簿記2級・基本テキスト −商業簿記− |
2章 特殊商品売買 |
通常の商品販売では、商品の発送もしくは引渡しと対価の受け入れが同時に行われ、売上収益を計上します。
これとは異なり、商品の引渡し時に売上計上しないなどの特殊な販売を"特殊商品販売"といいます。
予約販売とは、商品の販売にあたり前もって予約を受け、販売代金の一部を予約金として受取っておき、後日、商品の引渡しとなる販売形態をいいます。
予約金を受取ったときは、売上の計上(つまり[売上・収益の勘定]への計上)はしません。受取った金額を[予約販売前受金・負債の勘定] または[前受金・負債の勘定]で処理します。
予約品を発送もしくは引渡したときに、売上の計上をし、予約販売前受金勘定または前受金勘定を相殺します。
◆ 次の取引について仕訳しなさい。
(1)A出版株式会社は、百科事典(全5巻、1巻の予約販売価格5,000円)の予約販売を企画したところ、20セットの申し込みがあり、予約代金総額500,000円を現金で受け取った。
(2)同社は、上記の百科事典の第1巻が完成したので、これを上記の予約者宛に発送した。
↓
(1)(借方)現 金 500,000/(貸方)予約販売前受金 500,000
(2)(借方)予約販売前受金 100,000/(貸方)売 上 100,000
*
(2)発送したときに、発送した分の金額を売上として計上し、すでに受け取っている予約金である[予約販売前受金勘定]を減少させます。
割賦販売(かっぷはんばい)とは、代金の受け取り方法が、月賦、年賦などの分割払いによる販売形態をいいます。
売上収益をいつ計上するかを決める基準は、以下の3つがあります。
(1)販売基準 ・・・商品を発送もしくは引渡したときに、全額を計上します。
(2)回収基準 ・・・割賦金が入金されたとき、その回収した額だけを計上します。
(3)回収期限到来基準・・・支払期限の到来した日、その回収期限が到来した額だけを計上します。
原則は"販売基準"によります。(1)の販売基準に対して、(2)と(3)を合わせて"割賦基準"といいます。
商品を引渡したときに売上収益を計上しますので、通常の掛販売の処理と同じですが、通常の商品売買と区別するため、売掛金勘定の代わりに[割賦売掛金・資産の勘定]、売上勘定の代わりに[割賦売上・収益の勘定]で処理します。
商品を引渡したときに[割賦売掛金・資産の勘定]で処理し、割賦金を回収する都度(つど)[割賦売掛金・資産の勘定]を減少させます。
◆ 次の取引について仕訳しなさい。
(1) 商品1,000円(原価600円)を販売し、代金は 5回の均等分割払いで受取ることにした。
(2)上記の割賦代金のうち、第1回目の入金分 200円を現金で回収した。
"販売基準"による仕訳を示しなさい。
↓
(1) (借方)割賦売掛金 1,000 /(貸方)割賦売上 1,000
(2) (借方)現 金 200 /(貸方)割賦売掛金 200
回収基準を採用した場合、つまり割賦金が入金されたとき、回収した額だけを計上する方法の場合、"対照勘定法"と"未実現利益整理法"の2つの処理方法があります。
○対照勘定法
商品を引き渡したときには、割賦代金の総額を対照勘定である、割賦販売売掛金勘定と割賦販売勘定を用いて備忘記録しておき、代金回収時には[割賦売上・収益の勘定]で収益を計上するとともに、対照勘定を減少させます。
なお、決算においては、代金未回収分の原価を、[繰越商品・資産の勘定]または、[割賦商品・資産の勘定]で次期に繰り越します。
試用販売とは、取引先が試用の結果、買取りの意思表示をしたとき売買契約が成立する販売形態をいいます。
試用の商品を引渡したときには(これを"試送"といいます)、対照勘定である[試用販売売掛金勘定]と[試用販売勘定]を用いて備忘記録しておき、買取りの意思表示をしたときには[試用売上・収益の勘定]で収益を計上するとともに、対照勘定を、試送時とは貸借逆に仕訳して備忘記録を消去します。
試用の商品が返品されたときは、試用品の買取拒否の意志表示ということになります。備忘記録を消すために、引渡し時の反対仕訳をし、備忘記録を消去します。
なお、対照勘定は、[試用販売契約勘定]と[試用仮売上勘定]の組合せがあります。
◆ 次の各取引を仕訳しなさい。
(1) 試用販売のため、得意先に商品(原価50,000円、売価90,000円)を試送した。
(2) 得意先から、上記(1)で試送した商品のうち、1/2を買取る旨の連絡があった。
(3) 得意先から、上記(1)で試送した商品のうち、1/4が返品された。
(4) 決算を迎えた。
↓
(1)(借方)試用販売売掛金 90,000 /(貸方)試用販売 90,000
(2)(借方)売 掛 金 45,000 /(貸方)試用売上 45,000
(借方)試用販売 45,000 /(貸方)試用販売売掛金 45,000
(3)(借方)試用販売 22,500 /(貸方)試用販売売掛金 22,500
(4)(借方)繰越商品 12,500 /(貸方)仕 入 12,500
*
(2)買取る意志があるので、代金未収分として[売掛金・資産の勘定]で処理します。
(4)決算では、試送したうち意志表示がされていない部分を次期に繰り越します。
計算は、原価で計算します。50,000-25,000(売上分)-12,500(返品分)=12,500
遠隔地の取引先から商品を仕入れたときなどに、商品の到着する前に、運送会社が発行した商品の引渡請求権(所有権)を表す引換証を受け取ることがあります。これを"貨物代表証券"といい、陸運会社が発行する "貨物引換証"や海運会社が発行する"船荷証券"があります。
貨物代表証券を入手したけれども、遠隔地の仕入先からまだ手許に商品が到着していない場合、この商品を"未着品"といいます。
(―→商品の流れ、←・・・・・・貨物代表証券)
仕入先
┌─────┐ ┌─────┐ ┌──────┐
│A・売主 │・・・・・・・・・・・・・・・→│C・買主 │・・・・・・→│D・転売先 │
└─────┘ └─────┘───→└──────┘
│ ┌─────┐ ↑
└―――――│B運送会社│――――――┘
└─────┘
貨物代表証券を受け取ったときは、実際の商品の引き取りと区別するため、[未着品・資産の勘定]で処理します。
そして、商品が到着し、貨物代表証券と引き換えに商品を受け取ったときは、未着品勘定から[仕入勘定]へ振替えます。なお、商品の引取費用などの付随費用は一般販売と同様に、[仕入勘定]に含めて処理します。
◆次の取引について仕訳しなさい。
(1)A物産に注文した商品7,000,000円の船荷証券を受け取り、代金は掛けとした。
(2)かねて購入していた上記の商品が到着し、船荷証券と引き換えに商品を受け取った。なお、その際に引取費用100,000円を現金で支払った。
↓
(1) (借方)未着品 7,000,000 /(貸方)買掛金 7,000,000
(2) (借方)仕 入 7,100,000 /(貸方)未着品 7,000,000
/(貸方)現 金 100,000
商品が到着する前に、商品の引渡請求権(所有権)を表す「貨物代表証券」を転売することがあります。これを"未着品販売"といいます。
貨物代表証券を転売したときに、貸方に転売分の売価を記入し、[未着品売上・収益の勘定]で売上の計上をします。
さらに、[未着品・資産の勘定]から仕入勘定へ転売分の原価を振替えます。
◆次の取引について仕訳しなさい。
(1)A物産に注文した商品5,000,000円の船荷証券を受け取り、代金は掛けとした。
(2)上記の船荷証券5,000,000円をD商店へ5,500,000円で転売した。
なお、これに伴う売上原価は仕入勘定に振り替える。
↓
(1) (借方)未着品 5,000,000 /(貸方)買 掛 金 5,000,000
(2) (借方)現 金 5,500,000 /(貸方)未着品売上 5,500,000
(借方)仕 入 5,000,000 /(貸方)未 着 品 5,000,000
遠隔地の得意先から商品の注文を受け、売主が商品の輸送を運送会社に委託した場合、商品代金を早期に回収するために、売主は運送会社から受け取った「貨物代表証券」を担保として、為替手形を振り出して銀行で割り引くことがあります。
このとき振り出される自己受けの為替手形を”荷為替”または”荷付為替手形”といいます。
(―→ 商品の流れ、・ - - → 貨物代表証券の流れ)
┌─────┐ (3)
(2)┌ - → │ 銀 行 │- - - - - - - ┐
│ └─────┘ ↓得意先
┌─────┐ ┌─────┐
│A・売主 │ │C・買主 │
└─────┘ └─────┘
(1)│ └ - - - - - ・┌─────┐← - - - ┘ ↑ (4)
└―――――――→│B運送会社│――――――┘
└─────┘
(1)商品の輸送を運送会社に依頼します。運送会社は、商品の預り証として「貨物代表証券」を発行します。
(2)売主は、銀行に貨物代表証券を担保として渡し、買主を引受人・自己を受取人とした「自己受為替手形」を振り出し、銀行で割引を受けます。
(3)銀行は、買主に手形(荷為替)の引き受けを求め、買主が了解すれば貨物代表証券を渡します。
(4)買主は運送会社に貨物代表証券を提示して商品を受け取ります。
・上記の(2)を"荷為替の取組み"といい、通常、商品代金の7割から8割程度の金額を設定します。また(3)を"荷為替の引受け"といいます。
荷為替の取組みをした後、売主が商品の発送をした時に、売上収益を計上します。
売主は自己受けの為替手形を振出しますが、振出しと同時に銀行ですぐ割引きをおこなっているので、[受取手形勘定]に記入せず、[現金勘定]または[当座預金勘定]で処理します。
なお、手形割引料が発生しますので、[支払割引料・費用の勘定]で処理します。
買主は荷為替を引き受けたときに、手形債権が生じ、[支払手形・負債の勘定]で処理します。
荷為替を取り組んでいない部分は売主にとっては[売掛金勘定]、買主にとっては[買掛金勘定]で処理します。
◆次の取引について仕訳しなさい。
(1)A商店は、得意先C商店へ商品100,000円を船便で発送し、その際、取引銀行で額面90,000円の荷為替を取り組み、割引料6,000円を差し引かれ、手取金を当座預金とした。
(2)C商店は、取引銀行から前記の荷為替90,000円について引き受けを求められたので、これを引き受け、貨物代表証券を受け取った。なお、商品100,000円はまだ到着していない。
(3)後日、C商店は船荷証券を呈示し上記の商品を引き取った。
↓
(1)(借方)当座預金 84,000 /(貸方)売 上 100,000
(借方)支払割引料 6,000 /
(借方)売掛金 10,000 /
(2)(借方)未着品 100,000 /(貸方)支払手形 90,000
/(貸方)買掛金 10,000
(3)(借方)仕 入 100,000 /(貸方)未着品 100,000
*
(1)手取金 90,000−6,000=84,000を[受取手形勘定]でなく、[当座預金勘定]で処理します。
(2) 商品はまだ到着していないので、未着品で処理します。荷為替の引き受けにより手形債務が生じるので、支払手形で処理します。差額は買掛金となります。
(3) 貨物代表証券と引き換えに商品を引き取ったときは、未着品勘定から仕入勘定に振り替えます。
委託販売とは、自社で販売するのでなく、第三者(受託者)に商品の販売を委託する販売形態をいいます。"受託販売"は、受託者からみた販売形態となります。
(―→商品の流れ、← - -・代金の流れ)
┌─────┐ ┌─────┐ ┌─────┐
│委託者・A│――――→│受託者・B│―――→│得意先・C│
└─────┘← − −・└─────┘← − ・└─────┘
委託販売は、手数料などを支払って第三者(受託者)に商品の販売を委託します。
委託品を受託者に発送した時(これを"積送"といいます)は、委託しただけなので売上収益の計上をしませんが、手許商品と区別するために仕入勘定から[積送品・資産の勘定]に振り替えます。
なお、発送費などの費用を支払ったときは、積送品勘定に含めて処理するか、[積送諸掛・費用の勘定]で処理します。
◆ 次の取引について仕訳をしなさい。
(1)A商店は、委託品販売のため商品(仕入原価100,000円、売価150,000円)をB商店へ積送した。なおその際、発送費2,000円を現金で支払った。
↓
(1) (借方)積送品 102,000 /(貸方)仕 入 100,000
/(貸方)現 金 2,000
または、
(借方)積送品 100,000 /(貸方)仕 入 100,000
(借方)積送諸掛 2,000 /(貸方)現 金 2,000
売上収益の計上は、委託者が受託者に商品を発送した時ではなく、受託者が商品を販売した日あるいは受託者からの「売上計算書」(仕切清算書ともいいます)が送られ、委託した商品の販売が明らかになったときに行います。
売上計算書の総額または手取金額を[積送品売上・収益の勘定]に計上します。また、このとき代金未収分の場合は[積送売掛金・資産の勘定]で処理します。さらに、積送時に計上した積送品勘定(原価)を仕入勘定へ逆仕訳し、取引きを相殺します。
なお、受託者が委託品を販売するために支払った諸掛りや販売手数料は、[積送諸掛・費用の勘定]で処理します。
◆ 次の取引について仕訳をしなさい。
(2)上記の委託品について、B商店から「売上計算書」が送られてきた。
内容は、売上高 150,000円 、保管料 1,000円、販売手数料 4,000 だった。
(3)上記の委託販売について、後日、B商店から手取金全額が送金されてきた。
↓
(2) (借方)積送売掛金 145,000 /(貸方)積送品売上 150,000
積送諸掛 5,000 /
(借方)仕 入 100,000 /(貸方)積送品 100,000
(3) (借方)現 金 145,000 /(貸方)積送売掛金 145,000
受託販売とは、委託者の代理で商品を販売することをいいます。
受託者が販売したときでも、受託品の所有権は委託者にありますので、預かっている販売代金を委託者へ渡さなければなりません。
そこで、受託者は、委託者との間に生じるこれらすべての債務(預り金)と債権(立替金)を[受託販売・勘定]で処理します。
受託販売勘定
────────┬────────
債 権 │ 債 務
(立替金) │ (預り金)
受託品を受け取った時、受け取っただけでは仕訳は不要ですが、引取費用などを立替払いした場合や保管のために倉庫などを借りた場合は、委託者が負担すべき費用なので、これを受託販売勘定の借方に債権分として記入し処理します。
◆ 次の取引について仕訳をしなさい。
(1)A商店より、販売を委託された商品(仕入原価100,000円、売価150,000円)を受け取った。なおその際、引取費用 2,000円を現金で支払った。
(2)上記の商品について、倉庫会社に委託者の負担分 1,000円を含む倉庫保管料 20,000円を現金で支払った。
(3)上記の委託品をすべて販売し、代金は現金で受け取った。
なお、販売に際して発送費用1,000を現金で立て替えている。
↓
(1) (借方)受託販売 2,000 /(貸方)現 金 2,000
(2) (借方)保管料 20,000 /(貸方)現 金 20,000
(3) (借方)現 金 150,000 /(貸方)受託販売 150,000
(借方)受託販売 1,000 /(貸方)現 金 1,000
*
(2)本来委託者が負担すべき費用なので、立替金として「受託販売 ×××/ 現金 ×××」となりますが、同じ倉庫に自社の商品と一緒に保管した場合は、とりあえず受託者の費用として処理しておき、売上計算書(仕切清算書)を作成したときに精算します。
(3)受託品を販売し受け取った代金は、委託者の代わりに一時的に預かったものなので、預り金として受託販売勘定の貸方に記入します。なお、このときの支払った発送費用などは、立替金として受託販売勘定の借方に記入します。
売上計算書(仕切清算書)を作成するときに、委託者が負担すべき諸掛りや販売手数料を計上します。
すでに立替分として支払っている、引取費用や保管料や発送費用などの諸掛りは、受託販売勘定の借方へ記入します。受託者が受け取るべき販売手数料も、受託販売勘定の借方に記入し[受託販売手数料・収益の勘定]の計上をします。
受託販売勘定の借方残高は、委託者に対する送金必要額(手取金)ですので、これを送金したときは、受託販売勘定の借方に記入しすべての債権・債務を精算します。
受 託 販 売 勘 定
────────────┬───────────
引取費用立替分 2,000 │ 販売代金 150,000
保管料立替分 1,000 │
発送費立替分 1,000 │
受託販売手数料 6,000 │
│
(借方残高 140,000)
◆ 次の取引について仕訳をしなさい。
(4)上記の受託品について、A商店に「売上計算書」を作成し、送付した。
内容は、売上高 150,000円 、引取費用 2,000円、保管料 1,000円、発送費 1,000円、販売手数料 4,000 だった。なお、保管料 1,000円は自社の商品と一緒に保管したので自社の費用として処理していた。
(5)A商店に手取金を送金した。
↓
(4) (借方)受託販売 7,000 /(貸方)保管料 1,000
/(貸方)受託販売手数料 6,000
(5) (借方)受託販売 140,000 /(貸方)現 金 140,000
委託品を積送する際にも、貨物代表証券を担保として荷為替を取り組むことができます。このとき委託品は、銀行で割り引いてもらい、販売される前に代金を受取っているので、[前受金・負債の勘定]で処理します。
受託品の荷為替引き受けは、委託品の逆で、売上代金の先払いになります。ただし、前払金勘定ではなく受託販売勘定の借方に記入し処理します。
◆ 次の取引について仕訳をしなさい。
(1)A商店は、B商店へ委託品販売のため商品(仕入原価10,000円、売価15,000円)を船便で発送し、その際、取引銀行で額面8,000円の荷為替を取り組み、割引料500円を差し引かれ、手取金を当座預金とした。
(2)B商店は上記の受託販売の商品を受取り、荷為替8,000円を引き受けた。
↓
(1)(借方)積送品 10,000 /(貸方)仕 入 10,000
(借方)当座預金 7,500 /(貸方)前受金 8,000
(借方)支払割引料 500 /
(2)(借方)受託販売 8,000 /(貸方)支払手形 8,000
*
受託者は手形の引受けにより、商品代金の一部を委託者に先払いしたことになるので、受託販売勘定の借方に記入します。