[医療制度改革大綱]の進行状況
政府・与党が今月1日まとめた医療制度改革大綱の法案化作業が本格化している.小泉政権で医療の構造改革はどこまで進んだのか.
(読売新聞オンラオン2005/12/10:生活情報部 榊原智子)

 政府は、医療制度改革大綱で「引き下げ」が決まった診療報酬の改定率を年末までに決着させ、国民健康保険法などの関連法の改正案を、来年2月に国会提出する.今度の医療制度改革の評価は割れている.長年先送りされてきた“抜本改革”が大綱に盛り込まれたことで、「画期的」という見方がある一方、「改革の理念が見えない」「これで抜本改革といえるか」という批判もある.いい例は、「新しい高齢者医療制度」だ.10年以上の懸案だった老人保健制度の廃止に踏み込み、22年ぶりに老人医療費を支える仕組みを転換する改革になるはずだった.だが、新しい制度の運営責任を誰が担うかをめぐって、国と都道府県、市町村が対立し、老人医療費が増えればサラリーマンの保険料からの拠出が、「公的仕送り」として膨らむ仕組みが残る.

 改革の方向が不鮮明なのは、日本医師会―厚生族―厚生労働省という医療制度を動かしてきた“旧支配勢力”が後退し、小泉首相や経済財政諮問会議が指導力を強めるという、主導権をめぐる混乱が反映したともいえそうだ.しかし、今回の改革は、1961年に「国民皆保険」を実現させた保険システムのあり方を、高齢化に適応できるように、転換に踏み出したと言える.小泉構造改革の指針として2001年6月に発表された「骨太方針」には、医療制度改革の項目がずらりと並んでいた.当時は「絵空事」としか受け取られなかった多くの項目が、今回の大綱に書き込まれているからである.以下、
◎「科学的根拠に基づく医療(EBM)の推進」
   医師の経験や勘に頼った医療から、科学的データを分析し診療行為を標準化するという、欧米では一般化した取り組みだ.「医師会の反
   対で口にすることすらタブーだったのが、今やEBMや標準化は当然という空気だ」と、厚労省関係者は話す.
◎「医療費適正化計画」
   医療機関が医療費請求時に提出する診療報酬明細書(レセプト)の電子化
   医療費総額の抑制策として「医療費適正化計画」の導入
   医療機関へ医療費明細を示す領収書の発行義務づけ、など4年前には考えられなかった項目が大綱に盛り込まれた.
◎保険システムの集約
  「国民皆保険」を支えてきた被用者保険(健康保険組合、政管健保など)と地域保険(国民健康保険)の2本立ての保険システムも、都
   道府県単位へ集約させていく方向が明記された.

 とはいえ、残る課題は多い.01年の「骨太方針」は、保険料とサービス給付が個々人にわかるようにするため、医療・年金・介護などを通じた社会保障の個人番号や個人会計の検討を盛り込んでいたが、大綱では抜け落ちている.真に「持続可能な制度」にしていくため、医療保険を支える加入者の信頼と納得を得られるよう、透明性とわかりやすさを高めていく工夫も欠かせない.

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[新設:高齢者保険]の問題点---2005/12/9 共同通信

医療費負担増: 患者への影響はどうなるのか、負担増に見合った患者本位の医療が実現するのか.政府が12月初めに決定した医療制度改革大綱では、増え続ける医療費を抑制するため 高齢者を中心とした負担増がずらりと並んだ.一方で長期的対策として生活習慣病などの予防強化も盛り込んだものの、効果は未知数だ.変わる医療制度をまとめた.

75歳以上は、現行通り1割だが、08年4月からは75歳以上が加入する新たな独立保険が創設される(下記)のに伴い、全員 が保険料を払う.子どもの扶養家族となっている人も一人一人が納めなければならない .年金から天引きされる.保険料の額は地域によって異なるが、厚生労働省の試算では 平均で1人月約6000円.低所得者には軽減措置がある.

70-74歳は、 まず2006 年10月から70歳以上の現役並み所得者は現行の2割から3割にアップし1.5倍に なる.
さらに08年4月からは、それ以外の一般的な所得や低所得(住民税が非課税) で70―74歳の人も現行の1割から2割に倍増し、75歳以上は1割と現行通り.現役並み所得者は、夫婦世帯で年収621万円(単身者は同484万円)以上.だが 、税制改正により06年8月からは夫婦世帯で同520万円(単身者は同380万円) 以上と変更されるので注意が必要だ.新たに現役並みの所得とされる人は、来年8―9 月は2割、10月から3割の負担になる.入院時の食住費は、06年10月から医療型療養病床に長期入院する70歳以上の人は原則、食費(調理 費)と居住費(光熱水費)が全額自己負担になる.相部屋の平均的な例で、負担は現在 より月額3万2000円増え9万6000円になる.

現役世代は、重病や大けがで医療費が高額になった場合、一定額の自己負担以上は払い戻されるのが高額療養費制度.この自己負担限度額が06年10月から引き上げられる.全世代が対象だ.例えば胃がんで1カ月入院し、医療費が約150万円かかったとすると、70歳未満 の一般的な所得の人は現在の約8万5000円から約9万2000円に増える.ただ、低所得者は現行通りに通院で月8000円、入院で同2万4600円など据え置きとなる.通院のたびに500―1000円程度までを保険の対象から外して患者負担とする「保険免責制」の導入は見送られた.

小児は、現在3歳未満の乳幼児の窓口負担は2割.この対象が08年4月から小学校に入学す るまでに拡大される.出産育児一時金の給付も06年10月から現在の30万円が35 万円に増額される.

75歳以上は独立保険に移行:75歳以上の全員が加入する独立保険の「後期高齢者医療制度」が2008年4月に創設される.創設時の財源は、加入者全員が支払う保険料が1割で市町村の国民健康保険や大企業の会社員らが加入する健康保険組合などからの支援金が約4割、残り約5割は税金で賄う.
 高齢者1人当たりの医療費は現役世代に比べて5倍近いため、高齢者自身にも保険財政への意識を高めてもらい、医療費の伸びに歯止めをかけるのが狙いだ. 現在の「老人保健制度」は73歳以上の高齢者の医療費を健保組合などからの拠出金で賄う仕組みだが、これでは誰が負担し、責任を持って運営しているのかが分からないと批判されてきた.
 このため、厚生労働省は当初、新保険の財政運営は市町村に担ってもらうつもりだった.だが、高齢化の進展に伴う将来の負担増を嫌った市町村の強い反発を受け、土壇場で「都道府県単位で全市町村が加入する広域連合」と責任の所在があいまいになった.一方、65―74歳は国保や政府管掌健康保険などに引き続き加入するが、財政は各医療保険に加入する74歳以下の人数に応じて調整し、この年齢層の多くが加入する国保の負担を軽減する.

政管健保は県ごとの保険料.国保も県単位で財政調整:医療保険を運営する保険者も都道府県を軸として再編、統合が進められる.保険財政の安定や保険者の役割を強化するのが目的だ. 現在、全国1本で社会保険庁が運営し、中小企業の社員らが加入している政府管掌健康保険は、2008年10月から健康保険組合連合会のような公法人に移管した上で、都道府県ごとに支部を設けて運営する.保険料率もその地域で掛かった医療費に応じて決められるので、支部ごとで差が出ることになる.
 自営業者らが加入し市町村が運営する国民健康保険は、患者の1カ月の医療費が高額になった場合、基準額を超えた分を国や都道府県、市町村で分担する仕組みを拡大する.市町村合併でもまだ残る小規模保険者を援助する狙いもある.財政が厳しい中小の健保組合の受け皿として、地域型健保組合の設立も08年10月から認められる.

患者本位の転換盛り込む.詳細な領収書、後発薬も:改革大綱には、患者本位の医療体制への転換も盛り込まれた.医療の”消費者”である患者の視点重視が主眼だ. 医療機関には、診療内容の詳細が分かる領収書の発行が義務付けられる.
 これまで患者が窓口で受け取る領収書は、検査や投薬などの明細がないケースが大半で、支払額が診療の対価として妥当なのか判断できなかった.今後は診療項目ごとに単価の内訳が記載され、患者が診療内容をチェックできる.
 診療報酬明細書(レセプト)のオンライン化も2006年度から進められる.完全実施は11年度からだが、過剰診療や不正請求を発見しやすくなる利点がある.また、特許が切れた先発薬と同じ成分で製造した後発薬の普及を推進する.患者自身がより安い薬を選択する道が開ける.
 ニーズに合わせた医療提供体制の整備も急ぐ.小児科や産科、へき地での医師不足の解消を目指すほか、終末期の患者が住み慣れた自宅や地域で治療を受け続けられるよう、在宅医療を充実させる方向で診療報酬改定が行われる見込みだ.

健診義務化で医療費減る?.生活習慣病の予防強化:中高年に増えている糖尿病などの生活習慣病の予防対策として、2008年度から各医療保険を運営する保険者に健診を義務付ける.
 Q なぜなのか?
 A 糖尿病や高血圧症、高脂血症などの生活習慣病の医療費は患者負担を含め03年度で10兆2000億円にも上っている.全医療費
      の3割を占め、死因別の死亡割合では6割だ.特に糖尿病は1990年度に6100億円だったのが、03年度には1兆円を超えた.推計
      では生活習慣病の患者と予備軍は2200万人もいる.予防に力を入れて医療費抑制につなげるのが目的.
 Q 今だって、健診をやっているけど?
 A 法律では健診の実施を定めているが、努力規定だけで強制ではない.会社員は比較的、受診率が高いが、専業主婦や自営業者では
      まだまだ低い.健診で異常が見つかっても、その後の保健指導につながっていないという問題もある.
 Q 具体的には?
 A まず各医療保険ごとに異なる健診の検査項目や「異常あり」などの基準値を統一する.その上で、ある年齢以上の人は全員に健診を受
      けてもらい、異常が見つかったらさらに詳細な検査に移る「2段階健診」を実施.その結果を踏まえて指導が必要な人を重中軽の3ランク
      に分けて保健指導する方針.
 Q 効果はどうなのか?
 A 厚生労働省は、都道府県ごとに計画を策定して生活習慣病の患者や予備軍を今後10年で25%減らしたいとしている.未達成の場
      合は各保険者の負担を重くすることなどを検討している.ただ健診結果を踏まえ、過食や運動不足といった生活習慣を改めないといけな
      いので、本人の意欲が鍵になる.効果は未知数との指摘もある.