カウボーイウェイ2 author Rinz
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 割れんばかりの声援と興奮した拍手、そして広いスタジアムいっぱいにロックミュージックが鳴り響く。サッカー場よりもう少し広い砂地のロデオスタジアムでは、暴れ馬から振り落とされたカウボーイが立ち上がり、ハットを観客席に振って見せている所だった。
「昨年の全米アマチュアブロンコ優勝者リッキー・ドリンチは・・79.7、現在1位です!!」
 再び会場がワーっと湧いた。馬上から跳ね馬の足を縛った縄を解き、その馬を出口まで誘導する鮮 やかなテクニックのカウボーイ達もまた見ものだ。今年の全米ロデオ大会ファイナルはテキサスである。 今日この瞬間、今年の全米チャンピオンが決まるとあって、会場も参加者も異常にヒートアップしてい た。
「ジュディ!」
 客席の高い所から、キャーキャー言いながら見ていたブロンドでグラマラスなボディのカウガールは、 自分の名前を呼ばれてそちらの方向へ顔を上げた。そしてその人物が誰か分かると、うれしそうに微笑ん で手を伸ばした。
「ハイ、テレサ!元気だった?」
 長い黒髪をなびかせ、ジーンズジャンバーとスリムなジーパン姿であのナッチョの娘テレサがジュデ ィの横へ座ってきた。
「ええ、元気よ」
 ジュディはペッパーの新しい恋人だ。グラマラスで明るくて大らかなジュディでなければわがままで 子供のペッパーの恋人なんて務まらないだろう。テレサも最初に会った瞬間から彼女の事が大好きだっ た。
「学校にはもう馴れた?」
「そうね、やっと授業の内容についてゆけるようになったわ。英語も大分上達したでしょう?」
「そう!それは進歩ね」
 最初に会った時テレサは少々英語に難儀していた。しかし今ではは多少スパニッシュなまりはあるが、 流暢な英語を話せるようになっている。今はサンタフェで大学に通っていた。テレサは早速スタジアム 内に目を向けた。
「ペッパーはまだ出ていない?」
「ええ、今からよ」
 ジュディは競技場のサークルの後ろを歩く、黒いハットの選手を指差した。よかった間に合ったわ、 とテレサはほっとため息をついた。
「で、ソニーは?」
 ジュディは口を尖らせ横に首を振った。
「彼は来てないわ、牛の牧草地の移動作業をしないといけないとか言ってたけど・・・」
 そう、と頷いたきりテレサはちょっと申し訳なさそうな顔をした。ソニーはニューメシキコに戻って ナッチョの牧場を引き継いでくれているのだ。本当なら自分がしなければならない事をすべてソニーに 押し付けた格好になり、テレサは感謝していると共に申し訳ない気持ちだった。
「でも、それってきっと来たくない言い訳でしょうけどね」
とジュディは明るく笑って見せた。
 会場内にアナウンスが響き渡る。
「さあ次はニューメキシコ州大会の優勝者、この大会でも注目株です。ペッパー・ルイス!」
 ジュディとテレサはスポットライトの当たったサークルに注目した。
狭いサークルの中、黒い馬が背中を揺らしながら、スタッフのカウボーイ達に押さえつけられていた。 ペッパーはとがった顎をさすりながら、鋭く灰色の瞳を持つその目に力を蓄える。使い込まれた黒い ハットをぐっと額まで押し込み、ペッパーはゆっくりとその馬の背中にまたがった。いつもの通り、馬 のタテガミを数本引っこ抜き、手綱に結ぶ。キカッケはライダー自身が準備が出来たら頷く事だ。ペ ッパーはゆっくりと呼吸を整えて集中してゆく。こくんと頷いた次の瞬間、サークルのドアが開けられ、 同時にその馬の足を縛る綱がギュッと締め上げられた。会場へ飛び出した馬は、狂ったように身をよじ り、背中を丸めて飛び跳ねる。ペッパーは片手を挙げ左右と上下へ振られる体をまるで馬と一体となっ たようにぴたりと腰を馬上に吸いつけ、全身を使ってバランスを取った。会場からもスタッフからもそ の見事な乗りっぷりに歓声が上がる。規定時間を告げるブザー音を聞き、ペッパーは自ら馬の背から鮮 やかに飛び降り、ハットを脱いではちきれんばかりの笑顔で天に両手を突き上げた。
「ニューメキシコ、ペッパー・ルイス・・でました83.2・・ぶっちぎりの1位です!」
 地鳴りのような歓声がペッパーを包む。雄叫びを上げ、体を大きく逸らしてガッツポーズで喜びを全 身で表すペッパーは、まるでロックスターにでもなったかのようだった。



「でっさー、その馬が予選の時他のヤツが乗ってるの見て、あの馬に当たったら最悪だなーって思って た訳。そうしたら、ファイナルでオレの乗る馬見たら、その馬でさー!やばいって思ったんだけど、ま あオレだし、乗りこなせない訳がないって思った訳よ。あいつもあいつで、予選より思いっきり跳ねる は捻るわで、ホント試合前にメシ食っとかないでよかったって思ったね。馬上でゲロるかと思ったぜ」
 だだっ広い赤い土の平原を百頭ほどの牛が移動している。ウエスタンブーツにラングラーのジーパン、 上着は分厚い防寒着にクリーム色のハットを額まで被ったソニーは、牛の歩みに合わせてゆっくりと馬 の歩みを進めていたが、その牛を挟み込んだ反対側から聞こえてくる親友の興奮したおしゃべりを、う んざりした表情で聞いていた。ペッパーのベルトには黄金に輝く全米大会の優勝バックルが輝いている。
どうして牧草地の移動という作業するのに金ぴかのバックルをして来るんだ・・・
その前に昨日の夜にテキサスでロデオ大会で優勝した奴が、なんでもうニューメキシコで馬に乗ってい るんだ?
 2日かけて牛達を移動していたソニーが野宿して馬装していると、聞いた事のある声が馬の駆ける音と ともにソニーの所にやってきた。唖然としているうちにペッパーは話し始め、朝から昼を過ぎた今まで 自分の予選からの話をずーっとしゃべりっぱなしなのだ。それも同じテンションで。
「なあなあ、分かったか?俺の戦いっぷりがさ!」
 やっと終わったらしい。
「なあ・・・なんでいるわけ?」
 やっとソニーは今朝ペッパーと会った時にしたかった質問をする事ができた。
「だってお前、オレの勇姿見に来れないって言うからさ。どうだったかって話して聞かせなきゃいけ ないだろ?」
「別にオレが戻ってからでも良かったじゃないか」
「二日間もこの口にチャックしとけって言うのか!?無理無理、二日も黙ってたらオレ狂っちまうぜ」
 能天気に笑うペッパーを横目で見ながら、こいつのオレ様根性とこのエネルギーは一体どこから来 てるんだか、と呆れてしまう。しかし人を雇う金がなかったので、百頭あまりの牛を2日かけて一人で 移動しなければならなかったのは正直大変だった。そこにペッパーが来てくれた事はありがたい事だ った。
「まあ、でもおめでとう。さすがだな」
 にっこりと笑うソニーを見て、ペッパーも笑顔を返した。
「ありがと!・・・だけど本当はチームローピングで出たかったんだぜ?」
 数年前、二人はチームローピングで全米大会に出る予定だった。しかしそれを突然すっぽかしたの はペッパーだったのだ。その時のわだかまりは解消したものの、それ以来二人で競技に出る事はなく なってしまった。
「一人で勝負する方がお前の性に合ってるよ。そのうちプロにだって誘われるさ」
「ああ・・・んん」
 プロという言葉に反応したのを見てソニーは眉をつりあがる。
「なんだ?もう誘われてるのか?」
「まあ・・・・ほらあのいつかの女社長」
「・・・ああ、モデルクラブの?」
 前にニューヨークのホテルでペッパーを見つけて、下着モデルにスカウトしてきたモデルエージェ ンシーの社長の事だ。あれから音沙汰がなかったが、ペッパーがロデオ大会で注目を浴びている事を 知るとちょこちょこ連絡を入れていたのだ。
「ファイナル終わった後来てさ、スポンサー契約するからプロにならないかって」
「いいじゃないか!」
 うーん、と途端に歯切れが悪くなる。ソニーはなんとなくペッパーが渋っている理由が分かってい た。まずプロになる為には北米で開催されるプロの大会に参加し、成績を残さなければならない。そ うすると来年からプロとして参加できるのだ。ペッパーの場合前面バックアップにモデルクラブが付 くのだから、本人の資金面の苦労はない。しかしもしそうなったら、アメリカとカナダの全土を常に 移動する生活になる。この町に戻って来れる機会ははほんのわずかになってしまうのだ。ソニーは勤 めて明るく言ってみせた。
「牧場の事は心配するな。オレがナッチョから預かったんだから、なんとかするよ」
 ナッチョの牧場を引き継ぐ時、一緒にやらないかとペッパーを誘った。案の定というか、ペッパー はこう言って断ったのだ。
『牧場を持ったら身動きできねえ、オレは自由でいたいんだ。まあたまに手ぇ貸すぐらいならいいけ どな』
 それからペッパーは小遣い稼ぎと暇つぶしで出たロデオ大会で、あれよあれよと優勝しまくるよう になった。一方ソニーは牧場を一人でやっていかなければならないから、つきっきりになってしまっ ていた。成績を上げて戻ってきて、飲みに誘うペッパーだったが、ソニーは忙しいと言って1度も付 き合ってくれなかった。
「でもさー、プロになったらアメリカとカナダをぐるっぐる回らないといけなくなるだろう。お前さ みしーじゃん!」
「いや、別に・・・」
 あきれ返ったソニーはもうついてゆけない、と深くため息をつき首を横に振ると、ペッパーの声が 聞こえない場所まで馬を前進してゆく。
「え、さみしーだろ?オレさみしーぜ、なあ、おいってば!」
 ペッパーは絶叫しながらソニーの後ろを追ったのだった。



 急斜面の丘に立つ女は、強い向かい風によろめきながらもしっかりと目下の広大な土地を見据えて いる。そして人差し指を伸ばし、ゆっくりと腕を上げてある場所を指差した。
「あそこよ・・・」
 その言葉に横にいた二人の男が女の側に寄り、その指の先を見つめた。
「警察に捕まる前に一度あの家に逃げ込んだのよ。二、三日世話になっていた間に、牧場の横の木の 下に埋めたんだけど・・・・」
 女はふうっとため息をついた。
「どうやら切り倒して馬場にしてしまったみたいね」
 その場所は、今牛達がなだれ込むように入ってゆく所だった。男のうちのヒゲのある濃い顔のナブ が双眼鏡で見ていたが、首をかしげて女に言う。
「エス、確かお前が会ったのは年配のラテン男だって言ったよな?」
「ええ」
「今柵を閉めている男は、白人だし結構若いぜ」
 エスと呼ばれた女は、ナブから双眼鏡を奪い取るとその柵の辺りを見つめる。拡大されたその部分 には、確かに金髪の白人で三十代前半ぐらいのカウボーイの姿があった。周りを見つめるが、そのカ ウボーイ以外に人影はない。柵を閉め終わったカウボーイは自分の馬を馬屋へ引いて行き姿を消した。 「本当にこの家だったのか?10年も務所に入ってから、間違えてるのかもしれないぞ」
 小柄で色の黒い男カートは少々甲高い声でバカにするような口調で言う。
「うるさいわね。間違いなくこの家よ!」
 エスが狂犬の様に歯をむき出して睨みつけると、カートは両手を上げてあとずさる。そしてエスは いらいらした視線をその家に向けた。丁度その時、家の明かりが灯る。その平和な風景にエスはなお さら苛立ちを覚えてしまった。
「こうなったら、ちょっと作戦を考えなきゃ・・・」
 エスはきびすを返すと乱れる髪をそのままに止めてあった車の方へ歩き出した。二人の男達も慌て てそれに続いたのだった。


 ロデオで優勝した足でテキサスからニューメキシコまで車を飛ばし、ソニーと合流して夕方一仕事終わらせ、そのまま酒場へなだれ込んだペッパーのテンションはロデオ大会以来一度も落ちる事がなかった。
「いやっほぃ!」
 ビール瓶を両手に持ち、1本一気に流し込んだ後、続けてもう1本も一気に流し込む。見事な飲みっぷりに、周りからも歓声が上がった。ぷはーっと口を開けて袖で拭い、瓶はそのまま床に投げ落とす。今日ばかりはこんな態度のペッパーに誰も文句を言わない。腰に輝く優勝バックルが飲み食いでさえフリーにさせていた。なんと言っても全米チャンピオンなのだ。町中の人間がペッパーの偉業を讃えにバーへやって来ている。いつもは渋い顔をしてペッパーを見つめる年配者もビールを片手に近寄って肩を叩く。
「おめでとう、お前はこの町の誇りだ」
 同世代の悪友達も今日ばかりは賭けのツケを払えとは言ってこない。
「やったな、だけど町のロデオじゃ俺たちも負けないからな」
 女の子たちはまるで自分をスーパーヒーローのような目で見てくる。
「はぁい、ペッパー。今度一緒にダンスしましょうよ」
 でれでれになったペッパーは両手に女の子を抱き寄せるとそのままダンスフロアへ出て行った。ニューヨークで大好評だった妙にセクシーなカントリーダンスを披露すると、女の子たちから歓声が上がる。飲んで踊って騒ぎまくったペッパーはさすがにふらふらになり、近くの椅子へどかりと座り込んだ。
「やあ、ペッパー」
 聞き覚えのある声がして、ペッパーのテーブルについた。それは仲間のデニス達だった。
「やったな!」
 かつんとビール瓶を合わせると、やっとペッパーの顔に本当にうれしそうな笑顔が昇った。ソニーと同じ子供の頃からの同じ町で育ち、町のロデオ大会では常に一緒だった、ペッパーの実力を本当に分かってくれる友人の一人だ。そして彼はこの町の保安官になった。だからこの町での出来事はいつでも把握している。デニスはペッパーの周辺に目をやり残念そうに言った。
「なんだソニーは来てないのか?」
「あいつは、こういう所には絶対来ないし、来たって何にもしやしねえんだ。酒が勿体無いだろ」
 デニスは苦笑いをした。
「そう言うな、今ソニーは大変なんだから・・・」
「どういう事だよ?」
「ナッチョの牧場引き継いだはいいが、経営はなかなか苦しいらしいぜ・・・まあ初めてだから仕方ないけど。あいつ一人でなんでもやろうとするからな」
 もう一人の友人が言葉を引き継ぐ。
「牧場は引き継いでも、資金はないも同然だし・・・」
 ペッパーの顔がどんどん真剣になってゆく。カウボーイの友人はそのまま言葉を続けた。
「手伝うよ、って声掛けても『今はどこも忙しいだろう』って断られるしさ」
 ペッパーはビール瓶を机の上に置いてしまう。そしてとうとう踏み入ってはいけなかった事をデニスは言ってしまうのである。
「そうそう、ジャガーっていただろう?お前が子供の頃、羊ロデオでけんかになってパンツ脱がせて泣かせたあいつ。あいつがこの前、ソニーに一緒にチームローピングで戦わないか?って誘ったんだよ」
 ぴくりとペッパーの眉がつりあがる。ジャガーと言ったらそのガキの頃のそのけんかをずーっと根に持っていまだにケンカを仕掛けてくる。なんとも執念深い男だった。
「ソニーがうんって言うわけないだろ!」
「そうなんだけどさ。ソニーもソニーで金が必要だから・・・。断ってはいるみたいだけど、その辺りに付け込んで、ジャガーも食い下がってるみたいだぜ。なんてたってお前が全米チャンピオンなんてなっちまったからさ。自分も負けてられないって思ったんだろうな」
 だからと言ってなんでソニーを誘うんだよ!これは絶対にオレへの当てつけだ!当てつけ以外考えられない!すっかり虫の居所が悪くなったペッパーは手近にあった新しいビール瓶を鷲づかみにし、どんどん喉に流し込んで行った。
「大体あいつ、オレがコンビ組もうって言ったって、うんって言わなかったんだぜ!」
「お前だってナッチョの牧場一緒にやろうって言われた時、断ったんだろうが」
「・・・・・・」
 その通りだから何も言い返せない。ペッパーは一気に二本のビールを空けると、ドンっとテーブルに両手を突いて立ち上がり、ふらふらとフロアの方へ出て行ってしまった。そして、他の町の仲間とまたバカ騒ぎを始める。残されたデニス達は意味ありげににやりと笑った。
「これで、ソニーを手伝う気になったかな?あいつ」
「さあな、なんってたって本物のバカだからな・・・・」
 うーん、とペッパーの姿を追いながら、不安そうな顔のデニスだった。


 次の日、放牧場へ牛を出して戻ってきたソニーの前にペッパーが笑って立っていた。なぜか肩にローピング用のロープを掛けている。ソニーが今日は何を言い出すかとペッパーを見つめると、案の定ペッパーは上機嫌でこう言った。
「練習しようぜ!」
「・・・・何を?」
「決まってるじゃん!次のロデオ大会の競技の練習だよ」
 ソニーはしばらくぽかんとペッパーを見つめ、そして周りを見渡した。
「・・・どこでブロンコの練習するんだよ?それにお前、1度だって練習した事あるか?」
「ブロンコはもういいの。出ない」
「はっ?」
「ブロンコで出場する気はないの。次はチームローピングだ!」
 やっとペッパーが何が言いたいのか理解したソニーは一瞬顔が綻びかけたが、あわてて引き結んだ。
「そうかそれは良かったな。悪いが俺は忙しいんだ」
 ソニーはすっとペッパーの脇をすり抜け馬屋に入って行く。すぐ後ろをペッパーが追いかけて来た。
「聞いたぜ、ジャガーが誘ってきたそうじゃないか」
「ああ・・・」
 ソニーは馬の鞍を下ろし、リードを外す。
「お前出ないって言ったんだろう?」
「そんな事してる時間ないからな」
「だから、オレとコンビ組めばいいじゃん」
 リードを肩にひっかけ鞍を持ち上げた所で、またソニーは唖然としてペッパーを見つめてしまった。ゆっくりと首がかしげて行く。
「だ・か・ら、ロデオに出る時間なんてないっていってるじゃないか?聞こえなかったのか?」
「・・・デニスから聞いたぜ。経営苦しいんだろ?」
 はあ・・・と脱力したソニーが両手を上に放り投げる。これでなんでいきなりこんな話を持ち出したのか合点が行った。まったくデニスも余計な事を言ってくれたもんだ。
「ソニーのブロンコは・・・まあ悪くはないが稼げねえ。だけどオレと組んでローピングに出場すれば最強だろ?」
「ペッパー・・・・」
 言葉を挟もうとするが、すでに自分の中にプランを作り始めたペッパーはソニーにはお構いなしだ。
「各地に行ってる時は、みんなに頼んで牧場の面倒見てもらえばいいよ。オレも頼んでおくからさ。みんな嫌とはいわねえぜ、それにジュディだっているし彼女顔が広いから、きっといろいろ・・・・」
「ペッパー!」
 鋭く名前を叫ばれ、やっとペッパーは言葉を止めた。えっと言う感じでソニーを見ると、いつもの冷ややかな表情ではなく、顔を真っ赤ににして眉間に皺が寄っている。相当怒っている証拠だ。
「いい加減にしてくれ!もうお前に振り回されるのはうんざりなんだ!」
「ソニー・・・・?」
 ペッパー的には、ソニーがなぜそんなに怒っているのか理解できていない。しかし今度は逆にソニーがまくし立てる番だった。
「前は全米大会をすっぽかされておれは牧場を持つ事をあきらめざる得なかった。なのにお前はオレがやっと牧場を持ったと思ったら、一緒に全米大会を目指そうだと?その間牧場を人任せにすればいいだって?ええ?いい加減な事言うな!ちった物を考えてから言えよ!」
「ソニー」
「この牧場の共同経営を誘った時、お前自由でいたいからって断ったじゃないか。その時からオレとお前は道が分かれたんだ。これからだってそうだ、たとえもしオレがチームローピングをすることになってもパートナーはお前じゃない」
 これがどんな威力でペッパーの胸に突き刺さったか、ソニーには十分分かっていた、分かっていて言ったのだから。ペッパーは柄にもなく蒼白な顔でぽかんと口を開けて横目で睨むソニーを見つめるばかりだった。片腕に巻きつけたロープを握る手が緩んで、ロープが肩から滑り落ちる。ソニーは予想以上のペッパーの消失ぶりに言葉を緩めそうになったが、それでも最後に止めを刺す事を忘れなかった。ソニーは一息吸ってゆっくりと、低い声で言い放った。
「プロにでもなんでもなれよ。一人でやれよ、もう人を巻き込むのは止めてくれ」
 殴られるのを覚悟してペッパーを見つめたが、ペッパーは視線を足元に落としたままソニーを見ようとはしなかった。ソニーはペッパーの横をすり抜けると、そのまま家に入り、バタンと家のドアを閉めたのだった。残されたペッパーはその音を聞いてからしばらくして、くるりとターンを描くように振り返り顔を上げて、まるで捨てられた犬のような寂しそうな顔でソニーの家の方を見つめた。そしてそこにもうソニーの姿がないのにあきらめたのか、そのままあとずさり自分の車へ乗り去って行った。
 家の中に入ってソニーは出来るだけ入り口を見ないようにして、ペッパーの車の音を聞いていた。
『こうでも言わなきゃ、お前プロへ進まないだろう』
 親友としてペッパー・ルイスという男が人の注目浴びる魅力と度胸を備えている奴だという事は誰よりも分かっていた。だからニューヨークに行った時もモデルクラブの社長の目に留まったのだろうし、全米という大舞台でもあれだけのパフォーマンスをやってのけたのだ。あいつはそういう派手な世界で生きてゆける人間だと思う。
 しかし自分はそういうのは苦手だ。自分の故郷に居座り、牧場を持って一生終えればいい。まあできればテレサが帰ってきてくれて、一緒に暮らしてくれれば幸せなのだが・・・。そうは思うものの、テレサはソニーがここを受け継いでから一度も牧場へやって来ないから、その気はないのだろう。
 そうこう考えている間にペッパーの車の音が完全に聞こえなくなった事に気づいたソニーは、腕組みをはずしふうっとため息をついた。そして後味の悪さを消そうと、コーヒーを入れにキッチンへ向かったのだった。



 ジュディは入口のドアに背を預け、腕を組んであきれながら彼の行動を目で追っていた。
朝ペッパーの家にやって来ると、彼は大きなボストンバッグに生活用品を詰め込んでいる所だった。ハットを引っつかんで中途半端に被り、ジーパンのジッパーも開きっぱなし、赤いシャツも半分出て半分ジーパンに押し込んである。明らかに出かける様子で、最初ジュディはカウボーイの仕事でも入ったからなのか、と思った。しかしその憤慨した様子からどうやらそうではないらしい。
「もう知らねえ!オレだっていろいろ考えてんだ!」
 ジュディには怒りの先の相手がソニーである事は察しがついている。
「で?ソニーになんて言われたの?」
 何で分かった、とかそういう疑問はペッパーにはない。ぴたりと足を止めるとジュディをまっすぐ見る。
「ロデオに出たけりゃ一人でやれとさ。プロにでもなんでもなっちまえだとさ!ああ、なってやるともプロになってやる」
 ジュディはやっと事の次第が分かり、空を見上げて両手を放り出した。いつもの事ね。
「ねえ、それがソニーの本心じゃないって事、分かってるんでしょうね?」
「知るか!あいつはジャガーからチームローピングのペアにならないかって言われてるんだぜ」
「ソニーは断ったはずよ?」
「オレの誘いも断りやがった!」
 ペッパーの論理が分からなくなり、ジュディは頭を抑えた。その間にペッパーは荷造りを終え、家の外へと出て行った。
「じゃな!TV中継されるオレにキスしてくれ!」
 しかしペッパーはもう一度ジュディの側に駆け寄ってくると、勢いよくキスをした。
「オレがいない間ソニーと会ったりしたら・・・・・」
 厳しい顔をしてジュディの顔に指を突きつける。途端ジュディの顔が寂しそうにかしげた。大きく息を吸ったペッパーだったが、ふうっとため息をつくと、今度は自分が苦笑いを浮かべた。
「よろしく言っておいてくれ」
 ジュディが途端に笑顔になり、ペッパーに抱きついた。そして今度こそ車に向かって歩いて行き、荷物を助手席に投げ込むと、一度大きく手を上げて自身も車に乗り込んだ。
「アディオス、カウボーイ」
 ジュディは笑顔で、去ってゆく車の背に向かって手を振ったのだった。



「オーラ、カウボーイ」
 完璧なラテン発音で、突然女の声がしたのにびっくりして、ソニーは勢いよく声の方を振り返った。
 早朝の馬の手入れを終えて休憩しようとほっと一息ついた所だったし、女性が自分を訪ねて来る事などほとんど考えられなかった事が余計にソニーを驚かせていた。
 近づきながらニコニコ笑っているその女性は、ラテン系で風貌はテレサとよく似ていたが、もっと年上だろう。小柄ながらとてもグラマラスで、ぴったりとしたジーンズの足はすんなりと伸びており、逆に大きめのダッフルコートが、たっぷりと長い黒髪と相俟って彼女の体を魅力的に見せていた。ソニーは戸惑いながらも礼儀正しくその女性に応対する。
「オーラ、セニュリータ。何かご用ですか?」
 女性は笑顔を絶やす事なくソニーを見つめる。
「ええ、ちょっと聞きたいんだけど、前この家にはナッチョって言うキューバ人が住んでいたと思うんだけど・・・?」
 ソニーは首を縦に振った。
「んん、ああ。そうだよ。ここはナッチョの家だった」
 その返事にその女性は本当にうれしそうに両手を胸の前で組み飛び上がった。
「よかった!家を間違えたかと思ったの」
 ナッチョの名前が出てきた事で、急に親近感を覚えたソニーはよそ行きの笑顔を引っ込め、あの人懐っこい笑顔を浮かべた。
「ナッチョの知り合い?」
「ええ、ずいぶん昔だけれど・・・。それで、ナッチョは?」
 ソニーはとても寂しそうに彼女を見つめて言う。
「彼は死んだんだ・・・」
「そうなの・・・」
「友達だった・・・・。だから今はオレが引き継いだんだ」
 彼女は戸惑った視線をソニーに向けた。そして今気がついたと言うように片手を差し出す。
「私はエリス、みんなエスって呼ぶわ」
「オレはソニーだ、よろしく」
 エスは、手を離すとバッグをごそごそとさぐり、中から封筒を取り出した。
「実は・・・・ナッチョにお金を返しにきたのよ。」
ソニーは、とりあえず家の中に入ろうと促した。エスを南向きで牧場を見渡せるテラスへ座らせる。エスは何気なく懐かしそうな顔をしながら、素早く位置を確認していた。ソニーがお茶を持ってやってくると、エスはテラスから見える馬場の辺りを指差した。
「少しずつ変わっているわね。そうそう、前来た時はあの馬場のあたりに、木があった気がしたわ」
 エスの向かいに座ったソニーはにっこり笑って、同じ場所を見た。
「ああ、丁度馬場にある水桶の所にあった木だろう?どうしても馬場を作りたくてね、切り倒して土地を広げたんだ」
エスはふーんと頷いた。何気ないフリを装いながら、その場所を記憶にとどめて置く。
「もう十年も経ってしまったし、彼がなくなってしまってたなんて知らなかったから。あなたでよかったら受け取って欲しいわ」
そして先ほどの封筒をソニーに差し出して来た。しかしソニーは突っぱねるように両手を胸の前で広げる。
「その金はナッチョに返す為の金だろう?彼はもういないんだから、返す必要はないよ」
「でも・・・」
「そういう気持ちだけ、ナッチョに伝えてやってくれ」
 こういうタイプの男は、一度言い出したらテコでも意見を曲げない、とエスは長年の経験から分かっている。エスは持って来た封筒をまたバッグにしまった。もちろん、本当に金を返しにきた訳ではない。この新しい住人の性格を知る為に一芝居打ったのだ。
歳は二十代後半か三十前半だろうが、歳に似合わない落ち着きのある男だわ。なかなかのハンサムだし笑顔は素敵だけど、真面目で頑固、それも相当頑固だわ。これだけ頑固だと、後々やりにくい・・・とエスは心の中で舌打ちした。エスはお茶をもらいソニーとナッチョの話をしながら、ぐるりと部屋の中を見渡していた。物は多いが散らかっている訳ではない。こういう所にも性格が出る。ソニーとの会話で冷静に人物分析を行ったエスは、この後どうやってあの木の場所を掘り起こすか、思案しだした。
「じゃ、私はこれで。お茶ごちそうしてくれて、ありがとう」
「とんでもない」
 立ち上がりドアから出たエスは、そうだ、と言って振り返りソニーに向き直る。
「ああ、もし良かったらナッチョのお墓教えてもらえる?寄ってみようと思うんだけど・・・」
 ソニーは両手を組んで顔をしかめ、しばらく黙り込んだ。
「うん、ちょっと説明しづらいな・・・・今からでよければ、案内するけど?」
「え?本当?」
 ひっかかった、という笑みをうれしそうな笑みとすり変える。
「ああ、ただメキシコとのボーダー(国境)あたりなんだよ。戻って来るのが夕方になってしまうかもしれないけど、それでもいいなら」
 エスは即座に頷いた。これは十分な時間稼ぎになる。
「でも牧場はいいの?」
「丁度朝の作業も終わったし、次は夕方からだから帰って来てからやればいいさ」
「ありがとう!・・・ちょっと待って、車に荷物があるから持って来るわ」
 そう言ってエスは自分の車へ行った。ソニーはそれを目で追う事もなく、自分の車のキーを探しに部屋に留まる。ちらりと視線をソニーの方へ飛ばし、気配がない事を確認すると、車のドアを開けた。車の中には、ナブとカートが窮屈そうに隠れていた。
「分かったわ、馬場の水桶の下よ。彼何も知らないみたいだから、まだあの下にあるかもしれないわ。それから夕方まで連れ出せるから、それまでになんとか探すのよ。分かったわね」
「OK、任せとけ」
 エスは二人に荷物をさぐるフリをしながら手短に伝えて、ソニーの方へ戻った。



 車を走らせている間、ペッパーはぶつぶつ言いながらハンドルを握っていた。
「本当にもう知らねえからな、もうソニーとおれは関係ねえんだからな」
 ところがである。こういうときに限って、目の前から赤いソニーのトラックがやってきたのが見えた。ペッパーはたっぷりと嫌味な顔を向けてやろうと構えたが、近づいてくる車のソニーの横に見慣れぬラテン系の女性が同乗しているのを見つけ目を瞬かせる。なおかつその女性と楽しくおしゃべりをしていた風なソニーは、すれ違うペッパーの車にも気がつかず、そのまま通りすぎていってしまったのだ。
「・・・・・何だよ!もう本当に知らねえ!あいつとは金輪際顔も合わせねぇぞ!」
・            ・
「ねえ、なんかさっきすれ違った車の人、すごい顔で睨んできてたけど・・・・」
 ソニーはちらりとバックミラーを見てその見慣れた車の後ろ姿を確認した。
「ああ、なんでもないよ」
 ソニーはその一言で片付けてしまった。その後、ペッパーの車が猛烈なスピードでこの町を出て行った事には誰も気がつかなかった。
 
(2006/5/02)


 エスがソニーを家から離している間に、男二人は早速エスの言った水桶の下を掘り始めようとした。馬場には馬が三頭放されていて、ナブとカートがスコップを持って入ってゆくと、二頭は体を正面に向けて前足を掻いて威嚇して来て、もう一頭は奥でじっと二人の様子を伺っている。
「馬は出しちまおう」
 威嚇する二頭にスコップをぶんぶん振って混乱させる。両足を高く上げて襲い掛かろうとするのをなんとか逃げ回って、開けっ放しの柵から二頭を追い出す事に成功した。残りの1頭はじっと見つめたままで特に二人に寄ろうともしないので、男二人は早速作業に取り掛かる。水桶をひっくり返してどけると、そこに台として残されていた切り株を発見した。二人は顔を見合わせにんまりと笑うと、その周辺をスコップで掘り始めたのである。

 すっかり夕暮れで赤い大地が燃えるような色になっていた。ソニーとエスはすっかり打ち解けた様子で談笑しながらソニーの家の側まで戻って来た。
ところがである。ソニーは路上に自分の馬がうろうろしているのを見つけて眉をひそめた。
カウボーイが乗る馬はクォーターホースという小ぶりで後ろ足のしっかりした種類の馬である。競馬で使われるサラブレッドより冷静な馬だ。特にソニーが持っている三頭の馬は自ら選定した抜群に優秀な馬である。多少臆病だがパニックを起こして柵を飛び越えて逃げ出すなんて事は今までもなかったし、ありえない事だった。ソニーはゆっくりと馬の側で車を止めた。
「どうしたの?」
「車の中で待っててくれ」
 ソニーはエスにそう声をかけると、慎重に外へ出た。周りを見渡すが人影もないし、何か他の動物がいる気配もない。ソニーが馬のムクチを抑えて首を撫でると、馬は少し興奮した様に足をばたつかせた。
「よーし、落ち着け、いい子だ」
 声を掛けてゆっくりと首を撫でると、馬はすぐに首を下げた。ソニーは先頭に立って馬を引きながら家に向かった。家の入り口に馬を繋いだ後、家の裏の方で変な物音が聞こえて来る事に気がついた。するとサクッサクという音がしている。もしや馬泥棒だろうか・・・。ソニーは隠れながら、そっとその音の方へ向って行った。家の物陰から気づかれないように覗きいてみると、ヒスパニックの大きい男と小さい男がぐだぐだになりながら、スコップを振り回している。
「おい、どうだ?」
「いや、ないな・・・・」
 ぶつぶつ言いながら、二人の男はまた腰を屈めた。一体何をしているんだ・・・・。
 馬場の中はまるで大きなもぐらが出入りしたかのように大きな穴が数箇所あり、その側に土が積まれていた。一体馬場なんかを掘り返して何をしているんだ?話声の内容からするとどうやら何かを探しているようだが、こんな所から出てくるものと言ったら、動物の死骸ぐらいだろう。馬場には男達以外に1頭馬が残っていた。その馬は高齢の牝馬で、ナッチョが可愛がっていた馬だった。その馬はまったく動こうともせず、男達を見つめていたが、ソニーが覗いているのに気がついたのか、顔をソニーの方へ向けてきた。そして突然首を上下に振り、前足を掻いて「ヒヒーン」と鳴いたのである。ソニーは思わず馬に向かってしーっと指を立ててしまった。
「どうしたの?」
 とその直後、今度は背後かたエスの声が声をかけてきた。ソニーはシーっといいながら腕を後ろに振り上げる。
「静かに、こっちに来ちゃだめだ・・・・!」
 耳元でガチャリと機械的な音がして、同時に振り返ったソニーの額にぴたりと銃口が定められていた。エスは落ち着き払った様子で笑顔を向ける。
「ロシエント、カウボーイ」
 口調だけは申し訳なさそうだが、エスの態度はこういう事をし慣れている女だという事を語っている。一体全体何がどうなっているのかまったく理解できなかったのだが、とりあえず自分は今かなり危険な状態であるという事だけは分かったのだった。
 拳銃を突きつけたままエスはソニーに前に進むように首を振る。ソニーは向きを変えて馬場の方へ歩き出した。ソニーとエスが姿を現すと途端に二人の男が緊張した面持ちになった。
「なにやってんのよ!まだ見つからないの!」
 強烈なスパニッシュでエスは二人を怒鳴りつける。
「そういうが、エス。それらしきもんはどこにもないぜ」
 ナブが両手を広げて穴だらけになった馬場を指し示した。水桶が外に転がされ、その辺り中心に深さ1メートルほどの穴がたくさん空いている。ソニーは間近にそれを見て、これじゃ畑に作る変えた方が早いかもしれないな、とのんきに考えていた。男達ののんびりした態度とは対象に、エスは怒りでイライラした声を上げる。
「本当にその水桶の下に木があったんでしょうね?」
 銃口でソニーを小突くと、ソニーはゆっくり頷いた。
「ああ、切り株があるだろう?それがあんたが言っていた場所にあった木に間違いないよ」
 確かに、と男の一人がかつんと切り株を叩いた。
「とにかくもっと掘ってみなさいよ。8万ドルなのよ」
「8万ドルだって!」
 ソニーが思わず声を上げてエスを凝視すると、エスはふんと鼻で笑った。
「最初ナッチョと知り合いって言ったけど、強盗やって逃げる途中で車が故障して・・・事情を知らないこの家に飛び込んだのよ。ナッチョは何も聞かずに車を修理してくれて、1日泊めてくれたわ。本当にいい人だったわ。で、ついでに奪った金を木の下に隠させてもらったってわけ。あなたがここを馬場にした時に、見つけられればよかったのにねぇ」
「分からないぞ、もうナッチョが見つけた後なのかも知れないぜ。そうしたらおれは何も知らないからな」
 もちろんそれがない事はよく分かっていた。もしそんな大金が見つかったら、この牧場の経営がこんなに火の車なわけがない。しかし、三人はその言葉に見事にタジろいだ。
 ソニーはその隙を無駄にせず急にしゃがみ身を反転させ、エスの銃を下から上に掴み上げた。エスの方は驚いているうちにソニーに掴みかかられていたという驚きで、ただ銃を放すまいともみ合いになった。二人の男は慌ててシャベルを振り上げソニーへ向かってくる。
 とその時、「ヒーン!」と馬のいななきが聞こえたかと思うと、今まで馬場の隅っこでじっとしていた馬が両足を上げて二人の男にのしかかろうとしてきたのである。
「う、わああああ!」
 間一髪で踏まれるのを免れた二人だったが、カートが体制を整える前に馬が首を下げてその背中を突き飛ばした。ふっとんだカートの体がソニーともみ合いになっているエスに当たり、エスが持っていた拳銃が宙を飛ぶ。
「ナブ!拾いなさい!」
 その声にナブが拳銃を拾った。エスはそれをソニーに向けるものだと思ったら、ナブはなんと襲い掛かろうとする馬に向けたのである。
「やめろ!」
 あわててソニーが男に飛びついた銃口を上に向けた途端ソニーの頭の上で拳銃が1発暴発した。それに驚いた馬はパニックになり、もみ合っている二人の中に突っ込んできた。再び拳銃がナブの手から飛び、掘られた穴の中へ転がった。ソニーはナブの顎を一発殴り気絶させた後なんとか立ち上がり、馬を落ち着かせようと首に手を回した。その直後、背後から銃声がして、ソニーに右足の腿に焼かれたような痛みが走った。思わず膝を付き馬から手を離して足を見ると、ジーパンが裂けて血が滲んでいる。痛みに顔を歪めながら後ろを見ると、髪の毛を乱し土まみれになりながら拳銃を構えているエスがいた。
「まったく・・・・手間かけさせんじゃないわよ!」
 女って・・・信じるもんじゃないな。出会った時との豹変ぶりに、ソニーは足の痛みよりエスの怒鳴り声とその形相に青ざめたのだった。

「本当よ、嘘じゃないわ」
 エスは必死の形相で電話に訴えていた。時計を見ればもう12時近くなっている。さっきまで懐中電灯を3つぐらい照らして、馬場を掘り起こしていたのである。足を撃たれたソニーは、その間エスの横でロープで縛られて転がされていた。馬はすっかり落ち着いたものの、前と同じ場所から一歩も動かなかった。そしてナブとカートが近づくと頭を下げて前足をかくので、二人はまったく近づけなかったのだ。
 そして肝心の物は見つからずじまいだった。切り上げたエス達は、ソニーの家の中に入り、ソニーも連れてこらえらたのである。ただし、外以上にぐるぐる巻きにされていた。
「この場所も埋めた場所も合っているの。ええ、カウボーイの言う場所も私の記憶と間違っていないと思うけど・・・。ナッチョが金を見つけたようにも見えないわ。・・・・ええ、このカウボーイも知らないって言っている・・・本当よ・・・・ええ、ええ、分かったわ」
 と話の途中でエスはちらりとソニーに目線を送った、まるで荷物か何かを確認するような目つきだ。
「いいわ、なるべく早く行くから・・・・」
 電話を切ったエスは冷たく言い放った。
「とにかく金の代わりにこのカウボーイを連れてこい、って」
 怪訝な顔をしたのは男たちだけではない。ソニーも目を見開いた。
「何のためにこの野郎を連れて行くんだ?」
「私たちが言っている事が嘘じゃないって言う証明と、このカウボーイが金をくすねていないか確かめたいんでしょ」
 だからくすねていないのに・・・。もう言葉にする元気もなかったソニーはわずかに首を横に振った。なんとか反撃したいのだが、こうも膝下から肩あたりまでぐるぐる巻きにされては首ぐらいしか動かせない。まるでハムになった気分だ。
「ごめんなさいね、もうちょっと私たちに付き合ってもらうわ、カウボーイ」
 エスはソニーを覗き込み、会った時に見せた優しげな言い方でにっこりと微笑んだ。ソニーもとても礼儀正しく笑顔を返す。(どんな奴でも)レディには行儀よく接するものだ。
「付き合うのは構わないが、外出するならハットだけは被せてもらいたいもんだね、セニョリータ」
「もちろんよ」
 そう言うと、取り巻きの一人に顎をシャクってみせた。男の一人がソニーの頭にハットをギュッと押し込んだ。そしてエスは笑顔を浮かべたまま、銃の柄を上に持ち直すと、力任せにソニーの横っ面を殴り倒したのである。
「アディオス、カウボーイ」
 くすくす笑うエスの声と、二人の男に足を蹴られたのを最後に、ソニーの意識は吹っ飛んだのだった。



「イーハー!!!!」
 ペッパーは柵にしがみついて他の競技の準決勝の様子を眺めていた。そして大きなため息をつく。
「はあ・・・・」
ペッパーのその格好は以前のアマチュアの頃の姿と一転して、まるでカウボーイ雑誌の表紙に登場しそうなモデルのようだった。汚れたまま使っていたブーツはきれいに磨き上げられ、拍車もピカピカ輝いていたし、よれよれで今にも破れそうだったジーパンと着古されたジャケットは捨てられて、新品のジーパンと黒のレザーの上等なジャケットに変えらた。そのジャケットはそこら当たりじゅうにスポンサーネーム入りのワッペンだの何だのをベタベタ貼られている。ハットも変えられそうになったがコレばっかりは譲らないとペッパーが口を尖らせた為、スタイリストが丹念にブラシをかけてまるで新品の様な風合いにしたのだった。
「うん、すごくかっこいいわ」
 メインスポンサーとなったあのモデルクラブの社長は、用意した服を着たペッパーを満足そうに眺めた。そりゃペッパー・ルイス様に着こなせない訳がない、と自信たっぷりにポーズを決めていたものの、実の所はクタクタだったのだ。
競技については全然問題がない。今日も午前中の準決勝で2位に着けてファイナル出場は確定している。慣れないのはスポンサーが設定したインタビューやら写真撮影やらがやった事もないし、勝手が分からず戸惑うのだ。立ち直りは早い方だと思ってはいたが、ソニーと後味の悪い別れ方をしてしまったから、それも重なってちょっと気分的に沈んでいた。
 ロデオでも見れば気が晴れるかと競技場に来てみれば、会場では丁度チームローピング競技をやっていた。3つの柵の真ん中に子牛、両側に投げ縄を持った2人のカウボーイ、3つの柵が同時に開き子牛と2人の馬が飛び出す。まず1人が牛の頭に縄を掛け、その後にもう1人が足を掛ける。子牛が地面に倒れるまでの時間を競うのだ。さすがにプロ達だけあって、ぴったり息も合っているし、タイムも早い・・・・だけど。ペッパーはあれだけ頭にきていた事も忘れて、出場者に自分とソニーの姿を重ねていた。自分達だったらもっとうまくやれる。なのに、なんで俺は1人でやってるんだろう・・・。
 そんな事を考えて、もう一度ため息をついた時・・・。
「お前がペッパー・ルイスか?」
 いやーな予感がした。ペッパーが声の方を振り返ると、そこには知った顔があった。いや、直接は知らないがプロの間では有名人なのだ。プロロデオのブロンコ競技の昨年の全米優勝者、そして準決勝でも1位に着けたロブ・エイドリアンだ。
「そうだけど?」
 ロブはペッパーの姿を下から上まで舐めるように見回した。そしてバカにしたように鼻で笑うと、口端を吊り上げて嫌味たっぷりに言った。
「田舎カウボーイがそんな格好しても牛の糞臭さがぷんぷんするぜ」
 取り巻きたちがけらけら笑う。正直言って何がおかしいのかさっぱり分からない。しかし、お返しにロブを下から上に見回したペッパーは、ああと思ったのだ。こいつはカウボーイじゃねえんだ。上背や胸板はペッパーよりあって、ぱっと見はカウボーイだが、まったく日に焼けていない肌に傷ひとつない手などありえない。こいつは農場で馬の世話や牛を追いかけるなんて事してない、ただのロデオ競技者なのだ。そういや、父親エイドリアン氏はプロロデオの理事会の1人だったっけ・・・・。
「ふん、平べったい場所でしか馬に乗ったことねえような奴にどうこう言われたくないぜ」
「なんだとー!」
 こういう時に先にキレるのは取り巻き連中と決まっている。今回もペッパーに迫って来たのは取り巻きの中のデブだ。それも100kgは絶対に超えている。見た目はゆで卵にカウボーイのペイントをしてその頭にチョコンとハットを乗せた様だ。おいおい、こんなナリで馬に乗ってるなんて言ってんじゃねえだろうな?ペッパーは嫌悪感丸出しでデブ男を眺めた。
「アマチュア上がりが、いきなり来てロブに勝てるなんて思ってんじゃねえぞ」
「あー、そう。こっちは、はなっから気にもしてなかったぜ」
 顎を上げ口を尖らせたペッパーに、デブ男が顔を真っ赤にしてペッパーの胸倉を掴もうとした。だが、それを止めたのはロブだった。
「おいやめろ。こんな所で事を起こしたら、TVカメラに映るかも知れないだろうが」
 ちらちらカメラの位置を確認しながら、ロブは静かにペッパーに近づくと顔面だけ友好的な笑顔を浮かべてペッパーの前にやってきた。笑いながら怒るって不気味・・・。
「いいか、覚えとけ。プロってのはな実力だけじゃダメなんだよ。それを思いっきり味あわせてやる」
 ペッパーは片眉をつり上げ、にっと笑い返した。
「んじゃ、明日のファイナル楽しみにしてるぜ」
周りからは明日のファイナルの健闘を誓い合っているように見えているだろう。ロブはペッパーの肩をポンと叩いて去って行った。物陰に引っ込んだロブは途端にその笑顔を引っ込め、怒りで大きく顔をゆがめ憎々しげに言ったのだった。
「明日のファイナル、あいつの乗る順番確認しておけ!」
 先ほどのデブ男がにっと笑った。
「じゃ、いつもの手を?」
「ああ、それだけじゃない。しばらく出場できないようにしろ」
・                    ・

 今日は最悪な日だな・・・・。ペッパーは柄にもなくもう一度ため息をついた。ロデオを見ていて何となく上がっていたテンションがまた一気に下降した。この後、競技じゃなくて本当によかったぜ、と思いながらペッパーはクラブハウスの方へと足を向けた。
と、視界の隅に映った誰かが自分に向かって手を振っている。視線をその人物に合わせてみると、スタイルのいいラテン系の女性が自分の方を見て手を振っていたのだ。
「ペッパー!」
「テレサ!」
 ペッパーは大きく手を開きビックスマイルでテレサを迎えた。ぎゅっと抱きしめあって離すと、ペッパーはそれが本当にテレサかどうか確認するように肩に手を掛けたまま顔を覗き込む。テレサも心底嬉しそうに破顔し、ペッパーを見つめていた。
「どうしたんだよ?」
「ジュディに聞いて、見に来てあげたんじゃない。おめでとう!初めてのプロ戦でファイナル出場、それも2位って本当にすごいわ!」
「まあペッパー・ルイス様だからな」
格好はすっかり変わってしまっていたが口調の変わらないペッパーに好意的に視線を向けた後、一歩退くとすっかりプロライダー姿になったペッパーをまじまじと眺め、ワオと声を上げた。
「カッコイイー!」
 一瞬おちゃらけてポーズをとったペッパーだったが、ちょっと照れくさそうに笑いテレサの背中に手を回すと、会場の外へとエスコートしたのである。ペッパーはテレサと一緒に併設された遊園地へ入って行った。そこは競技場の裏側と一転、親子連れやカップルが乗り物やゲームを楽しんでいて、自然とペッパーの肩から力が抜けて行く。ペッパーはアイスクリームを2つ買い1つをテレサに渡した。二人は柵にもたれながらアイスクリームを食べ始めたのである。テレサはちらりとペッパーを見た後、声をかけた。
「ソニーは来てないの?」
「んん、来る前に大喧嘩した。ま、ケンカしてなくったってあいつはオレの試合なんて絶対に見に来ないだろうけどな」
 ふぅーんとあいまいに返事をしたテレサは黙ってアイスクリームを食べ出す。ペッパーは少しの間テレサの様子を見つめていたが、ふうっとため息をつき話しかけた。
「お前さぁ・・・・こんな所にソニーが来るのを待ってるよりも、牧場に会いに行けばいいじゃん。あの牧場はテレサの家だろ?」
 テレサは思わずアイスクリームを噴いてしまいそうになり、口元を押さえる。びっくりした顔でペッパーを見ると、あの人懐っこい笑顔に心配そうな色を浮かべて自分を見つめている。
「知ってたの?」
「だーれが見たって、そうに決まってるだろー」
 今テレサが住んでいる場所からこの大会会場に来る時間とソニーの所へ行くのも距離は変わらない。オレはともかくテレサだったらいつ行ってもソニーは歓迎するに決まっている。
「・・・行きにくいのよ。牧場をソニーに押し付けて、なおかつ学費もいくらか送ってもらってて・・・。私いいって言ってるのよ!ソニー『送っているのはナッチョが残した財産だから気にしなくていい』って言うの。本当なら私がやらなきゃいけない事なのに」
 ナッチョが残した財産ね・・・。そんなのがあったらそんな経営難になるかよ。いつもの頑固者が仇になっているって訳か。ソニーも自滅してるよな、とペッパーは心の中で笑った。
「気にする事ないと思うぜ。あいつ頑固な所があるだろう?自分がこうって思ったら誰がなんと言おうという事聞かないんだよ・・・ソニーに会いたいんだろ?」
 さらっと聞かれて、思わずテレサはコクリと頷いた。ペッパーは思わずケタケタ笑い出してしまい。真っ赤になったテレサに背中を殴られたのである。
「行けないわよ!」
 あーあ、こっちも負けず劣らず頑固だなぁ・・・・。そういえばナッチョも頑固だったもんな、そのその娘なんだから仕方ないか。
「で?いつまでここにいるんだ?」
「今日帰るわ。明日学校のボランティアに参加しないといけないから」
「そっか、じゃソニーが来たらすぐに連絡するからすっ飛んで来るんだぞ」
 テレサはテレながらペッパーを押すが二人とも笑顔だった。最悪の日の締めくくりは、テレサの出現のおかげで一気にテンションが上がった。これで明日のファイナルは絶対に優勝だ!と決意したペッパーだった。




「あ、あ〜あ・・・・・」
 非常に眠そうな態度でペッパーは会場に姿を現した。昨日一晩あのロブ・エイドリアンがなんか仕掛けてくるんじゃないかと警戒していたら、熟睡できなかったのだ。外だろうが中だろうがうるさかろうが普段は全く気にせず休める性格だけに、異常事態といえば異常事態だろう。
なんか嫌な予感がするな・・・・。
 ペッパーは苦い顔をして尖った顎をさする。そんな事を思う事だってかなり異常事態だ。そしてこの日、ペッパーのその予感が的中しまくる事になるのだった。
 大あくびをしながら、スタッフと挨拶を交わし、ペッパーはスポンサーに会う為にクラブハウスへ向かって行った。大会用のランチを横切って来たため、丁度クラブハウスの裏に出た。と、ペッパーは今裏口から中へ入ろうとする女性を見つけて、おやっと思った。
「・・・テレサ?」
 スレンダーで長い黒髪の女性で、ぱっと見テレサに良く似ているように思った。でも、テレサは昨日のうちに帰ったはずだ。自分が長距離バスセンターまで送って行ったんだから間違いない。ペッパーが疑惑を持って見つめていると、きょろきょろしていたその女性の方もペッパーに気がついた。ヒスパニック系の若い女性で、顔はテレサとは違う人物だった。ただ、ペッパーは今度は別の意味でおやっと思った。その顔をどこかで見たような気がしたのである。とりあえずペッパーは、にっと笑ってハットに手を掛け少し頭を下げてみる。するとその女性もにっこりと笑い返しそして中へ入って行った。今の様子からすると、向こうも自分の事を知らないようだ。あれだけちゃんと顔を見ても思い出せないって事は、やっぱり知らない女性だったのかな・・・。
・           ・

 扉を閉めたエスは、入る直前に自分を見ていたカウボーイに見覚えがあったかどうかなどまったく気にしていなかった。大前提としてここは全米ロデオ大会の会場で、さっきのカウボーイはプロロデオの選手だ。自分が出会ったのは田舎の普通のカウボーイ、あんなカッコイイカウボーイではない。それに自分は出所直後なのだからロデオ選手の顔なんて見た事がないし、接点だってない。だから鼻から気にもしなかったのである。とにかくエスは尋ねなくてはならない男の所へ急いだ。
「エイドリアンさんに繋いで」
 ドアの前に立っていた男に手短に伝える。男は無表情のままエスを上から下まで見た後、部屋の中へ消えて行き、そして戻って来た部屋の入口を大きく開けた。
「やあ、エリス」
「こんにちは、エイドリアンさん」
 五十前後の細身の紳士然とした男性が、人懐っこい笑顔を浮かべてエスを見ている。しかし、笑顔を作るその目だけは、とても鋭く彼の本質を表しているようだ。
「金が見つからないそうだね」
「ええ、でも電話で話した通りあるはずなの・・・・」
 ふむ、とエイドリアンは顎をさすって考える。
「分かっていると思うが、差し押さえた物件と店はすでに押さえてある。女達も他の地上げで取ってきた店から調達済みだ・・・・。今さら買えませんでは、話にならないんだがね」
「お金は絶対にあるわ。あの馬場をもっと掘り起こせば絶対に出てくるわ」
 エイドリアンはふむ・・・と顎を押さえて思慮する。エスは何を言い出すか、少し硬直した様子で待っていた。
「よし、私の部下を連れてその牧場へ戻りなさい。もし町のものに怪しまれても、買収したと言うように。重機もあれば持って行ってかまわん」
 エスの顔がぱっと華やいだ。
「分かりました、エイドリアンさん」
 と、その時、ドアが開いて、男二人に運ばれてソニーが部屋に入ってきた。と言ってもぐるぐる巻きの状態で、頭と足を抱え上げられ、部屋に入るなり投げ落とされたのだが・・・。
エイドリアンは上から下までしっかり縛り上げられたカウボーイを興味深そうに見つめた。
「まるで暴れ牛を運んできたみたいだな・・・おい」
 言葉ののんびり加減とは打って変わって、男は鋭くソニーの腹にとがった靴先をめり込ませた。思わずソニーは体を半分に折ってむせる。
「前の牧場主から何か聞いていないのか?」
「知らないね」
 ソニーは顔だけをしっかりエイドリアンの方へ向けて、睨み返した。エイドリアンは、ふむとため息をつくと今度はソニーの血の滲んだジーパンをぎゅっと踏みつけた。これにはソニーも思わず身を硬くし、顔をゆがめた。
「よし、君たちは早く行きなさい。そのカウボーイがウソをついているかいないか。それはこっちでじっくり聞きだす事としよう」
 ソニーは首を曲げエスを見た。エスも薄笑いを浮かべてソニーを見たが、小さく手を振ると出て行った。残された自分を囲むエイドリアンとその部下二人。そんな意味ありげな表情で詰め寄られても、本当に自分は何も知らないのに・・・。いっその事ナッチョが見つけていて使ってくれればよかったのだが、絶対にそういう事はしない男だ。
 ソニーは覚悟を決めて目をギュっと閉じた。ところがである、ふっとソニーから視線を上げたエイドリアンはとても嬉しそうに、こう言ったのである。
「ああ、もうそろそろ息子の競技がはじまるな。おい、競技を見るからこいつをあっちの部屋へ押し込めておいてくれ」



 それは試合中に実行された。
「今回も注目の選手、今年のアマチュア全米優勝のペッパー・ルイス。彼の技術はロブ・エイドリアンと互角。どんなライディングを見せてくれるんでしょうか!」
 楽勝だぜ。ペッパーは自分が乗る馬を見た瞬間そう思いニヤリとした。それよりも警戒しなければならないのは、ロブの手下たちのが何かをやらかすのではないかという事だ。周りに慎重に目を配るが、あの男達の姿は見られなかった。
「・・・・ま、いっか」
 ペッパーは競技に集中する事にした。馬の背かなに跨ると、いつも通りの手順で、馬のタテガミを引っこ抜いて、手綱に縛った。ゆっくりと呼吸を整え、そわそわと動き回る馬の背中に集中する。そしてコクンと頷いた瞬間ゲートが開け放たれた。
派手な歓声と音楽、右へとすごいスピードと前後に跳ねる馬の背の上で、片手を上げて腰を使ってバランスを取るペッパーは、馬の背中ににぴたりと吸い付くように離れない。最初緊張していたペッパーだったが、自然と顔に笑顔がのぼっていた。会場もスタッフ達からもどよめきの声が上がっている。そんなペッパーの見事な乗りっぷりを他の誰とも違う場所からロブの仲間二人が見つめていた。
「こりゃ、ロブが警戒するだけの事はあるな・・・・」
「ああ、さすがアマチュア優勝だけの事はあるぜ」
 どうやら見る目だけはまともの様だ。感心している顔はそれでもニヤついている。
「ま、でも今日であいつの選手生命も終わりだ」
 ブーッとタイムアップのブザーが鳴り、会場は大歓声に包まれた瞬間、男達は行動を開始した。目下でうごめく黒い物体の背中に、大きなギザギザのついた滑車付のブーツで思いっきり蹴り付けた。
「いいか、あいつに向かってまっしぐらだ!行け!」
・                 ・

「でました、ペッパー・ルイス!75点です。この高得点にこの後のロブ・エイドリアンがどれだけ迫れるでしょうか・・・・」
 有頂天になって観客席に向かい帽子を片手に手を振っていたペッパーは、戻ろうと柵の方に視線を向け、目を見開いた。
「なんてこった・・・・」
 柵の向こうから、ブルライディング用の大きなオス牛が自分の方へ向かって角を向けて突っ込んでくるではないか。普通、ブルライディングの時は、目標を拡散させるため、囮になる派手な色の樽やクラウン達がいるのだが、ブロンコの場合そんな人はいない。一番目立つ目標物、それがペッパーだったのだ。まわりはなぜブルが今会場を突っ走っているのか理解できずにぽかんとしてしまっていた。最初に慌てて動いたのは柵の上にいた運営スタッフだ。
「おい!何でもいいから派手なもんを投げ入れろ!」
「ああ、だめだ!ペッパー逃げろ!」
 その言葉が遅すぎる事は会場の誰もが分かっていた。ブルはもうペッパーの目の前にまで迫り、体を突き上げようと体制を低くして突進してきたのだ。
「オレを甘く見るなよ!」
 ペッパーはとっさに牛の片方の角を掴んだ。牛はそれを振り払おうと斜め後ろにペッパーの体ごと吹っ飛ばず。その勢いを使ってペッパーはしっかりと角を掴み、牛の背中へとしがみつくとそのままブルに乗ってしまったのだ。
「わお!」
 乗ってしまった自分が驚いてしまった。かわすだけのはずだったのに・・・。しかし、そんな考えも一瞬で終わった。ブルは激しく飛び跳ねてペッパーを振り落とそうとしてきたのだ。とっさに手綱を掴み片手を挙げて上体をそらせる。
 突然現われたブルがペッパーに突進した時、騒然とした観客は最悪の事態を想像して悲鳴を上げた。しかし、その後見事にブルに跨り、荒くれに乗っている姿を見ると、わーっと歓声があがり、会場は大盛り上がりとなった。ペッパーはものの見事にブルに乗りこなしていたのだ。そうしているうちにブルのスタッフ達が駆けつけ、競技場に色のものを投げ込んだ。ペッパーが飛び降りるとブルはその色物の方へ興味を映した。
「見事です!ペッパー・ルイスはブルにも乗る事ができるプロライダーになるでしょう!」
 興奮気味のアナウンスぬ会場から割れんばかりの拍手、ペッパーもビッグスマイルを浮かべて会場に手を振った。
「くそ!」
 それを後ろの方からみていたロブは、ブルに踏み潰されるのを想像していただけに、まさか株を上げさせる事になろうとは思っても見なかった。周りのライダーやスタッフも「あいつすげえなぁ」とか「ずば抜けた運動神経の持ち主だ・・・」など次々と賞賛の言葉を言い合っている。
戻ってきたペッパーは、ヒーロー扱いだ。みんな口々にブルに転向しろよ、と言う。ペッパーも有頂天になって興奮したように接していた。しかし、遠くで冷ややかに見ていたロブを見つけた時、ペッパーの表情は一瞬真顔になった、しかし次には顎を上げ皮肉たっぷりに両側の口端を上げ、挑戦的に腕を振り上げた。怒りで卒倒しそうになったロブだが、人目を気にしてその挑戦を受けてやるぜ、というようなポーズを作った。
「ロブ・エイドリアンさん」
 背後からとても事務的に名前を呼ばれた。振り返ると紺色のジャケットにネクタイ姿でカウボーイハットを被っている運営スタッフだった。
「ちょっと来て貰えますか?ブルが侵入したと思われる場所から、あなたのお仲間を捕まえたんです」
 なんでさっさと逃げなかったんだ!ロブは心の中で舌打ちをした。



「それはどういう事だ!私の息子が他選手の競技の邪魔をさせたと言うのか!」
 真っ暗な物置の中で、ぐるぐる巻きのまま放かられているソニーは、エイドリアンがそう電話で怒鳴っている声を聞きながら、どうやって脱出しようか考えていた。外からは歓声やアナウンスがすごく近い場所で聞こえている。内容ははっきりしないが、ここがロデオ大会の会場の近くであることだけは分かった。もしかしたらペッパーが出ている大会だろうか・・・。家で気絶してから気がついた時には車のトランクの中だったので、自分がどれだけ移動してきたのか見当もつかない。そしてトランクから出された時は、全身に寝袋のようなもので包まれて、ここへ押し込められたのだ。さっき一度出されて、また逆戻りである。まあ、この息子の不祥事のおかげで、どうやら自分の存在は半分忘れ去られているに違いない。
 明かりといえば、ロッカーや荷物で隠れた歪んだ小さな窓から漏れる明かりだけだ。ソニーはその明かりを頼りにその狭い部屋の構造を見渡してみる。すると窓の側に金属製のフックがかかっているのを見つけた。立ち上がればなんとかなる高さだ。ソニーは足と背中と顔の筋力をめいっぱい使って、一気に立ち上がった。足に激痛が走ったが歯を食いしばって持ちこたえた。その時、いろいろなものが崩れたり落ちたり、盛大な音をたてたのだが、外に誰もいないのか気付かれた様子はない。呼吸を整えた後、今度は何度か跳躍をして、そのフックに縄の一部を引っ掛けるのに成功した。心配なのはフックがソニーの体重で壊れないかだ。しかしそれ以外に方法はない。ソニーは引っかかった縄に吊るされる形になるのを我慢しながら、全体重と勢いをつけて、縄を引きちぎりにかかったのである。



 プロ大会の初戦で優勝してしまったペッパーは、表彰式でも大盛り上がり、不慮のハプニングでのパフォーマンスも手伝ってインタビュー攻めになった。すっかりここでもヒーローにのし上がってしまった。やっと開放されて人の輪から抜け出したペッパーは、二日続けてこの会場で知っている人物の顔を見る事になったのだ。
「ペッパー!」
 関係者の出入り口付近では、プロライダーを一目見ようと観客が押し寄せていた。ペッパーはそこを通り過ぎようとすると、黄色い歓声が上がる。にっこり笑って手を挙げた時、ペッパーは一番前で柵にへばりつくと言うか後ろから押されて柵に押し付けられている地味なカウボーイが目に入った。ペッパーの目はそこへ向くと、そのカウボーイは必死にペッパーの名前を叫びながら両手をバタバタ振って来た。
「デ、デニス!?」
 ペッパーが驚いてデニスを指差すと、デニスはほっとした表情を浮かべ、それからなんと柵をよじ登り出した。警備員があわてて注意に行くが、デニスはお構いなしだ。いくら今は友人としてペッパーに会いに来たからと言っても、デニスは保安官だ、そんな彼がこんな無謀な行動に出るというのはよっぽどの事だろう。ペッパーはあわてて駆け寄ると、警備員にデニスを中に入れてくれ、と頼んだ。
「どうしたんだよ!」
 警備員が柵を空けるよりも早く、デニスは飛び越えて中に入った。そして、ふうっとため息をついた後、緊迫した表情でペッパーを見つめたのである。
「ソニーが大変なんだ!」
 その一言で、ペッパーはデニスの背中を押して人から離れた場所に行った。
 彼の話はこうだった。警らでソニーの牧場の近くへ通りかかった時、迷子の馬が道端でうろうろしているのに気がつき、ソニーの所の馬じゃないかと家を見に行ったのだ。その途中でソニーの車が不自然に放置されているのを見つけ、そして家に着いてみたら入口に別の馬が仮繋ぎされたまま、家のドアも開けっ放し。絶対にソニーがする行動ではなかった。不測の事態が起こっていると想像がついたものの、デニスは一応ソニーの姿を探しに納屋に向かった。と馬場の方へ回ってみると、そこは穴だらけにされ異常に荒らされていたのだ。これで本格的にびっくりしたデニスは、家の中からその周辺までソニーの姿を探しまわったのだが、どこにもいなかったのだった。
「応援を呼んで、詳しく調べてみると、まずその馬場の中に足跡があって、そこに血痕と新しい銃弾が落ちていたんだ」
 ペッパーは取り乱したりせず、冷静にそれを聞いていた。デニスは言葉を続けた。
「それから家の前にソニー以外の車の跡があった。あの辺では珍しい乗用車のタイヤで、その周りに馬場と同じ靴跡が三つあった。一つは女性のもので残りは男、荒らされた馬場と室内に、引きずられたような跡もあったし・・・・」
 ペッパーは自分でも正直驚くほど冷静に聞き返せた。
「て事はどういう事なんだよ?」
 デニスはとても悔しそうに言いにくそうにペッパーを見た。
「誰かに連れ去られたんじゃないかって事だよ・・・・。なんか心当たりないか?」
 どうやらデニスはそれを聞く為にこんな所までやってきたらしい。
「最近ソニーの所に知らない人間がやってきてたとか、誰かに絡まれていたとか・・・」
 ペッパーの顔を覗き込んで尋ねるが、俯いたまま無反応な様子にデニスは深くため息をついた。
「そうか・・・心当たりないか」
 と、突然顔を上げたペッパーは乱暴にデニスの腕を掴むと、その格好のままデニスと共にゲートの外へ出た。
「車どこだよ?」
「お、おい。まさか今から帰るって言うんじゃないだろうな???」
「当たり前だろうが!」
 デニスの四駆を見つけたペッパーは砂を噛んでギイギイ言うドアを無理やり開けると、さっさと乗り込む。
「ンな事言ったって、戻った所でソニーはいないし、誰に連れ去られたのかも分かんないんだぜ!」
 それでもペッパーはいいから車を出せと言う。デニスはしぶしぶ車を発進させた。
「まったく、お前じゃあるまいし、ソニーがごたごたに巻き込まれたなんて・・・・お前の女癖に巻き込まれたんじゃないのか?」
「女・・・・・おい、ちょっと待て!」
 ペッパーの鋭い静止に思わずキューっと鋭くブレーキを踏む。両手を浮かせたまま、ペッパーは口をぽかんと開けて止まっていた。ペッパーは町でソニーとすれ違った時、その隣に座っていた女性の顔を思いだした。そして、その顔がさっきクラブハウスの裏手で見た女と重なる。
「あの女だ!」
 そう叫ぶと、今度はドアをふっ飛ばしそうな勢いで開け放ち、ペッパーは車を飛び降りたのだった。



 物置の前でソニーの監視をしているのは、エスと一緒に来たナブとカートだった。二人の男はずっとドシンドシンという音が物置の中から聞こえて来るのを我慢し続けなければならなかった。あのぐるぐる巻きの体で、体当たりした所で逃げられるわけがない。そのうち疲れてあきらめるだろうと思って放っておいたのだが、なんと一時間も衰える事なく続いているのである。
「あいつは本当に牛だな」
 ソニーが疲れるのを待っていたら、逆に自分たちの方が疲れてしまった。二人はため息をついて顔を見合わせた。エイドリアンには指示があるまでソニーを外に出さないようにと言われていたが、そろそろ競技も終わり、人がクラブハウスに頻繁に出入りする時間帯に入って来た。人目につかない場所ではあるが、万が一通りかかった人に怪しまれかねない。二人は頷き、ナブがドアのカギを開け、ドアノブに手を掛けた。
「おい、いい加減にしろよ」
 ところがである。部屋を開けた途端、二人にソニーが飛び掛り、訳が分からない間にナブはパンチを、カートは足蹴りを食らった。丁度ドアが開いた直前にフックに引っ掛け続けていた綱の一箇所が切れたのだ。
「おわ!!!」
 ソニーは急いで自分に絡みつく縄を外そうともがきながら、もう1度ナブを殴り倒した。
「この野郎!」
 すぐにカートがソニーを羽交い絞めにし動きを抑えようとしたが、ソニーは器用に足を引っ掛けて転ばす。そしてそのまま廊下を走りぬけ、外に飛び出す事に成功した。しかし、ソニーが出た場所は裏手の駐車場だった。運がいいのか悪いのか、駐車場は真っ暗で人っ子一人いない。そしてどっちに行けばいいのか迷うほどの暗闇で、何も見えない。足を止めまわりを見渡している間に、後ろのドアが大きく開けられた。その内側の光のお陰で、右に沿っていけば建物の壁が終わっている事に気がつき、ソニーは瞬時に走り出す。
 しかし、角を曲がりやっとスタジアムの明かりでまわりの状況が見えた所で、場所を良く知っている二人に追いつかれ、後ろへ引き戻されたのである。
・           ・

 クラブハウスへたどり着いたペッパーは、暗闇の中でなにか騒動が起きているのに気がついた。後ろから後を追ってきたデニスを止めさせると、暗闇に視線を泳がせ耳を済ませる。かすかだが複数人の男が言い争う声がする。少なくともデニスにはそうとしか聞こえなかった。
「ソニーの声だ」
 ペッパーはそう断言した。びっくりした顔でペッパーを見つめるデニス。
「本当かよ?」
「ああ、それにあいつの家の納屋のにおいがする。間違いねえ」
 まるで犬並みの聴覚と嗅覚の持ち主ペッパー・ルイス。デニスが感心している間に、「こっちだ」と呟いたペッパーは暗闇の中に走り出してしまっていた。
「お、おい」
 声を潜めながらデニスは呼び止めようとしたが、すでに目の前には闇しか広がっていない。デニスはしばらくどうしようか地団駄を踏んだが、決心すると、元来た道を引き返したのである。
・           ・

揉み合いの末、ソニーは何とかナブの方を取り押さえる事には成功したが、すぐにカートの方を取り押さえればよかったと後悔した。カートは大きく長い腕でソニーを掴み上げるとその巨体の上に抱え上げ、後ろへ放り投げたのである。ありえない高さから背中を打ちつけ、ソニーは一瞬息ができなかった。
「くそ、あのぐるぐる巻きの状態からここまで逃げたってのか?・・・手間かけさせやがって」
 ソニーが辛うじて上半身を起こし、じりじりと後ずさる。ナブもカートもスタミナが切れてしまったのか、ソニーを囲むように立ってはいるが、膝に手を掛け息を上げていた。
「おい、動くな」
 息も絶え絶えカートはソニーへと手を伸ばす。それでもソニーはじりじりと後ろへ下がるのを止めなかった。
「動くなと言っただろう!」
 とその直後。
「!」
 カートの体に背後からふわりと何かがかかった。カートの目が点になり、それが何か確認しようとする間もなく、それはいきなりギュッと体を締め付けると、ピンと後ろの方へ引っ張ったのである。
「わぁ!!!」
 男はそのまま後ろへひっくり返り、そのまま凄い勢いで後方へ飛んで行ってしまった。そう、飛んで行ってしまったという表現がぴったりのいなくなり方だったのだ。
ソニーもナブも一体何が起こったのか理解できず、ポカンとするばかりだ。とその向こう側から入れ替わるように、猛ダッシュでこちらに向かってくる人物が叫んだ。
「ソニー!」
 クラブハウスの裏手に飛び込んできたペッパーは、目の前で唖然としているソニーを見つけて叫び、ソニーは突然現われた友人の声に我に返ってまた驚いた。
「ペッパー!?」
 目の前で起きている展開を理解する時間が必要なようで、ソニーは唖然としたままやって来る人物が本物のペッパーなのか見つめる事しかできない。その間に、ナブが血相を変えてダッシュする。ペッパーはただ座り込んでいるソニーの横をすり抜けて、そのままスピードを緩めず、男を追った。
「ペッパー!」
 やっと事の次第が飲み込めたソニーは、あわてて先ほど切ってまだ体にまとわり付いていたロープを外し、ペッパーに投げてよこした。飛んできたロープの端を掴み取ったペッパーは、ロープを輪っかに結び、ぐるぐる回すと男に向かって野球の投手のようなフォームで投げたのである。縄は低く飛んで足元にスライドし、ペッパーはタイミングを見て今度はぐっと逆に引っ張る。ロープはナブの片足に見事絡みつき、ナブはまるでローピング競技の子牛のようにつんのめってドーンと横に倒れたのである。ペッパーは思わず小さくガッツポーズをし、ソニーの方を得意げに振り返った。ソニーもそれを見てにっこり微笑む。
 ところが成功に浸っているのもつかの間。今度は騒ぎを聞きつけたエイドリアンの仲間達が銃を持ってドアから出てきたのである。ドアからの光で姿を見つけると、男達はなんと撃ってきた。あわてて建物の角へ飛び込んだソニー。
「ペッパー!大丈夫か?」
 姿は見えないが声はとても近かった。素早く覗くとペッパーはその反対側に駐車してあった車の陰にナブと共に隠れていた。
「ああ、オレよりこいつの方がビビリぎみ」
 ナブは近くで弾の跳ね返る音を聞く度、ひいいーと情けない声を出していた。こちらが動けないと分かると、建物の方から出てきた男達が銃を構えたまま近づいてくる。動けば撃たれるし、このままでは捕まるし・・・・。ソニーもペッパーも何とか逃げ道を探すようにせわしなく周囲を見渡してみた。
と、男達は背後からまぶしい光とエンジン音が近づいて来るのに気がついた。はっとして振り返ると、ハイビームにした1台の四駆が猛然と突っ込んで来たのである。建物から出てきた奴らはぎょっとして慌てて横に退くと、車はソニー達の前で乱暴に止まった。
「ペッパー、ソニー乗れ!」
「デ、デニスー?!」
 またまた友人の登場に素っ頓狂な声を上げたソニーだったが、体制を立て直した男達が再び銃撃を再開したのを受け、あわてて車に乗り込んだ。ペッパーが乗り込む時、ソニーは縛り上げたナブのベルトを掴むとそのまま一気に車の中に押し込んだ。そしてデニスは車を急発進させ、出口へ向かって突っ走ったのである。
執拗に撃ち続けた男達は、暗闇に消えてゆく車体とエンジン音に「くそ!」と口走って足で地面を蹴った。
「とにかくボスに連絡だ」
・           ・

 ソニーはずっと後ろを確認しながら誰も追ってくる様子がないと分かり、ふうっとため息をついた。車の中必死の形相でハンドルに覆いかぶさるように運転するデニスの肩に手を置き。そしてペッパーを見た。
「やっぱりあそこは競技場だったか、まさかとは思ったけど本当にお前がいるとはな」
 捕まえたナブを動かないように縛り終えたペッパーは、ソニーを見て眉を吊り上げた。
「それはこっちのセリフ。デニスが競技場に駆け込んできた時も驚いたけど、まさかロデオの競技場に連れて来られているとはねー。女の顔覚えてた俺の記憶力の良さだね。さすが、オレ」
 ああ、あの時。とソニーが思わず呟いた。それを聞きとめたペッパーは途端に目を三角にして口を尖らせた。
「なんだよ、あの時オレがすれ違ったの気がついていて無視したのかよ!?」
「いや・・・・・。まあ、悪かった」
 そう素直に言われると調子が狂うというもので、ペッパーは口を尖らせたまま引っ込んでしまう。
「なあ、これからどうするんだ?町に戻るか?」
 やっと緊張から開放されたデニスがハンドルから上体を起こし、二人に問いかけた。
「そうだ、家に行ってくれ。例の女とそのボスの仲間が家に戻って金を探すって出て行ったんだ。金を探す為にまた馬場を掘り返しているんだろうよ」
「そうだよ、あの馬場は一体なんなんだ?金ってどういう事だ?」
 ここでやっと自分が何をしにここにやってきたのか思い出したデニスは急き立てるようにソニーに質問を浴びせた。そこでソニーはエスと言う女がやって来てからの経緯を掻い摘んで話して聞かせたのである。
「て事は馬場にはその女がナッチョがいた時に隠した金がまだ埋まってるってのか?」
「ああ、夕方ナッチョの墓から帰ってきたら、こいつとあのでっかい男が馬場をボコボコにしていたんだ」
 話をじっと聞いていたペッパーがここで口を挟んだ。
「でもさー、よく連れてこられてから半日も放って置かれたもんだな。そう言う状況だとすぐにでも締め上げられそうだが・・・」
「ああ、なんか自分の息子が競技に出るとかで、その後その息子が妨害かなんかで失格になったみたいでオレの事構っているヒマなかったようだ」
 ん?とペッパーが反応する。
「それって、ロブ・エイドリアンの事じゃないのか?オレの競技の妨害をしたって失格になったんだ。それに奴の父親はプロロデオ協会の理事だぜ」
 デニスとソニーは間違いないな、と頷いた。
「なんだよ、親子揃って悪党なんだ」
一介のプロライダーにしては穏やかじゃない事を言っていたと思った。あの息子にその父親だろう。さて、とペッパーは縛り上げたナブを覗き込んだ。
「おい、一体どういう事なんだよ!一体何たくらんでやがる」
 ナブはケッと吐き捨て、横を向いてしまった。ふぅーんとペッパーとソニーは顔を見合わせニヤリと笑った。
「そういえば昔、こーんな頑固なヤローいたよなぁ?」
「ああ、あの時は子牛に奴の○○を親牛の乳と思わせて吸わせてギブアップさせたんだっけな」
 その世にも恐ろしい拷問方法を聞いたナブは、光景を想像したのか真っ青になって固まってしまった。ペッパーはふっと外に視線を投げソニーの肩を叩く。
「おいソニー。あそこに見えるのは放牧場じゃないか?子牛もいるみたいだぜ」
 ソニーもそっちの方をみてニヤリと笑った。
「そうだな、だったらこいつもあの時と同じやり方で・・・・」
「わ、分かった!分かった、話すからやめてくれ!」
 もちろん窓の外には真っ暗闇が広がるだけで放牧場などない。こいつは過去にこういう目にあった事があるんだろうかと言う怯えぶりに、二人とも笑いをこらえるのに必死だった。
「エスが会いに来たのはランディ・エイドリアン。あんたの言うようにあの人はロブ・エイドリアンの親父だ。エスは隠した金を手に入れ、それを元手にエイドリアンから南米の女と店と土地を買ってそういう店をやるつもりなんだ。エイドリアンはロデオ競技の理事だし馬の買い付けなんかでメキシコにも頻繁に出入りしてて、そういう方面にも人脈を広げていたようだ。あるルートでは有名な男なんだってよ。これはエスから聞いただけでオレ達は直接奴の事は知らねえ。オレとカートは出所直後にエスと知り合って、その計画を聞かされそれに乗っただけだ。で、いざ金を隠したって場所・・・・あんたの牧場に行ったら、持ち主も様子もすっかり変わって、金の場所が分からなくなった。エイドリアンはもういろいろ用意しちまってるらしく今更金がないなんて言わせない、って怒ったって訳だ。だからエスに金を探しに戻らせ、あんたを締め上げて早々に金を見つけ出そうって手段に出たんだとおもうぜ」
 ソニーは聞き終えると盛大にため息を付いた。まったく自分の関係ない所にたまたま巻き込まれて、こんなひどい目にあったっていうのか?ソニーは今日ほど自分の運の悪さを呪った事はなかった。もしかしたらこいつが全部オレの運を持って行ってしまってるんじゃないだろうか・・・。じろりとソニーはペッパーを見つめる。いきなり疎ましげな視線を投げられたペッパーは、きょとんとした顔でソニーを見返すばかりだった。
ナブといえば自分の役目はもう終わったとばかりに、ちらちら二人の様子を確認しながら、薄笑いを浮かべていた。
「おい、もういいだろう?オレなんかいたってもう何の役にもたたねえぜ。この辺で下ろしてくれよ。勝手に車拾ってどっかいくからよ」
 今度は運転していたデニスがナブを振り返って制するように手を上げる。
「そうはいかないな。こう見えてもオレはあの町の保安官だ。町で起きた犯罪を見過ごせるか」
 それを聞いて、ナブはあきらめた様にぐったりと体をシートに持たれかけさせた。そして思い出したようにはっとしてペッパーを見ると、ぼそっと呟く。
「なあ、そういえばオレの相棒はどうなっちまったんだ?」
 それはソニーも気になっていた事だった。突然引っ張られるように後方に消えたあの男は一体・・・。ペッパーはああと言い、いたずらした子供のように首を竦めて舌を出した。
「ああ、向かいのブル用の檻にローピング用のロープがあって、あのヤローに引っ掛けた後、反対側をブルの頭に引っ掛けてやったんだよ。いきなり暗闇の中寝ていたら首が引っ張られたからびっくりしたんだろうな。猛烈な勢いで駆け出していきやがった。オレがロブにやられた手を応用したまでさ」



 戻ってきたはいいが、この前とは状況が違っていた。すでに警察が立ち入ったらしく、家の入口には立ち入り禁止の黄色いテープが巻きつけられていた。そして、金が埋まっていると思われる馬場の入口にも黄色いテープが張り巡らされていた。多分血の跡と銃弾がみつかったからだろう。幸いだったのは到着が夜中だったので、通ってくる時もここへ到着した時も誰にも遭遇しなかった事だ。どういう見解でこの件が処理されているのかは分からないが、近くにも警察などの姿もない。そしてあの時馬場に残っていた馬も小屋へ入れられていて、馬場は耕し中の畑のように見えた。
「これだけ掘って見つからなかったのか?」
 エイドリアンの仲間の男達は馬場の様子を見て、あきれたように言う。しかし、腕組みをして馬場を見つめ考えをめぐらしていたエスにはその嫌味は耳に入って来ない。あの日、何かひっかかっていた事があった。エスはそれを思い出そうとしていたのだ。
切り株があってそこを中心にナブとカートが穴を掘っていた。途中あのカウボーイが反撃に出て、馬場で乱闘になって、馬をかばって負傷したのだ。その後も馬を避けながら掘り進めたが、何も見つからなかった。・・・・馬?そういえばあの馬は一か所から動かなかったし、近づこうとすると威嚇して追っ払われた。エスはおもむろに歩みを進めてその馬がいた場所へ行った。丁度一馬分、まったく掘られていない箇所が残っている。まさかあの馬が自分がバッグを埋めた場所を知っていて動かなかったとでも言うのだろうか?まさか・・・・
 そう思ったものの、この状況では可能性に掛けて見るしかない。エスはその場所を指で指し示し、毅然とした態度で男達を振り返った。
「ここを掘ってみて」



 ソニー達が町に到着したのは、まだ夜も明け切らない早朝だった。普通にがんばって飛ばしても1日は掛かるだろうという道のりを十時間以下で着いてまったのだから、どれほどがんばって飛ばしてきた事か!しかし、その感動を味わう余裕など誰にもなかった。3人は車のライトを消しそろそろと車を進め、慎重にソニーの家に近づいてみる。
そこには見慣れない黒いセダンが1台止まっており、建物の裏側から明かりが灯っているのが見えた。ソニーの家の四方数キロは何もないのだから、あの明かりは裏側の馬場辺りだろう。確かに彼らはソニーの家に来ているらしい。
「ここはオレ達に任せろ。デニスは事務所にこの男を連れて行ってさっきの話をさせて、エイドリアンの方に手を回すようにしてくれ。オレが逃げた事でいろいろあの男も手を打っているはずだ」
 ソニーが穏やかにデニスにそう告げて車を降りようとし、ペッパーもそれに続く。正直デニスには不安がよぎった。しかし確かにソニーが言うようにそうする事が先決だ。
「なあに、自分の家なんだから楽勝だよ」
そんなデニスの表情を察してか、ソニーはあくまで余裕で言う。デニスは言葉を飲み込み、頷いた。
「わかった。エイドリアンの事は任せとけ。向こうに着いたら、すぐに応援よこすからな」
 ソニーとペッパーはハットのふちを触って少し頷いた後、ソニーの家の方へ走って行った。そしてデニスはそれを見送り、事務所へ戻る為車を逆方向へ走らせたのだった。

 ソニーとペッパーは、迅速に家の裏側に回った。ソニーはゆっくり音を立てないように普段は馬小屋への通路として使っている裏口の戸を開けた。
「え?カギ掛けてないのかよ」
「そういうお前ん家だってカギ掛けてないだろ」
 まあね、とペッパーは頷いてソニーの後に続いて中へ入った。馬場の方の窓から明かりが差し込んでいる。光が当たらない場所から、そっと馬場の方を見ると、グラマラスなエスの後ろ姿が見えた。そしてエイドリアンの所で自分を監禁していた男達は、ナブとカートと同じくシャベルを持って馬場を掘っていた。誰も自分達の存在には気がついてはいないようだ。ソニーはペッパーの顔の前に指を突き出し、着いてくるように指示した。体を低くし、ソファやテーブルの裏側を抜け部屋の反対側へ回ると、ペッパーに見張りを頼んでソニーは素早く身を起こし、壁に掛けてあった銃を2丁取って、またしゃがみこんだ。
「銃使うなんて、あのニューヨーク以来だな」
 ペッパーは渡された銃をうきうきしながら持ってつぶやいた。
「なんとか撃たない方法で行きたいもんだがな・・・・」
 二人はもう一度馬場の様子を見る。3人は周りに気を配るどころか、さらに馬場の方へ注意を向けているようだ。そして何か見つかったのか、エスが馬場の中へ移動してゆく。これで家の側に誰もいなくなった。ソニーが詰めていた呼吸を開放するかのように、大きくため息をつく。
「お前、囮になれ」
 ソニーはペッパーにそう囁いた。露骨に不満な顔をしてソニーを見るペッパー。
「はあ?何でオレが?」
「オレは奴らに面が割れてるんだ。とにかく正面に引き付けてくれ、馬小屋から回って馬場に近づき挟み撃ちにしよう」
 確かにソニーが囮になったら即座に撃ち殺されるだろうな・・・。ペッパーはしぶしぶ頷いた。
「分かった。でもヤバくなる前に出てきてくれよ?」
 そんな気弱な言葉に、ソニーがふっと笑って答える。
「お前はオレを裏切った事があるけど、オレがお前を裏切った事あるかよ?」
 ひっかかる言い方すんな、と口を尖らすペッパーの肩を叩くとソニーはまた裏口の方へ出て行き、ペッパーも正面の入口へと動き出したのだった。
・           ・

 エスが馬場へ入って行ったのは、二人の男がとうとう何かを掘り当てたからだ。二人の男は掘るのに夢中になり、エスの意識もそこへ集中していた。掘り起こされた物は、黒いボロボロのビニール袋に覆われた黒いバッグだった。エスは思わずニンマリと笑う。確かにそれに見覚えがあった。自分が埋めたバッグだ。
「あったわ!」
 その言葉に男達もホッとした。
「これでボスに殺されずに済むな」
 三人がそのバッグを穴から引っ張りだそうと、身を屈めた時である。
「あれ?お前達だれだ?」
 突然見知らぬ男の声がして3人は飛び跳ねるように体を起こした。馬場の外からけげんそうにこちらを見ているカウボーイがいる。
「明かりが見えたから、ソニーが帰ってきたのかって思ったんだけどさ。あれー?ソニーの友達?」
 馬小屋の中を通り馬場へ抜けようと考えたソニーは、馬房にあの3頭の馬が入っているのを見てほっと安心した。ご丁寧に餌と水まで与えてくれたのは、きっと隣の家のケニーだろう。彼は自分が留守をすると必ず馬の世話をしてくれていたからだ。ソニーに気がついた3頭の馬は小屋から顔を出し、そのうちの1頭が前足を掻いて首を振って喜んでいる。ソニーは物置場所から牛用のロープを取り出しそれを肩に掛け、通り抜けながらそれぞれの頭を一撫でた。そして小屋の反対側の出入り口にたどり着くと、そうっと馬場の方を覗いて見た。いい具合に全員ペッパーに釘付けだった。
「わお!お姉さん美人だね、え?ソニーとはどこで知り合ったの?あ、オレソニーの幼馴染のペッパーってんだけど、よろしくね」
 ペッパーは1人で明るく喋り捲って、馬場へ近づきエスに向かって手を差し出す。
はじめポカンとしていたエスだったが、ふうっとため息をつくとわざとらしい笑顔を浮かべてペッパーの側へやって来た。
「ねえ、すぐどっかへ行ってくれて、私達の事を見なかった事にしてくれれば、私助かるんだけど」
 ペッパーは大げさに顔を歪めた。丁度馬房からソニーが出てきてラチ(柵)を超えた所だった。ペッパーはそれを気づかれまいと声を大きくした。
「なんだって!?おいおい、どういう事だよ。オレはソニーの友達だぜ、どこかへ行けって・・・・・あーー!ま、まさかあんた達、例の泥棒か!?」
 バッグを穴の上に置いた男達も、エスの背後からペッパーに近づいて来る。
「な訳ないか!泥棒が泥棒した所に戻ってくるなんて、あるわけないよな」
 一人でしゃべりまくって、とうとうエスが大声を上げた。
「そうよ!だから言う事聞きなさい。じゃないとあなたもソニーと同じ目に合う事になるわよ!」
 そこまで言われても冗談だとした思っていないような表情のペッパーに、事態がやっかいな方向へ向いていると悟った二人の男がスコップを土に突き刺し、背中のベルトに挟んでいた銃を抜こうとした。
と、そこで馬場へ入ったソニーがガチャリとハンマーを起こし、銃を構えて叫んだ。
「動くな!」
 ペッパーの登場とは比べ物にならない程の驚きがエス達を襲った。銃を掴もうとしていた男二人の手は完全に宙に浮き、振り返ったエスは目を真ん丸くしてソニーを見ている。先に我に返った男の一人があわてて銃に手を伸ばそうと試みると、今度はまた反対側で銃のハンマーを起こす音がした。
「おっと、こっちにもいるんだぜ。動くな」
 ソニーは銃を構えながらゆっくり男に近づくと、背中にさしてある拳銃を奪い取った。ペッパーもその間二人の男を慎重に狙っている。エスはソニー達に気付かれないようにそうっとバッグに手を延ばし、持ち手を握りしめた。男二人は両方をちらちら見るが、ぴったりと銃口が自分達二人に合わされているのが分かると、あきらめた様に手を上げる。
「これはオレからのお返しだ」
 ソニーは馬小屋から持ってきたロープを二人の男へかけると、ぐるぐる巻きにした。そして馬を縄で繋げる時にする暴れればどんどん締まって行く縛り方で結び、その端を高い木の枝に引っ掛ける。立ったままの状態で、木に吊るされているような状態の二人は、はたから見るとまるで大きなミノムシが二匹いるようで、ペッパーは思わず笑顔を作った。と、一瞬だけペッパーがエスから目を放した瞬間。エスは思いっきりペッパーに体当たりを食らわすと、ペッパーの体を踏みつけて馬場の柵を飛び越えた。不意打ちをくらったペッパーは思いっきり後ろにひっくり返り、なおかつ柵に頭をぶっつけてしまい、エスが逃げて行く時には目の前に星が飛んで一瞬意識が遠のいてしまったのである。
 男達を縛る途中だったソニーはそれに気がついて慌てて縛り終えると、ペッパーの側に飛んで来た。
「何やってんだよ」
 いらただしげにそう言われ、腕を捕まれ起こされる。まだ頭がフラフラだったが、何度か振って、やっと状況が飲み込めるぐらいに回復した頃にはエスは車に飛び乗って発進し、ソニーが苛立たしげにその後ろを見つめている所だった。ソニーの車!と思ったが、どうやら警察が分析か何かで持って行ってしまったらしく、見当たらない。
「馬で追おう」
 ソニーはそのまま馬小屋へ走る。その手があったね、とペッパーもソニーの後に続いて馬小屋に飛び込んだ。二人にとって馬装する時間は車のドアを開けてキーを回す時間と変わらない。あっと言う間に支度と整えたソニーとペッパーが馬に乗って馬小屋を駆け出して行った。
 いつの間にか東の空が明るくなり始めていた。その事がエスにとって命取りになるなど、今の彼女は知るよしもないだろう。

 それから数分後。
「おーい!ケニー!」
 自分の牧場で馬を出していた年配のカウボーイは遠くから名前を呼ばれて、その声の方を見た。そこにはソニーとペッパーが馬でかけて来るのが見える。
「ソ、ソニー!!お前無事だったのか!」
 その声に家の中にいたケニーの妻も顔を出して、嬉しそうにソニーの名を呼んだ。ところが今は悠長に無事を噛み締めている場合じゃない。ソニーは構わず怒鳴る。
「さっきここを車が通らなかったか?それが犯人なんだ」
 ケニーはさっと顔を強張らせ、頷くとソニー達の先の方を指で示した。
「ああ、通ったよ。凄いスピードだった。あれが犯人なのか!?」
「ああ、そうだ。俺たちは後を追うよ!」
 ケニーはそう言って先を急ぐソニー達に怒鳴った。
「俺たちも手伝うからな!」
 ケニーは出てきた妻の方を見ると妻は頷いて家の中へ入ってゆき、ケニーも今から放牧で乗ろうと馬装しておいた自分の馬に跨り、家の裏道を走って行ったのである。
・           ・

 数十分、猛スピードで走ったエスは後ろを確認しながら、ソニー達の姿がない事にほっとして少しスピードを緩めた。
「ん?」
 T字の道に差し掛かった時、どちらへ行こうか左右を見ると、左の方から牛の大群が道を占領しながらこちらの方へやって来るのが目に入った。その後方には二人カウボーイがついていて、一瞬ギクリとしたエスだったが、違う人物だと気がついて胸を撫で下ろし、右の方へ向かう事にした。
 ところがその後、進行方向からも牛の大群が道を占領しているのに遭遇した。クラクションを鳴らそうが何をしようが牛たちは避けるどころか、迷惑そうにエスに一瞥を向けるだけである。エスは横道へ迂回せざるを得なかったが、その後もその先が行き止まりだったり柵で封鎖されていたりして思うように曲がる事ができない。
・・・という事が多々起こり。
「何なのよ!!」
 数十分後、車を止めてハンドルをバンバン叩きながら叫ぶエスの車の四方は、大量の牛が囲み、モーモーと言うのんびりとした鳴き声牧歌的な雰囲気になっていた。呆然としていると、その窓をコンコンと叩かれ、顔を上げた。窓の外には馬上から体を曲げて車の中を覗きこむペッパーのにこやかな顔があった。そして反対側にはソニーが同じようにそこにいた。
そこでエスは初めて罠にはまったのだと気がついたのである。
「ハイ、セニョリータ。こんな所で迷子かい?」
 もうすっかり戦意喪失したエスは観念して車を降りる。
「分かったわ降参よ。でもこれはどういう事なの?」
 ソニーとペッパーは顔を見合わせニコリと笑い合う。そしてソニーがエスの方も向いた。
「こういう田舎町ってのはある意味町中がファミリーだ、近所の家に声を掛ければあっという間に町中に広まる。それにカウボーイは夜明けと共に仕事を始めるから、この時間は町の中にはどこにでも牛が溢れていたってワケさ」
 ソニー達が追いかけて行った後、ケニーは自分の馬で別の場所で放牧地の移動をするカウボーイの所へ飛んで行った。エスが通った道がこの先どうなっていて、誰の家の近くを通るか、誰の放牧ルートがあるか町中のカウボーイ達みんなが知っている。ケニー達は無線を使ったり、馬で駆けて仲間達に連絡したりして、牛を使い道を通行止めにしたのである。一方ケニーの妻はみんなの家に電話をし、連絡を受けた家が自分達の敷地近くの向け道になる箇所を封鎖してもらったのである。
 後はソニー達が馬で現われると、どの場所に誘導するかを計画し、二人がエスに追いついた時には、エスの車は牛の群れの真ん中で身動きがとれなくなっていたのである。
結局エスはこの町全体から追われていたのだ。見回せば、彼らの後ろにも馬やトラックに乗ったカウボーイ達が得意げに笑っている。今までこの町に来た時、町の誰にも見られなかった事が幸運なだけで、もし誰かに見られていたら、自分はもっと早く捕まっていたに違いなかった。降参とばかりに両手を挙げ、ぐったりと車にもたれ掛かったエスに、ペッパーはみんなを代表するかのようにニッと笑いかけ、得意げに言ったのである。
「これが俺たちのやり方(COWBOY WAY)さ」
ソニーは反対側のドアを開けて、その土だらけのバッグのジッパーを上げた。中には帯で留められたままのドル札束がどっさり入っている。本当にこの金はあったのだ。どうしてナッチョはこれを見つける事ができなかったのだろう。ソニーの後ろからソニーの乗っていた愛馬が、そのバッグを覗き込むようにソニーの肩から首を出して来た。エスはその馬があの日馬場にいたあの馬だと気がついて、ふっと微笑んでしまった。まさかこの馬だけが金の在り処を知っていたなんて、この場の誰も気がつく事はないだろう。
遠くから保安官のパトカーのサイレンの音が聞こえて来る。同じように住民のナビゲートを受けながらデニス達保安官が到着したのは、何もかもすっかり解決した後の事だった。


UP!   UP!   UP!   UP!

 デニスの通報で、移民局が不法入国幇助の疑いでランディ・エイドリアンを拘束する事になった。今回の件は結局エスがすべてやった事で、エスやナブ達の証言があっても結局の所エイドリアンはビジネスをしようとしていただけなのだ。だから南米の女性や労働者を売買し、不法にアメリカ国内で働かせていた方から立件しようとデニスが判断したのである。

 ソニーとペッパーがすべてから開放された時には夕方を過ぎていた。よく考えたら昨日ペッパーの大会が終わった後から何も食べていない上、動きっぱなしだった。二人は町のダイナーでデリバリーし、ソニーの家へ向かう事にしたのである。
戻って来ると、そこにはまた人影があった。ここ数日自分が留守の時に人が来ている事が多いなぁ、とのんきに思って見たりする自分に、ソニーは苦笑した。
車から降りたソニーは、まず自分の家の前につながれている三頭の愛馬の姿を見つけ、目を細めた。二人はその後エスやエスが持っていた金、ナブの事情聴衆があったので馬たちは仲間のカウボーイのケニー達が先に家に連れ帰ってくれたのである。とにかくあんなに走ったのに元気いっぱいで、馬達はソニーの顔を見るなり首を上下に振って前足を掻き喜んでいた。
「ハイ、カウボーイ!」
 その馬にブラシを掛けていた黒髪の女性の後ろ姿ソニーはエスを思い出し一瞬ギクリとしたが、気配に気がついて振り返ったのがテレサだった事で今度は別の意味でびっくりした。
「テ、テレサ!」
 テレサはまずペッパーに抱きつく。
「ハーイ、ペッパー!ブロンコ優勝した上に、ブルに乗ったんですって!?今日酒場に行ってみなさい。きっとみんなからまたおごられるわよ」
 ペッパーはその言葉に笑い返したが、一瞬真顔になり目だけでソニーを指し示す。その意味が分かったテレサは少し弱気な表情でペッパーを見返したが、ペッパーは勇気付けるように笑顔を浮かべてもう一度目でソニーを指し示してテレサから体を離した。
「ハイ、ソニー・・・・」
「やあ、テレサ。あれ、学校は休みなのか?」
「え、ええ、一週間休みなの」
 本当はボランティアをキャンセルしてやって来たのよ、ソニーがパパみたいに突然いなくなったってデニスから連絡もらったから・・・、そう言いたいのだが普通に元気な姿を目の前にして、テレサは言葉を飲み込んでしまった。そんな気持ちに気づくはずもなく、ソニーは「そうか」と笑みをたたえて頷いてテレサを見つめている。テレサは少し居心地が悪そうに他にかける言葉を探すが、言い訳と言うかいい理由は見つからなかった。実はソニーもソニーで、突然前触れもなしに現われたテレサになんと話していいのか分からずにいたのだ。とにかく何か言おう、とソニーが口を開きかけた時。突然テレサがソニーの首に手を回し、抱きついてきたのである。
「テ、テレサ!?」
「ごめんなさい。せっかくパパの牧場を引き継いでくれたのに、私、手伝いもしなければ寄り付きもしなかったし・・・」
 突然の事に、ソニーは両手を宙に浮かせたまま、ドギマギして答える。
「い、いや、気にする事はないさ。今テレサは学校に行っているんだし、忙しいだろうし。牧場は心配しなくてもいい・・・・まあ、たまに帰ってきて顔を見せてくれたら、うれしいかな」  最後は照れたように消え入って行く言葉をテレサは聞きのがさなかった。パッと首から手を離すとじっとソニーを見つめる。
「本当?」
 ソニーはふうっと息を吸って落ち着くと、いつもの穏やかな笑顔を浮かべてYESと言った。
「ああ、うれしいよ」
 途端にテレサの不安そうな顔が笑顔に変わる。そして飛びつくようにもう一度ソニーの首に抱きついた。今度はソニーもテレサの背中に両手を回して抱きしめる事ができたのだった。
 二人から離れ馬場へまわったペッパーは、荒らされた馬場をせっせと埋め直しているジュディを見つけた。ペッパーが名前を呼ぶと、ジュディはいつもと変わらない周囲の人間すべてをハッピーな気持ちにさせるあの笑顔を見せ、両手を広げてやってきたペッパーに抱きつきキスをした。キスをしながらジュディを抱え上げクルリと一周した後ペッパーは少し体を離してジュディを見た。ジュディは笑顔のままでペッパーの頬に手を添える。なんでも知っていて何でもお見通しのジュディが、何を言い出すかと楽しみに待っていると、彼女はこう切り出してきた。
「で?ソニーと仲直りしたのかしら?坊や」
 ペッパーはテレサと仲良くくっついて話をしているソニーの方へ目をやり、そしてまたジュディの方へ向き直ると、彼女の顔を覗き込みあのいつもの笑顔を浮かべて自信満々に言ったのである。
「仲直りなんかしてねえよ。最初から俺たちは二人で一人さ」



 スタジアムの照明がグラウンドを照らしている。
「さあ、前回の試合で見事ブロンコで優勝を果たしたペッパー・ルイス。今日は別の競技に参加しています」
 ペッパーは自分の馬を軽く慣らした後、狭い柵の中へと入って行った。肩に掛けたロープを外し、しっかりと輪を確認し、握り直す。
ふっと顔を上げると、グラウンドに併設された特別席にジュディとテレサ、そしてデニスの姿があり、ペッパーが手を振ると、力いっぱい振り返しながら激を飛ばしてきた。
「この競技では以前アマチュア大会で決勝まで進んでいます。しかし、その時は決勝を棄権してしまいました」
 ペッパーの隣の柵には子牛が1頭、早く出してくれと暴れていた。
「今日はその時のリベンジ。数年ぶりにコンビ復活です」
 その柵を挟んだ向こう側の柵に、自分と同じようにゆっくりと馬が入ってきた。乗っているのはソニーだ。ソニーも同じようにロープを手に持ち直し、そしてペッパーの方を見た。目が合った途端、ペッパーはあの自信たっぷりのビッグスマイルを、ソニーは少しクールに目を細めて笑顔を見せる。
 ブーッと競技開始のブザーが鳴る。
一斉に開いたゲートから、まず子牛が飛び出して行く。そして二人もまったく同じ呼吸で馬を蹴り、ロープを振り上げゲートを飛び出して行ったのだった。

終わり




おまけ

 順調に決勝にトップで駒を進めたペッパーとソニーは、デニス、ジュディ、テレサと夕食を一緒にしていた。あの事件については、もうすべてが解決したとソニーとデニスは思ったのだが、ペッパーは違っていた。
「まだロブがいるぜ!」
 結局彼の不正はあの時限りとなり、ロブは次の試合つまり今回は出場するというのだ。それを知ったペッパーが再び怒りを露にしたのである。ペッパー以外の全員が、そのペッパーの鼻息の荒さに面食らい、手を止めペッパーを見つめる。忠告するように言ったのはソニーだった。
「いくらエイドリアンの息子だからって、今回の事でやり込めるのは良くないんじゃないか?」
 これにはペッパーは憤慨したように声を上げた。
「違うよ、前の大会でブロンコの後にブルを放しやがったのはあいつなんだ!」
 ああー、と全員が頷いた。
「そこでだ、1つ策を考えたんだが・・・・」
 そう言うとペッパーは両手を大きく振って、全員に顔を寄せるように促した。しばらくテーブルにつっぷすようにして固まっていたが、顔を上げ元の位置に戻った面々には、いたずらっぽい笑顔が浮かんでいたのだった。


 
 ロブのトレーラーは、他の選手より少し離れた丘の上に駐車されていた。トレーラーの前では、あの取り巻き達が雑誌を読んでいたり、ビールを飲んでいたり、ヒゲをぶちぶち抜いていたりしている。物陰に隠れて様子を探っていたペッパーとソニー、デニスは顔を見合せ、含み笑いをした。3人が見守る中、先に行動をしたのは女性2人である。
「ハーイ、ロブ・エイドリアンのトレーラーってここかしら?」
 取り巻き達の前に突然明るい声が響き、三人の男達はさっと顔を上げた。ぴったりとしたジーパンにシャツの襟を大きく開けた金髪の美女と、細身でかわいらしい顔をしたラテン美人がニコニコ笑って自分達を見ていた。ヒューっと口笛を吹き立ち上がった男達はもうすでに顔がデレデレだった。
「やあ、お嬢さん達。確かにここはロブ・エイドリアンのトレーラーだけど」
 それを聞いてキャーっと二人の女性ジュディとテレサは嬉しそうに手を合わせた。
「やっと見つけたわぁ!実は私たち彼のファンなの!・・・・会えないかしら?」
「すまないが、今ロブは出かけていていないんだよ。なんなら俺たちと遊ばないか?後でロブに来るように言うからさ」
 ナンパモードに切り替えた三人は、ニヤニヤしながらジュディとテレサとの距離を詰める為にトレーラーから離れる。
「でも私達の彼もここにいるのよ。だから出かけたりとかはでないわ」
「大丈夫だよ。ロブ・エイドリアンと一緒だったって言えば、彼氏だって許すさ」
 とかなんとか言いながら、二人はじりじりと後退し、男達をどんどんトレーラーから遠ざけて行った。十分間隔が空いたのを見て、今度はペッパー達が行動を開始する。ソニーがトレーラーの方へ回り、そーっと窓から中を覗いて見た。ロブはちゃんと中いて、自分の彼女と一緒にベタベタしながら夕食を食べている所だった。父親の事や前回の棄権などで少しはヘコんでいるかと思ったら、まったくそんな気配はない。ソニーはにんまり笑うとトレーラーの後ろにまわり、すでにスタンバっていたペッパーとデニスに頷いてみせた。三人は押し黙りながら、ゆっくりと車止めのストッパーとジャッキを外し始めた。
 最後にトレーラーと4WDの連結を外し終わった3人は、また物陰に隠れる。
「ジュディ?テレサ?どこにいるんだよ!」
 ペッパーが口に手を当て、太い声を出してちょっと怒ったような口調で叫んだ。ジュディとテレサはあっとその声の方へ振り向き、慌てて後ろに下がった。
「あ、大変!彼が私たちを探しているわ。ロブに会えなかったのは残念だっけど、また目を盗んだらくるわね。じゃあね」
 いいじゃねえか、と手を掴もうとする三人を振り切ってジュディとテレサは声の方へ走って行ってしまった。
「ちぇ、もう少しだったのに残念だったなぁ」
「彼氏とやらがここにこれば、オレ達がボコボコにしてやったのによー」
 三人の男達はジュディとテレサが逃げて行く姿を目で追いかけながら、またもとの位置に戻った。
やれやれ、とトレーラーによりかかった三人はズッと背後の壁が動いた気がして、眉をしかめた。
「ん?」
 そう言ってトレーラーに手をついた時、スーッとトレーラーが本格的に動き出し、反対側の斜面に向かって移動して行ったのである。
「わーー!!」
 いきなりトレーラーが動き出し、唖然としている間に急な斜面をズンズン加速して落ちて行くのを三人は慌てふためいて見ている。中にいたロブは突然動き出したトレーラーに一体なにが起きたのか分からなくなっており、動いたと気がついてから窓の外を見た時には小川に突っ込む寸前だった。
「わー!!!」
 川側の大きな石に片輪だけ乗り上げたトレーラーは、ゴーンとバウンドしてつんのめり、横倒しになって川の中へ落ちてしまったのである。
「わははは!!」
 物陰で見て大笑いしていたのは三人だ。ジュディとテレサはここまでやるとは思わずに、唖然としてしまっている。
「高校時代思い出すなぁ」
「よく簡易トイレごとひっくり返していたもんなぁ」
 笑い転げている3人は、まるでティーンエイジャーのようである。大人なジュディは声を上げた。
「ちょっと、あんなハデにひっくり返って大丈夫なの!?」
「大丈夫大丈夫、だから川に落ちるようにしたんだぜ、よーし撤収だ!飲みなおそうぜ」
 そういうとペッパーはジュディの肩を抱き、ソニーはテレサの腰に手を回し、デニスは最後まで笑いながら、そそくさと退散していったのであった。
おまけ 終わり



最後までお付き合いくださりありがとうございました。ペッパーとソニーはケンカして絶交もしょっちゅうだけど、基本的にはお互いを一番信頼している大の仲良しっていうのが私の「カウボーイウェイ」の見方でした。そのへんを感じていただけて、楽しんでいただけたら幸いです。おまけの話は最初本編に入れるつもりだったんですが、テンポが悪くなるのでカットした部分です。実はネタが2つあって1つはこの「ロブ襲撃大作戦」で、もうひとつは「ソニー酒乱事件」でした。いくら誘ってもバーに来ないソニーが、自分の無事回帰パーティに出席せざるを得ず、初めてバーに来て飲まされまくったら、普段クールなソニーが豹変し、ペッパー並みにおしゃべりになって挙句の果てには全部脱ぎだして町の女性達から拍手喝采をあび、逆にペッパーが青ざめるっていう実際のキーファーの酒乱騒動に絡めて書こうかと考えてました。  連載という形なので、前後でつじつまが合わない部分もあるかもしれませんが、ご容赦ください。ありがとうございましたー、また次回作もお楽しみに! 凛子


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