<神戸新聞 正平調 4.28>
寝転がっている子がいれば、ピアノの下に潜り込んでいる子もいる。絶え間なく笑い声が響く。それぞれ勝手気まま。行儀がいいとはとてもいえない。それでいて、目を輝かせ本に向かう小学生たちの表情からは、まぶしいほど読書の楽しさが伝わってくる。
「子どもたちが読みたい本を選べば、図書室は学校の人気スポットになります」。加古川市で絵本と児童書の専門店「ジオジオ」を経営する江草元治さんは、十二年前から地元の小学校を中心に、子どもたちによる「選書会」を開いている。 教育的見地などという物差しは頭から追い払い、面白いと思った本を六十冊ほど体育館に並べる。やってきた子どもたちは興味津々。日ごろは読書よりテレビやゲームのはずが、新しいおもちゃを見つけたように本の世界に没入する。 このところのベストセラーは言葉遊びの絵本「こんにちワニ」(文・中川ひろたか、絵・村上康成、PHP研究所)。低学年向けと思っていたところが、予想外に五、六年生まで夢中になった。江草さん自身、「何が受けるか。子どもの嗅覚(きゆうかく)が頼りなんです」と、ヒット作を見抜く力に脱帽する。 翻って、出版界の事態は深刻だ。書籍は五年連続、雑誌も四年連続で売り上げが前年を割っている。データを見るまでもなく、街中で車内で、本を読む姿がめっきり減った。 読書以外にも楽しみはあるだろう。しかし、本でしか味わえない醍醐味(だいごみ)がある。あの子たちのような幸せな出会いが大人にもあれば。そんな機会をつくる知恵はないものか。 |
2002年5月 もとはる