簿記3級・基本テキスト |
4章 現金・当座預金および手形取引きの処理 |
「 現 金(資産+) / □□□□□□□ 」.
現金のほかに、他人振出の小切手、送金小切手、郵便為替証書、送金為替手形、配当金領収書、配当証券、期限の到来した公社債利札など、ただちに現金にかえられる性格のもの(これらを通貨代用証券といいます)も簿記では現金に含め、[現金・資産の勘定]で処理します。
なお、現金取引の内訳明細について、補助簿の「現金出納帳」に発生順に記入します。
◆ 得意先C商店から、売掛金の回収として40万円の郵便為替証書と同店振り出しの小切手10万円を受取った。
→ (借方)現 金 50万円 /(貸方)売掛金 50万円
*「同店振出し」とはその商店が振出したという意味で、"他人振出しの小切手"で、郵便為替証書を含めすべて、現金勘定で処理します。
◆ 商品代として受取っていたC商店振り出しの小切手10万円を当座預金へ預け入れた。
→ (借方)当座預金 10万円 /(貸方)現 金 10万円
*他人振出しの小切手(つまり現金勘定)をただちに当座預金へ入金したものです。
◆ 商品50万円を売上げ、30万円は送金小切手で受け取り、残金は掛とした。
→
(借方)現 金 30万円 /(貸方)売 上 50万円
(借方)売掛金 20万円 /
*送金小切手も現金勘定で処理します。
現金の受け払いは頻繁に行われますので、帳簿残高と実際有高が一致しないことがあります。この時、過不足額を一時的に[現金過不足勘定]で処理します。
なお、原因が判明したときは正しい勘定に振替えます。
[現金過不足勘定]は、決算整理後には残高の残らない、一時的に記録する勘定でこれを"仮勘定"といいます。
現金の実際有高を基準とし、帳簿残高(=現金勘定)を増減します。つまり、
・実際有高とくらべて帳簿残高が多ければ、(現金実際有高<帳簿残高)
貸方で現金勘定を減少させ、現金過不足勘定を借方に記載します。
・実際有高とくらべて帳簿残高が少なければ、(現金実際有高>帳簿残高)
借方で現金勘定を増やし、現金過不足勘定を貸方に記載します。
◆ 現金実際有高が帳簿残高より10円多いことが判明した。
→ (借方)現 金 10 /(貸方)現金過不足 10
*現金実際有高>帳簿残高なので、帳簿残高つまり現金勘定を増やします。
◆ 現金実際有高が帳簿残高より15万円円不足していることが判明した。
→ (借方)現金過不足 15万円 /(貸方)現 金 15万円
*現金実際有高<帳簿残高なので、帳簿残高つまり現金勘定を減らします。
◆ 上記について調査したところ、現金実際有高の不足額の一部は、発送運賃の支払額5万円、交通費 5万円の記入モレ、および受取手数料の受領額 5万円の記入モレであることが判明した。なお、残額は原因不明のため雑損として処理することにした。→
(借方)支払運賃 5万円 /(貸方)現金過不足 15万円
(借方)交 通 費 5万円 /(貸方)受取手数料 5万円
(借方)雑 損 10万円 /
*費用支払い(支払運賃、交通費)の記入もれと、収益受取(受取手数料)の記入もれの両方があることに注意します。
「 当座預金(資産+) / □□□□□□□ 」
当座預金の特徴は、いつでも自由に預け入れ、引き出しができる。引き出す場合は、原則として小切手を用いる。無利息である点などです。
当座預金の預入れや引出しは[当座預金・資産の勘定]で処理します。
当座預金勘定の残高は銀行の預入残高を示すことになりますが、当座取引の内訳明細と残高の管理のために、補助簿として、「当座預金出納帳」を作成します。
◆ 定期預金をするため、小切手 100万円を銀行に預け入れた。
→ (借方)定期預金 100万円 /(貸方)当座預金 100万円
◆ 商品50万円を仕入れ、30万円は小切手を振り出し、残金は掛とした。
→
(借方)仕 入 50万円 /(貸方)当座預金 30万円
/(貸方)買 掛 金 20万円
◆ 商品50万円を売り上げ、20万円はかつて当店が振出した小切手で受取り、残金は掛とした。
→
(借方)当座預金 20万円 /(貸方)売 上 50万円
(借方)売 掛 金 30万円 /
*当店振出しの小切手も、かつて振出したものの戻入れと考え、当座預金で処理します。
「 □□□□□□ / 当座借越(負債+) 」
銀行が、当座預金の残高を超える部分についても支払いに応ずる契約を当座借越契約といいます。残高を超える部分は銀行から資金を一時的に借り入れていることになり、銀行に対する負債として[当座借越・負債の勘定]で処理します。
当座預金の残高までは[当座預金・資産の勘定]の減少として記入し、これを超えた金額を[当座借越・負債の勘定]として記入します。このように2つの勘定を用いる方法を"二勘定制"といいます。
また、[当座・資産の勘定]というひとつの勘定だけで処理することもあります。この場合、当座預金と当座貸越を区別せずに処理します("一勘定制"といいます)。
◆ 買掛金(15万円)支払いのため小切手を振出して支払った。ただし、当座預金残高は 10万円である。(銀行と当座借越契約(借入限度100万円)を結んでいる。)
→
(借方)買掛金 15万円 /(貸方)当座預金 10万円
/(貸方)当座借越 5万円
◆ 上記の当座預金口座へ 30万円を預け入れた。
→
(借方)当座借越 5万円 /(貸方)現 金 30万円
(借方)当座預金 25万円 /
*当座預金への預け入れは、まず当座借越の返済を行います。
◆確認問題
売掛金代金 100万円を現金で受取り、ただちに当座へ入金した。ただし当座借越残高25万円になっている口座である。
→
(借方)当座預金 75万円 /(貸方)売 掛 金 100万円
(借方)当座貸越 25万円 /
*通貨などを受取りこれを手許におかず、ただちに当座預金へ入金したときは、現金の増加でなく、当座預金が増加したと考え、当座預金で仕訳します。
「 小口現金(資産+) / □□□□□□ 」.
少額の支払いにあてるために手許に保管する現金のことを小口現金といいます。この小口現金の前渡し、支払補給については、[小口現金・資産の勘定]で処理します。
小口現金はその管理の都合から、必要な金額を見積って前渡してその中から仕払い、使った額だけ補 補充する方法がとられ、これを「定額資金前渡法(インプレスト・システム)」といいます。 。
これに対して、その都度支給する方法は「随時補給法」といいます。小口現金の内訳明細を管理する補助簿として「小口現金出納帳」を用います。
「小口現金出納帳」は、各支払額を費用内訳ごとに記帳していき、締切り日に受入合計から支払合 合計を差引き次週または次月の繰越額を報告し、資金の補給を受けるものです。
◆ インプレストシステムを採用し、小口現金として5万円を庶務係へ小切手を振出して前渡した。
→ (借方) 小口現金 5万円 / (貸方)当座預金 5万円
◆ 庶務係から以下の小口現金の支払いの報告を受けた。
通信費 30,000、交通費 10,000、消耗品費 5,000
→
(借方) 通信費 30,000 / (貸方)小口現金 45,000
(借方) 交通費 10,000 /
(借方) 消耗品費 5,000 /
*支払いの報告を受けたときに、各費用に仕訳します。
◆ 庶務係から次の小口現金の支払報告があったので、小切手を振出して、ただちに補給した。
通信費 30,000、交通費 10,000、消耗品費 5,000
→
(借方) 通信費 30,000 / (貸方) 当座預金 45,000
(借方) 交通費 10,000 /
(借方) 消耗品費 5,000 /
*支払いの報告と補給が同時のときは、小口現金の増減を省略します。
「 受取手形(資産+) / □□□□□□□ 」
「 □□□□□□□ / 支払手形(負債+) 」
取引代金の受取りや支払いには、現金や小切手のほかに手形が使われます。
"手形"はある金額の支払いを約束する証券で、商法上、約束手形と為替手形の2つがあります。
簿記上の処理では、手形の種類に関係なく、受取る権利のある手形(債権)は[受取手形・資産の勘定]で、支払義務のある手形(債務)は[支払手形・負債の勘定]で処理します。
手形の作成者が、手形を発行することを"振出し"といい、手形の受取人が、手形の支払いの請求をすることを"取立て"といいます。
なお、手形の決済は当座預金口座を通じて行われます。
約束手形と為替手形のほかに、振出人が自分を支払人とする「自己宛為替手形」、振出人が自分を受取人とする「自己受為替手形」などがあります。
・約束手形は、一定の期日に一定金額を、手形の作成者である振出人が、名宛人(受取人)に対し、支払うことを約束した証券です。
この場合、振出人は債務者なので[支払手形・負債勘定]に記帳し、名宛人(受取人)は債権者なので[受取手形・資産勘定]に記帳します。
(―→商品の流れ、←--・手形の流れ)
┌─────┐ ┌─────┐
│受取人・B│―――――――――――→│振出人・A│
└─────┘←---------------------・└─────┘
◆ A商店は、B商店から商品 30万円を仕入れ、代金はB店宛ての約束手形を振出し、支払った。
→ (借方) 仕 入 30万円 / (貸方)支払手形 30万円
◆ B商店は、A商店へ商品 30万円を売上げ、代金はA店振出、当店宛ての約束手形で受取った。
→ (借方) 受取手形 30万円 / (貸方)売 上 30万円
◆ B商店は、A商店に商品 30万円を販売し、代金はかねてB商店が振出した約束手形で受取った。
→ (借方) 支払手形 30万円 / (貸方)売 上 30万円
*自己振出しの約束手形は、支払手形(債務)ですが、これを受取ったので、支払手形の減少としてとらえます。
.
受取った手形の処理には、以下の方法があります。
- 手形の支払期日が到来するまで待って、銀行に支払いの請求(取立て依頼)をして自分の預金口座に入金してもらう。
- 手形の支払期日前に、手形金額の範囲内で銀行に買い取ってもらう(これを割引き といい、この時利息である支払割引料が差し引かれます)。
- 受取った手形をほかの支払にあてるため、相手方に渡す(このとき手形の裏に裏書きするので裏書譲渡という)。
◆ 銀行に取立依頼をしていた手形 50万円が、期日になり、当座預金に入金された。
→ (借方) 当座預金 50万円 / (貸方)受取手形 50万円
◆ 期日の到来していない、手持ちの手形100万円をY銀行に割り引いてもらい、割引料5万円を差し引かれ、残金が当座預金に入金された。
→
(借方) 当座預金 95万円 / (貸方) 受取手形 100万円
(借方) 支払割引料 5万円 /
手形を裏書きしたときは、受取っていた手形を譲渡することになるので、[受取手形・資産の勘定]を減少させます。
また、裏書きされた手形を受取ったときは、[受取手形・資産の勘定]を増加させて処理します。
◆ A商店は、B商店より商品 10万円を仕入れ、代金はかねてC商品から受取っていた約束手形を裏書譲渡して支払った。
→ (借方) 仕入 10万円 / (貸方)受取手形 10万円
◆ B商店は、A商店へ商品 10万円を販売し、C商店振出しA商店宛の約束手形10万円を裏書きのうえ受取った。
→ (借方) 受取手形 10万円 / (貸方)売上 10万円
*裏書譲渡された手形や他人振出しの約束手形は、受取手形とします。
○裏書譲渡の場合、支払人が手形代金の支払いができなかった場合には、裏書人が支払人に代わって手形債権者に対して手形代金の支払い義務を負うことになります(これを遡求の義務といいます)。 また、約束手形の振出しあるいは為替手形の引き受けをした場合には、期日に支払いができるように銀行口座に資金を準備しておく必要があります。
そこで、手形債権または手形債務の管理を正確に効率的に行うために補助簿が作成されます。
「受取手形記入帳」は手形債権の発生から消滅までを記入します。したがって、仕訳の借方または貸方に必ず受取手形勘定が発生したものを記入します。
「支払手形記入帳」は、手形債務の発生から消滅までを記入します。したがって、仕訳の借方または貸方に必ず支払手形勘定が発生したものを記入します。
記入帳には、てん末欄があり、受取手形記入帳には、手形金額が入金したとき、または所有手形を裏書き・割引きしたときを記入し、支払手形記入帳には、手形金額を支払ったときを記入します。
◆確認問題
B商店はA商店からの売掛金の回収として、C商店振出し、A商店宛の約束手形10万円と、当店振出し、D商店宛の約束手形5万円を受取った。
→
(借方) 受取手形 10万円 / (貸方)売掛金 15万円
(借方) 支払手形 5万円 /
*得意先が持っていた約束手形を受取った場合は、受取手形となります。
また、当店が振出した約束手形を受取った場合は、支払手形の消滅になり、よって、支払手形(負債の勘定)を減少させます。
為替手形は、手形の作成者である振出人が、名宛人(引受人・支払人)に対し、一定の期日に一定金額を、受取人(指図人)に支払うことを委託した証券です。したがって(約束手形の当事者が2人なのに対して)、当事者は、手形の発行者である振出人、手形を引き受ける名宛人、手形の債権者で取立をおこなう受取人の原則3人になります。
○振出人は手形の発行と引受の依頼をするだけで、手形の債権債務は生じず、名宛人に対する債権(売掛金)を減らします。名宛人は債務者なので[支払手形・負債勘定]に記入し、振出人に対する債務(買掛金)を減らします。受取人が債権者として[受取手形・資産勘定]に記帳します。
(―→商品の流れ、← - -・手形の流れ)
┌─────┐
┌――――→│振出人・A│――――┐
│ └─────┘ │
│仕入先 ↓得意先
┌─────┐ ┌─────┐
│受取人・B│← - - - - - - - - - ・│名宛人・C│
└─────┘ └─────┘
1)為替手形の振出し
◆ A商店は、仕入先B商店の買掛金を支払うため、B商店を受取人とし、かねてより売掛金のある得意先のC商店を名宛人とする為替手形20万円を、C商店の引受けを得て、B商店に振出した。
→ (借方)買掛金 20万円 /(貸方)売掛金 20万円
*振出人であるA商店にとっては、手形の発行と引受の依頼をするだけで、手形の債権債務は生じません。
C商店から売掛金を回収するかわりに、C商店にB商店に対する買掛金を支払ってもらうことになります。したがって、売掛金、買掛金両方の減少となります。
2)為替手形の引受け
◆ C商店はかねて買掛金のある仕入先のA商店から、A商店振出し、C商店を名宛人、B商店を受取人とする為替手形 20万円を呈示され、これを引受けた。
→ (借方)買掛金 20万円 /(貸方)支払手形 20万円
*為替手形を引受けた場合、債務者となり「支払手形・負債の勘定」に記帳します。
3)為替手形の受取り
◆ B商店は、A商店に対する売掛金の回収のため、A商店振出しC商店を名宛人とする為替手形20万円を受け取った。
→ (借方)受取手形 20万円 /(貸方)売掛金 20万円
*為替手形の受取人は、債権者として「受取手形・資産勘定」に記帳します。
○つまり、為替手形の取引の仕訳は次の3つのパターンに分けることができます。
- 振出人Aにとっての仕訳は、 「仕入または買掛金 / 売掛金」
- 名宛人・引受人Cにとっての仕訳は、 「買掛金 / 支払手形」
- 受取人・指図人Bにとっての仕訳は、 「受取手形 / 売上または売掛金」
◆確認問題 次の取引の仕訳をしなさい。
◆ 買掛金支払いのため、得意先あての為替手形の振出高 6万円。
→ (借方)買掛金 6万円 /(貸方)売掛金 6万円
◆ 仕入先振出の為替手形の引受高10万円。
→ (借方)買掛金 10万円 /(貸方)支払手形 10万円
◆ 売掛金の得意先振出の為替手形による回収高 7万円。
→ (借方)受取手形 7万円 /(貸方)売掛金 7万円
◆確認問題 仕入先B商店に対する買掛金 50万円の支払いのため、30万円は手持ちのE商店振出しF商店引受の為替手形を裏書譲渡し、残額は得意先C商店宛の為替手形を振出し同店の引受けを得て渡した。
→
(借方) 買掛金 50万円 / (貸方) 受取手形 30万円
/ (貸方) 売 掛 金 20万円
*為替手形の裏書譲渡は受取手形の消滅、為替手形の振出しは売掛金の消滅になります。