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簿記2級・基本テキスト −商業簿記− 


3章 有価証券



 !まず、3級合格テキストで復習してください。
  ・3級  6章  有価証券と固定資産の処理・・・有価証券
  ・3級  9章-3 有価証券の評価替え


・2002(H14)年6月から新出題区分になります。
 有価証券の分類および評価変更が大きく変更されました。


・有価証券は所有する目的により以下のものに分類されます。
 (1)売買目的有価証券 
 (2)満期保有目的の債権 
 (3)子会社株式および関連会社株式 
 (4)その他有価証券 

 この章ではおもに"売買目的の有価証券"について説明します。 
 (2)(3)(4)は、4章固定資産 -5.投資その他の資産  で説明します。 



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3-1.購入と売却


資金を運用する目的で短期的に所有する株式や公社債、つまり”売買目的有価証券”を購入または売却したときは[有価証券・資産の勘定]または[売買目的有価証券・資産の勘定]で処理します。この時、取得原価で記入し、購入手数料などの付随費用はこれに含めます。

売却した時に、購入価格より高く売れれば、その差額を「有価証券売却益・収益の勘定」(または「有価証券運用益・収益の勘定」)で、逆に安く売却したら「有価証券売却損・費用の勘定」(または「有価証券運用損・費用の勘定」)で処理します。


数回に分けて取得した単価の異なる有価証券を売却したときは、"平均原価法"などにより帳簿価額を算出して売却損益を計算します。

"平均原価法"には、"移動平均法"や"総平均法"があります。

 "移動平均法"は、3級の「商品有高帳」の商品の払出単価の計算方法として学習しました。単価の異なる商品を受け入れたつど平均の単価を計算し、それを次の払出し単価とする方法です。
計算式は、(直前の残高金額+受入金額)÷(直前の残高数量+受入数量)で求めます。
 "総平均法"は、一定期間に受入れた数量合計と金額の合計をもとに計算する方法で、
計算式は (受入数量合計金額)÷(受入数量合計件数)で求めます。


なお、株式には配当金、公社債には利息が入るときがあり、[受取配当金・収益の勘定]、[有価証券利息・収益の勘定]または[受取利息・収益の勘定]で処理します。


次の一連の取引を仕訳しなさい。
(1)売買目的で、A産業株式会社の株式100株(1株の額面¥50)を1株¥70で購入し、代金は手数料¥150とともに現金で支払った。
(2)後日、同じく同社の株50株を1株¥60で購入し、代金は売買手数料¥50とともに現金で支払った。
(3)同社の株式70株を1株¥100で売却し、手数料100円を差引かれ、代金は小切手で受け取った。なお、売却原価の計算は平均原価法による。
(4)残りの株式については同社(1年決算)から1株につき¥4の配当金を受け取り、当座預金とした。


(1) (借方)有価証券   7,150 /(貸方)現  金     7,150 
(2) (借方)有価証券   3,050 /(貸方)現  金     3,050 
(3) (借方)現  金   6,900 /(貸方)有価証券     4,760 
   (借方)支払手数用   100 /(貸方)有価証券売却益  2,240 
(4) (借方)当座預金    320 /(貸方)受取配当金     320 


 有価証券勘定は、売買目的有価証券勘定でもよい。 (1)取得原価は、額面金額でなく購入代価+付随費用になります。
   @70×100株+¥150=7,150
(2)同様に@60×50株+¥50=3,050
(3)売却原価を平均原価法により計算します。
   (@70×100株+¥150)+(@60×50株+¥50)
             ÷(100株+50株)= ¥68
  売却する有価証券の帳簿価額は ¥68×70株=¥4,760
  売却損益の計算は、売却価額−帳簿価額=¥100×70株−¥4,760=+¥2,240
  プラスなので有価証券売却益になります。
  売却した場合、証券会社等に支払う手数料は[支払手数料・費用の勘定]で処理します。
(4)配当金を受け取った時は、受取配当金で処理します。残りの株式は80株なので
   ¥4×80株=¥320の受取配当金になります。



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3-2.評価替え


売買目的で保有する有価証券は、時価をもって貸借対照表価額とし、簿価と時価の差額(評価差額)は当期の損益として処理します。
これを"時価法"といいます。

時価の高いときの差額は「有価証券売却益・収益の勘定」(または「有価証券運用益・収益の勘定」)、時価の方が低いときの差額は「有価証券売却損・費用の勘定」(または「有価証券運用損・費用の勘定」)で処理します。

"時価法"の他に3級でも学習した"低価法"があります。
低価法は、時価が下がったときだけ適用し、評価差額は有価証券評価損だけ計上します。会計上ではH12年度より「市場価格のある有価証券については、原則として期末における評価で評価しなければならない」ことになっています。つまり"時価法"で処理します。
過去の試験では、ほとんど"低価法"で出題されていますので、その点注意してください。


次の決算仕訳をしなさい。 −過去の出題例 
  有価証券の内訳は次のとおりである。なお、評価方法は低価法による。
             帳簿価額      時価
  ─────── ─────── ───────
    A社株式      20,000     19,000 
    B社株式      15,000     16,000 


  (借方)有価証券評価損 1,000 /(貸方)有価証券 1,000

 "低価法"の場合、時価の方が下がった株だけ評価損として計上します。


*2002/6の新出題区分から、"低価法"はなくなり、"時価法"に一本化されます。
売買目的で期末において保有している有価証券に対しては、時価法を適用し、時価と取得原価との差額は[有価証券評価益・収益の勘定](「有価証券運用益・収益の勘定」)あるいは[有価証券評価損・費用の勘定](「有価証券運用損・費用の勘定」)で処理します。



次の取引について仕訳をしなさい。 −新出題区分
決算に際して、前期に売買目的で購入したA商事株式会社の株式(帳簿価額@750円)2,000株を、当期末の時価が@800円に評価替えする。


   (借方) 有価証券  100,000 / (貸方)有価証券評価益 100,000 

時価法により、評価損益を求めます。
  (@800×2,000株)−(@7500×2,000株)= 1,600,000 − 1,500,000 = 100,000 


・なお、"売買目的の有価証券"以外の評価基準は以下のとおりです。
 (2)満期保有目的の債権 ・・・・・・・・償却原価 
 (3)子会社株式および関連会社株式 ・・・原価 
 (4)その他有価証券 ・・・・・・・・・・時価 
 



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3-3.端数利息


有価証券のうち社債券や公債券は、額面金額に一定の利率を乗じた利息を定期的に受け取ることができます。
このような債権を"利付債券"といいます。

価格は、債権の価額("裸相場")で表されますが、利付債券の売買にあたっては、買主は裸相場に経過利息を加えた金額を売主に支払うことになっています。

経過利息は、直前の利払日の翌日から売買日当日までの経過期間の利息で、このとき生じる経過利息を"端数利息"といい、[有価証券利息・収益の勘定]の借方に"収益のマイナス"として記入します。そして後日、利払日が到来し利息を受取った時、これを控除します。



          有価証券利息(収益の勘定)
     ────────────┬───────────── 
     利息の立替払い分  ××│ 利息の受取り分  ××  
                 │  
  


 (計算式) 端数利息=
  公社債の額面金額×利率×(前利払日の翌日から売買日当日までの日数÷365日)


次の一連の取引について仕訳をしなさい。
(1) 9月8日に売買目的で、額面1万円の社債を額面100円につき98円で買い入れ、代金は端数利息とともに小切手を振り出して支払った。なお、利払日は6月末と12月末で、利率は年7.3%である。
(2) 利払日の12月末に、上記の社債について利息を受取り、当座預金とした。
(3) 上記の社債を1月末に、額面100円につき99円で売却し、代金は端数利息とともに小切手で受取った。 なお、帳簿価額は購入は98円である。


 (1)  (借方)有価証券    9,800 /(貸方)当座預金     9,940
    (借方)有価証券利息   140 /
 (2)  (借方)当座預金     365 /(貸方)有価証券利息    365
 (3)  (借方)現 金     9,962 /(貸方)有価証券     9,800
                   /(貸方)有価証券売却益   100
                   /(貸方)有価証券利息    62


(1)社債の価額(裸相場)は、10,000×98/100=9,800 
前利払日から購入日までの日数は、7月1日から売買日の9月8日までの70日間になります。
 端数利息は、10,000×0.073×70日/365日=140 となり、これを収益のマイナス分として有価証券利息勘定の借方に記入し処理します。
(2)端数利息は、10,000×0.073×6ヶ月/12ヶ月=365 となります。
 買主は社債発行者から¥365受取り、そのうち売主へは¥140を支払ったことになります。
(3) 売主は、直前の利払日の翌日から売買日当日までの期間の端数利息を受取ります。
 日数は、1/1から1/31までの31日間、端数利息は、10,000×0.073×31日/365日=¥62 
 これを収益として有価証券利息勘定の貸方に記入し処理します。
  売却損益の計算は、売却価額9,900− 帳簿価額 9,800=+¥100。プラスなので有価証券売却益になります。



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3-4.差入れと保管


借入金などの担保として、保有する有価証券を預けることを"差入れ"、預かることを"預り"または"保管"といいます。
これは、所有権が移転するわけでなく、債務を履行すれば同一の有価証券が返還されるので、簿記上の取引ではありません。しかし、手持ちの有価証券と区別するため、備忘記録として仕訳します。

"差入れ"は、簿価により[有価証券・資産の勘定]から[差入有価証券勘定・資産の勘定]に振り替えます。
"預り"は、時価または額面を[保管有価証券勘定・資産の勘定]の借方に、また将来においてその有価証券を返還しなればならない債務を示すため、貸方科目に[預り有価証券・負債の勘定]で処理します。

そして、"差入れ"または"預り"が終了したときは、反対仕訳をして備忘記録を消去します。


次の取引をA商店とB商店のそれぞれの立場から仕訳しなさい。
(1)A商店はB商店より現金5,000円を借り入れ、担保としてY社社債を差入れした。
 社債の額面金額は6,000円(額面@100円)、帳簿価額@95円、時価@96円。
(2)A商店は(1)の借入金を利息300円とともに小切手を振り出して支払い、担保として差入れしてあったY社社債を受け取った。


 A商店 (1)(借方)現 金     5,000 /(貸方)借入金     5,000
      (借方)差入有価証券  5,700 /(貸方)有価証券    5,700
     (2)(借方)借入金     5,000 /(貸方)当座預金    5,300
      (借方)支払利息     300 / 
      (借方)有価証券    5,700 /(貸方)差入有価証券  5,700

 B商店 (1)(借方)貸付金     5,000 /(貸方)現 金     5,000
      (借方)保管有価証券  5,760 /(貸方)預り有価証券  5,760
     (2)(借方)現 金     5,300 /(貸方)貸付金     5,000
                     /(貸方)受取利息    300 
      (借方)預り有価証券  5,760 /(貸方)保管有価証券  5,760


 A商店は有価証券の差入れをし、B商店は預りをしたことになります。
  差入有価証券は簿価で記帳します。6,000円×@95円/100円=5,700円
  保管有価証券は時価で記帳します。6,000円×@96円/100円=5,760円



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3-5.貸付けと借入れ


担保として有価証券を差入れるのでなく、有価証券それ自体を貸付けたり、また逆に借入れたりすることがあります。

貸付け”は、貸付けた分だけ手許からなくなるので、[有価証券・資産の勘定]から[貸付有価証券・資産の勘定]へ帳簿価額のまま振り替えます。

借入れ”は、本来の資産である有価証券と区別するため保管有価証券勘定として借方に、貸方には返還すべき義務として[借入有価証券・負債の勘定]とします。なお記帳は時価によります。


次の取引についてA社とB社の仕訳を示しなさい。
(1)A社はB社に対して、売買目的で保有する有価証券(簿価8,000円、時価8,500円)を貸付けた。
(2)A社はB社より上記有価証券の返還を受けた。



 A社
(1) (借方)貸付有価証券  8,000 /(貸方)有価証券     8,000 
(2) (借方)有価証券    8,000 /(貸方)貸付有価証券   8,000 
 B社
(1) (借方)保管有価証券  8,500 /(貸方)借入有価証券   8,500 
(2) (借方)借入有価証券  8,500 /(貸方)保管有価証券   8,500 


借入れした有価証券を"差し入れ"することがあります
この場合は、借り入れていた有価証券は保管有価証券で記帳していますので、それを差入れたしたとき、借方には差入保管有価証券、貸方には保管有価証券と記入し処理します。


次の取引について仕訳をしなさい。
借り入れていた有価証券(簿価8,000円、時価8,500円)を担保として差し入れた。


  (借方)差入保管有価証券  8,500 /(貸方)保管有価証券  8,500

有価証券を借入れた時には、借入れ時の時価で保管有価証券勘定で記帳しています。
この有価証券をさらに担保にして提供している(差し入れ)ので、差入有価証券勘定に簿価で振り替えます。
  (借方)保管有価証券    8,500 /(貸方)借入有価証券   8,500 
  (借方)差入保管有価証券  8,000 /(貸方)保管有価証券   8,000 



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3-6.まとめ











(更新日:2002/08/18)

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