第1話 ”非日常の空間”
−1−
大気を切り裂く衝撃。
ジェット・エンジンの轟音。
そして・・・銃声、爆音。
蒼天で繰り広げられるドッグ・ファイトは
ここが「非日常」の空間であることを物語る。
−ここは戦場、飛び交うは鋼鉄の翼を持つ人型の群れ−
敵影がクロス・カーソルに重なる。
電子音とともに「LOCK・ON」の文字。
十分に引きつけて、操縦桿のミサイル発射ボタンを押し込む!
「シュゴッ」という鈍い音と共に、機体に僅かな振動。
白煙の尾を引きながら敵機に殺到するミサイル。
そして・・・爆音。
青と白のコントラストをバックに、紅の炎が散る・・・。
あの機のパイロットは即死だろう、脱出した気配はない。
しかし、そんな事を気にしている隙(ヒマ)はない。
機体に搭載されたレーダー・センサーが次の標的を捉える・・・。
戦いは、まだ終わっていない・・・。
−2−
今から7年前の西暦2155年、ここエスバニアは、それまで
「州」として所属していたゼナン連合王国から
平和的に分離、独立を果たした。
しかしその3年後、ゼナン首相の任期が切れ、
新しく選出されたゼナン連合王国の現首相、
ギルバート・オールドマンは
エスバニアに対し強硬な姿勢で臨み、
両国間に緊張が走り始める・・・。
そして、2160年末
その緊張状態がピークに達する出来事が起こる。
エスバニアとゼナンの国境付近で
大規模なレアメタル鉱山が発見され、
両国共に、その所有権を高らかに叫んだ。
このレアメタル鉱山、地図上で見れば
エスバニア領に位置するが、以前よりこの鉱山を含む地域一帯、
ゼナン側が返還を求めていたため
当時この地域は国連の管理下にあり・・・
つまりは「宙ぶらり」の状態であった。
2161年4月
エスバニアがこの「国連管理区域」周辺に軍を展開すると
ゼナン側もこれに応じ軍を派遣。
国境及び管理区域を挟んで両国軍が展開し、
いつ武力衝突が起こってもおかしくない状況にまで
事態はエスカレート。
同年6月 − 両軍の睨み合いが続く中、小規模な戦闘が発生。
「エスバニア(ゼナン)が先に仕掛けてきた」
とか、
「銃の誤射に相手が過敏に反応した」
等々・・・戦端が開かれた理由に関しては諸説紛紛あるが・・・。
とにもかくにも・・・。
この「小競り合い」とでも言うべき戦闘がきっかけとなり、
ついに両軍は激突、全面戦争に突入する。
そして今現在・・・開戦より9ヶ月後の2162年3月・・・、
エスバニア北部領空内において、ゼナンの強行偵察部隊と
それを受けてスクランブルしたエスバニアの迎撃部隊が会敵。
戦闘状態に陥る・・・。
−3−
近距離での爆音とその鳴動が機体を震わせる。
「これで二機目・・・チィッ!!」
敵機を撃墜し・・・しかし、そのことを確認するヒマもなく
コックピットにひときわ甲高い電子音が鳴り響く・・・。
敵機にロックオンされたことを告げる警告音。
エスバニア空軍、八坂(ヤサカ)ケイゴ少尉は
鋭い舌打ちをしつつ、それと同時に回避機動を行っていた。
エマージェンシー・マニューバ、緊急回避。
機体各部のジェット・エンジンを総動員し、方向転換・姿勢制御、
フットペダルを踏み込む、フルスロットル。
メイン・ジェットエンジンが唸りを上げ、一瞬で音速の領域へ。
直角に近い軌道変更、
敵のミサイルがこちらの反応を失索(ロスト)し、見当違いの
方向へ飛んでゆく。
「敵は・・・いたっ!!」
無理な機動によって意識が遠のく、そのさなか、
なんとか踏みとどまり次の行動に移る。
メイン・スクリーンのレーダー画面に敵影。
しかし、そんなものを見るまでもなく、
ミサイルが飛んできた方向から敵機の位置を
(ほとんど直感で)割り出すと、
適当に狙いをつけ、固定武装の25mmバルカン砲二門を同時斉射。
敵機はこれを当然の如く回避・・・が、
その回避運動の瞬間を狙って、本命のミサイルを撃ち放つ!!
回避運動中に、別の脅威に対して新たに回避行動を取るのは
至難を極める。
敵機のパイロットも、バルカン砲での攻撃は
フェイントだったと気付いたらしい、
あわてて姿勢を立て直そうとするが・・・遅かった。
ミサイルが直撃、爆発。
爆炎と轟音が周囲の空気を震わせる。
そして、それが収まる頃には、敵部隊はそのほとんどを
味方に撃墜され、撤退を始めていた。
本来なら、追撃戦に移るのがセオリーだが、
ここで後発の迎撃部隊が到着。
リーダーから「後は彼等に任せる」という旨の通信が入る。
八坂少尉は戦闘の緊張を解くために深呼吸をすると
あたりに目を配った。
どこまでも広がる青空。
彼は、ため息のような息を一つつくと・・・
機体を回頭させて、帰還の途についた。
−4−
この戦闘における友軍の損害は皆無、
総撃墜数 6。
撤退した敵機も、後発の迎撃部隊がこれを追撃、
1機取り逃がしたものの、残る3機を撃墜。
一六二〇(ヒトロクフタマル)時をもって、戦闘終了。
・・・こうして、戦場の1日が終わる。
−おわり 第2話へエンゲージ−
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