津川喜代美書簡

 

白虎士中二番隊自刃十九士の一人である津川喜代美(潔美)が慶応4年8月11日付にて当時越後に出陣していた実兄二人(高橋金吾、八郎)宛に書いた書簡を現代口語訳してみました。林八十治書簡と同様、出陣直前の白虎隊士の手紙として、貴重な一次史料といえます。
原文は、『白虎隊事蹟』(中村謙著)、『史実会津白虎隊』(早川喜代次著)を参考にさせていただきました。現代語訳は、原文にはない句読点や改行、黒色の( )内の説明など、文章を判りやすくする為に補った箇所があります。また、
赤色の( )は研究者の方にご教示いただいた説明、言葉の意味の注釈です。
難解な点は、研究者のM氏にご教示いただきました。色々お世話になり有難うございましたm(_ _)m。
なお、書簡の現物は、白虎隊記念館で見ることができます。



(原文)
 一筆奉啓上候、追日秋冷相催申候得とも御両兄様ますます御機嫌よく御奉公被為御座候よし誠ニ以恐悦之御儀ニ奉存候 当方も御祖母さま奉始御家内様いよいよ御機嫌よく被為遊御座候間乍憚御安心御思召被成下度奉願上候
 次ニ小子儀も御無事にて御奉公罷在候間決而御安事被成下間敷候よう何卒奉願上候 小子儀も此間為御警衛福良村迄二三十日間出張仕候 又為御供罷還候 其後何方にも出張不致候 壱番白虎並寄合組御俵へ出張仕候処小子儀ハ当方にて安楽いたしをり誠ニ以不安事ニハ候得とも是以無拠次第ニ御座候 御俵も甚以宜敷様子無之候ニ付誠ニ以御安事おり申候 小子儀出張跡へ御状被下拝見仕候 其御返事急ニさし上度存候へとも序無之故御無音ニ打過誠ニ以御両兄さまへ奉恐入候
 当方も諸々方々ニ而戦争有之候へとも御様子無之を残念之至奉存候 此節之気候柄存分御両兄様御厭御奉公被遊候よふ奉願上候
 右何も何も御機嫌奉伺度奉呈愚札候
                                    恐々謹言
  八月十一日夕方 認
   金吾兄上様
   八郎兄上様
                                     潔美
                            
二白 此間父上さまほろ役被仰付猪苗代へ御出張被遊候此段一寸申上候
 尚々此御守東照大権現之御守也 此御守御身よりはなされす御持参の上御戦争被遊候よふ奉願上候 御組格別之御はたらき之よし奉恐察候 何卒御厭被遊御奉公のよふ奉願上候 此御守御両兄さまへさし上申候

(現代語訳)
 一筆お便り差し上げます。
 日を追って秋らしくなって参りましたが、兄上様方もお元気でご勤務なさっているとの事、誠に喜ばしく思っております。当方も、お祖母さまを始め家族は皆元気に過ごしており、生意気な言い方ではございますが、どうぞご安心ください。
 次に私も無事にご奉公致しておりますので、何卒心配なさらないでください。この間は、(若殿様の)警護の為、福良村まで二、三十日間出張致しました。また、御供をして帰って参りました。その後は何処にも出張しておりません。白虎士中一番隊および寄合隊は(若松を離れて)其方(御俵=そちら方、漠然と任意の場所を指す。ここでは越後方面のこと)へ向かっておりますのに、私共(士中二番隊)は当方(若松)に安楽して留まり、誠に不安な事ではありますが、致し方ない状況にございます。其方も戦況甚だよろしくないようで、心配しております。私の出張後に下さったお手紙を拝見致しました。お返事をすぐに差し上げたかったのですが、機会がなくてなかなかお便りできず、兄上様方には誠に申し訳なく思います。
 此方でも、あちらこちらで戦闘がありますが、なかなか戦況は好転せず、残念でなりません。時節柄、兄上様方もお身体に充分お気をつけてお勤めなされるよう、願っております。
 ここまで認(したた)めたことはすべて、御機嫌伺いとして(私信)本書を送付いたします。
                                    恐々謹言
  八月十一日夕方 認
   金吾兄上様
   八郎兄上様

                                     潔美

二白 この間、父上様が幌役を仰せ付けられ、猪苗代へ御出張された事を一寸申し上げておきます。
 尚、この御守は東照大権現の御守です。この御守を御身につけて離されず、ご持参なさって戦闘に赴かれるようお願い致します。所属される組(部隊)がさぞやご活躍のことと存じます。何卒お身体を大切にされ、御奉公下されますよう、願っております。この御守は兄上様方へ差し上げます。


【豆知識】 
■「憚乍」(はばかりながら)は、「生意気な言い方ですが」「恐れ多い言い方ですが」の意味。
■「又為御供罷還候」(またおともとして、まかりかえりそうろう)の文中、「為」は「として」「のため」と読み、どちらでも
OK
■「厭」は、「大事にする」「いたわる」の意味。



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