MIDNIGHT ACCIDENT おまけ



「ところでお前、どうしてこんな時間にあんなところにいたんだ?」
 帰り道、俺を送ってくれるという桜木の言葉をどうやっても断われず、自転車を押して桜木と並んで歩いていた。こいつは思ったことを何でも口に出さずにはすまねえらしい。さっきから何だかんだとしゃべりつづけている。
「どうしてだっていいだろう、どあほう」
 どあほうという言葉の威力は前ほどなくなったらしい。奴は眉をしかめもせず、独特の自信満々の顔で言った。
「さてはオレの天才ぶりをスパイしに来やがったな。ふん、そんなことだろうと思ったぜ」
「誰がてめえのヘタクソなプレイなんか盗むか。ただの偶然だ」
「ほう、そんな事言っていいのかな、流川君。俺のシャツ汚しといて」
 こいつ……まさか俺を脅迫するためにああいう事したんじゃねえだろうな。
「てめえはどうなんだよ。俺の身体汚したんじゃねえのか」
「俺……流川の身体、汚したの……か?」
 声の調子が変わったのに驚いて振り返ると、桜木は目に涙を溜めていた。おい、待てよ。犯られたのはお前じゃなくて俺だぜ。なんでお前が泣くんだよ。
「お前、俺に身体汚されたって、そう思ってんのか?」
「お前がシャツがどうとか言うからだろうが。別に思ってねえよ」
「本当か?」
 俺は何も答えず、足を早めた。それだけで奴の機嫌は直ったらしい。俺を追い掛けてきてまた飽きもせずにおしゃべりを始めた。
(こいつは本当に餓鬼なんだな)
 誰かに見捨てられた経験でもあるのか。なんだか見捨てられるのを怖がる子猫みたいなところがある。どうして回りの奴らがこいつを甘やかすのか判ったぜ。みんな、こいつを見捨てられねえんだ。涙目で落ち込んでるこいつのこと、見たくねえんだ。
「ここ、お前んちか?」
 歩いてきたせいで、時刻は真夜中というよりも明け方に近い。いいかげん眠たいな。礼を言うつもりもなく、俺は玄関を入ろうとした。
「ちょっと待てよ。礼をもらう」
 俺の腕を引き寄せて、そのままキス。頭で考えるよりも先に身体が反応しちまってる。
「いいか、流川。明日はちゃんと体育館に来いよ。一緒に練習しようぜ」
 こいつ、判ってたんだな。俺がどこかで練習してるってこと。
 笑顔で走り去る奴を見ながら、俺はにやつきたくなる自分を懸命にこらえていた。

おわり


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