アーロンのシークレットサービスはツライよ 1   author miyuki



私の名はアーロン。仕事は要職のシークレットサービス。毎日が緊張感との戦いである。
今現在の私の仕事は、現在、このアメリカで最も権威があり、最高職であった大統領職から退いたディヴィット・パーマー氏を日常からお守りする事だ。
私にとって彼は恩人であり、命を賭けても全く惜しくな無い位、否、喜んで命を捧げてもいいと思っている程に尊敬をしている人物である。
私は彼の為なら、どんなことでも、例え汚れ仕事でも、どんな事でも引き受けよう。
そして、命を賭けて、彼をお守りする。これは私の使命である。

「アーロン、ちょっといいかな?」
ある日、私はパーマー氏に呼ばれた。勿論、断るなど論外だ。
「ええ、大統領、何か?」

彼は既に大統領職からは退いているが、私は敬意を込めて、彼をそう呼ぶ。公式の場では控えてはいるが、こうして自宅に居る時などは、迷いが無い。
彼が自室へという事なので、私は彼の部屋へと入って行った。

あれ?

表情を変えないようにするのが精一杯だった。いかな私でも驚くことはある。
それはそうだろう。
彼の自室に、あの男がいれば。

「彼の事は知ってるな」
知ってるも何も、一番最初に彼を暗殺犯として拘束したのは、かくゆう私でございます。ミスター・プレジデント。
「ジャック・バウアーだ。今日から、ここで私専属のSPとして働いてもらう」
「よろしく、アーロン」
彼はにっこりと笑って、こちらが出してもいないのに、無理矢理に握手を求めてきた。大統領が唯一信頼できる捜査官だという事は、これまでの事で重々わかっている。むげには断れない。私は手を出し、彼と握手をした。
「君と協力してもらうので、色々仕事を教えてやってくれ」
「大統領、あの」
口を出すことではないとはわかってはいたが、聞かずにはいられず。私は大統領を見た。
「何だ、アーロン」
「何故、ここにバウアーがいるのですか?それに、彼はCTUの人間では」
「クビになったんだそうだ」

マジ?

見ればバウアーは、少し笑って頭をかいている。照れているようだ。
「それは残念な事で」
「ああ、全くその通りだ」
大統領は、頭を抱えて悲しそうな顔をした。
「あれだけ見事な働きをしたのに、あっさりとクビだなんて、ひどいと思わないかね、アーロン。たかが、ヤク中という事で」

ええっと。

それは立派に解雇理由になると思いますが、ミスター・プレジデント。私だって部下がヤク中になったら、即刻クビにします。といいますか、それは常識の範囲内では? 等といえる筈もなく・・。

「それで職が見つからなくて、私のところに連絡が来たという訳だ。そんな友人を見捨ててはいられないからな。次の職がみつかるまで、少しここにいたらいい、と私が言ったのだ。SPならいくらいても損にはならないし」

シークレットサービスは一山いくらではありません。ミスター・プレジデント

「まあ、そういうことで、これから住み込みでここに居てもらうことにした」

ホームレスかよ。

「ジャックも警備に関してはプロだからな。そのあたりよろしく頼むよ」
そう言うと、彼はバウアーの肩を抱いて、にっこりと笑った。
そんなに信頼されていては嫌な顔など出来るわけが無いじゃないですか、マイ・プレジデント。私は表情を変えない事に何とか成功をすると、それでは、と言ってバウアーについてくるように指示をした。

「それでは、有難うございました。大統領」
「いや、何。お役にたててよかったよ」

バウアーが礼を言うと、大統領は大変嬉しそうな表情をした。自分がするべき事が出来て、満足をしているのだろう。ディヴィット・パーマーという人物は本当に心底から善の心しか持っていない希少な人間なのだと、こんな時に確信する。まあ、私はそのおかげで、こうやって仕事を続ける事が出来ているのだが。

私はバウアーを後ろに従えると、廊下へと出た。とりあえずは、警護のものまねだけでもやって貰わなくては。彼の場合には説明は不要だろうけども。

「ええと、アーロン」
「なんでしょう、ミスター・バウアー」
「すまないな。急に来たりして」
「どうぞ、お気になさらず」

そう、バウアーをここに来させたのは大統領の意思なのだから、私がとやかく言う問題ではない。だが、とりあえずは、ここにいる以上は、SPの仕事をしてもらわなければ困る。
「それでは、早速ですけれど、仕事に入って頂きましょうか。ミスター・バウアー、銃は持ってますね?」
「勿論だ」
バウアーは、腰に手をやり、ジャケットをめくると、そこから小型の銃を出して私に見せた。
「型は?」
「ヘッケラーコックのUSPコンパクト」
「腰に常時携帯しておいて下さい」
「わかった。じゃあ、ライフルは何処においておけばいい?」
バウアーの言葉に私は一瞬固まった。想定外の言葉だった。

ライフル?

そんなもの持ってるの?

何に使うの?そんなもん。一個戦隊と戦うつもり?つか、ひょっとしてやる気まんまん?

「普段車に積んでおくんだけど。どさくさまぎれにCTUから貰ってきた」
備品を勝手に持ち出してきたの?それって立派に規則違反というやつじゃ・・。
「車にずっと置きっぱなしだから、誰も気がつかないだろう」

おいおい、大丈夫か。そんなのに気がつかないって、CTUって一体どんな所なんだよ。
私は息を吐いた。いかんいかん、動揺してはいけない。私は権威ある地位を守るのが仕事なのだ。

「あ、いや。我々は、戦う事と前提としているわけではありません。あくまで大統領をお守りするためにいるのです。ですから、あなたの腰のヘッケラーだけで十分です」

そう言うとバウアーは何だか至極残念そうな顔をして、ヘッケラーを腰に又しまった。 しかし、ヤバイぞ。この分だと、彼の車からは手榴弾とか、バズーカ砲とか地対空ミサイルとか平気で出てきそうだ。本当に出そうだから真面目に怖い。今度内緒で家捜ししてやろう。

「それでは、ミスター・バウアー。これからよろしくお願いします。しかし、くれぐれも、ここの陣頭指揮を執っているのは私です。私の指示に従うようにしてください」
「わかってる。ありがとう、アーロン」
その言葉にいくばくかの約束を探したいところだが。
彼は手を出して、もう一度私に握手を求めてきた。それを断る理由など無い。私は手を出し、彼としっかり握手を交わす。
それから彼は、私と別れて、持ち場へと去って行った。

このようなハプニングは、大統領がその職にあった頃から(それ程数としては無いけど)慣れていた筈だが、今回は訳が違う。
あの、よりによって、バウアーが来たのだ。彼が行くところ、顔を出す所、ハプニングだらけだ。これから私は無事に人生を終える事が出来るのだろうか。


私は急に違和感を覚えて腹部に手を充てた。

ギリリ。
あ、ヤバイ。
久しぶりの胃痛の予感が・・。

いかん。いかん。私の仕事は大統領をお守りする事。命に代えても、あの方をお守りする事である。こんな事で参っていてはいけない。
私は自分を叱咤し、痛みを何とか誤魔化すように部下へと指示を飛ばし、それから自分も持ち場へと戻って行った。


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