蜘蛛の旋律



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 オレはどうやら、少し眠ってしまったらしかった。頭を打つと、ぼうっとして、眠くなるらしい。時計を見ると、まだ7時20分だった。うとうとしただけのようだ。
 見回すと、病院の様子は少し変だった。何だか妙に薄暗かった。それに、あれだけ騒がしかった集中治療室の喧騒が、嘘のように消え去っていた。オレはおかしいと思った。だけど、ぼうっとしたままのオレの頭は、それがどうしてなのか、考えるのを執拗に拒みつづけていた。
 そうしてオレが、その役立たずの脳細胞と格闘していると、階段のある方から人が歩いてくる足音を聞いた。オレがその足音のする方を凝視していると、やがて遠くに、1人の男が姿を現した。
 年はオレと同じくらいだった。少し長めの髪。身長は高くなかった。オレが175くらいだったから、たぶんそれよりは低い。170前後だろうか。それなりに均整のとれた体つきに、GパンとTシャツ、それにクリーム色のジャケットを羽織っていた。
 そいつはオレに近づいてくると、オレの目の前で立ち止まった。優しそうな瞳に、少しの愁いを浮かべながら。
「君は……。巳神……信市君……?」
 オレは驚いて彼を凝視した。オレは彼に会ったことはなかったはずだ。一度でも会ってたら、こんなに印象的な人間を忘れるはずはない。
 オレが黙っていると、彼は微笑を浮かべて言った。
「ああ、驚かないで。僕には薫の関係者は判るんだ。薫はよく、君のことを考えていたから。……僕はアフルストーン。アフルって呼んでくれればいい」
 オレは少し、頭の中がパニックぎみだった。少し整理をつけてみよう。彼は野草の友人かなんかなんだな。彼氏かもしれない。オレのことを知っていたとしたら、たぶん、野草から聞いたんだろう。見るからに日本人なのにアフルストーンなんて名前なのは気になるけど、きっとあだ名かなんかで、別に深い意味はないんだ。だけど、アフルストーンていう名前は、どこかで聞いた。


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「それは、あだ名か……?」
そんなオレの質問に、アフルは少し笑って答える。
「まあ、そうだろうね。もちろん本名もあるはずなんだ。昔は本名で呼ばれていたらしいし。だけど、薫は僕の本名まで考えてはくれなかったんだ。自己紹介するたびに聞かれるんだけど、その時はもう、笑ってごまかすしかない。気にしないで、アフルって呼んでくれないか。あんまり僕を困らせないでね」
 その彼の、少しかすれぎみの優しい声は、やんわりとだけどオレの質問を拒絶していた。そして、そんな彼は、オレにデジャヴュを感じさせた。彼に会ったことはない。だけど、彼を見たことはある。絶対にある。
 病院の廊下は静かだった。アフルは立ったまま、オレを見下ろしていた。
「巳神君、こんな話を知っているかい? ある、15歳の少年がいた。彼は今まで、その白い建物から一歩も外へ出たことがなかった。そしてその日、彼は自らの父親に呼ばれ、命令される。この研究所を出て、ローエングリンとレオポルドに会うようにと。そして彼は、レオポルドと共に暮らし始める」
 アフルの始めた話は、オレはよく知っていた。その話は夢中になって読んだ。野草の書いた、長い小説の話だった。
「レオポルド ―― ミオは、河端という青年に恋をしていた。少年 ―― 伊佐巳は、河端が敵対する組織の工作員であることを知り、それをミオに教えるんだけど、その時、調べてくれた友人と会って、まとめ役の人間の名前を聞くシーンがあるだろう。その友人の名前を、覚えている?」
 話の途中から、オレは少しずつ思い出していった。あの話の中で、接触感応の能力を持つ、優しそうな青年がいた。その青年の名前が、アフルストーンだった。
「あんたは、そのアフルストーンのモデルか……?」
 オレがそういうと、アフルは少し、自嘲のような笑いを漏らした。
「モデル、ね。それでもいいけど」
 アフルはきびすを返すように、集中治療室の方に歩いて行こうとした。オレがびっくりして立ち上がると、アフルは振り返っていった。
「巳神君もおいで。薫に会わせてあげるよ」
 オレは働かない頭を抱えたまま、アフルに従って歩き始めた。


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 治療室の前は静かだった。あれほど医者や看護婦がたくさんいたというのに、その気配はこれっぽっちも感じられなくなっている。オレは心のなかで身震いを1つした。まさか、死んじまったとか、そんな事はないだろうな。
「ああ、巳神君。薫はまだ生きてるから、そんなに心配しないでいいよ。だけど死ぬのもたぶん、時間の問題だと思うけど」
「なんだって!」
「大きな声を出すなよ。ここは病院だよ。まあ、気持ちは判るけどね。僕もまだ、薫に死んで欲しくないから。……あ、鍵がかかってる。ちょっと待ってね」
 野草が死ぬ。そんな、こんなに若くて、まだ高校生で、小説の才能を持った野草が……。どうしてそんなことが、こいつに判るんだ。
 アフルはオレの見ている前で、鍵穴を覗きこんだ。手を触れてもいないというのに、鍵の開く音がして、それがあまりに静かな廊下に不気味だった。
 オレはまさかと思った。まさか、超能力 ――
「そのまさかだよ、巳神君。僕には超能力がある。あの小説の僕そっくりにね。さ、ドアが開いた。入るよ」
 オレの心を覗いている。そんな……。こんな現実はおかしいのだ。これは現実じゃない。こんな夢物語のようなことが、本当に起こってたまるもんか。だけど……アフルストーンは現実に存在していた。目の前に、何の疑いもなく。
「入らないのかい? 入らなければ、生きた薫は2度と見れないよ」
 オレは覚悟を決めて、アフルが開けてくれたドアの中へと、足をふみいれたのだ。


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 入って左に、野草の寝ているベッドはあった。不思議と、生命維持に必要な装置の1つも置いてはなかったし、野草の身体は、全身火傷というにはきれいすぎた。制服をきちんと着て、やすらかに眠っていたのだ。あの爆発のさなかで、こんなにきれいでいられるはずはなかった。でも、人形やなにかでないことは、規則的に上下する胸の様子で明らかに判った。
 アフルはゆっくりと野草に近づいて、いたわるように、そっと、頬に触れた。
「薫……」
 オレは見えない何かに阻まれるように、その場から動くことさえできなくなっていた。非現実のベールに包まれているかのように、静かで、アフルの声しか聞こえない。
「……僕が、悪かったのかな……」
 アフルの表情は、静かだったのだけど、すごく辛そうに見えていた。アフルの言葉の意味はオレには判らなかった。もしかして、アフルは野草の彼氏なのかもしれない。そうでなければ、こんなに優しくいたわるように言葉をかけたり、眠る野草をこんなに辛い表情で見たりはしないだろう。
 今のアフルはオレの存在をまったく忘れ去っているかのようだった。
「……薫、僕は君を助けたいよ。君に死んで欲しくはないんだ。……君は、僕の命なんだよ」
 アフルの頬に一筋、涙が伝って、オレが胸を衝かれるように息を呑んだとき、アフルは不意に我に返るように表情を引き締めたのだ。
「巳神君、悪いけど僕は引き上げさせてもらう」
 そう、オレの名前を呼びはしたけれど、アフルはオレを見ることはしなかった。そして、まるで何事もなかったかのように、野草の病室を足早に出て行く。オレはしばらくあっけに取られて立ち尽くしていた。いったい何が起こったっていうんだ?
 独り病室に取り残されてしまって、どうすることもできないまま、オレは病室にひとつだけあった丸椅子に腰掛けた。


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 正直、オレは混乱しちまっていたし、どこか落ち着かないような気分はずっと抱えていた。夢の中にいるような非現実的な感覚はずっと続いている。どう考えても病院の中は静か過ぎて、アフルが去ってからは誰の気配も足音も、何も感じられなかったのだ。その中で、野草の小さな呼吸音だけが聞こえて、それがより重苦しい雰囲気を増長させている気がする。
 病院の医師も看護婦も現われない。オレは夢を見ているのかと疑ってみるけれど、多少頭がぼうっとしているのはたぶん頭を打ったせいで、その他はぜんぜん普段と違うところはない。ふと、時計を見ると、時刻は7時30分を過ぎたところだ。アフルが現われたときは7時20分過ぎだった。時間は順調に流れているし、オレの感覚と客観的な時間の流れとはまったく食い違うところはなかった。
 病院が用意してくれた、オレの病室。オレはそこに戻って、ベッドに潜り込んで眠ってしまうべきだった。だけど、そうしてしまう気にだけはどうしてもならなかった。アフルが言っていたことが気になって仕方がなかった。野草はまだ生きている。だけど、死ぬのもたぶん、時間の問題だと。
 アフルはいったいなんだったのだろう。野草の彼氏で、野草の小説のモデルになった。それは別におかしなことじゃない。超能力を持っていて、オレの心を読み、ドアの鍵をあけてくれた。だけどオレは、この部屋に本当に鍵がかかってたかどうか、確認した訳じゃない。心を読んでいるように見えたけれど、単にオレの表情から気持ちを推測しただけなのかもしれない。
 オレは、この非現実感を単なる現実に置き換えてしまいたくて、無意識のうちに状況を常識に当てはめようとしていたのだと思う。判らない、理由の付けられないものは、極力見ないようにしていた。なぜ、野草はこんなにきれいなのか。ほんの30分前まであれほど多くの医者や看護婦が行き交っていたというのに、なぜ、1人も姿を見せなくなっているのか。
 そうして、考え続けていたオレの感覚に、不意に割り込んでくる音があった。
 それはこの部屋に徐々に近づいてくる、早い歩調の足音だった。


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 足音はオレの予想を大きく上回る速度でこの部屋に近づいてきていた。だからオレは何の心の準備もできなかった。突然に部屋のドアが開いて、驚いてドアを見ると、飛び込んできたのは思わず目を見張るほどの美人の女だったのだ。
 年は20歳くらい、綺麗に化粧したその表情はいくぶん憔悴して見えはしたけれど、その目の美しさがすべて帳消しにしている感じだった。女の方もオレを見て少し驚いたようだった。だけどさほど表情を変えず、少し怒ったような口調で言ったのだ。
「信、あなただけなの?」
 オレはあっけに取られて何も言えなかった。オレはこの女性に会ったことがあったか? まさか、過去にこんな美人と会っていたらぜったいに忘れたりしない。まして、オレのことを「信」なんて親しげに呼ぶような、そんな関係であるはずがない。
 オレが返事をしなかったことはそれほど気にならないらしかった。すぐに女は視線を外して、野草が寝ているベッドへと近づいていった。
「薫……どうしてこんなこと……」
 まるでさっきの出来事の再現を見ているみたいだ。さっき、アフルが同じように野草に呼びかけた。だけど、彼女は野草に触れたり、涙を流すようなことはなかった。しばらくじっと見つめていたけれど、やがて表情を硬くして、オレに振り返った。
「信! あなたは知っているの? 薫はどうしたら助かるの?」
 ……まただ。オレはその質問がかなり間抜けであることは判っていたのだけれど、それ以外の言葉を見つけることはできなかった。
「あの……あなたはいったい……」
 その質問が彼女に与えた衝撃も、そうとうなものだったらしい。しばらくオレを見つめたまま絶句したのだ。
「……もしかして……巳神、信市……? 片桐信じゃないの?」
 オレはまた彼女に驚かされていたけれど、どうやら彼女がオレと誰かを間違えたのだということだけは判った。


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 アフルが現われてからこっち、判らないことばかりだ。突然現われた女には誰かと間違えられるし、しかも彼女はオレの名前も知っている。彼女が野草の友人なら、オレの名前や顔を知っていたとしても不思議はない。夏には文芸部の合宿もあったし、写真も撮ったから、頭のいい人間ならオレの名前や容貌を記憶にとどめていることだってあるかもしれない。
 だけど、それでなんで、オレとその片桐信とかいう奴とを間違えたりするんだ? さっきの彼女の様子からして、その片桐とかいう奴と彼女とは、よく知った仲みたいじゃないか。そんなによく知っている片桐と、1度も会ったことのないオレと、そんなに簡単に間違えたりするものなのか?
「どうなの? あなた、巳神信市なの?」
 オレが黙っていたせいで、彼女はずいぶん苛立っているみたいだった。オレがうなずくと、彼女はひとつため息をついて、視線を外した。
「……ごめんなさい。間違えたりして。……ところで、どうしてあなたがここにいるの?」
 そう、彼女に訊かれて、オレは答えようとしたのだけれど、どう説明していいものかも判らなかったし、それに、オレの質問に彼女がまだ答えていないことを思い出したから、半分少し苛立った表情を作るようにして、オレは言ったのだ。
「あの、オレは巳神信市で、あなたがその片桐とかいう奴とオレを間違えたのは判りましたけど、オレはまだあなたの名前を知らないんですけど」
 ちょっと高飛車な雰囲気を持つ美人は、オレのそんな言葉に怒り出すのかと思ったけれど、そうはならなかった。たぶん、彼女は普段はそんなに高飛車でも、失礼な女性でもないんだ。ちょっと照れたような笑いを見せたから、オレの心臓はかなりの勢いで反応した。
「そう、か。あたし、まだ名乗ってなかったんだ。……シーラ。あたし、シーラっていうの」
 野草の関係者で、シーラという名前の女性を、オレは1人だけ知っていた。


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 目の前の女性はシーラと名乗った。オレは、野草の関係者で、シーラという名前の女を知っている。だけど、オレが知っているシーラは、野草の小説に出てきた登場人物だ。美人で、強力な変装能力と演技力を持つ、スパイ組織のチームの1人。
「シーラ、って……あの、スパイ小説の……?」
 言ってしまってから焦った。オレが知っているシーラは小説の登場人物だ。彼女がシーラという名前で、野草の友人なら、野草が彼女の名前と容貌を拝借して小説を書いたと考える方が自然なのだから。もしかしたら野草は彼女に内緒であの小説を書いたのかもしれない。たとえそうじゃなくても、オレがそうと口にすることで、彼女が気を悪くする可能性はあるのだから。
 だけど、シーラはオレの言葉をそう悪く解釈するようなことはなかった。むしろ、オレがそう言ったことを喜んでいる風にさえ見えたのだ。
「そう、そのシーラ。あたしのことはシーラで構わないよ」
 瞳がすごく綺麗で、素顔の彼女はどちらかというとかわいい感じの美人。動作も言葉も少し男勝りな感じがある。野草の小説のシーラはそんな風に描写されていて、目の前のシーラはまさに野草の小説のシーラそのものだった。年齢は18歳というからオレよりひとつ年上なだけだ。最初に見たときはもっと大人っぽく見えたけれど、今の彼女は年齢に即した子供っぽさも併せ持っている。
 オレが野草だったとしても、彼女が主人公の小説を書きたいと思っただろう。オレたちの知らないところで、野草はちゃんと友人関係を築いていたんだな。さっきのアフルもだし、このシーラも、野草のことを本当に心配しているのだから。
「巳神、さっきの質問の続きだけど、どうしてあなたがここにいるの?」
 どうやらシーラは、オレをそう呼ぶことに決めたようだった。


19
 オレは、とりあえずシーラに椅子を譲って、さっきのアフルとの出来事を簡単にシーラに説明した。簡単に、とは言ったけれど、そもそもアフルとの出来事はそれほど複雑でも長時間でもなかったから、ほとんど全部と言えるだろう。廊下の長椅子のところでアフルと会話して、鍵を開けてもらって、病室に入った。アフルは野草の様子を見て、すぐに帰ってしまった。言葉にすればたったこれだけの出来事なのだ。
 シーラは途中口をはさむことはしなかったけれど、オレの話が終わったと見るや、今まで黙っていたことを吐き出すように質問してきたのだ。
「アフルが来たのは判った。でも、それじゃ巳神がどうしてここにいるのかの説明になってないよ。だって、アフルが来たのは、巳神がここに来たあとだってことでしょ?」
 ちょっと待てよ。シーラは本当にオレの話を聞いていたのか?
「オレが病室に入ったのは、アフルが鍵を開けてくれたからだ。それのどこがおかしいんだ?」
 オレが言うと、シーラはやっと納得したという風に苦笑いをもらした。だけど、彼女が次に言った言葉は、オレの想像とはまるでかけ離れたものだったのだ。
「ごめん……。なんか根本的に噛み合ってなかったみたい。あたしが聞きたかったのは、『どうして巳神がこの世界にいるのか』ってことだったんだ。……巳神は判ってなかったんだね。ここ、今あたしたちがいるの、巳神が今までいた世界と違うんだよ」
 シーラがそう言った瞬間は、オレはいったい何を言われているのか、さっぱり判らなかった。
 ……そうだ。オレはずっと感じていたじゃないか。違和感、非現実、全身火傷の野草はきれい過ぎて、病院の中はあまりに静か過ぎる。常識的には考えられない状況。医者も看護婦も、入院患者もいない。いるのは静かに眠る野草と、アフルと、シーラとオレだけ。
 異次元。パラレルワールド。 ―― 冗談じゃない。SF用語じゃないか!
「……シーラ、ここはいったいどこなんだ……?」
「薫の夢の中。……ていうのが、一番近いのかな」
 シーラは、少し哀れむようにオレを見て、そう言った。


20
 オレはもちろん、シーラの言ったことを信じなかった。オレがいるこの場所が野草の夢の中だなんて、そんな言葉はあまりに突拍子がなさ過ぎたから、それより遥かに現実的な解釈はいくらでも思いつくことができた。例えば、あの時長椅子で居眠っているオレを見て、アフルと名乗ったあいつがオレにいたずらを仕掛けたんだ。別の階の似たような廊下にオレを運んで、集中治療室と札を付け替えた空き部屋にオレを案内して見せ、適当な筋書きをでっち上げて、オレをかついで。
 腕時計の針なんか簡単に動かせる。今が真夜中なら病院の中が静かなのも納得がいく。ベッドに寝ている野草は、たぶん人形なんだ。すごく精巧に作られた、呼吸しているように見せることができる蝋人形。
 そうじゃなかったら、あの爆発すらオレを騙すためのニセモノだったのかもしれない。あの場所にいたのは野草じゃなくて、精巧な野草の人形で、今ここに寝ているのが本当の野草なんだ。
  ―― 言い訳を考えて、考え続けて、オレはどんどん深みにはまっていった。どんなに考えても、何かがちぐはぐで、歯車が合わない。……勝てないのだ。シーラが言った、「ここは野草の夢の中」という言葉に。どれだけ考えたところで、それ以上この状況にぴったりくる解釈なんて、思いつくことができないのだ。
 唯一対抗できる解釈は、ここがオレ自身の夢の中なのだ、ということだった。オレは眠っているのかもしれない。眠っていて、野草の夢の中にいる夢を見ている。
「……巳神、少しは落ち着いた?」
 シーラが言って、我に返ったオレは、どうやら自分が今までうろうろと病室を歩き回っていたのだということに気付いた。声に振り返ると、シーラはオレを見て少し微笑んで、やがて表情を引き締めた。
「あたし、これで行くけど、巳神はどうする?」
 シーラの様子は、オレの中で、さっきのアフルの行動と重なった。


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