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真空管ポータブルヘッドホンアンプ Black Bull web マニュアル(仮)

真空管を使用したポータブルヘッドホンアンプ"Black Bull"のwebマニュアルのページです。
組み立ての前に必ずこのページの最後まで読んでください。


Fig.0 Black Bull Ver.2.3.2 基板


Black BullはAmazonにて税込15,000円で販売する予定です。

最新の情報はtwitterでつぶやいています。


お知らせはblog @try_lab technologyをご確認ください。


1、開発物語

始まりはPhonoka+
 偶然アルトイズ缶サイズの窓付き缶を見つけてPhonoka+のケースを作ることになったのですが、缶を仕入れたり、加工したりするときに、割安になる注文数量があり、また輸送や加工の際に不良品が発生する関係で、どうしても手元に在庫が残ることになりました。この在庫リスクを気にしなくて済むよう、シロクマさんにお願いして同じケースが使えるアンプの販売を許可していただきました。

 このため、フロントパネルなどはPhonoka+とそっくりなレイアウトになっています。

初心者でも理解できるように
 Phonoka+は真空管を10.4Vという超低電圧で駆動しつつも驚きの高音質を実現しています。これに気付いてから、真空管が駆動できる電圧の下限はどこなのだろうか?という疑問がわき、006P電池1個、たったの9Vで真空管アンプを作ってみようと考えるようになりました。

 ブレッドボードで実験すると簡単に音が出たのですが、プリント基板にしてみてもノイズが気になります、、、 できるだけ基本的な部品を使ってノイズ対策を進めた結果、プリント基板は20回以上も作り直すことになりました。

 Black Bullの回路はこれからアンプ自作をする皆さんにとって、理解する意味のある回路になったと思います。



Fig.1.1 Black Bull 外観



2、注意事項

ハンダごてのこて先は350℃以上になり、触れると火傷をするので十分に注意して作業を進めてください。 万が一、火傷をした場合は、すぐに流水や氷で15分程度は冷やしてください。

ハンダから出る煙は有害物質が含まれているので必ず換気をしてください。 また、卓上に小さい扇風機を置いて、煙を直接吸い込まないようにしてください。

真空管はガラス製品なので衝撃を加えると割れます。


3、必要な工具類

チップ部品はハンダ付け済みなので、必要な工具類はChar rockやPhonoka+とほぼ同じです。

Char-rockの製作に使用する工具など ←こちらをクリックしてください。

4、部品リスト

部品リストはキットの中にも入っています。

キットを開封したら、最初に必要な部品が入っていることを確認してください。 抵抗やコンデンサは近似値のものが入っていることもあります。 ボリュームにはワッシャーとナットが付属しないこともあります。

                                                                   
Table 1 キット内容物
名称 番号 規格 仕様 数量 備考
袋 No.1
抵抗 R1, R6 1/4W抵抗 15kΩ 茶・緑・黒・赤・茶
R2, R7 10kΩ 茶・黒・黒・赤・金
R3, 8,12,13 2012サイズ 470kΩ 実装済み
R4, R9 1kΩ 実装済み
R5, R10 1MΩ 実装済み
R11 1/6W抵抗 2.2kΩ 赤・赤・赤・金
R14, R15 1/4W抵抗 330kΩ 橙・橙・黒・橙・茶
R16,17,18,19 10Ω 茶・黒・黒・銀・茶
ボリューム VR1   50kΩA×2  
コンデンサ C1 電解 muse FW 16V 470uF 金・黒帯
C2,4,11,12 積層フイルム 50V 0.1uF 水色 104
C3,5,6 積セラ 2012サイズ 25V以上 0.1uF 実装済み
C7, 8, 9 電解 25V 470uF 黒・白帯(大きい方)
C10 電解 10V 470uF 黒・白帯(小さい方)
オペアンプ U1 デュアルオペアンプ DIP 8PIN  
ICソケット 平ピンICソケット  
LED LED1 Φ3 赤色  
LED2, 3 1608サイズ 橙色 実装済み
つまみ        
ステレオミニジャック J1     音声入力
J2     音声出力
トグルスイッチ SW1     電源スイッチ
ピンソケット SK1 1列10ピン    
ICソケット TUBE1, 2 1列10ピン   真空管用
C1 1列8ピン   C1用
袋 No.2
基板   Black Bull Ver.2.3.2    
結束バンド        
電池スナップ BAT1 006P用    
スポンジ       真空管防振用
ネオプレンシート       電池固定用
テプラ       フロントパネル用
袋 No.3
ケース        
電池   006P    
真空管 TUBE1, 2 五極管    
別途ご用意いただく部品
カッティングシート   57.5mmX93mm R13   ケース底面絶縁用
  18mmX230mm   ケース側面絶縁用
衝撃吸収パッド   20mmX20mmX5mm   真空管固定用(100均)
養生テープ   基板を覆える長さ 幅38mm程度 基板底面絶縁用
熱収縮チューブ   Φ1.0X15mm   LED絶縁用

部品は仕入れの事情により予告なく変更になることがあります。

上記の表とキット付属のマニュアルにある表「キット内容物」が異なる場合はキット付属のマニュアルを優先してください。

5、組み立て手順

☆ ハンダ付け
☆ 部品の取り付け
☆ 基板むき出しのまま動作確認
☆ ケースへの組み込み


5.1、背の低い部品のハンダ付け

基板上のハンダ付けは背の低い部品から順番にするとスムースに作業ができます。 ここでは、抵抗→ICソケット→フイルム コンデンサの順番でハンダ付けします。

一番最初に抵抗を差し込み、基板を裏返してハンダ面(裏)からハンダ付けします。 ハンダ面のハンダ付けができたら部品面(表)の状態を確認して、ハンダが不足している所は部品面から再度ハンダ付けをしてください。


Fig.5.1.1 抵抗をハンダ付けしたところ


オペアンプのICソケットはシルク印刷の丸印とICソケットの凹みの方向を合わせてハンダ付けしてください。


Fig.5.1.2 ICソケット、フィルムコンをハンダ付けしたところ


5.2、フロントパネルの部品のハンダ付け

ステレオミニジャック→トグルスイッチ→ボリューム→LEDの順番でハンダ付けをします。

ステレオミニジャックはナットを外してください。


Fig.5.2.1 ステレオミニジャック


トグルスイッチは一番外側の脚と、前から見たときに左右にはみ出した「ツバ」の部分をニッパーで切断してください。


Fig.5.2.2 トグルスイッチ


ボリュームは回り止めをニッパーで切断し、左(反時計回り)に回しきってください。


Fig.5.2.3 ボリューム


フロントパネルの部品はハンダ付けする位置、角度がズレるとケースに入らないこともありますので慎重に位置決めします。

フロントパネルの部品は脚を1本だけハンダ付けした状態で位置、角度を微調整した後に他の脚も完全にハンダ付けしてください。
特にボリュームは熱に弱く加熱時間が長いと壊れることがあります。短時間でハンダ付けしてください。


Fig.5.2.4 ジャック、スイッチ、ボリュームをハンダ付けしたところ

LEDは脚が長いほうが+(アノード)です。 LEDの脚は長く露出するので部品交換などの際にショートする恐れがあります。 念のために熱収縮チューブで絶縁することをお勧めします。

LEDの先端から16mmの所で脚を90度に折り曲げて、LEDの先端が基板端面と面位置にしてください。


Fig.5.2.5 LEDをハンダ付けしたところ


5.3、背の高い部品のハンダ付け


電解コンデンサには極性があります。電解コンデンサの白い帯とシルク印刷の白縞の方向を合わせてください。

バッテリースナップの電線を根本から95mmの所で切断し、先端の5mmは皮膜を剥がして予備ハンダします。電線の極性は赤が+、黒が−です。
バッテリースナップをハンダ付けしたら、電線とトグルスイッチの脚を結束バンドで固定してください。

ピンソケットは電池の仕切り板として機能します。電気的にはフレームグランド(ここでは電池のマイナス)を接続されています。


Fig.5.3.1 電解コンデンサ、バッテリースナップ、ピンソケットをハンダ付けしたところ


5.4、部品の取り付け


オペアンプの脚はハの字型に整形されています。そのままではICソケットに刺さりにくいので、平行になるよう指先で曲げてください。ICソケットの切欠きとオペアンプの丸印を合わせてください。

電解コンデンサには極性があります。黒い帯がマイナスを示しています。

衝撃吸収パッドは5mm厚のモノを用意し、20mm×20mm程度に切断して基板に貼り付けてください。


Fig.5.4.1 オペアンプ、電解コンデンサC1、衝撃吸収パッドを取り付けたところ


真空管の赤い印が1番ピンになります。通常はシルク印刷が上向きになりますが、下向きの場合もあります。


Fig.5.4.2 真空管を取り付けたところ



5.5、動作確認

電源投入

基板と金属が接触するとショートする恐れがあります。 電源投入する前に基板上のゴミを取り除いてください。 また、基板の下にはボロ布など絶縁体を敷いてください。

電池を接続し、電源スイッチを上にあげてONにすると3つのLEDが点灯します。 このとき、異臭が発生していないことを確認してください。 もし、異臭が発生したり、触れられないほど発熱していたら、すぐに電池を外してください。


真空管の個体差により、プレート電圧、グリッド電圧はばらつきます。


5.6、ケースへの組み込み

☆基板の半田面の絶縁
基板裏面に突き出た部品の脚を高さ0.5mm程度に切り詰めて、絶縁のために養生テープを貼ってください。


Fig.5.6.1 養生テープを貼ったところ


☆ケースの絶縁
ケース内側の底面と側面を絶縁するためにカッティングシートを貼ります。

カッティングシート型紙pdf ←こちらをクリックしてください。

☆基板の固定
基板はフロントパネルにスイッチ、ボリュームなどを通してからステレオミニジャックをナットで軽く固定してください。ボリュームシャフトのワッシャーとナットは不要です。

☆電池と真空管の防振
ネオプレンシートは、ハサミで半分(17mm×25mm)に切りケース内側側面の006P電池が接触する部分に貼り付けてください。

スポンジは、ケース内側側面の真空管先端付近に、真空管と軽く接触するように貼り付けてください。


Fig.5.6.2 ネオプレンシートとスポンジを貼ったところ

(実際には、ケースに基板を入れた後、電池と真空管の位置に合わせてネオプレンシートとスポンジを貼ってください。)

☆フロントパネル用のテプラの貼り付け

☆ボリュームつまみの取り付け


Fig.5.6.3 Black Bull フロントパネル



Fig.5.6.4 Black Bull 完成!



6、試聴

電池を接続し、電源投入して異臭がしないことを確認してください。

LEDの下にある音声入力ジャックにMP3プレイヤーなどの音源を接続してください。 スマートフォンやPCなど壊れたときに重要なデータが失われる可能性のある機器を最初に接続しないでください。

ボリュームを最小にしてからヘッドホン出力ジャックに壊れても構わないイヤホン、ヘッドホン(100均などで調達してください。)を接続し、徐々に音量を上げて正常に音声出力されることを確認してください。 高級なヘッドホンを最初に接続しないでください。

電気部品の中には新品では本来の性能を発揮しないものがあります。 50時間ほど通電した後に音質の評価をしてください。


ソケット化

 出力コンデンサと真空管だけでなく、1/4W抵抗をフィルムコンも2.54mmピッチのパターンになっており、ICソケットを利用してソケット化することで交換が容易になります。

☆出力抵抗(R16, 17, 18, 19)用のICソケットは8ピン×2本を切り出して、不要な脚を4本切断します。

☆入力コンデンサ(C2, C4)用のICソケットは7ピン×1本を切り出して、不要な脚を2本切断、誤挿入予防のため真ん中のピンを引き抜きます。

☆入力抵抗(R2, 7)、プレート抵抗(R14, 15)、フィードバック抵抗(R1, 6)用のICソケットは4ピン×6本を切り出して、不要な脚を2本切断します。

☆プレートコンデンサ(C11, 12)用のICソケットは3ピン×2本を切り出して、不要な脚を1本切断します。


Fig. 基板にハンダ付けするICソケットの加工


 基板上のスペースが狭いためボリュームに隣接するR2, 6, 7用のソケットはそのままでは装着できません。まず、入力抵抗(R2, 7)はステレオミニジャックと接触する部分(図中、赤線)を平ヤスリで削ってください。このとき、ボリュームと接触する側は削らないようにしてください。その次に、フィードバック抵抗R6と接触する部分(図中、緑)を削ってください。

 一気に削るとICソケットの金属部分がむき出しになり、ショートする恐れがあります。少し削ったら基板に挿してみて、入るかどうかを確認しながら作業を進めてください。


Fig. ボリューム周辺のICソケット

(上の写真中の基板のバージョンとスイッチは、キット同梱のものとは異なります。)


チューニング

 Black Bullの電源電圧は9Vしかなく、真空管アンプとして非常に低電圧のため、回路に流れる電流にゆとりがありません。Black Bullに接続する再生機器、イヤホンやヘッドホン、電池の性能、使用する音量などに合わせて電流の大きさを微調整することで音質が向上することもあります。

 音声信号の上流側から下流側に向かって説明しますが、音質に与える影響が大きいのは出力カップリングコンデンサや出力抵抗など下流側の電子部品ですので、特に値を変更せず好みの音質が得られる部品に交換するときには下流側から作業を進めてください。

理論的な計算や経験がなくチューニングをする場合、抵抗値やフィルムコンの容量はキット同梱部品の1/2〜2倍の範囲内でお試しください。値が1/10、10倍の部品を使うと正常に動作しないことが多いのでご注意ください。

☆ボリューム VR1
 適正範囲は10k〜50kΩです。イヤホン出力と接続する場合10kΩ、ライン出力を接続する場合は50kΩが目安です。値が少ないとスマホなどのイヤホン出力でも十分な電流がアンプに流れますが、スマホの負担(電力消費)は大きくなります。つまり、ボリュームには音量(しいて言えば電圧)を調整する役割と再生機器からアンプに流れる電流の大きさを調整する役割があります。

☆入力抵抗 R2, R7
 適正範囲は4.7k〜22kΩです。イヤホン出力と接続する場合は4.7kΩ、ライン出力を接続する場合は10kΩ、また小音量時のノイズが気になる場合は22kΩが目安です。小音量時のノイズは入力抵抗とフィードバック抵抗の値の比率が影響します。フィードバック抵抗の値をを大きくした時には入力抵抗の値も大きくしてください。ただし、入力抵抗の値を大きくし過ぎると真空管に十分な電流が流れず不安定になります。入力抵抗には音声信号を減衰して真空管での音の歪を予防する役割と、小音量時にもフィードバック抵抗を活かして真空管由来のノイズを抑制する役割があります。

☆入力カップリングコンデンサ C2, C4
 フイルムコンデンサだけでなく、10V 0.1〜1uFのバイポーラタイプの電解コンデンサも使用可能です。容量が大きいほど低音が強くなります。

☆真空管 TUBE1, TUBE2
 ヒータ電圧 1.25V、ヒータ電流 50mA以下、ピン配置 512AXの5極管が使用可能です。ヒーター電流が大きい物ほど電池の寿命が短くなります。1AD4などヒーター電流が50mAを超える真空管を接続するとトランジスタが燃えるので絶対に接続しないでください。

☆プレート抵抗 R14, R15
 電池電圧から2〜4.5V電圧降下する値を選定してください。9.6Vの充電池を使用する場合は大きめの値に、8.4Vの充電池を使用する場合は小さめの値に変更してください。真空管を変更する場合も値を選定し直す必要があります。

☆プレートコンデンサ C11, C12
 適正範囲は0.047〜0.1uFです。値が低いと真空管由来のノイズが軽減されますが低域は弱くなる傾向があります。

☆オペアンプ U1, U2
 10V以上の耐圧がありユニティ ゲイン ステイブルであれば使用可能です。主にイヤホンを使用するのであれば出力電流が25mA程度でもかまいませんが、ヘッドホンや能率の悪いイヤモニを接続するなら50mA以上が望ましいです。

☆フィードバック抵抗 R1, R6
 適正範囲は10k〜470kΩです。値を大きくすると音量が大きくなり、小さくすると歪が減ります。

☆出力抵抗 R16, R17, R18, R19
 適正範囲は10〜47Ωです。値が低いと音量が大きくなりますが、一方で発振しやすくなります。

☆出力カップリングコンデンサ C1R, C1L
 電解コンデンサの容量を大きくすると低音が強くなる傾向です。サイズは最大Φ10×20mmです。電解コンデンサに加えてフィルムコン(10V以上、0.047〜1uF程度)を併用可能な構造にしました。フィルムコンを併用すると高域が強くなります。

☆共通事項 抵抗編
 1/4W抵抗を使用している部分は1/6W抵抗に変更してもかまいません。また、1/2W以上の抵抗に変更するのも回路上は問題ありません。

☆共通事項 コンデンサ編
 昇圧回路が無いので電池の電圧9V以上の電圧がコンデンサに印加されることはありません。一般的なフイルムコンデンサの耐圧は50V以上ですから、耐圧はあまり気にせず値だけ見て選定してもだいたい大丈夫です。電解コンデンサの耐圧はC10は6.3V以上、それ以外は10V以上です。