製作研究
  
バイオリンを研究するのには時間がかかる
新しい試みに挑戦

科学的な追求が良い楽器を!

曲面を変え音は如何なるのか製作した。
音を遠くに飛ばすための試作品。
 
古い楽器は木材が結晶化し善い音になる。
人工的にセルロースナノファイバーの結晶を
下地に塗布してみた。
同時に絵の具を使い素手で薄塗りに挑戦。

製作当初はアルコールニスを使用していたが、
傷が付き易いためオイルニスに替えて製作してきた。
昨年から絵の具やセルロースなどで実験をしているが、
乾燥に時間がかかる、音に張りがないなどデイメリットがあ
りアルコールニスでの薄塗りに挑戦した。

昨年から実験用に使用している楽器はニスを五回ほど
剥離させたために表面が黒ずんでしまった。

2010年ドイツに行った折、抽選に当たってしまった。
Brigitte BrandmairとStefan-Peter Greiner著書
Scientific Analysis of his Finishing Techniqe on
Selected Instraments

セルロースの効果再確認(結晶ではない)





















形の研究から音を追求
音を遠くに飛ばすことはできるのか?
ハイアーチの挑戦

対比するためにチャンネル部からセンターに向けての切削を
急にし全体に丸みを帯びさせた切削と、なだらかに切削したもの
2台を製作した。

今までいろいろな形で製作してきた。
今回は慶應大学で共同研究をしている先生の意見を参考にしている。
表板の高さを16.5mmにし、裏板を16mmにした。
全体的に丸みを持たせた。

一作目: 丸みを帯びさせて切削

個性がある作品になった。
  


オデブチャンですね。




ピカピカの一年生が完成しました。
如何でしょうか。
写真では分りませんよね。



 


当然演奏者により評価は異なる。
共通しているのはパワーがあることだ。
しかしバイオリンとしての味に欠ける。
製作完成当時から2年で音に落着いてきたようだ。
振動測定の結果は倍音が少ないことが解った。
従って響きが無いのである。


2作目: 高さを同じにして膨らみを抑えた。

 

曲面の形に興味がありいろいろ試しているところです。
チャンネルからの立ち上がりはごく普通に滑らかに切削した。


残念ながら音に響きや張りがない。
暫く時間を待つことにしよう。


製作3年後の評価
FFTの計測結果では製作当初に比べ減衰が早いのであるが、音に落着
きが出てきた。
個人的な評価では多少音が籠るが軽く弾いても音が出る感じがする。
演奏家の評価を仰ぐことにする。


2作の評価考察
一作目は表板を硬くするために卵をイメージし丸みを帯びさせてみた。
2作目は伝統的な製作方法に基いてチャンネルからの立ち上がりを抑えて
製作した。

一作目は音が硬くバイオリンとしての響きが弱い。
2作目はFFT計測結果では倍音が強く、軽く弾いても反応が強くバイオリン
としての響きがある。

この結果から響きや遠鳴りするバイオリンはチャンネル部分の製作が重要
と考えられる。













何故古い楽器は好い音を奏で遠くに響くのだろうか。

過去の名器の分析は進み、加工技術は進んでいるにも関わらず古器
の評価が高いのは木材に要因があるのではないだろか。
古い木材はセルロースが結晶化することが原因ではないであろうか。
東京大学大学院の磯貝教授のご協力でセルロースナノファイバーの結
晶を得て白木に浸透させる試みを進めている。
結晶の含有率が低いため十分な結果がでるであろうか。
塗布作業は板の表裏に数十回実施。




今回のニス塗りは刷毛でなく擦り付けとした。

4層10回の塗りでしたが、層が余にも薄いため裏板
の下部を磨いている間に剥がれが発生しリペアーに
時間がかかった。

     


乾燥が遅い、密着力が弱い、音がなかなか出ないの
でオイルニスを加え塗り直すことにした。


結論(2011年)

今のところ失敗であったが、収獲は多かった。
音は柔らかく張りが感じられなかった。
1、絵の具を使用した場合乾燥が遅く密着力に乏しかった。

2、セルロースナノファイバーの結晶塗布は現状では効果が不
明。
木材の細胞よりも小さいため木材の隙間を埋めてしまった
可能性がある。
今後の実験の中で確認していく。

3、ネットクラックは少なくとも私の作品では始めて発生した
クラックは柔らかいニス素材に発生する傾向があり、
ストラデバリの楽器にも発生しておりニスの熱塑性が楽器の
音に与える影響はあると思われるが、不明である。












アルコールニスでの薄塗り
(2012年)

2011年に製作したオイルニスと絵の具ニスでの試作後ニスを剥がし
アルコールニスで塗ることにした。
木にはセルロースナノファイバーの結晶が含浸されている。

アルコールニスは透明ニス3回、色ニス8回、上ニス2回。
アルコールニスは数回で木目が際立ち始めたが、絵の具ニスは柔ら
かく木目はご覧のとおり。

   
アルコールニス        絵の具

アルコールニスでの薄塗りは張りのある音となった。

オイルニス、絵の具ニス、アルコールニスの比較。

■オイルニスは
1、乾燥に時間がかかり、色出しのため厚塗りとなる。
2、比較的冬目と夏目の凹凸を誤魔化し易い。
2、固まれば傷が付き難くテレピンなどの同極性の溶剤にも犯され難
い。
  勿論極性の異なるアルコール溶剤にも犯され難い。
3、音は比較的柔らかく感じる。

■絵の具ニス
このニスは透明度の高い絵の具にオイルニスを少し混ぜた
もので、刷毛を使わずに手で擦り付けた。
斑の少ない綺麗な面ができる。
1、乾燥に時間がかかり過ぎ、傷が付き易い。
2、薄塗りで色は出るが、透明感に欠ける。
3、製作直後の音は全く篭ったものになった。
  残念ながら乾燥時間が長く確認前に剥がしてしまった。

■アルコールニス
1、乾燥が早く、色付きが早い。
2、白木の処理を確りしないと冬目と夏目の凹凸が消し難い。
2、ニス斑が発生し易く処理に慣れが必要。
3、ニスを20回以上塗ってもニスの乾燥が速く明るい音がする。


■セルロースナノファイバーの結晶効果
絵の具を剥がしアルコールニスに替え向上したことは事実だ。
しかしそれがセルロースナノファイバーの効果によるものかは
分らなかった。



■2年経ってからの音の変化を2014年の展示会で確認
恥ずかしながら試奏終了後会員に音の確認をしてみた。
結果は2012年の結果とあまり変わらなかった。
音色とバランスは良いがパワーに欠けるであった。













Stradivari Vanish

この本はストラディバリのニスについて科学的に分析、解析されている。
多分現在日本にはこの一冊だけではないだろうか。

著者Stehan-peter Greinerは14歳からバイオリン製作を始めた。
ボンでバイオリン製作家として修業し、ケルン大学で音楽・芸術を学び、
1995年バイオリン製作マイスターを取得した。
弦楽器の音を研究する物理学者Heinrich Dunnwald博士と巡り会う。
またドイツ・ボルンハイムのマイクロケミカル研究所のElisabeth Jagers
博士やErhard Jagers博士との共同研究も進めた。
ウイーン、オックスホード、ロンドン、パリやフローレンスの博物館の協力と
ロンドンのベアーやウイーンのマックホールドなどの工房からも貴重な情報
を受けた。

内容


この研究には木に含浸している物質を見出すためにX線分光器を
使用し、ニス層には紫外線を当て色の変化で物質を特定している。

ストラドのニスは4層から成っている。
下地層、ステイン層、透明ニス層、色ニス層で構成されてる。

■下地にはニスを塗る前に後の層が木に浸透を防ぐためにニカワを
塗布した可能性がある。

■下地の上には水溶性のステインが塗布されている。
この中には塩分が含まれ、当時の防虫剤としての役目を果たした
可能性がある。
ステインは木の細孔に沈み込んで見える。

■透明ニスはオイルニスと思われ、リンシドーと松脂で構成されてい
る可能性がある。
松脂は生か炙ってあるのかは現在は不明である。

■色ニスは透明ニスに色素を入れたもので、下地の上のステインと
同様の色素の可能性がある。

■研究チームはcarmine顔料同様に茜(mader)顔料を用いてストラ
デバリのニスに類似するニスを完成させた。
ピグメントは金属塩を持つ溶解染料の沈殿によって製造することが
できる。
アルミ、錫を含む金属塩を用いるとストラデバリのニスのようにサー
モンピンクの色になった。
イタリアのcarmineで観察でき、時にcrimson顔料と呼ばれた。
カルミン酸はコチニールの昆虫のメスを乾燥させ作り出す。





ニスの構成を説明している。



紫外線を射てニスの分析を試みている。












セルロースを塗布し、アリザリン一色で製作
(セルロースはナノファイバーの結晶ではない)
モールドで側板を製作
このモールドは左右に分離することができ、ライニングを同時に
上下に接着作業ができ、モールドを取外すことができる。
右は側板に裏板を接着した。

  

残念ながら表板に松脂の塊が現れてしまった。
仕方ないので松脂を取除き埋めることにした。
右の写真はF孔部なので何とかセーフだ。

  

表板の表と裏
  





下地処理後アリザリンを直接塗布し、その上に透明ニスを
塗布しアリザリンのアルコールニスを塗布した。
この塗り方はストラドのニスを塗る段取りと同じである。




レッド・バイオリン
時間が経てば落着いた色になるのだが、
赤色だけでは何とも落着かない。

音はセルロースを下地に塗布した効果でしょうか、
なかなか良い音です。










Paolo Vetorriの木材の処理

彼がまだバイオリン製作を始めた頃のこと、父から木材を水に沈める処理を
聞き実施した。
結果木材は黒ずんでしまい使い物にならなくなってしまった経験があった。
しかし50年経って父の言う事の正しさを知った。
作業に大きな誤りがあった事が分かったのであった。

彼は正しい作業方法を以下のように言っている。
バイオリンの木材one peaceに対し10Litersをプラスティクコンテナーに入
れ、ガラスまたはプラスティクの重石として木材を水の中に沈める。
石や金属は酸化反応を起こす原因となり使用しないこと。
木材の細胞に水が完全に浸透し重石を取除いても木材が浮上がらなくなる
まで待つ。

失敗の原因は劇的に起こる。
@余にも早く乾燥させない、bacteriaは木材の中に糖分が不足すると活動
が鈍る。
A湿度の高い処に保管しておくと木材の表面にyeastが発生し、木の中の
たんぱく質を食べてしまい木材として使えなくなってしまう。
換気の良い棚に置く事でyeastの発生が抑えられる。
B棚に置かれた木材は3cm間を置いて保管しないと再びyeastの被害にあ
うことになる。 また壁などとの間隔も置くべきである。
C強い日が当たる場所に保管すると木材にクラックが発生し、微細なエアー
ポケットが発生する。

尚水に浸した木材は約18ヶ月程度で引上げるべきである。









倍音の発生
好みの音にするのにはどの様に製作すればいいのか?

Surene Arakelianの著書The Violinの中に経験的な記述があり振動波
形を計測したところ、製作条件を変えると共振による倍音の発生変
化を検証した。
演奏者は敏感に倍音を感じ取り、測定結果と同様の評価をした。
この技術で響きがあり張りのある明るい音、柔らかく甘い音の楽器
の製作が可能になった。
尚倍音は遠鳴りに影響していると言われているが、今後大きな会場
の検証が必要である。

板の共振による倍音の発生実験は4台の楽器で行った。
グラッドニー法により切削をコントロールし、表板と裏板の振動数を決めた。

実験条件
クラッドニー法のモード2を
@表板より裏板を10〜15Hz高くした。
A表板と裏板を同じHzにした。
B表板を裏板より5〜10Hz高くした。

この結果
@は響きがあり、明るく張りのある音になった。
Aはほぼ@と同じであったが、少し柔らかい音になった。
Bは甘い柔らかい音になり、響きは弱かった。

評価は振動測定と3人のプロの演奏家による。
完成後の倍音の振動測定結果はそれを裏付けるものであった。

振動測定










ビオラの作成

6年振りの製作だ。
表板と裏板のモード2の振動差は17Hzとした。
表板にセルロースを塗布した。

これからネックの製作に入る。
 


ボディー長410mmで4/4の普通のバイオリンと比較















厚板は鳴るのであろうか?
Cannonの真似をしてみたが音が硬過ぎる。

10年前に製作した楽器はほぼ計測図面どうりの板厚で製作した。
当然板の質が違うので板厚では同じ音は出ない。
解体して再度タップトーンを調べたところ裏板は397Hzであった。
切削し380Hzまで落とし、センター厚は6.2mmから5.0mmとなった。
果してどんな音になるのだろうか。


 

裏板の振動パターンはまだ堅いようだが、
此の辺で切削を止めよう。

 


アルコールニスに塗替えた。
試奏してみたところ音に張りはあるのだが、
波形を録ると倍音の発生が弱いのだ。
この手のバイオリンは堅過ぎて響きが弱く、味
の無い楽器の部類といえる。

Cannonは裏板の厚さは6.2mmもあって名器
だそうだが何故だろうか?

今のところgive upだ。

しかし製作一ヶ月で腰のある音になってきた。
もう暫く様子を見よう。

  


10年前デルジェスに凝って更に一台製作した。

この楽器も音が硬過ぎて解体しお蔵入りしておいたため肩の処が壊
れてしまい、修理し再生した。
何となくオールドを思わせる作品となった。
今回ニスはあえて音の比較のためオイルニスにした。

裏板のタッブトーンを369Hzにして表板を356Hzにした。

とりあえず張りのある音になったが、これから音の変化があるだろう。

      

修理の痕跡













バイオリンは弾き込むと良い音になるのは何故か?

多くの演奏家が当り前のようにバイオリンは引き込むと良い音にな
って行くと、経験的に実感している。
しかし誰に聞いても的確な回答が得られない。
調べてみることにした。

実験

1,楽器完成直後と振動数150Hzを20H与えFFT測定した結果を比較た。

バイオリンの駒にゴムボールで打撃を与え、マイクで収音した。

FFT結果

    製作完了時の結果              20H後の結果
・20H後の結果は明らかに全体的に減衰が早くなった。

2,楽器の弾き込み経験のあるバイオリニストに実体験を聞いた。
 2人のバイオリニストはバイオリンを引き込むと音がまろやかになると証言
した。

3,木材に振動を与えた場合の影響を調べた論文を探した。
 祖父江信夫(静岡大学)は木材の動的粘性の振動履歴効果の論文の中
で、110Hz〜170Hzの振動を5H木材に与えたところ損失正接の低減が見
られた報告した。
損失正接とは音が減衰しにくくなる現象である。
この現象の原因は局所的に詰まっている木材分子が振動によって安定化
するものと考察している。
しかし、深田栄一(理研)は高い振動を与え続けると損失正接の増加が見
られると報告している。
いわゆる木材の疲労現象である。

考察

 バイオリニストは製作当初の硬い音から弾き込みを続けるとまろやかな
音になると証言しており、FFTの測定結果と合致するものである。
 この実験では明らかに微弱な振動を与えているため、祖父江理論が成
立するはずであるが、実験結果は減衰している。
微弱な振動でも20Hの時間振動を与えると深田理論のように木材に疲労
現象が発生し損失正接が増加する可能性があるものと考えられる。
 また本来バイオリンを演奏する場合は微弱な振動とは考えられず、木材
の疲労現象と考察される。
 従って柔らかく薄板で製作された楽器は一時的には良い音のように思わ
れるが時間が経つとヘタリが起きると考えられ、長期的には製作に当たり
多少硬目に製作する必要があると考えられる。
 
 今後の実験に委ねることにする。









修理

貴方ならばどの様に修理しますか?
所有者が幼い頃に使用していた思い出多き大事な
楽器で60年前のなかなか貫禄のある楽器です。
指板は厚く白木でできていた。
パプリングは残念ながら裏表とも描かれていた。

Befoer
 

After

ペグと指板は黒檀に交換し、テェイルピースは手作りした。
ニスは全て剥離し塗り直した。














フエルナンブーコの抽出物をバイオリンに !

フェルナンブーコと言えば弓の材料で知られてる。
この材料を科学的に評価した松永正弘氏の論文からヒントを得て
実際にバイオリンを製作し検証することにした。
松永先生は現在森林総研にお勤めで京都大学大学院の時にフエル
ナンブーコの特性を研究された方です。
ちなみにこの特許はヤマハにあります。

多分何でフェルナンブーコと思われる方がいることでしょう。
余り聞き慣れない言葉ですが、フェルナンブーコは損失正接(物理
的にはtanδ)が低く、その抽出物を木材に塗布又は含浸させても
tanδが低下する事が分っています。


松永正弘先生提供

主な抽出成分の構造
   

抽出成分とセルロースが水素結合を形成しセルロース分子鎖の滑りを拘束し、
Tanδを低下させると考えられる。


表板の裏側と駒にフェルナンブーコの抽出液を塗布した。
   
駒は白木とフェルナンブーコで処理した物で比較のため。


完成しました。
 



FFT測定結果

2012年に製作した楽器と比較してみた。
本来はフェルナンブーコを塗布しない楽器と比較するべきである
が、まだ完成していないため途中評価として過去製作した楽器の
中で最も良い結果のでた楽器を基準とした。


2012年12月13日測定



2013年10月10日完成時の測定結果



三週間後20H振動を与えエイジングした結果



結果

完成から3週間ニスの乾燥と20Hのエイジング後は多少FFT
測定結果は向上させている。
しかし基準とした楽器と比べ劣っている。
フエルナンブーコの塗布は表板の裏面だけに5回程度ほどこ
しただけなので他に工夫が必要かもしれない。
これではニスとエイジングによる結果としか言えない。

2カ月後の展示会で試奏してもらった結果は高音部の音に煌
びやかさを感じた。

今後フェルナンブーコを塗布しない楽器を製作し比較する
が、全く同様の楽器はできないのでM2とM5の振動数に近い
楽器を製作し比較することにする。














ストラドのニス成分で塗装してみた。

音については好みなので何とも。
取りあえずニスは乾燥していて弾ける状態だが、
まだニスが確り固まるまで半年はかかる。

ストラドのニス成分についてはこちらから