ライセンス
狙撃の神様ゴッドと呼ばれる本名神宗一郎は、日本に来た最初の日に銃砲ブローカー清田信長からライフルを買い求め、それ以来毎日の狙撃練習を欠かしたことはなかった。
一日の練習量として、ゴッドは五十発のノルマを自分に課している。清田から買い求めたのは殺傷力抜群の中古のライフルと弾丸一千発。清田にしてみればめったにお目にかかれないとびきりの上客であった。気を善くした清田に練習場の穴場を五箇所ほど教えてもらい、来日した最初の日から順繰りに通い始めた。本拠地はLAの方にあったのだが、世界中をおよそ三十周もしているほどの売れっ子スナイパーなので時差ぼけにも強く、日本の風土にもすっかり慣れて風邪一つひく気配のない健康優良児であった。
今朝は割に早く、朝の九時には既に車上の人となっていた。出かける時間が一定でないのは、まさかの追跡者に配慮しての事である。運転手はいつも同じではない。今日の運転手は横にも縦にも異様に大きい全体にまのびしたイメージの男だった。一度だけ伴い、帰り道に迷ったためその時はもう二度と連れて来るまいと思った男であった。
一時間半をかけて現場に行き、二時間の練習のあと弁当を挾んで更に一時間半。
帰り道の指示を出しながら、来た道とは違うあたりを走り続ける。向かっている場所が出発点とは微妙に違うことに、運転手兼ボディーガード兼見張り役の男は気づかなかった。車を止めさせ、降りようとしているゴッドを見て、初めて異変に気づいたのである。
「ゴッド……ど、どこに行くんだ? 勝手なことしちゃいけないって、み、三井さんが言ってたのに」
おどおどしたしゃべり方で男はたしなめる。しかしゴッドにはその意見を尊重するつもりはなかった。
「三井はオレのこと見張れって言ったんだろ? 帰り道の途中で降ろしちゃいけないって言ってたの?」
男は記憶をたどる。確かに三井は、帰り道でゴッドを降ろしてはいけないとは言わなかったようだ。
「だ、だけどやっぱりまずいよ。帰ろうよ、ゴッド。み、三井さんに怒られるよ」
「オレの運転手をしながらオレのこと見張ってろって言われたんだろ? しちゃいけないって言わなかったんだから、三井は怒ったりしないよ。帰りたければ帰ってもいいけど、オレの見張りを途中でやめたらその方が三井も怒ると思うな」
「……そうかな。そ、そう思う? ゴッド」
「ああ。ついてきて見張ってれば大丈夫じゃないかな」
ゴッドにうまくまるめ込まれるように、男は車から降りて、ゴッドについて歩き始めた。二人が降りた場所は大きな川沿いの田舎道で、満足に舗装さえされていない土手の上の一本道である。まずめったに車も通らない。辛うじて擦れ違える程度に車を停め、そのままゴッドは土手を降りていった。男もあとに続く。鉄橋の下になっているところまで来ると、遠くに一人の人間が立ちつくしているのが見えた。男はまたためらいがちに声をかけたが、ゴッドはニッコリ笑って更に近づいていったのである。
「よう」
ゴッドが声をかけると、人間は振り返ってこれまたニッコリ笑った。こぼれるのは天使の微笑み。その異名を持つ、エースだったのである。
昨夜遅く、エースのもとにゴッドのエージェントメリッサからの連絡が入っていた。場所の指定をして伝言を頼んでおいたその日、ゴッドから日時の指定とともに返事をもらったのである。時間の方はかなりずれ込んでいたが、もとよりすっぽかされることも覚悟の上の呼出しだった。もちろん、コブ付きであることも予想のうちである。
「元気そうだな。相変わらず忙しいんだって?」
見張りを気にした様子もなく呼び掛けるエースに、ゴッドもいくぶんほっとしていた。呼び出された理由は理解している。半年前にただ一度仕事でかかわっただけの伝を利用してまで自分から聞き出したいのは、三井が隠している人物の情報なのだと。
「名前だけがひとり歩きしてるって感じかな。メリッサが迷惑がってる」
「また一人レテを渡ったか」
「そうじゃない時だってあるって」
見張りがいればそれだけ会話もまどろっこしくなる。だが、英語でしゃべったりして後ろに控えた男に下手に警戒される訳にもいかないのだ。
「あ、そうそう。判ってると思うけど、オレ、今の仕事のことはなにも話せないから。彼が見張り兼ボディガード」
「……頼りになりそうだな」
「まあね。今のところ彼みたいなボディガードに毎日守られてるから暗殺される心配はないよ」
「日本食は大丈夫なのか?」
「それも平気。名前は知らないけど、料理の上手なのが十人くらいで入れ替わり立ち替わり変わったメニューを出してくれるからね。万が一病気になっても診てくれる人もいるし。……ほんとにお前って心配症なのな」
「そりゃあな。狙撃の神様に万が一のことがあったら世界的な損失だぜ。特に今回の仕事は長いって言うじゃないか。まだまだ帰れねえんだろ?」
「一応そのつもりだけど、もしかしたら意外に早く帰れることになるかもしれないから、メリッサに伝えといてくれると嬉しいな」
「そうだな。そうしてやりてえけど……なあ、仕事が終わってから、また会えねえかな。時間取れんだろ?」
「いいよ。どこで?」
「この川もう少し上流に行くと、でっかい橋があるだろ。その下あたりで」
「それは助かるな。またここまで来るんだと二十分はかかるけど、そこなら十二三分で着く。たぶん渋滞もしないだろうしね」
二人は二人とも心の中でわずかにほくそ笑んだ。見張りの男はまったく気づいていないのだ。二人が会話の中で、どれほどの情報を交換し合ったかを。
男には仕事仲間の男がゴッドを気遣って雑談を交わしに来たようにしか思えなかったのだ。
その勘違いを更に完璧なものにするため、エースは会話を続けた。
「ところでお前、未だにメリッサに女のヨロコビを与えたことないんだって?」
ちょっと声をひそめるように言う。対するゴッドの表情はそれまでと少しも変わらなかった。
「オレはそこまで命知らずじゃないって」
「命知らず?」
笑顔で言われた意外な言葉に、エースはちょっといぶかしんだ。そんなエースに、ゴッドは不思議そうに言ったのだ。
「え? だって、メリッサのフルネーム聞いたら一発で判るじゃない。知らないってことないよな」
「メリッサ=オルゴ……」
つぶやきながら、エースはそれまでの表情を一変させていた。真剣に青ざめてしまったのである。
「彼女の父親と割に懇意にしてたから、とりあえず社会勉強を兼ねて預かってるんだ。優しくてすごくいい娘なんだけど、四大マフィアの実力者なんておじさんを持ってるってだけで交友関係に恵まれなくてさ、かわいそうに思うこともあるよ。後継者もいないから、いずれ養女に入ってファミリーを継ぐことになるんじゃないかな。姪っ子の中では一番溺愛されてるみたいだし」
美人のわりにウブな訳である。固まってしまったエースに、ゴッドは気の毒そうに言った。
「モザンビークの裏政府が手あたりしだい用心棒を探してるみたいだね。オレは二年も三年もスケジュール空かないし、それに見合うだけのドルも用意できないみたいだから断ったけど、あの条件じゃあんまり集まってないと思うよ。たぶんダディーのところにも声かけてるだろうね。帰って来るころにはメリッサも母親だ」
恋も仕事も命がけ。勝利と敗北は常に背中合わせ。気を抜いてはいけないのだ。落とし穴はいたるところで口を開けて、落ちて来る獲物を舌なめずりで待ち受けているのだから。
今日まで間一髪の綱渡りを続けてきた天使のエースは、このとき初めて神を呪ったのである。
アーメン ――
激しい眠気が、洋平の身体を飲み込もうとしていた。
発熱による多量の発汗は衣服に吸われて寒気を更に増大させる。傷口からの規則正しい鼓動がその激しさによって身体を震わせ、平衡感覚を失わせる。一人きりでいながら意識を保つことは不可能だった。意識を失ったら、脈打つ身体を感じることは二度とできないのかもしれない。
まるで幻覚のように、夢の中に現われては消える。男は名乗った。ただ一度だけ、牧紳一と。
「しばらくここにいろ。とりあえず夕食を運んできてやる」
その部屋はそれまでの洋平が過ごしたことのないほどにすっきりと調和の取れた、それでいて少しも貧相に見えないほどの調度を誇っていた。泥棒としての目を通して見る家具のそれぞれが最高級品であることが判る。だがけっして豪華にも華美にも見えないのだ。牧の趣味の良さを十分に知らしめていた。
そして同時に悟る。この部屋がある意味で牢屋に勝るとも劣らないほどきちんとした軟禁室なのであるということを。
洋平の神経が和むことはなかった。さりげない仕草で部屋の中を探り、警戒を怠ることなくベッドに腰掛けた洋平のもとへ、男は自ら食事を運んできた。
「ベッドで食うか? それともこっちに来るか?」
部屋の中央にはテーブルと椅子がある。トレイを手にしたまま、牧は言った。広い部屋は嫌いだった。そして、広い部屋の中央はもっと嫌いだった。
しかし促されるままに歩き、椅子に腰掛ける。牧はニヤリと笑ってトレイを置いた。
「名前は」
まるで必要のないことを、牧は尋ねる。自分の心を開くためなのだと洋平は解釈した。
「水戸洋平」
「年はいくつだ」
「それが判るほどお気楽に生きてねえ」
「道理だな。職業は何だ」
職業。そう尋ねられて答えていいものか、自信はない。ただ一ついつも胸に抱いてきた。自分の生きてきた道を恥じるつもりはなかった。
「泥棒だ」
かつてウルフに教えられた、泥棒というもの。盗むという行為は、食べることや寝ることと同じくらい神聖なものだった。その道に反してまで生きようとは思っていなかった。泥棒としての倫理と人としての倫理が反発したとき、洋平はいつも泥棒であることを選んで生きてきたのだから。
人としての禁忌を犯してまで、泥棒としての矜持を全うしてきたのだから。
「だったら知ってるな、オレの名前を」
名前は聞いたことがあった。最初に名乗られたとき、洋平には驚きと、そしてやっぱりという気持ちが同時に生まれたのだ。名前は知る人間達も、その正体についてはほとんど知らなかった。素顔を見た者さえそう多くはないだろう。
その牧がどうして自分にかかわるのか、洋平には判らなかった。あのまま放っておいたならいずれ近いうちにのたれ死んでいた小さな洋平などと。
「……なんか用があんのか、オレに」
牧はブローカーだった。手先になる泥棒が欲しいのだと言われたところで、洋平は何の不思議も持たなかったことだろう。
まるでおもしろそうに、牧は微笑んだ。莫迦にされているように感じたのは、洋平の大人になりきれない一面。
「ちゃんと決まったら話してやる。その時どうするかはお前の自由だ。だが、土壇場で裏切ったら今回のようにはいかんぞ。時間はたっぷりある。よく考えて決めるんだな」
―― それから何か月かして、洋平は何かを盗んだ。
裏切ることなく、言われた通りのものを言われた通りに。
夢の中の洋平はその事実に不思議な違和感を覚えた。何かがひっかかっている。だが、それが何か、判断するだけの能力がなかった。
そして、耳慣れた音に洋平は目を覚ます。いつの間にか倒れていた上半身を起こし、ドアに目を向けるその瞳は洋平自身が思うよりも儚く頼りない。
入ってきたのは、点滴機材を抱えた宮益だった。
「大変そうだね、手伝おうか」
いつ意識を失うか判らない。皮肉でも言わないことには持ちそうになかった。
それには宮益は何も答えず、機材のあとは何か別のものを運び入れて、そしてドアを閉めた。
「一刻も早くつけてあげたいんだ。だけど先に着替えた方がいいから……自分でできる?」
衣服は発熱による汗でグッショリしている。着替えた方がいいことは洋平にも判っていた。
「オレのモノは三井に劣るってか。……ま、いいか。近くに置いて少し出ててくれ。終わったら呼ぶから」
木暮に言えなかった皮肉に首をかしげた宮益がやがてドアから出ると、洋平はかなり苦労しながら衣服を着替えた。これまでよりも身体が暖かくなった気がする。だがもちろん熱が引く訳ではなく、再び宮益が戻ってきたときも、洋平は精一杯の虚勢を張らなければならなかった。
「ようやく三井が許してくれた訳だ。まだオレを殺したくはないらしいな」
「木暮が言ってくれて……。さ、腕を出して」
「あとは毛布と手術か。木暮に言ったら何とかなりそうだな」
「手術も……することになると思う。ただ……」
その時、針を刺そうとしていた宮益の手が一時止まった。ドアの音が響いて、三井が来たことを告げたのだ。足音は二つ。更に部屋のドアが開いたとき、洋平はその向こうに三井と木暮の姿を見たのだ。
三井は笑っていた。ほとんど上機嫌という風に。
「いい格好だな、水戸」
壁によりかかり、点滴を受ける洋平を見て、三井が言う。洋平もいつもの皮肉で答えた。
「もっと趣味のいい服用意できねえのかよ。さすがは医者の息子だ。ファッションにも疎いときてる」
「ふん」
その皮肉は、三井の一言によって受け流された。いつもならばまっすぐに受けとめてくる馬鹿正直な三井であるというのに。
「オレの親父は高名な医学者でな、専門は免疫だった。こいつは研究分野が幅広い。特に親父が院長になってからは研究費は使い放題でな、名前を頼っていろんな患者が大金を積み上げた。おかげで宮益みてえな腕だけの医者は集まりまくりって訳だ。いい医者だったぜ、親父は。腕がないくせにあれだけ病院を大きくしちまったんだからな。
経営のケの字も知らねえお前の親父とは月とスッポンさ」
その三井の言葉は、洋平を驚かせて余りあるものだった。洋平自身が知らない洋平の親のことを、三井は知っているのかもしれないのだ。驚きを表情に出さないようにと顔をこわばらせる。しかし、その表情は完璧ではなかった。
「やっぱ、知らねえのか。くっくっ……いいネタ仕入れてきたようだったぜ。教えてやるよ、水戸。お前の親父は会社の経営で失敗して、人を殺しちまったんだ。人を殺したんだよ、お前の父親は」
―― 人殺しの子。
―― 悪逆非道な、人類の敵の子。
知っていた。だけど忘れていた。いや、本当は覚えていたのだ。あの日施設で聞いた、大人達の内緒話を。
今、この男にだけは言って欲しくはなかった。それよりも自分が信じたくはなかった。それがたとえ真実だったとしても。
「ははは……とうとうしたな、その顔を! オレが五年間も待って、泥水すすりながら恨みつのらせて、お前にさせたかった顔だ! オレが味わったと同じだけの屈辱をお前が味わうとき、それをどれくらい待ってたか判るか、水戸。オレはとうとうやったぞ! やったんだ!」
三井の高笑いが洋平の心には痛い。今の洋平は、自分が父親とは別の人間なのだと理解している。親がどうであろうと自分には関係ないのだと、自分を納得させることができる。しかし幼い洋平は問いかけるのだ。あのとき父親が人を殺したことによって傷ついた洋平は、忘れられない傷をもって、今の洋平の平安を逆撫でするのだ。
それは本当のことか? 人殺しの子は本当に人殺しではないのか? いつか殺してしまうのではないのか? いつも、いつも、いつもいつもいつも ――
「何か言ってみろ、水戸。できるもんなら反論してみろ! ほれ、いつもの皮肉はどうしたんだよ。声が出ねえのか? 言ってみろよ、オレの親父は最低だって。リベートたんまりもらって新薬試したあげく患者苦しめた悪徳医者だって言ってみろよ! だけどお前の親父にはかなわねえ。なんたって包丁で刺し殺しちまったんだからな。ははは……」
三井が語ることが言葉通りの真実であるのか、今の洋平には確かめる術はなかった。しかし洋平は疑わなかった。昔聞いた言葉は洋平に必要以上の想像力を掻き立て、その想像と三井の言葉はそれほど食い違いはなかったのだから。
洋平を傷つけるものは三井の言葉。だが、一番洋平を打ちのめしたのは、洋平自身の良心だった。
「三井、あんまり笑ってると水戸が眠っちゃうよ」
三井を我に返らせたのは、うしろで成り行きを見つめ続けていた木暮だった。点滴の中には睡眠薬も含まれている。それが効き始めればやっかいなことになるのは既に経験済みである。
「そうだな。木暮、セッティングは」
「済ませてある」
「よし。……水戸、こいつを見な」
三井のうしろには、いつの間にか小さなテーブルが置かれていた。その上にはそれほど大きくない段ボールが一つと、手のひらに乗るくらいの小さな機械が置かれている。そして、段ボールから長いリード線が伸びて、もっと小さなスイッチのようなものにつながっていた。三井は小さな機械の方を取り上げて、洋平に見せながらしゃべり始めた。
「かなり高性能らしいぜ。この小さな中に、けっこう強力な爆薬が仕掛けてある。ここが起爆スイッチだ。この二つの金属が触れたとき、初めて爆発する。今はまだ大丈夫だ。間にプラスチックのストッパーがあるのが判んだろ? こいつを外してからが問題だ。すぐに爆発されても困るからな」
洋平の目が宙を泳ぐ。薬が効き始めているのかもしれない。
「ちゃんと見ろよ。ここになんかあるだろ? これがいわゆる電池だ。ストッパー外しても二つの金属は反発してすぐにはくっつかねえ。金属同士が磁石になってて、その磁石を作ってるのがこの電池なのさ。だけど電池には寿命がある。そのうちこの電池の中の電気はなくなっちまう。そうなりゃあとはここがくっついて爆発するだけだ。おもしれえだろ?」
薬のせいだけではなかった。それまで張り詰めていた緊張の糸が、切れてしまっていたのだ。
「言ってみりゃ、時限爆弾だな。ただしいつ爆発するかだれにも判らねえ。そいつをお前の腹の中に入れてやる。ちょうど隙間が空いて寂しいだろうからな」
もう表情を隠すこともできず、洋平は驚きと恐怖で一杯になる。身体の中に時限爆弾を入れようというのだ。いつ爆発するか判らないということは、いつ死ぬか判らないということ。確かに人は自分がいつ死ぬか予想することはできない。しかし明日を信じられるから人は生きることができるのだ。洋平には、明日を信じることすらできないというのだろうか。
それだけのことをしたというのだろうか。この、三井に対して。
洋平は誰かを欲した。せめて洋平自身に死んで欲しくないと思う、誰かを。
初めて助けを求めた。
「もう一つこの箱ん中に同じもんが入ってる。実験してみるから見てろよ」
三井は手にしていた爆弾を木暮に手渡し、自分はテーブルに乗せられたリード線の先のスイッチを取り上げた。そして、テーブルから離れる。三メートルも離れたあたりから、三井は声をかけてスイッチを入れた。
ドンというすさまじい大音響。そして、飛び散った段ボールの切れ端と、爆弾の破片。煙と埃はそこにいた四人の人間を凍らせた。三井でさえも、しばらく声を上げることはできなかった。
人の身体に埋め込まれ爆発したとき、飛び散るのは人の臓物のかけらと血しぶき。その命は一瞬にして断たれるだろう。それほどの威力を、見ている人間達は感じたのだ。
「……なかなかの威力だね」
沈黙を破ったのは、三井ではなく木暮だった。その声に、三井もようやく我を取り戻していた。
「明日、お前の身体に入れてやる。楽しみにしてろよ。宮益、あと片付けとけ」
その声には覇気がなかった。だが、誰もそんなことには気づかなかった。宮益も洋平も、どぎもを抜かれてしまっていたのである。
洋平は助けを呼んだ。名前を呼ばず、ただ、誰か、と。
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