いや──それは言わないでくれ」 この純菜という女子は、とかく人に しかし、いくらなんでもこれはないだろう、と大守は思う。 一応自分は男子であるはずなのに、こんな少し可愛らしい印象を与える称び名を付けられるのはどうなんだ、と考えてしまう。ただそれも凡平あたりに言わせると「今どきそんなコト考えるなんて硬派って言うか古風て言うか──よッこのプチ ──まあ、そんな事はしないけどな。 軽く 大体にして、人のことを古風だなんだとか言う凡平にしても、自分が「 再び溜息をつく。 思えば凡平には「萌え」とかいうものの布教めいたことを受けさせられているし、純菜からはあまり気乗りのしない綽名を付けられていたりと、自分は何だか友人に振り回されてる節があるようにも感じる。ただ口に出して拒否するほど ──別に自分から交流を持とうとしなくったっていいじゃないか。 ──やはり俺は、本当はあまり他人と関わりを持つべきではないんだろうから。何故なら俺は──。 「──でも、『ちーたん』って称び方、わたしは結構カワイイかなと思うんだけど」 ──え。 思わず発言に、大守の思考が一旦破られる。 ──く、 声の主は久遠 「でしょ? まぁったくコイツらったらあたしのネーミングセンスを理解できないから困っちゃうよねぇ」 あははは、と軽く笑いながら純菜は答える。 「でもさ、ワン子」 「え?」 因みに「ワン子」とは、純菜が唯一華に対して付けた綽名である。「唯一」という部分を数字の「 「そこまで言うんだったら、ワン子も『ちーたん』て称んであげればいいじゃない。いつも『大守くん』としか称んでないでしょ」 「え──えええええっ!?」 唯一華は驚きの声を上げ──両の手を口元に寄せてもうこれ以上もないというくらいにおろおろとした様を見せる。 「わ、わたッ、わたし、そんな、確かにその称び名はカワイイと思うけどそれはわたしがそう思うだけであって大守くんをそう称ぶなんてのはちょっと悪いかな、ってううん、別に大守くんが悪いわけじゃなくて、そ、そういくら何でも馴れ馴れしすぎるかなってああでも大守くんを避けてるわけじゃなくてええとそのあわわわわ」 見事なまでの取り乱しっぷりである。けしてクラス内で目立つ方だとは言えないが、この純朴──良くも悪くも「天然」と言う意味であるが──な性格とそれに見合った可愛らしい容姿から、大守に限らず彼女を密かに慕う生徒はそれなりには居るらしい。 あまりの 「おーいワン子ぉー、戻ってこーい」 「いくらなんでもそこまで露骨に動揺することないだろ久遠よぉ。大守、お前もそう思うだろ──って、おい、大守?」 大守は答えなかった。 ──く、久遠が俺のことを「ちーたん」て称んでくれる? それって、ちょっと 勝手に純菜の 普段は「萌え」だとかそんなものには無関心を装う大守ではあったものの、いざ自分の想い人が相手となるとそれはまた別物のようである。 「大守、どーしたんだよッ!」 「はっ!?」 妄想は凡平の呼び掛けによって途切れ──大守は場を取り 「ああいや、俺は別に自分のことを『ちーたん』と称ばれるのが厭だとかそう言うのは無いんだけどな、その、無理に慣れな称び方を強要するのもどうかと思うし、やっぱり久遠自身が称びたいように称べばいいんじゃないか?」 「うん──ありがとう大守くん」 ──よし、うまく冷静に対応できた。俺が思わず妄想に浸っていたなんて気づかれずにすんだか。 そのように心の中で 「あ、チャイムの時間だ」 時計を見つつ発した唯一華のその言葉と同時に、始業時間の本鈴が教室内に響き渡り、生徒たちも各々の席へと戻っていく。 「じゃああたしらも戻ろっか、ワン子」 「うん。それじゃまたね、大守くん、凡平くん」 「じゃねー」 「おう」 「あ、ああ」 唯一華と純菜も自分の席へと戻り、凡平もまた真後ろの自分の席へと就く。 ──しかし、今日は朝から久遠と話せて結構 もはや凡平とのやり取りなどすっかり忘れ、唯一華との会話の だが大守にとって、今日という日が |
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