FINAL QUEST 1
第四章 湘北王国
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昨日通ったと同じ山道を、花道とその連れ達は再び降りてゆく。しかし、彼らは一日前とはその存在の意味を変えていた。花道は光の子であり勇者であり、自治領の領主となった。高宮は自分の出生をおぼろげながら掴んでいた。忠は、父親の名前を継いで守護剣士野間となった。そして、あと一人。
「なあ、さっきから何か暑くなった気がしねえ?」
和光村の大神官という肩書を持つ大楠は、行列の最後尾を歩きながら前を歩く誰にともなく言った。昨夜の儀式のあのとき、大楠は誰に断わるでもなく村人達を口先一つで丸め込んで、花道達の了解を得ぬまま強引についてきた形になっている。高宮などは最初から取り合うつもりなどまるでなかった。高宮とは別の理由で花道も大楠が一行に加わることはあまり歓迎すべきものではなかったので、結果最初に大楠と交流を持つのは、忠の役目になっていた。
「山をおりればそりゃ暑くなるさ。特に和光村は麓に比べて寒いのは有名な話だからな。今の時期ならまだマシな方だ」
「そうなのか。……村に着いたらまず洋服屋に直行だな」
「それがいい。その服じゃ麓の暑さにゃ耐えられねえだろ」
大楠の科白に対する忠の答えは単なる勘違いだったのだが、今のところさして困ることでもなかったので、大楠はあえて訂正することはしなかった。忠が後ろに振り返って大楠と話していたため、少し歩みが遅くなる。その期を逃さず、高宮は先頭を歩いていた花道に早足でかけよって、足元に注意しながら歩き続ける花道に小声で耳打ちした。
「なあ、花道。ほんとにあいつのこと連れてくつもりなのかよ」
二日間ともに過ごしたせいか、それとも和光村での苦悩をともに体験したせいか、高宮は忠に対して前ほど反感を抱かなくなっていた。そもそも単純なたちである。新たに加わった更なる強敵を目にして、以前の忠に対する確執のことなどどうでもよくなってしまったのかもしれなかった。
「お前、昨日もそんなこと言ってなかったか?」
「それはもういいんだ。そんなことより、あいつこそ正真正銘やな奴だぜ。口はうまいし調子いいし、なんたって育ちがよすぎら」
「育ちがいいとなんか問題あんのか?」
「育ちがいい奴ってのは、育ちがわりいオレ達なんか莫迦にしくさんだよ。上品なの鼻にかけやがんだ。すっげーうっとおしいぜ」
「そういうもんかもな」
言葉で半分だけ同意の意志を見せて、しかし花道にはだんだん高宮という人間が判りかけていた。たぶん一晩かふた晩一緒に過ごせば、相手が誰であれそれなりに仲よくなってしまうのだ。だから高宮が大楠のことを多少悪く言っても、あまり心配はしていなかった。事実、高宮は忠に対して、既に裏表のない態度で接しているのだから。
そんなことより花道の心の中には大きくひっかかるものがある。そもそも花道は、勇者というのがいったいどういうものなのか、まるで判っていなかったのだ。魔王を倒すと言葉にすれば簡単だが、どうしたら魔王を倒せるのか、さっぱり判らない。なにしろ花道は剣さえ使えない本当に普通の子供なのだ。剣の腕だけを言うなら忠の方がはるかに上だろう。
世渡りや博識ぶりは高宮にかなうべくもないし(これは花道の大いなる誤解があるのだが)、花道自身は知らなかったが、大楠は花道が見たことも聞いたこともない魔法というものを使える。要するに今の段階で、花道はほかの同行者よりもはるかに弱い存在なのだ。とりあえず花道は少しでも強くならなければならないから、当面は忠に教えてもらいながら剣術を学ぶことになるだろう。
遠い道程だと思う。魔王を倒せるくらいに自分が強くなり、同時に魔王の居場所を捜さなければならない。魔王の住む世界は和光村の裏側にあるのだと、大楠が師匠と呼ぶ村の賢者は話してくれた。和光村の裏側までどうやって行けばいいのか。歩いて行ったらどのくらいかかるだろう。そもそもそこまで歩いてゆけるような場所なのだろうか。
花道は本当になにも知らなかった。だけどとにかく、出発しなければならない。それが勇者になると自覚した花道が、唯一取るべき道なのだから。
「花道、とりあえず今夜はオレのうちに泊まるんでかまわねえよな」
めったに人の通らない山道を注意しながら無言で歩く花道に、後ろから忠が声をかけてきた。忠も、そしてほかの二人も自覚している。この四人の行動の主導権を握るのは、花道以外の誰でもないのだということを。
「ああ、そうさせてもらえるとありがてえな」
「オレがその方が助かるんだ。しばらくお袋とも会えなくなる訳だし」
「二三日いてもいいかな。急いでも仕方ねえみてえだし」
「バーカ、気を遣うな。洋平が逃げてもいいのか?」
「……よくねえ」
そして、花道には勇者になる以外に洋平を捜すという目的もある。昨日の夜、大楠も加わった四人で先のことをいろいろ話し合ったのだ。その時花道が洋平を捜すことに異議をとなえる人間は大楠を含めて誰もいなかった。そのことが一番、花道は嬉しかったのである。
ともあれ、麓の村まで辿り着いた四人は、ほぼまっすぐに忠の家へと向かっていった。その間、大楠は村の様子をキョロキョロと見定め、やがて目当ての店を見つけたらしく、喜びのあまりスキップを始めていた。ほかの三人は他人のふりをしたくなったが、そうもゆかずに間もなく忠の家へと到着する。迎えに出た忠の母親は、出かけたときより一人増えた子供と、変わってしまった花道とを見て、驚きの表情を浮かべたのだ。
「あ、あんたはもしかして、大神官大楠のところの……雄二?」
「初めまして。オレ、大楠ッス。親父も兄貴も死んで、けっこう子供の時から大楠だったもんで、雄二って言われてもあんま実感ないんスよ。雄二って呼ばれるの、小老に怒られてるときだけだったんで」
「……あんたは助かってたんだ。よかったねえ、ほんとに」
「助けてくれたのは守護剣士野間です。感謝してます」
ひとしきり感激の初対面をしたあと、奥で仕事をしていた本橋を交えて、村で体験したことを主に忠が二人に報告した。村での細かい経緯と、そして、花道が光の子桜木であり、勇者であるということを。
それについて本橋はあまり多くの感想を語らなかった。何を言っても、花道の重荷を増やすだけなのだということを判っていたからなのかもしれない。
そうしてある程度場が落ち着いた頃を見計らって、大楠は不意に出かけていった。そして夕食も間近になり、道にでも迷っているかもしれないと忠が捜しに出ようとしていたとき、大楠はとんでもない姿で帰ってきたのである。
「お前……」
その場にいた人間達は驚きのあまり絶句するしかなかった。大楠はそれまでの上等な神官の正装を脱ぎ捨て、粋な吟遊詩人に様変わりしていたのだから。
「どうだ? 似合うか?」
「……似合うもなにも」
「馬鹿、じゃねえのか? お前」
事情を知らない人にしてみればそう言うよりなかっただろう。よりによってどうして吟遊詩人なのか。神官と吟遊詩人ではまるっきり人種というものが違うのである。しかしそうして吟遊詩人の格好をした大楠の、何と生き生きしていることか。
「オレがなんであんな口先八丁使って村を出てきたと思ってんだ。ひとえに吟遊詩人がやりたかったからに決まってんじゃんかよ」
「……そんじゃ、神木を守るとかなんとかってのは……」
「半分は方便だ」
「……なんてこった」
忠の母親直子にいたってはほとんど青ざめていた。しかし、呆然としていた花道達三人は、やがてにやにやと笑い始めたのである。
「なんか、まるっきり変な集団だぜ、オレ達」
「剣士と遊び人と吟遊詩人と勇者かよ。ほとんどチンドン屋じゃねえか」
「おい、ひょっとして遊び人てオレのことか忠!」
「ほかになんて言えってんだ。賭博でケツの毛抜かれそうになったくせに」
「なんでそんなこと……花道! お前がバラしやがったな!」
「こないだ酔っ払って自分でバラしたくせに忘れんな!」
「まあまあけんかすんな。吟遊詩人大楠の初お被露目、オレが一曲聞かせてやるからよ」
そして ――
けっして下手な訳ではないが、生まれて初めて濁声の吟遊詩人の歌声を聞いた三人は、ちょっと前までの軽い言い合いなど忘れたかのように一致団結して大楠に抗議を申し入れたのである。
十三才は大人の入口のようなものなのだと思う。だが、彼らはまだ子供だった。ちょっとした行き違いも、怒りもわがままも、次の瞬間にはすべて忘れることができる。そしていつも新たな関係を作り続けている。昨日とは違う自分に今日は出会い、明日は今日と違う仲間に出会うことができる。
そんな特別の季節に彼らは巡り逢ったのだ。自分と違う友達を自然に受け入れ、大人になってしまってからでは絶対にできない仲間を築いてゆくために。
「……お前が吟遊詩人として成功することをオレは心から祈るよ」
「オレも」
「右に同じ」
いささか逆説的ではあったが、大楠は吟遊詩人になることで、この先仲間達にすんなり受け入れられることになったのである。
湘北王国の首都までは順当にいけばおおよそ半月ほどの距離である。花道や高宮は来た道を戻るような格好になるのだが、今のところその順路を捨てる訳にはいかなかった。湘北の首都はそれまで花道達が歩いてきた村などよりはるかに情報が集まる場所である。それに国王に謁見できれば、一般市民が知らないようなさまざまな情報を得ることだってできるのだ。
そのチャンスが今の花道にはある。花道は正式に自治領の領主になった訳で、その報告を湘北国王は国王として聞かない訳にはいかないのだ。自治領は湘北王国の聖地である。信仰の中心地でもあり、たてまえとして自治領領主は湘北国王とほぼ同等の地位にいることになっているのだ。
もちろんたてまえであるから、権力においては双方はたとえ話でもなんでもなく国王と村長の開きがある。だが、信仰の中心という立場を利用して自らの権力を拡大しようと野望を燃やしたとき、湘北国王にとって自治領領主は侮れない危険な存在になるのだ。もしも少しでも領主桜木が勢力拡大の意志をみせたら、国王は自治領を放っておきはしないだろう。しかし、世界にとって自治領は魔物に対抗するためにはなくてはならない場所である。自治領があるために湘北王国は他国に対しても優位を保つことができるのだ。いわば自治領は、湘北王国にとって両刃の剣なのである。
そんなことは花道は知るべくもなく、また知っていたとしても理解などできなかったし、理解できたところでさてどうするか、ということになれば、そもそもただの旅人の子供である花道に政治の何たるかが判るはずもない。和光村の大人達も、花道がそれほど賢い子供ではないということを見て取るや否や、そんな話をしていたずらに混乱させることもないと諦めたような節がある。
「ま、桜木は光の子だからな。もしも自治領のためによからぬ振舞をしたところでそれはすなわち神の意志。逆らう方が間違いというものさ」
要するに、今この時点をもって和光村の人々は花道と運命をともにする決意を固めていたのである。
さて、当の本人達は一晩泊まった翌日もまだ忠の家にいた。花道が剣をなくしたときいて、それならば自分が失われた剣の代わりに花道に合った武器を鍛えたいと、本橋が申し出てくれたのである。本橋の鍛えた武器は村の武器屋に置いている安物の武器などとは断然質が違う。しかしいくらなんでも本橋の剣が出来上がるまで足止めされるわけには花道はいかなかった。だから、せめて今本橋が所有している武器の中から一つ選んで持っていくようにとの本橋の厚意を、花道は受け入れることにしたのである。
早朝から、本橋の仕事場で、花道達の剣術大会が始まっていた。なにしろ武器などというものは実際に触ってみなければその善し悪しなど判らない。格好だけは決めて花道が手近な剣を抜き放つと、忠が愛用の剣を抜いて鎬を打ち合わせる。そして誘うように手招きすれば、それでもう勝負は始まってしまうのである。
「おい、お前ら! 真剣で危ねえったら!」
振り回す剣先を大慌てで避けて、遠巻きにしながら高宮が言う。なにしろ二人とも真剣なのである。切っ先が少しでも身体に触れたら痛いどころの騒ぎでは済まされないだろう。
「オレと花道じゃ実力が違い過ぎるから大丈夫だ。花道の剣はオレには届かねえし、オレは花道傷つけるようなヘマはしねえから」
「もっと遠くにいろ! すっぽ抜けるかもしれねえ」
二合、三合と打ち合わせるうち、忠にはいろいろなことが判っていた。もちろん剣術に関しては素人に違いないのだが、花道の力とスピードは、もしかしたら忠を凌ぐ。そして、目のよさと反射神経に忠は目を見張った。忠自身はある程度手を抜いて花道に切りつけていたのだけれど、たとえ本気でかかったとしても花道はものの見事に避けてしまうのではないだろうか。
だが、剣士としての大きな欠点にも気付かない訳にはいかなかった。花道は剣を扱いながら、時々自分が剣を持って相手と戦っているということを忘れるのだ。剣を握りしめた手を返して柄の方で忠に攻撃をしかけてきたりする。間合いも剣士のものではなく、はっきり言えば異様に近かった。
このまま剣士としての鍛錬を続けてゆけば、花道はそれなりにいい剣士になるだろう。だが、花道のよさは剣士としての枠内に納めてしまえるようなものではなく、むしろもっと最大限に活かす方法があるように思ったのである。
「そのへんでやめとけ、二人とも」
本橋が静かに言ってこの剣術大会が幕を落したとき、大きく息を吐いていたのは忠の方だった。どちらかというと忠の方が押されぎみだったのだ。異様に間合いを詰めようとする花道と、自分の間合いを保とうとする忠との間で、奇妙な追っ掛けっこの状態になっていたのである。
「忠、お前やっぱ強いんだな。オレ、本気でかかってったのに、身体に触ることもできなかった」
「お前だって相当なもんだ。……変な話に聞こえるかもしれねえけど、お前の方が素手で戦ってたら、オレが剣を持ってても勝てるかどうか判らねえ気がした」
それは常識的に考えれば確かに変な話だった。普通は武器を持たずに戦うより、武器を持って戦う方が人間は強くなるはずなのだから。
「オレ、剣がねえ方が強いのか?」
「たぶんな。お前、剣は持ったことがねえって言ってたけど、魔物と会ったことがねえ訳じゃねえだろ。旅の途中で魔物と出くわしたとき、お前、逃げてたんじゃねえか?」
草原のような広い場所で魔物と遭遇したとき、花道はとにかく魔物から逃げ回っていた。そうして逃げていればいずれ洋平がすべての魔物を片付けてくれたのだ。それが、草原での花道の魔物との戦い方だった。
「剣士ってのはな、攻撃の手段が右手一本に握られた剣で切りつけるしかねえ。だから剣士は敵の攻撃から逃げるときも、いつでも反撃できる体勢を保ったまま逃げるんだ。お前みてえな派手な逃げ方はしねえ。ああいう逃げ方をすると、握ってる剣の攻撃力がちゃんと活かせなくなっちまうんだ」
「ってこた、オレが剣士になるためには、あの逃げ方じゃだめだってことか」
その忠の言葉は花道にはショックだった。花道は洋平に剣を握らせてはもらえなかった。そして逃げることだけを教えられてきた。その、逃げるという行為は、いずれ剣士になる花道には、マイナスになることだったのだ。無駄であるというだけではない。その逃げ方を身体に覚え込ませてしまった花道は、身につけずにいた場合よりも何倍も剣士になるために苦労しなければならないのだ。
花道が自分の言葉によって気落ちしてしまったと知って、慌てて忠は首を振った。忠はけっして花道を落ち込ませるためにそう言った訳ではなかったのだから。
「お前の逃げ方が悪いって言ってんじゃねえんだ。お前のあの逃げる動作はそれだけですげえと思う。一朝一夕に身につくものじゃねえし、誰でもできるって訳じゃねえ。そうじゃなくて……つまりだ。お前が逃げるためにくるっとうしろを向いたとするだろ? そこから攻撃に転じるのは剣士じゃ無理だ。だけど、右手は出せなくても、足で蹴りつけることならできる。そういう技だってある。要するに、逃げ方を変えるんじゃなくて、攻撃の方法を変えちまえばいいんだ」
「……オレ、剣がねえ方が強いって」
「お前は武闘家に向いてんだ。……オレはそう思うぜ」
それまで、二人のやりとりを黙って聞いているだけだった高宮と大楠は、忠のこの言葉にまるで目が覚めたかのような思いだった。素人の二人にしても、花道が実際に剣を振り回している姿を目にして、なにかしら違和感は感じていたのである。武闘家は花道にはしっくりきた。二人は花道に近づき、呆然としたままの花道をその気にさせるべく、場を盛り上げはじめたのである。
「忠の言う通りだ花道! お前は身体もでかいし手もでかいしイビキはうるせえし力はあるし、剣士なんかより武闘家の方が合ってる。絶対お前は武闘家だぜ!」
「オレもそう思うぞ。なにも勇者だからって剣にこだわることねえよ。オレ達には忠って剣士がいるんだし、そのうえ武闘家もいたらバラエティに富んでてこんな楽しいことねえや」
「……そうかな」
「「「そうだ!」」」
三人に声を合わせて言われて、花道もすっかりその気になっていた。
「そうか。武闘家か! オレ、武闘家になんだ! 洋平はオレに剣を禁じたけど、それはオレを武闘家にするつもりで、だからオレに逃げることだけ教えてたんだ。……なあ、オレ、すげえ武闘家になれっかな」
いささか盛り上げ過ぎたような気はしたが、元々お祭り好きの遊び人と、お祭りとなれば真っ先に歌い騒ぐ吟遊詩人である。盛り上げるのはことのほか好きだったが、盛り下げるのは苦手だった。
「なれるなれる。お前、正式に習ったこともねえのに初っ端からこんなに武闘家らしいんだぜ。この先どんだけすげえ奴になるか」
「そうだ。オレもお前みてえな天才、見たことねえ」
「てん、さい?」
「「「ああ! 天才!」」」
こののち彼らはこの日の出来事を生涯忘れることはなかった。年をとり、庭で日向ぼっこしながら孫に何度も語って聞かせるほどに。
「そうか、オレは天才だったんだ。みんなに言われて初めて気がついたぜ。オレ、天才だったんだ」
この天才という言葉が、のちの花道の座右の銘になってゆくのである。しかし、このとき思わず天才という言葉を発してしまった高宮は、今はなんとなく一抹の不安を覚えたに過ぎなかった。
「武闘家じゃ、オレの剣は必要ねえな。残念ながらここには武闘家用の武器なんか置いちゃいねえ」
本橋が言って、それまで盛り上がっていた四人の会話は本橋にさらわれたような感じになっていた。それほど口数の多くない本橋の言葉は、奇妙な存在感を持っているのである。
「そのうち旅の途中で揃えていくといい。防具もいずれ必要になるだろう」
「おじちゃんは防具は作ってねえのか?」
「刀職人だからな。ま、今のところそんなものは必要ねえだろ。技を鍛えて、身体の動きにあった防具を揃えていきゃいいさ。下手に今から防具なんかつけたら、動きを抑えて技を減らしちまう。とりあえず武闘着かなんかつけてたらいいんじゃねえかな」
「そうなのか。判った。ありがとおじちゃん」
こうして四人は、花道の装備を整えがてら、湘北国王に会うために旅に出るのである。
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