次回の医療制度改革を考える(医療制度改革の全容と課題は、2005年12月2日読売新聞より抜粋)
政府・与党が平成17年12月1日決定した医療制度改革大綱は、高齢化の進展で増大する医療給付費の伸びを抑制するため、高齢者負担増、即ち75歳以上を対象にした新たな医療保険制度の創設と、若年層の生活習慣病予防強化など長期的対策を盛り込んだものとなっている。その他、以下の事項となっている.
 1:生活習慣病対策・・・若年層を重視
 2:運営責任の明確化必要・・・75歳以上新保険
 3:保険財政安定狙い・・・都道府県単位に再編へ
 4:中医協改革・・・中立的委員を増員
 *改革大綱の要旨
改革の時期に関しては、高額療養費の自己負担限度額引き上げ、出産育児一時金の引き上げ、国保財政基盤強化策などは2006年度、
現金給付や保険料賦課の見直しは2007年度、医療費適正化計画、高齢者医療制度は2008年度にそれぞれ実施するとしている。

1:生活習慣病対策・・・若年層を重視
将来的に人工透析などの高額な医療につながる糖尿病など生活習慣病を若い段階で予防することがテーマ
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(図:12/2読売新聞)

大綱は「治療重点の医療から、疾病の予防を重視した保健医療体系へと転換を図っていく」との方針を掲げ、具体的には、都道府県ごとに健康診断受診率の向上などを数値目標にする「医療費適正化計画」を策定するという。喫煙や肥満などが原因となる生活習慣病は、がんや心臓病、脳卒中などの原因となることが指摘されている。厚生労働省の統計によると、こうした生活習慣病が遠因となる病気は2003年で死因の約6割、2003年度で医療費の約3割を占めている。生活習慣病予防には、健康診断で糖尿病や高脂血症などの兆候を早めに発見することが大切だ。加えて、肥満や血圧、脂質、代謝系(血糖値など)の4項目について、健康診断ですべて異常が見つかった人と異常が一つも見つからなかった人を比べると、10年後の医療費に約3倍の差が出るというデータもある。

「医療費適正化計画」は2008年度から、5年ごとに更新する。健康を維持するために必要な毎日の運動量や喫煙率、健康診断の受診率などの目標をそれぞれ設定。脳卒中が多い地域では塩分摂取についての保健指導など、都道府県が実情に合わせた対策をとるよう促し、医療費削減の見通しを数値で示す。5年間の計画が終了した後に、それぞれ達成状況を検証する。厚労省は、都道府県の取り組みを促すため、達成状況に応じて診療報酬に差をつけるペナルティーなども検討している。計画づくりが本当に効果を生み出せるかどうかが課題だ。政府内には、「結局、個人の自覚にかかっている。行政は健康的な生活をするように、いかに啓発するかが問われる」との声もある。

私見! 病気を国家的に管理してしまおうという姿勢がみえる.生活習慣病とはいえ、健康管理は個人の問題であるので生命観・死生観という哲学的問題から始めないと先は見えない.宗教色のない本邦では、人間学教育が特に望まれる.

2:運営責任の明確化必要・・・75歳以上新保険
75歳以上の高齢者は、現行の医療保険から独立した新しい医療保険制度(市町村運営)に2008年度から加入する
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(図:12/2読売新聞)
これまで、75歳以上の人は自分で国民健康保険に加入するか、子供などの扶養家族となり、子供などが加入している保険の被保険者になっていた。今回、独立した保険を創設するのは、現行の制度では国保などの財政が一層悪化することが予想されるためだ。高齢者と現役世代の負担を明確に分け、世代間の負担の不公平感を是正するのが狙いだ。

新制度の財源構成は、75歳以上の加入者からの保険料が1割、74歳未満の現役世代からの支援金が4割、残りを公費で賄う。将来的に全人口に占める高齢者の割合が高まるにつれて加入者の負担を増やし、現役世代の支援負担を軽くする。新制度の保険料負担は、現行の国保加入者と同程度となる見込みだ。厚労省の試算では、新制度のモデル保険料は、夫婦2人で年間277万円の厚生年金を受給しているケースで、現行制度の年間保険料10万2000円が9万8000円に下がる。一方、年間156万円の国民年金を受給している夫婦は、年2万円から2万4000円に上がる。

厚労省は当初、運営主体を市町村とする方針だったが、国保の赤字が深刻化している市町村が新たな財政負担を懸念し、大綱で「都道府県単位で全市町村が加入する広域連合」が運営主体となることが決まった。しかし、早くも運営責任があいまいだとの批判が出ている。事務局をどこに置き、どういうメンバー構成にするかも見えていない。大綱は「財政リスク軽減については、国・都道府県が共同して責任を果たす」としているが、今後、責任の明確化を求める意見が強まると見られる。

私見! 高齢者に独自の保険制度があっても良い.いや、有るべきであるが問題は財源.医療費抑制のために考えられているので、制度そのものはできるだろうが運営責任は明確でなく個人負担が増えるだけ.医療に財源を使おうとしない国の責任逃れに過ぎない.国民が生む税金が財産とでも思っているのだろうか?足元をもっとよく見るべきである.

3:保険財政安定狙い・・・都道府県単位に再編へ
保険者の財政基盤を安定させるため、都道府県単位の再編を目指し、医療費抑制への取り組みを促す

 国民が加入する健康保険は現在、市町村が運営する国民健康保険(国保)、社会保険庁が運営する政府管掌健康保険(政管健保)、企業などを単位とする健康保険組合(組合健保)の三つに大別される。

国保は自営業者や無職の人などが入り、加入者数は4720万人。高齢者の加入者が多く、7割の市町村が赤字運営だ。大綱では、財政基盤の弱い市町村で高額の医療費が発生した時、市町村の拠出金で医療費を賄う共同事業の拡充などを盛り込んだ。政管健保は、主に中小企業のサラリーマンと家族ら3552万人が加入している。社会保険庁改革で公法人が運営することが決まっており、将来的には都道府県ごとに地域の医療費を反映した保険料率とする。全国に約1600ある組合健保(加入者3014万人)は、これまで原則として認められなかった異業種間の健保組合設立を認める方針だ。しかし、保険料の差が拡大したり、地域によって医療の質に差が出たりするとの懸念もある。

私見! 健康保険は一元化すべきである.その中に、小児・成人・老人保険の区別をするべきである.その前に現行保険の未加入、保険料の未納の問題を解決しなければならない.異業種間の健保組合設立を認めても複雑になるだけで、その分の経費がふえ何の解決にもならない.結局、国民負担増に繋がるだけである.

4:中医協改革・・・中立的委員を増員

医療行為の単価となる診療報酬を決める中央社会保険医療協議会(中医協)の見直しは、医療関係者など診療側、健康保険組合関係者など支払い側各7人、中立的立場の公益委員6人の構成となった。現在は診療側、支払い側各8人、公益委員4人。現在の委員構成は「医療関係者の利害調整の場となっている」との批判があり、「公益委員が中医協運営の主導的役割」という規定を設けることで、より患者本位の診療報酬体系をつくる体制とするとしている。これに伴い、日本医師会など団体が委員を推薦する「団体推薦」の制度は廃止される。だが、大綱には「委員任命は、地域医療を担う関係者の意見に配慮する」と明記された。日医などの医療関係者が委員を務めると見られ、制度廃止の実効性が課題となりそうだ。

私見! 20人のメンバーの構成を変え、公益委員を増やしたが未だ平等ではない.しかしこれで中医協が改革されるかは疑問である.中医協は、単に診療報酬の是々非々を議論してるだけなので、根本的な医療改革には繋がっていない.改革の大義名分で、医療費を抑制する試みは致し方ない感もある.それなら、急激に伸びている薬材費を抑えるべきであるのに、医療技術のほうを抑制する策ばかりが目立つ.国際的にみても、技術料は質の割りに低いのに、ここをさらに抑制すればイギリス医療の後塵をなめる.世界一高い薬価を改革すべきで、筋違いもはなはだしい.やはり、国の向いている方向が違うということである.
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*改革大綱の要旨
改革の基本的考え方(序文)
我が国は、国民皆保険のもと、誰もが安心して医療の受けることのできる医療制度を実現し、世界最長の平均寿命や高い保健医療水準を保ってきた.しかしながら、急速な少子高齢化、経済の低成長への移行、国民生活や意識の変化など、大きな環境変化に直面しており、国民皆保険を堅持し、医療制度を将来にわたり持続可能なものとしていくためには、その構造改革が急務である.
医療保険制度については、平成14年の健康保険法等の改正に際して、抜本的な制度の改革を行うべきトの議論があり、その旨が法律のの附則に規定された.これを踏まえ、平成15年3月に「医療制度改革の基本方針」が閣議決定され、診療報酬体系については、改定の都度、見直しを図ることとされ、新たな高齢者医療制度の創設及び保険者の再編・統合については平成20年度に向けて実現を図ることとされた.
又、本年6月にニ閣議決定された「骨太の方針2005」においては、「医療費適正化の実質的な成果を目指す政策目標を設定し、達成のための必要な措置を講ずる」としている.
改革に当たり、国民が求めているのは医療の安心、・信頼の確保である.上記の方針を踏まえ、患者、国民の視点から医療はいかにあるべきかについて、な次のように基本的な考え方に基づき、医療制度の構造改革を推進する.以下、下記1.2.3に対し基本的な考えが展開されている.
1.安心・信頼の医療の確保と予防の重視
【安心・信頼の医療の確保】
(1)医師不足問題への対応 都道府県ごとに医療対策協議会を設置し、地域の実情に応じた医師確保策を講ずる。
(2)地域医療の連携体制の構築 患者が一貫した治療方針のもとに切れ目ない医療を受けることができるよう地域医療を見直す。
(3)患者に対する情報提供の推進 都道府県による医療機関に関する情報提供を制度化し、保険医療機関などに医療費の内容が
     わかる領収書の発行を義務づける。
【予防の重視】
(1)国民運動 糖尿病、高血圧症、高脂血症など生活習慣病の予防を国民運動として展開し、運動習慣や「食育」の推進など
    バランスのとれた食生活の定着を図る。
(2)生活習慣病予防のための取り組み体制生活習慣病予防について保険者の役割を明確化し、被保険者、被扶養者に対する
    効果的、効率的な健診や保健指導を義務づける。
(3)がん予防推進 禁煙支援などの生活習慣の改善を進める。たばこ税引き上げの意見は、税制改正全体の中で議論する。
2.医療費適正化の総合的な推進
【医療給付費の伸びと国民負担との均衡確保】
医療給付費の伸びは、5年程度の中期を含め、将来の医療給付費の規模の見通しを示し、実績を検証する際の目安となる指標とする。
一定期間後、指標と実績を突き合わせて、医療費適正化方策の効果を検証し、将来に向けた施策の見直しに反映させる。将来の医療給付費の規模の見通しは、厚生労働省、経済財政諮問会議などで検討を行う。
【医療費適正化計画】
(1)計画策定 生活習慣病対策や長期入院の是正など計画的な医療費適正化に取り組む。国が中長期的な基本方針を策定し、
                 方針に即して国や都道府県が5年間の計画を策定する。基本方針では、糖尿病などの患者・予備群の減少率や平均
                 在院日数の短縮に関する政策目標を定める。
(2)計画推進措置 診療報酬体系の見直しや病床転換を進めるための医療保険財源を活用した支援措置を講ずる。
                 平均在院日数の縮減に併せて、在宅医療・介護の連携強化や居住系サービスの充実を図る。
 (3)計画達成の検証 計画の確実な実施のため、計画の中間年で進ちょく状況を検証し、計画終了時での政策目標の達成状況を
                 検証する

【公的保険給付見直し】

(1)高齢者患者負担 70歳以上の高齢者のうち、現役並みの所得の者は、現役と同様に3割負担とする。
(2)食費、居住費の負担 療養病床に入院する高齢者は、低所得者に配慮しつつ、食費、居住費の負担を見直す。
(3)高額療養費の自己負担 高額療養費の自己負担限度額は、低所得者に配慮しつつ、賞与を含む報酬総額に見合った水準となるよ
    う引き上げる。人工透析患者のうち所得の高い者は自己負担限度額を引き上げる。入院にかかる医療費は、医療機関窓口での支払
    いを自己負担限度額にとどめることを検討する。
(4)現金給付 傷病手当金や出産手当金は、支給額への賞与の反映などの見直しを行う。出産育児一時金を現行の30万円から35
    万円に引き上げる。
(5)レセプトIT化 医療機関などが審査支払機関に提出するレセプトと同機関が保険者に提出するレセプトは、2006年度からオンライン
    化を進め、11年度当初からすべてがオンラインで提出されるものとする。
(6)その他 保険料賦課基準となる標準報酬月額の上下限の範囲拡大や標準賞与額の見直しを行う。公的年金等控除などの見直し
    で、現役並みの所得に該当する高齢者等の負担は2年間の経過措置を講ずる。

3.超高齢社会を展望した新たな医療保険制度体系の実現
【高齢者医療制度】
75歳以上の後期高齢者は、その心身の特性や生活実態等を踏まえ、08年度に独立した医療制度を創設する。65〜74歳の前期高齢者は、退職者が国民健康保険に大量に加入し、保険者間で医療費の負担に不均衡が生じているため、これを調整する制度を創設する。

(1)後期高齢者医療制度 保険料徴収は市町村が行い、財政運営は都道府県単位で全市町村が加入する広域連合が行う。
    高額な医療費等についての国・都道府県の財政支援、国・都道府県も拠出する基金による保険料未納等に対する貸し付け・交付の
    仕組みを設ける。財源は患者負担を除き、公費約5割、現役世代からの支援約4割のほか、高齢者から1割の保険料を徴収する。
    現役世代からは、国保・被用者保険の加入者数に応じた支援とする。人口に占める後期高齢者の比率の変化に応じて、負担割合を
    変えていく仕組みを導入する。後期高齢者の心身の特性等にふさわしい医療が提供できるよう、新たな診療報酬体系を構築する。終
    末期医療のあり方についての合意形成を得て、患者の尊厳を大切にした医療が提供されるよう適切に評価する。
(2)前期高齢者医療制度 70歳未満は3割負担、70〜74歳は2割負担(ただし、現役並みの所得を有する者は3割負担)とする。
    70〜74歳までの低所得者の自己負担限度額は据え置く。
(3)その他 高齢者医療制度創設にあわせ、乳幼児に対する自己負担軽減(2割負担)の対象年齢を3歳未満から義務教育就学前ま
    でに拡大する。

【保険者の再編・統合】

(1)国民健康保険 都道府県単位での運営を推進するため、保険財政の安定化と保険料平準化を促進する観点から、市町村の
     拠出で医療費を賄う共同事業を拡充する。保険者支援制度等の国保財政基盤強化策は、公費負担のあり方を含めて総合的に
     見直す。
(2)政府管掌健康保険 国と切り離した全国単位の公法人を保険者として設立し、都道府県単位の財政運営を基本とする。
(3)健康保険組合 規制緩和などで再編・統合を進める。同一都道府県内での健保組合の再編・統合の受け皿として、企業・業種を
     超えた地域型健保組合の設立を認める。

診療報酬などの見直し・・・ここはコメントを入れさせて頂きました.
【診療報酬改定】
06年度の診療報酬改定は、賃金・物価の動向等の昨今の経済動向、医療経済実態調査の結果、さらに保険財政の状況等を踏まえ、引き下げの方向で検討し、措置する。小児科・産科・麻酔科や救急医療等の医療の質の確保に配慮する。
私見:今やアメリカ・イギリスの悪いところを模倣する策ばかりで嘆かわしい.2年毎に行われているのに、成果上がらず.
【薬剤など】
薬価や保険医療材料価格は、市場実勢価格を踏まえて引き下げる。有効性や安全性の高い新薬を患者ができるだけ早く使用できるよう、医薬品審査の迅速化を図る。
私見:世界一高い薬価が野放しにされている構造を改革すべきである.医薬分業の加速は、薬剤使用量が増えるだけ.
      薬が必要ないことを説得する機会が減ってしまう.
【中央社会保険医療協議会の見直し】
中医協の委員構成は、公益委員6名、支払い側委員・診療側委員をそれぞれ7名とする。中医協委員の団体推薦規定を廃止する。
私見:各委員をそれぞれ7名にしたらよいでしょう.多数決で決める会議で最初から員数が偶数であるのは問題あり.