天才に捧げる応援歌



「花道、つぎは慎重に二本いってみよう。無理して入れるなよ、痛えから」
「ああ……」
 花道……?
 今お前、どんな顔してるんだ?
 花道の声はどこか頼りなくて、見えない分オレは少し心配になっていた。いったいどんな目でオレを見てる? 花道……
「!」
 指が二本入った瞬間、オレはびくっとしてのけぞっていた。今までは感じなかった痛みが一気にオレの身体を突き抜ける。花道はすぐに指を抜いてくれたから、オレのショックは一瞬だった。だけど痛みの方は継続していて、オレは本能的に仰向けに転がっていた。
「洋平! 大丈夫か?」
「大丈夫だけどちょっと痛かった」
「洋平……すまねえ」
「お前、爪伸びてねえよな」
 花道の爪はきれいなもんだ。やっぱこれが押し広げられたときの痛みなんだろう。それにしてもはんぱじゃねえぞ。一気に目え覚めたみてえだ。
「よし、再度チャレンジ」
「洋平、無理だったらオレ、もういいぞ」
 本当に心配そうに、花道はオレを見下ろしていた。花道がオレのことを思って諦めようとしてるのは判る。だけど、オレにだって意地があるんだ。中途半端でやめられねえよ。
「大丈夫だよ。心配いらねえ。もし本当に限界だと思ったらちゃんと言うからよ」
「本当だな」
「ああ、死ぬまで我慢はしねえよ」
 オレがそう言ったとき、花道は何だか遠い目をした。眩しそうに目を細める。ずいぶん大人っぽい顔をするじゃねえか。今までにはない花道の表情だ。
 少し休んで痛みもだいぶ落ち着いてきた。オレはまた同じポーズで花道を待つ。花道も意を決したって感じでオレに触れてきた。まずは一本。これはスムーズに入る。最初のころから比べりゃ進歩してるんだ。二本だって絶対入るようになる。
「洋平、いくぞ」
「ああ」
 ゆっくり、本当にゆっくり、花道は入ってきた。痛えことは痛え。だけど大丈夫だ。花道が細心の注意を払ってるのが判る。まだ平気だ。手を握りしめすぎて白くなってきていた。力は抜かなきゃダメだ。リラックスを自分に言い聞かせて、止めていた息も吐き出す。腕の力も抜いてゆく。顔の筋肉も緩めて、噛みしめていた奥歯も元に戻す。息を吐いて吐いて、もうこれ以上吐けないと思ったとき、花道は動きを止めた。
「入ったか?」
「ああ、全部入ったぜ。大丈夫か?」
「なんてことねえよ」
「一度抜くからな」
 抜くのはそんなに時間がかからなかった。息をつめすぎて倒れそうになる。力を入れすぎて腕がおかしいぜ。だけど入った。この分なら大丈夫だ。
「よし、もう一度」
「今度はもう少し早くても平気だぜ。痛かったら言うから少し動かしてみてくれ」
 花道の指の形を、オレの身体が覚えてゆく。さっきとまったく同じ角度で入れられた指を、オレの身体は既に許していた。動かしてゆくうちにだんだん楽になってゆく。さっきの痛みが嘘みてえだ。花道が徐々に角度を変えながら慣らしてゆく。こいつ、うまくなってる。天才だからなのか何なのか、どんどん吸収してゆくこの飲み込みの早さは超一流だ。やがて二本の指はほとんど抵抗を感じなくなる。一本のときに感じた心地良ささえも感じるほど。
「洋平、三本いけるか?」
「ああ、ゆっくりな」
「おっし!」
 花道は十分に湿らせた指で、オレの入口から滑り込んでゆく。二本でだいぶ慣らされたオレの身体は、最初の一撃で痛烈な痛みを感じるようなことはなかった。ただ、三本ともなると根元の方はかなり太くなる。花道も慣らすことになれていてそれほどめちゃくちゃなことはしなかったから、何回か動かすうちにすっかりスムーズになっていた。
「洋平、もう大丈夫だと思うか?」
「さあな、知らねえよ」
「お前が大丈夫って言わなきゃオレしねえよ」
 さっきのオレの科白、ちょっと意地悪だったかもな。不安なのは花道も同じだ。オレは花道に振り返って、笑顔すら見せていた。
「大丈夫かどうかなんて判んねえよ。だけど、ここまでやったんだ。突っ走るしかねえだろ」
「洋平……」
「オレはな、花道に傷つけられてもいいと思ってる。最初からそのつもりだったしな。いまさらあとには引けねえよ。お前だってそうだろ?」
「……」
「そんな顔すんなよ。オレのこと抱きてえんだろ? そう言ってみろよ」
 花道、オレ達はここまで来ちまったんだ。お前じゃなきゃオレはここまで出来なかったぜ。ほかの奴ならぜってえ諦めてた。お前だからオレ、抱かれてもいいって思えたんだ。
「洋平が抱きてえ」
 ほとんど泣きそうな顔で、花道が言う。
「キスしてもいいか?」
 今度はオレの方から。
 座ってる花道に膝立ちで近づいて、首に腕を回した。目を閉じた花道にキス。昔聞いたことがある。本当に好きな人はキスすれば一発で判るって。オレには比べる対象なんてねえ。だけど、花道とのキスは悪くねえよ。これが最高なのかどうか判らねえけど、少なくとももう一度キスしてみてえって思うもんな。
 キスを終えると、単純な花道はさっきの泣きそうな顔なんか吹っ飛んでいた。
「洋平、さっきの約束だ。オレのこと舐めろよ」
 くそ。覚えてたのかこいつ。同情するんじゃなかったぜ。
「オレはお前みてえな天才じゃねえからな。うまくなくても文句言うなよ」
「しっかり湿らせろよ」
 そうか。約束なんかしなくても、どのみちオレはこいつのこと舐める破目になったんだ。指と違って自分で舐める訳にゃいかねえからな。
 立てた膝の間に踞って、オレは花道のそれに触れた。ちょっと触れただけなのにみるみる大きくなる。まるで理科の実験の早回し映像見てるみてえだ。ピンク色に染まったそれを、オレは口に含んでみる。やわらかくて弾力があるかと思うと、すぐに固くなる。唇で包み込むようにしながら、オレはそれを舐めつづけた。これは花道の大切なもの。生きている証。花道も同じような想いでオレを舐めたんだろうか。大切に大切に、ホオズキの実を作るみたいに細心の注意を払いながら。
「洋平!」
 名前を呼ばれて上を見ると、花道はまっ赤になってオレを見下ろしていた。お前まさかもうイきそうなのか? まだほんのちょっとだぞ。
「もういい洋平」
「そうか。じゃ、もう一度オレの方濡らしてくれ」
 追及して花道に恥をかかせることもねえから、オレはそう言ってさっきと同じポーズをした。花道はまた指を使ってまだちゃんと馴染んでることを確認したあと、なにか生暖かいものを入口に当てた。見える訳じゃなかったが気配で判る。花道の奴、入口を舐めてやがる。
「花道、なにやってんだよ!」
「いちいち手で濡らすよりこっちの方がはええだろ」
 ふつうそんなとこ舐めるかよ。猫の親子じゃねえんだからよ。
「よし、完了。洋平、こっち向け」
 何か変だぞ、花道。と言いつつ言うとおりにしてるオレも変か。振り返ると、花道はいたくまじめな顔をしていた。
「何だよ」
「洋平、オレ、お前の顔が見えるようにやりてえ。それでいいか?」
 何だそんなことか。どうやったってたいした違いはねえだろ。
「いいんじゃねえの?」
「それ、どうやれば出来る?」
 そういうの確か正常位って言うんだよな。ビデオとかで見たことはあんだけど。
「じゃあ、オレ仰向けに寝るから、ちょっとやってみろよ」
 オレは仰向けに寝転がって、ちょっと足を開いた。花道は迷いながら身体を寄せてくる。何か、ドキドキしてきたぞ。今花道が間近にいて、これからオレ達、一つになるんだと思うと。
「足、どうすんだ?」
「腕で持ち上げるか、肩に乗せるかすりゃいいんじゃねえか?」
「そんなことしてお前の骨折れたりしねえか?」
「折れそうになったらそう言うさ。オレはそんなにやわじゃねえよ」
「判った。やってみる」
 花道はオレの両足を持ち上げて、少しオレの腰を浮かせた。そのまま入口を探す。何だ、大丈夫そうじゃねえか。花道はオレの入口にピッタリ自分自身をあてがった。
「足、大丈夫か?」
「ああ」
「入るからな。痛かったら言えよ」
 いよいよだ。花道が腰に力を入れて、オレの内部に入ってこようとする。ちょっとの抵抗感。オレの身体が花道の侵入を阻もうと無意識に抵抗してる。大丈夫だ。ちゃんと入るはずだ。オレはそう信じながら、気持ちを花道に集中させる。
 ほんのちょっと入った瞬間、オレの身体に痛みが走った。入口が押し開かれていると判る痛み。指三本どころの痛みじゃねえ。だけど、どう考えても花道のモノと指三本とじゃ、指三本の方が太かったはずだ。叫ぶほどの痛みじゃねえが、けっこう痛えぞ。この抵抗感は花道も感じてるはずだ。ゆっくりと奴も力を入れて、何とか入ろうとしてる。
「花道、今どのへんだ?」
「頭が入ったくれえ。痛えか?」
「痛えけど、大丈夫だ。そのままいってくれ」
「ダメなら言えよ。あんま我慢すんな」
 少しずつ、少しずつ入ってくる。それにつれて痛みの方はどんどん増していった。まだ大丈夫。まだ耐えられる。オレはちゃんと花道に入って欲しいから。オレは……花道が好きだから!
 オレ、今ドキドキしてる。花道がオレの中に入って、オレと一つになろうとしてるから。オレのこと抱きたいって思ってくれたから、オレは今嬉しいんだ。だから痛みに耐えられる。痛みよりもなによりも、嬉しいって気持ちが一番強いから。
「洋平……!」
 その時オレは、今花道のすべてがオレの中に取り込まれたことを知った。いつの間にかオレは目を閉じてたらしい。薄目を開けて見ると、花道が心配そうに見下ろしているのが見えた。オレは自然に顔がほころんでゆく。なんか幸せで、顔がしまんねえんだ。
「洋平……大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
「何かすげえよ、洋平。オレ今洋平の中にいる」
「ああ、ほんとすげえな」
「オレ、洋平が好きだ。一番好きだ」
「ああ」
 オレもだ、なんて言わねえ方がいいな。自由なのが花道だから。オレの一言でしばりつけちまったら、お前はお前じゃなくなっちまうから。
 オレの身体が花道に馴染んでゆく。それにつれて痛みの方も少しやわらいでいた。今なら大丈夫な気がする。
「花道、動いてもいいぞ」
「痛えだろ? そんな顔してるぞ」
「少しな。だからゆっくり」
 動くために花道は少し体勢を変えた。そのことでまた一瞬の痛みが走る。ゆっくり、本当にゆっくり動きだした花道に、オレはまた痛みの中に不思議な気持ち良さを感じた。指でされたときよりももっと感じる。痛いんだけど気持ちいい。徐々に、花道も興奮して動きが早くなっていた。
「洋平、スゲエ……」
 花道も感じてる。動きが少しずつ早くなる。感じてるときの花道の顔、まっ赤になって何だか赤ん坊みてえだぜ。だけどオレは嬉しくて、自分が痛いなんて事言いそびれちまう。何か嬉しくて。花道とオレが今同じ身体を共有して、一緒に感じて、何か花道が愛しくてたまんねえよ。きっと今、お前も同じ気持ちだよな、花道。オレとお前、今、本当の意味で一つだ。
 花道の最後の瞬間  
 動きを止めた花道の部分が小さく痙攣して、オレの内部に感触を伝えてきた。知らなかった。イッた瞬間て感触で判るもんなんだな。その感触が嬉しくて、いつまでも感じていたいと思った。だから、オレの足を降ろし始めた花道に言ったんだ。
「しばらくそのまんま入ってろ」
「……洋平、オレ、洋平が最高に好きだ」
「ああ」
 入ったまんま、花道はオレを抱きしめる。抱きしめられてると判る、オレの全身が花道を求めてたこと。お前の腕、何か妙にしっくりと心地いいぜ。お前に抱きしめられてるだけでドキドキする。お前が欲しくてたまらなくなる。
「洋平、オレ途中から忘れちまって」
「ああ」
「何か夢中でお前のこと好きで嬉しくて……言ってる事判んねえな」
「判るさ。オレとお前つながってるじゃん。お前のことなら何でも判るよ」
「洋平」
 花道が強く抱きしめる。オレは言わねえよ。お前が好きだとは今もこれからもずっと。
 正直な花道。湘北に行ったらお前、きっとまた恋をする。かわいい女に恋してふられて、でももしかしたらうまくいって、今日のことなんか忘れちまう。お前がまっすぐで正直だから、今のお前の気持ちは信じてる。だからこそオレはお前を縛れねえんだ。新しく生まれるお前の恋の邪魔だけはしたくねえから。
「洋平、またお前のこと抱いてもいいか?」
 お前な。そういう事言うなよ。思わずうなずいちまうじゃねえか。
「そんなによかったのか? オレが」
「すげえよかった。……思い出しただけでまたでかくなってきちまった」
「でかくなる前に抜いとけ」
 なごり惜しそうに、花道はオレから抜け出す。一瞬の快感を残して、花道はおそらく永久にオレから離れた。
「そうかお前、またでかくなったのか。ちょうどいい。さっきのメジャーがまだそのへんに……」
「だあーっ! よせよ洋平!」
「問答無用。人のサイズ計っといて自分の計らせねえとはふてえ野郎だ。離しやがれ」
「誰が離すか!」
 ごまかしのもみあいをしながら、オレは花道をこれからもずっと見守ってゆこうと心に決めた。こいつがこれから恋する女と、夢中になれるものを手に入れるまで。
 その程度のこと、お前の存在だけで釣がくるから。

 オレこと水戸洋平、十五才の春。




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