1. マツダ地獄

私が免許を取得してはや15年、社会人になってから2台の車を乗り継いだ。一台目は中古車であった。本当はカリブが欲しかったのだが、中古車でも相場が高く、かなりくたびれた物でも社会人になりたての自分にはちょっと手が届かない値段。第二候補のゴルフも同様だった。これですぐに壊れでもしたら・・・そんな不安を抱えながらいろいろ車を物色している時、あるディーラーで29万円のマツダ ファミリア(ハッチバック 5MT)を見つけた。これまでの候補車に比べたらなんとなく華が無い感もあったが、年式がやや古いにも関わらず内外装のくたびれはほとんど感じられず、29万円の札を貼り付けられながらも、何か堂々とした佇まいであるように私には感じられた。
ディーラー氏の説明を聞いても、車自体はそれなりのものらしい。それよりも、「こんな値段で、またすぐ壊れるのでは?」という不安を抱きかけた時、「でも整備だけはバッチリやります」ディーラー氏はこの部分を強調したかったらしく、私もこの言葉を信じて購入した。
そして、本命車を手に入れるまでのつなぎのつもりが、絶好調のうちに1年半で42000kmを走破した。十分元はとっただろう。
実はこの間、友人の車で、自分の本命車であったカリブと、パルサーを運転する機会があった。何か運転していて自分との一体感がなく、前者にいたってはシフトのフィーリングがグニャグニャで、その時思ったことは「やっぱりファミリアに乗りたい!」だった。その時は「慣れの問題かな」とも思ったが・・・
ところで、マツダ地獄と言う言葉は、他のメーカーに比べて人気がなく、車自体もあまり良くないだろうとの認識から、買い叩かれて中古相場が安くなり、マツダのディーラーだけはある程度上乗せして下取りをしてくれる為、ユーザーは延々マツダ車を乗り換えるというパターンに陥るという意味である。
そういう意味では、私は破格値でマツダの中古車を購入し、十分元を取ったのだから、ここで断ち切ればマツダ地獄に陥る理由がない。
にも関わらず、私がこの次に買った車は、またマツダ車であった。日本の新衝突安全基準適合一号車となったことで有名な、ランティスと言う車である。
この車、初めて車雑誌でその写真を見た時は、いかにも遊び尽くしているような外観だな、と思った。またトヨタの派生車種が増えたのかと思ったら、記事を読んでマツダ車と知って、驚いてしまった。バブル期には浮き足立ったものの、元来真面目であっても華がないメーカー、というイメージを持っていた私は、とある本屋の一角でその記事に釘付けになってしまった。読めば読むほど、その中身は本物である、というような事が書かれている。しかも後部座席には大人が普通に座れるとの事。同じスタイルと言うには少々無理があるが、「セリカ(注:バブル全盛期のモデル。現行車には見る影もない)みたいな車にもう少し後ろにゆったり乗れたら・・・」と思ったこともあったので、なおさら私の興味を引かずにはいなかった。
そして数ヶ月。買い替えの時期が決まっていないだけで、次の車として私はこの車以外、頭の中になかった。
そして1994年3月、私はこの車を購入した。