天才に捧げる応援歌 おまけ



 花道との不毛なもみあいに疲れたオレは、ぐったりとして布団に横たわった。枕を探して寝転がる。花道も横になろうと身体の位置を変えかけて、ふいに驚いたように叫んでいた。
「ああっ……!」
「何だ?」
 花道が見てたのはオレの身体の下だ。もう一度身体を起こしてオレが見たもの。それは、あちこちがまっ赤に染まった花道のシーツ。
「げっ!」
 痛いとは思ったけど、まさかこれほど出血してるとは。驚きのあまり、オレはしばらく声が出せなかった。
「すげえ。……こんなになっちまうんだな」
 花道の奴、呆然としてる。洗濯して落ちるんかよ。替えのシーツなんて持ってる訳ねえよな。
「花道、オレのいとこが去年結婚してな」
 流れに関係ない話だと思ったんだろう。花道はちょっと身構えてる。
「今年子供が生まれたんだ。オレの親が祝金送って、けっこう仲のいいいとこだったからオレもちょっとした品物送ったんだよな。そしたらお祝い返しで同じ物二つ送ってきたんだ」
「……洋平?」
「夏物だから今年から使おうと思ってたけどな。持ってきてやるよ。うまくいけばオレとお揃いになるぜ」
「お前、何の話してるんだ?」
 まだ判んねえのか? いいかげん鈍いなこいつも。
「だから、替えのシーツの話だよ。ねえから困ってたんだろ?」
 花道は驚いたようにオレを見て、やがてちょっと怒ったようにオレを睨みつけた。何だよ。お前が貧乏なのはオレも良く知ってるし、今まで面と向かって言われても怒ったりしなかったじゃねえかよ。何でそんなに怒るんだよ。
「誰がシーツの心配なんかするかよ。オレが心配してんのはお前の身体のことだ。シーツなんか金出しゃ買えるし、なくたって死にやしねえけど、洋平の身体は一つしかねえんだぞ。もっとお前自分の身体のこと考えろよ。お前がそんなんだからオレ……」
 花道お前、シーツじっと見てたの、オレの身体心配してたからなのか?
 ばかだな。この程度の傷でオレがへばる訳ねえのに。
「悪かったよ花道。だけど平気だから心配すんな。何たってオレは最強桜木軍団の筆頭だぜ」
 花道の笑顔が戻る。それを見届けながら、オレはたとえ親をだまくらかしてでもぜったい花道とお揃いのシーツを実現させてやろうと、心に決めた。
おわり


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