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メス! 産業投資特別会計(財務省所管) ⇒ 財政投融資におんぶに抱っこ!
1 産業の開発及び貿易の振興の為に、国が資金をもって投資をおこなえるようにする為の会計.とはいうものの実体は、貸出先を見ても判るように身内貸しである.大企業は、一般金融市場から資金調達している訳で、中小企業へ向けも40億程度.この会計は、貸付先の数ほど複雑である.産業投資勘定と社会資本整備勘定の2つがある.
平成16年の予算(注:億以下の単位は切り捨てているので合計が合わない事がある.赤字は借金関係.は問題点.は他会計への資金提供)
1)産業投資勘定
歳入(単位億円) 歳出(単位億円)
償還金収入
利子収入
納付金
配当金収入

前年度余剰金
37
5
68
276
423
産業投資貸付金
産業投資出資金
事務費
国債整理基金特別会計へ繰入
予備費
2
803
1
0
5
809 811
(独)は独立行政法人の略.この歳入は、全く要を得ない書き方である.先に、産業投資出資金の内訳をみてみよう.
貸付金出資先 金額(億)
中小企業金融公庫
沖縄振興金融公庫
日本政策投資銀行
(独)鉄道建設・運輸施設設備支援機構
(独)医薬品医療機器総合機構
(独)農業・生物系特定産業技術研究機構
(独)中小企業基盤整備機構
(独)奄美群島振興開発基金
(独)科学技術振興機構
(独)情報処理推進機構
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構
(独)情報通信研究機構
40
3
480
2
6
13
23
3
15
10
104
104
803
16年度は日本政策投資銀行中小企業金融公庫の2つの貸付先が増えたが、この2つだけで前年度の予算額を上回っている.実体は、貸出先を見ても判るように身内貸しである.日本政策投資銀行ヘの資しつけなんで余剰金で賄えそうであるの多いに予算計上.中小企業金融公庫、大企業は一般金融市場から自力資金調達しているので、中小企業援助といって笛を吹くが40億程度で余剰金の10%に過ぎない.中小企業が一般金融から貸し渋りを受けているならもっと政府が貸し付ければ良い.親身になっていないというか、この会計が必要の無いことの証明ではないか?

この会計は、貸付先の数ほど複雑である.大盤振る舞いはなのは、財務省の所管の特殊法人、つまり天下り先であるからだろう.歳出の産業投資出資金は財投資金ということで、上手く特別会計に織り込まれている.複雑怪奇というかと特別会計は伏魔殿!その未回収金残高がH14年度は、2.7兆もある.その60%は道路特別会計である.

次に、見てお判りの様に独立行政法人が枕を並べる.独立法人といっても、各省庁に群がる傘下法人にかわりがない.独立採算制といっても、これだけ補助金をもらっていれば傘下といわざるを得ない.2001年の行革で「官から民」をスローガンに設立が推進されたのだが、完全に民営化されない限りは官の構造である.民営化とは、一般企業化することなので、商法をきちんと当て嵌めることである.歳入出の明確化、情報公開、罰則等が必要になる.利益の為に一般入札は当然.現行では、身分は公務員、人員効率化とは無縁で増員可能、国からの交付金は使い放題で使途は報告書のみ、余剰があれば返却の必要なしの役人天国である.給料は前より増えている.余剰を人件費に回してるといって過言でない.定員枠の規制が無いシステは、新たな天下り先を増やす役人の手口である.早期の完全民営化を求めよう!
2 ここで財政融資の概要を把握しておきましょう。まったく紛らわしいのだが、大元は「財政投融資」計画。通常、政府予算の財源は税金である。税収は約50兆ほどである。しかし、それでは財政資金が足りないので、30兆の赤字国債を発行している.しかし、それでも足りないので国民の貯蓄する郵便貯金・国民年金・その他を借用して財源とし、これを運用することで資金(税収以外の)を確保している.この仕組みを財政投融資という.この計画では郵便貯金や厚生年金の積立金、簡易保険などの調達部門を通じて、598兆円の資金を調達している(2000年3月末現在)。⇒参照(運営残高).これらの資金は2000年迄は、大蔵省資金運用部の仲介等を経て、運用部門へ提供されていたが(同535兆円)、2001年の財投改革により独自の管理(郵政公社)又は年金資金運用基金が担当することになった(そこで、各特別会計が、年金資金運用基金に資金を繰入して増資を図る訳であるが、6兆の損失判明).但し、この改革には、H19年度迄の経過措置がある.

財政投融資資金は、財政融資、産業投資、政府保証と3つに区分される。財政融資区分のなかに財政融資資金が含まれ特別会計として計上される⇒参照.その用途は大きく分けて、(1)国債の引受けや地方公共団体への貸付および財投対象機関の累積損失に対するファイナンス相当分(全体の約36%)、(2)政府系金融機関が行う民間部門向け貸付のファイナンス(同28%)、(3)公的企業が行う公共投資向けファイナンス(同15%)、(4)調達部門による自主運用(同19%)、の4つの分野に配分されている。

今回の改革で財投対象機関は、独自に財投機関債を発行する事が可能となったが、その調達資金だけでは足りない場合に財政融資資金特別特別が貸出をおこなうのである.しかし、この会計も結局は、公債を発行して資金を得るので、16年度は124.2兆に達する.

下記はH15年度データである。当初計画23兆4115億円に平成14年度からの繰越額6兆5294億円を加えた改定後現額29兆9409億円に対し、年度内運用額は20兆438億円となり、繰越額は5兆4513億円、運用残額4兆4,458億円。(参考)運用状況の内訳

区  分

改定後
現 額

年度内
運用額

翌年度
繰越額

運用残額

財政投融資計画

29兆9,409億円

20兆0,438億円

5兆4,513億円

4兆4,458億円

 

財政融資

25兆9,896億円

16兆6,819億円

5兆4,504億円

3兆8,573億円

 

うち財政融資資金
(郵便貯金・簡易保険除く)

21兆1,563億円

14兆0,112億円

3兆5,336億円

3兆6,116億円

産業投資

457億円

414億円

9億円

34億円

政府保証(国内債・外債)

3兆9,056億円

3兆3,205億円

5,851億円

なお、この結果、平成15年度末の財政投融資計画の残高は、353兆9928億円となとなった。(参考)財政投融資計画残高の内訳 

年 度

財政投融資計画

財 政 融 資

産業投資

政府保証

 

うち 財政融資資金

15末

353兆9,928億円

320兆5,871億円

282兆2,263億円

3兆2,932億円

30兆1,125億円

14末

390兆5,887億円

357兆3,241億円

302兆0,571億円

3兆5,858億円

29兆6,787億円

と書いたが、まあ訳のわからないことばかりである.簡単に言えば、国民の貯蓄を担保にして、国が金貸しをやることを財政投融資というのである.国会の監査の入らない「第二の財源」といわれる.目的は国民の生活レベルを良くし、社会保障を確保することにあるが、貸付先は政府関係機関・公団・事業団・地方公共団体で、みな赤字体質、累積余剰といことであるから、特別会計に組込まれて大いに行政傘下を潤しているに過ぎず、国民には還元されることはない.そういう仕組みが必要だろうか!この会計にしても80兆円の保有残高がある.国債発行を抑える手段は持っているにあきれるばかりである.
3 2)社会資本整備勘定
歳入(単位億円) 歳出(単位億円)
一般会計より
道路整備特別会計より
治水特別会計より
港湾整備特別会計より
都市開発資金融通特別会計より
一般会計(改革推進公共投資事業)より
国有林野事業特別会計(改革推進公共投資事業)より
国営土地改良事業特別会計(改革推進公共投資事業)より
道路整備特別会計(改革推進公共投資事業)より
治水特別会計(改革推進公共投資事業)より
港湾整備特別会計(改革推進公共投資事業)より
空港整備特別会計(改革推進公共投資事業)より
償還金収入
改革推進公共投資事業資金貸付金償還収入
雑収入
前年度余剰金
987
615
11
41
36
71
80
9
1341
512
58
4
556
2090
0
209
道路整備事業費貸付金
港湾整備事業費貸付金
住宅建設等事業資金貸付金
都市計画事業資金貸付金
水産基盤整備事業資金貸付金
民活施設整備事業資金貸付金
一般会計へ繰入
一般会計(改革推進公共投資事業償還金等)繰入
事務費
696
0
6
0
13
270
1471
4168
0
6620 6624
この勘定は、説明を要するところであるが、つまりはNTTの売却益を無利子で公共事業に貸し付けるために、産業投資特別会計内に新設された会計なのである.国が資金を得る方法は、税金・国債発行のほかに、国の資産の売却がある.優良な資産なら高値で売れる.その典型がNTT株.1987年I設立なので会計が一番新しい特別会計である.その趣旨は下記である.仕組みは、複雑で下図である.一般会計を通しているところが味噌であるが、使われ方を見れば用を為しているとは言えない.その金額は10兆である.赤字国債の返済に充てないなら、せめて有利子とし利子を返済に当てるべきであろう.余剰金も209億、局政府は借金を返す腹づもりがないというこだけは判明したのである.

NTT株式売払収入については、国民共有の負債である国債の償還財源に充てることが制度的に確立されているところである。しかし、厳しい経済情勢に緊急に対処するため、昭和62年度の補正予算において、国民のニーズに応じた社会資本の整備の促進を図ることにより、内需拡大の要請に応え、地域の活性化に資する必要があった。このような状況にかんがみ、当面、毎年度の国債整理基金の円滑な運営に支障を生じない範囲内において、その一部を一時的に活用して社会資本の整備の促進を図ることとした。また、NTT株式売払収入を活用した無利子貸付を産業投資特別会計に社会資本整備勘定を設けて経理することとしたのは、
@ 投融資が産業投資特別会計の目的である点及び
A その投融資の範囲がこの無利子貸付制度と同様広範に亘る点
において、今回のスキームと産業投資特別会計(産業投資勘定)の目的とが最も類似していることにかんがみたことによる。この場合、産業投資特別会計(産業投資勘定)については、納付金や従来からの投融資の回収金により、運営を行っているところであり、無利子貸付制度については、NTT株式売払収入を財源とするものであることから、それぞれの経理を明確に区分するため、新たに社会資本整備勘定を設けることとなった。
 具体的には、@国は、当分の間、公共事業等に要する資金を、別に法律に定めるところにより地方公共団体等に対し無利子で貸し付けることができることとするほか、特定の民活事業に対し日本政策投資銀行等を通じて無利子で資金を貸し付けることができる事とする等の措置を講じている。A国の補助又は負担を必要とする公共事業の場合には、この補助又は負担については、別に法律で定めるところにより当該貸付金の償還時において行うこととしている。BNTT株式売払収入を無利子貸付けの財源に充てるため、国債整理基金特別会計から一般会計を通じて産業投資特別会計社会資本整備勘定へ資金の繰り入れを行うことができる事とする等の措置を講じている。なお、この繰入及び償還に相当する金額については、後日、産業投資特別会計社会資本整備勘定から一般会計を通じて国債整理基金特別会計へ繰り戻しを行っている。

NTT無利子貸付金の流れ

NTT無利子貸付金の流れ更に2001年の第二次補正予算の財源としても、NTT株式売却益の残金2.5兆円が「当分の間」この会計に繰入された(社会資本設備勘定).NTT株式の売却益は、既に述べたように国債の償還財源として位置付けられているはずなのに、[改革推進公共投資]と銘打った公共事業に使っていいものなのか?大いなる疑問が生まれたのである.これは、お金があっても借金を返済しないという大蔵省(当時宮沢大蔵大臣)の離れ業である.国が資金を得る方法は、税金・国債発行のほかに、国の資産の売却がある.優良な資産なら高値で売れる.その典型がNTT株.これに関しては産業投資特別会計に譲るが、結局政府は借金を返す心づもりがないというこだけは判明したのである.

復活した亡霊−NTT株式売却益による公共事業(1)                            2001年12月01日(土) 萬晩報主宰 伴 武澄
「NTT株の売却益ってむかし景気対策で使っちゃったんじゃなかたっけ」.「俺もそう思う.この公共事業は1987年から始まって90年代前半に底を突いているはずなのに」.「そうそう.思い出した.僕が大蔵省で予算を担当した時、名前はNTTがついていたけど本当は国債を発行して財源を賄っていたんだ」 .第二次補正予算の財源として2兆5000億円のNTT株式売却益を公共事業に利用することが突然決まった.NTT株式の売却益はそもそも国債の償還財源として位置付けられているはずなのにと、公共事業として使っていいものなのか.国民の多くは騙されたような気分になっているのではないだろうか.記者仲間でも疑心暗鬼なのである.
・宮沢蔵相の錬金術
NTT株式の売却益を利用した公共事業は87年度の補正予算で突然出てきた.確か日経新聞の特ダネだったように覚えている.当時の日本経済はプラザ合意以降の急激な円高によってかつてない景気低迷を迎えていたが、景気対策を打とうにも財源がなかった.国民に「増税なき財政再建路線」を約束した土光臨調の下で歳出は厳しく制限されていた.
ある意味で財政の規律というものが自民党にもあった.160兆円という国債発行残高をどう減らすかが国民的課題だったのである.一般会計予算は一般経費はマイナス5%のシーリングがかぶせられ、公共事業費は伸び率ゼロで6兆円を超えることはなかった.だから当初予算で国債の発行はたった6兆円内外だった.ちなみに小泉内閣の公約は30兆円である.
そんな時に大蔵省はNTT株式を一次流用するというアイデアをひねり出した.本来、国債の償還財源と決められていたNTT株式の売却益はその時から、法律改正によって一時的に公共事業の財源として流用できるようになった.宮沢蔵相(当時)は「5年とか7年とか借りるだけ.すごいアイデアだ」と絶賛した.政府は「財源が続く限り継続する」と約束し、まさに「宮沢蔵相の錬金術」のように受け止められた.
正式には「NTT株式売却益を活用した無利子融資制度」として87年度補正予算で4500億円が計上され、翌88年度の当初予算から1兆3000億円が計上された.筆者は日本の財政が規律を失ったのはまさにこの「NTT公共事業」が登場してからのことだと思っている.その後、景気が回復基調に乗ってからもこの錬金術をやめることはなく、つい最近まで続いていた.

・またしても大蔵省の禁じ手
NTTの株式売却は95年のNTT民営化に基づく措置で政府の持ち株の3分の2を放出することが決まった.87年2月の売却で2兆3000億円.97年10月に約5兆円.88年10月2兆8500億円.NTT株は一時300万円を超えた後100万円台に急落するなど高値圏で乱高下したため売却は途中で頓挫したものの、総計10兆1566億円というとてつもない売却益が生まれていた.景気回復した後にこの無利子融資制度を止めていれば、日本経済を救った救世主的存在として財政史に名を残したかも知れない.
問題はいったん計上した予算は減額できないという日本の予算制度にあった.止めるどころかバブルに向かって日本経済がブレーキを失った状態でも約10兆円のNTT株式の売却益を活用した公共事業は続き、7年後の91年度でついに財源が底を突いた.92年度は無利子融資制度を止める二度目のチャンスだったが、当時の日本経済はバブル崩壊と二度目の急激な円高期に突入しており再び大規模な財政出動が求められる場面に直面していた.なんと財源を失った「NTT」の名を冠した公共事業は国債を発行して続けられた.
大蔵省が監修して毎年発行される「日本の財政」の「社会資本の整備」の項目に(注)として「NTT株式をめぐる市場環境等からその財源に確保が極めて困難な状況にあったためNTT・Bタイプ事業の大半に一般財源(建設公債)を充当することにより、その事業を実質的に確保した」と淡々と記載してある.この摩訶不思議な予算に対してマスコミも野党も糾弾しなかった.政界は自民党の瓦解が進み、政権交代が必至の情勢で国民の関心はほとんど財政には向かなかった.大蔵省は国民の関心の薄さをいいことにまたしても禁じ手を犯していたのだ.(続)
Japan Research Review 2001年3月号 OPINION
政府債務残高の削減に向けた対策を急げ  −抜本的な財政構造改革と民営化を両輪に−        調査部 副主任研究員 河村小百合
わが国の政府債務残高は、2000年9月末時点ですでに511兆円、うち国債残高は361兆円に達している.比較的楽観的な前提に基づく財務省の試算(「財政の中期展望」)においても、14年後の2014年度末には、この残高が国債の部分だけでも773.5兆円に膨れ上がることが示されている.このように、政府債務残高が、わが国として未曾有のレベルまで、同時に現時点における主要国中で、群を抜く最悪のレベルにまですでに膨張している現在、今後の内外経済への影響を最小限に食い止めるためには、今、わが国としていかなる方策をとるべきであろうか.

・政府の信用リスクの意味
まず、政府の信用面における特殊性について、整理してみよう.一国の政府は、金融市場における1プレーヤーではあるが、経済主体としては、特殊な存在である.すなわち、国民に対する徴税権という収入確保の手段を有する点が、企業等の民間の主体との最大の相違点である.ただしこの徴税権を発動するに当たっては、民主主義的な手続きを踏むことが必要である.

とはいえ、政府が無制限に債務を増加させることができるわけではない.その際のハードルとしては、次の2つが考えられよう.まず第1のハードルは、一国のISバランス上、政府の債務のファイナンスを海外からの資金流入に依存する度合いがどれほどであるかによって左右されるものである.もしこの度合いが高く、かつ政府債務の規模が一国の経済力からして大き過ぎると海外投資家からみなされるようであれば、為替レート面での自国通貨安という大幅な調整を余儀なくされることになる.このケースに該当するものとしては、1980年代半ばのアメリカが典型例であろう.この時期の同国においては、大幅な財政赤字と経常収支赤字といういわゆる「双子の赤字」を背景とする高金利が維持不可能となり、85年の「プラザ合意」という大幅な為替レート調整に追い込まれたのである.

また、政府債務のファイナンス面での海外依存度が低く、第1のハードルはクリアできるとしても、現実の政府債務の規模に鑑み、国内の貯蓄余剰を用いて、どれほどの期間、どれほどの負担の規模で負債を返済していくことになるのか、その国内経済への影響はいかほどか、という第2のハードルが存在する.現在のわが国が置かれた状況はまさにこのケースであろう.もし政府債務が膨張する当事者となっている国が相対的な小国であれば、あくまでその国の内部の問題ということにとどまるかもしれない.しかしながら、わが国のような大国の場合、話は全く異なってくる.政府の債務を返済するうえでの負担が一国の経済力からして重く、国内経済への影響が長期化することになれば、世界経済へのマイナスの影響という面でも大きな問題になることは必至である.これが現在の日本に対する、諸外国の関心の焦点となっている所以である.

・政府債務残高の現状
ここで、わが国が現在抱える政府債務残高の負担の重さを、わが国としてのヒストリカルな面、および主要な諸外国の近年の足取りとの比較の面から確認してみよう.一国の経済力見合いでのその負担の重さを量るため、グロスの政府債務残高の名目GDP比率の推移でみると、わが国の場合、90年代初めまでは60%程度という比較的良好な水準で推移していた.その後90年代半ばの時点では80%程度とやや悪化したが、この時点では他の主要国に比較してさほど目立つ水準ではなかった.しかしながら、90年代後半には急激に数字が上昇しており、2000年時点では112.3%、2年後の2002年には124.7%に達するものとみられている(OECD,“Economic Outlook”,December 2000、以下同じ).この間の他のOECD主要国の推移をみると、国ごとにレベルにばらつきもあるものの、総じてみれば、90年代半ばをピークに、それまでの増勢が減少基調に転じている.例えば、その政府債務残高の規模があまりにも大きかったため、他国から“Snow-ball Effect(雪だるま効果)”と揶揄されていたベルギーも93年の134.8%をピークに、また、ユーロ発足当初時点での参加がかつて絶望視されていたイタリアも94年の124.0%をピークにそれぞれ減少に転じ、足許の水準(2000年)はベルギーが110.7%、イタリアが112.0%に低下し、2年後にはそれぞれ100.2%、104.8にまで低下するものとみられている.また、その他の主要国の最近(2000年)のレベルをみれば、アメリカが59.5%、ドイツが59.6%、フランスが64.6%、イギリスが53.5%と、いずれも比較的良好な水準にある.こうした点からも、わが国の近年の財政事情の急激な悪化が、主要国の中で際立っていることがみてとれよう.

なお、わが国には、国債償還のルールとして、他の主要国にはほとんど例のない「60年償還ルール」という既定のルールが存在する.これは、毎年度の一般会計の予算編成において、前年度末の国債残高の60分の1に相当する額を国債整理基金特別会計に繰り入れ、国債償還の原資に充当する、というものである.「財政の中期展望」を前提とし、このルールを忠実に適用した際の国債償還に要する費用がどれほどのものとなるのかを試算した、財務省の「国債整理基金の資金繰り状況等についての仮定計算」によれば、利払い費は今後10年間程度は前年比7%増程度の高い伸びが続くことが見込まれている.そもそも現在のような規模の負債残高を抱えながら、それを60年という長い期間をかけて返済しようとするルールが果たして内外の信認を得られるものであるかどうか、という点自体にまず議論の余地がある.しかしながら、もしそれがクリアできたとしても、わが国経済が、高い名目成長率を達成し、つれて税収の伸びも高まるとは当分の間期待し難いなかで、利払い費が実際にこれほどの伸びを続けることは容易ではなかろう.まして、この試算の前提している水準を超えて長期金利が上昇してくることになればなおさらである.また、わが国のISバランス上の貯蓄余剰が今後も続くという保障はない.わが国の財政事情は、すでにこれほど厳しい水域に達していることを、この仮定計算は示しているのである.

・今後の政策運営上の方策1:抜本的な財政構造改革による国債償還額の積み増し−こうした状況下で、わが国は今後の財政運営上、いかなる方策をとるべきであろうか.

第1の方策は、各年度ごとの予算編成上、国債償還額をさらに積み増すことである.前述の「60年償還ルール」は現在、建設国債のみならず、赤字国債に関してもなし崩し的に適用されているが、目先の景気対策等の原資として用いられる赤字国債についても、60年という長期間にわたって返済することの合理的な根拠は存在しない.これほどの政府債務残高を抱えている状況下では、今後はむしろ、赤字国債を発行するのであれば、その資金の使途目的に照らし合わせて、各年度における特例公債(赤字国債)発行の根拠法上の明文をもって、償還期限をあらかじめ10年、ないし20年、といった期間に区切るくらいの覚悟が必要であろう.そのためには、現在のわが国に与えられたファンダメンタルズ面での前提のもとで、景気への影響を最小限にとどめるよう配慮しつつ、実質的な歳入増を実現するために、歳出・歳入の両面において抜本的な制度改革を行うことが不可欠となろう.例えば、公共事業に関する予算配分の決定方式、税制の基本的なあり方、国と地方の財政上の関係、といった点が、根本に立ち返った見直しの対象になるものと考えられる.この第1の方策は、いわば正攻法とも言うべきものであり、改革の進め方にもよるが、短期的な面で国民生活や景気全体に少なからぬマイナス影響を与えることは避けられない.しかしながら、財政バランスの大幅な改善を実現したかつてのイギリスや近年のイタリア、といった諸外国の例をみても、国民の理解の下で、短期的には相当な痛みを伴うこうした改革プロセスを通過してきたのが事実である.わが国としても、改革の実施に伴う目先の痛みにとらわれるあまり、こうした財政の構造改革に向けた努力を怠ってはならないであろう.

・今後の政策運営上の方策2:政府部門の民営化収入を原資とするまとまった規模での国債償還
しかしながら、この財政の構造改革を実施するに当たっては、その議論を尽くすためには、いかに急いでも少なくとも年単位の時間を要しよう.また、少なくとも短期的には相当な痛みが伴うことは避けられず、この形で政府債務が削減できるとしても、その実現可能な削減幅には自ずと限度があろう.このようにみれば、わが国の政府負債の膨張は、すでにフロー面の政策対応で解決し得る領域をはるかに超えており、今後の長期金利の水準の変動の可能性を考えれば、現在のように金利が低水準にあるうちに可能な限り債務を返済する、というストック面での政策対応をも実行に移すことが必要になってくると考えられる.具体的には、政府部門の民営化という、いわば臨時収入を原資とする、まとまった規模での国債償還がそれであり、これがわが国のとり得る第2の方策である.

政府部門の民営化を検討するに当たっては、本来、その時々の経済環境の変化に則し、何らかの公的な政策目標を有する経済活動を、政府部門と民間部門のいずれに担わせることが最もコスト効果的と考えられるかによって決定されるべき問題である.諸外国の例をみても、欧州の主要国を中心に、民営化による収入を原資に政府債務残高の削減に充当してきた例は多数存在する.例えば、古くはサッチャー政権下のイギリスにおいては、79〜87年の9年間に、30社以上の民営化が行われ、総額180億ポンド余りの売却益が国庫に帰属したが、これは同国の一般政府の歳出・歳入の規模に比較すると、9年間の通算でみても約1.5%の規模に相当するものであった.また、東西ドイツの統一により、90年代前半に財政バランスが急激に悪化したドイツにおいても、ドイチェ・テレコムやルフトハンザ航空等の民営化が実施され、91〜99年の期間中、その収入は490億マルクと、連邦政府の歳出・歳入規模との対比では約1.2〜1.4%に達している.また、同国においては今後、わが国の郵便貯金に相当するドイチェ・ポストバンクの株式公開も近々予定されている.

わが国においても、過去すでに政府部門の民営化がいくつか実施されてきた.85年4月に株式会社化された日本電信電話公社(後の日本電信電話株式会社で、現時点ではさらに分割)や日本専売公社(後の日本たばこ産業株式会社)がそれである.両社の2000年度までの株式売却益は累計で、NTTが10兆5,813億円、日本たばこが7,890億円(いずれも株式管理処分経費を含まず)に達している.これらが一般会計の歳入・歳出規模に占めるシェアは、年度にもよるが、例えば近年では99年度(NTT株売却)が2.0%、2000年度(同前)は1.1%程度に達するものとみられるほか、バブル期の87年度(同前)には約6%程度に達したこともあった.またこれらの売却益が各年度の国債償還額に占めるシェアをみると、ピークの87年度には実に34%に達していたほか、近年では99年度は4.3%、2000年度は1.9%程度に達している模様である.

折しも、特殊法人改革をめぐる動きが本格化している.わが国においては、その政策目標の達成に当たってのコスト対効果を最大化するうえで、政府部門から民間に移行することが望ましいと考えられる事業が少なからず存在すると考えられる.すでに民営化の方針が決定されている帝都高速度交通営団や電源開発について、極力前倒しで民営化を実施する必要があることは言うまでもないが、他にも、例えば金融系財投機関である日本政策投資銀行(政府関係機関であり全額政府出資)や商工組合中央金庫(政府出資比率約8割)、事業系財投機関のなかでは日本育英会(全額政府出資)や都市基盤整備公団等(政府出資比率99.6%)が、民営化の検討対象となり得よう.また、現時点では公社化のみが決定されている郵便貯金についても、日本版ビッグバンの総仕上げとして、最終的には民営化することが望ましいと考えられる.なお、一口に民営化と言っても、諸外国の例からも明らかなように、その形態には政府の関与の度合いに応じて、様々なパターンがあり得る.例えば、アメリカの政府支援企業のように、資本面では完全民間所有としても、設立根拠法を残す、等の方法により、政府による当該民営化企業の監督を残す方法もある.実際に民営化を検討するに当たっては、各機関に課せられた政策目標が、経済環境の変化に即してもなお必要であるかどうかをまず検討したうえで、いかなる形態で業務を運営させることがもっともコスト効果的であるかを検討すべきであろう.
そして実際に民営化が適当であると判断されたとして、各分野における政策運営上のコスト対比での効果を高めることにとどまらず、財政再建にも役立てることができれば、まさに一石二鳥ではないか.確かに現時点におけるこれらの機関の規模や、足許の株式相場の市況に鑑みると、郵便貯金を除けば、これらの機関の民営化による株式売却により、NTTの民営化のケース(バブル期に株式売却を開始)に匹敵する売却益を得ることは難しいかもしれない.しかしながら、仮に目先の各年度の国債償還額の約1割程度であっても、民営化によってその原資が調達できれば、先行きの財政運営の自由度の幅が広がることは間違いないであろう.そして、もし郵便貯金の民営化が現実のものになれば、わが国の財政事情の改善に大きく貢献することになろう.なお、NTT株の売却益については、売却を開始したバブル期の当時、その収入が政府の見通しを大きく上回ったことから、必ずしも国債の償還のみに充当しなくてもよいのではないかという見方が強まり、産業投資特別会計社会資本整備勘定へ繰り入れ、社会資本整備目的での無利子融資の原資として用いる枠組みが設けられ、現在に至っている.その実際の運用状況をみると、NTT株売却益の国債整理基金から産業投資特別会計への繰入残高は2000年度末で7,245億円(予定)と、ピーク時(92年度末)の5兆5,836億円の約13%にまで規模が縮小されてはいるものの、足許の財政事情の深刻化に鑑みれば、政策運営上の優先順位としては、本制度創設当時とは逆に、社会資本の整備よりも政府債務返済の方が上位になっているのが現在の姿であろう.この制度も大きく見直す時期にきていると言えるのではないか.

・財政政策運営における債務返済の優先順位を高めるべき
わが国の場合、他の主要国と比較すると、経済政策全般を運営するに当たり、目先の景気対策等に過度にとらわれ、短視眼的になり過ぎるきらいがあるように見受けられる.その結果、国債償還についても、「60年償還ルール」や、決算剰余金が発生した場合、その金額の過半を国債整理基金へ繰り入れることの義務づけ、といったルールが法定されているにもかかわらず、実際の運用上は、目先の景気対策の原資の捻出や赤字国債の発行の回避等の目的を達成するために、特別法を制定することにより、こうしたルールをないがしろにする年度が少なくない.このように、国債償還の財政政策運営上の優先順位を常に低くしてきたことのツケが今これほど大きな形になってはねかえってきていると言えよう.わが国としては、諸外国の例をも参考にしつつ、まず、政府債務の返済の、財政政策運営上の優先順位を高めることが不可欠である.具体的には、先行きの経済情勢の変化によってわが国の置かれた状況が一段と悪化する前に、歳出面・歳入面における抜本的な構造改革を真剣に検討し、同時に民間部門への移行が適当と考えられる政府部門の民営化を待ったなしで実行に移すべきであろう. (2001.2.9)
参考 1)「特別会計への道案内」松浦武志著:創芸社出版
2)財務省ホームページ