多くの演奏家が当り前のようにバイオリンは引き込むと良い音にな
って行くと、経験的に実感している。
しかし誰に聞いても的確な回答が得られない。
調べてみることにした。
実験
1,楽器完成直後と振動数150Hzを20H与えFFT測定した結果を比較た。
バイオリンの駒にゴムボールで打撃を与え、マイクで収音した。
FFT結果
製作完了時の結果 20H後の結果
・20H後の結果は明らかに全体的に減衰が早くなった。
2,楽器の弾き込み経験のあるバイオリニストに実体験を聞いた。
2人のバイオリニストはバイオリンを引き込むと音がまろやかになると証言
した。
3,木材に振動を与えた場合の影響を調べた論文を探した。
祖父江信夫(静岡大学)は木材の動的粘性の振動履歴効果の論文の中
で、110Hz〜170Hzの振動を5H木材に与えたところ損失正接の低減が見
られた報告した。
損失正接とは音が減衰しにくくなる現象である。
この現象の原因は局所的に詰まっている木材分子が振動によって安定化
するものと考察している。
しかし、深田栄一(理研)は高い振動を与え続けると損失正接の増加が見
られると報告している。
いわゆる木材の疲労現象である。
考察
バイオリニストは製作当初の硬い音から弾き込みを続けるとまろやかな
音になると証言しており、FFTの測定結果と合致するものである。
この実験では明らかに微弱な振動を与えているため、祖父江理論が成
立するはずであるが、実験結果は減衰している。
微弱な振動でも20Hの時間振動を与えると深田理論のように木材に疲労
現象が発生し損失正接が増加する可能性があるものと考えられる。
また本来バイオリンを演奏する場合は微弱な振動とは考えられず、木材
の疲労現象と考察される。
従って柔らかく薄板で製作された楽器は一時的には良い音のように思わ
れるが時間が経つとヘタリが起きると考えられ、長期的には製作に当たり
多少硬目に製作する必要があると考えられる。
今後の実験に委ねることにする。
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