SOMEDAY おまけ



 そして、オレは再びインターハイの会場のスタンドにいた。隣の席の晴子ちゃんは始まる前から興奮してる。女の子はいいよな。素直に自己表現して好きな男のこと応援できるんだから。
「あ、出てきた。流川君……。桜木君も」
 ここから見守っててやるよ。お前のプレイ、全部オレの目に焼き付けて。
「あ、手振った。洋平君、今日も桜木君調子よさそう」
「まあな、あいつは晴子ちゃんさえいればいつでも絶好調だよ。晴子ちゃんが気持ちに答えてやれば……」
 いいかけて、オレはしまったと思った。そういえばこのコは花道の気持ちには気づいてねえんだよな。オレはごまかすつもりで何か言おうと頭を巡らした。だけど晴子ちゃんは驚いた顔もしねえでちょっと悲しそうに笑ったんだ。
「桜木君はたぶん、あたしのことなんか好きじゃないと思うよ」
 オレは驚いて何も言えなかった。晴子ちゃんが花道の気持ちに気づいてたって事実と、それを更に回りに気づかせなかったって事。
「たぶん桜木君て、あたしに理想重ねてるだけなの。それにあたしじゃ桜木君の恋人にぜんぜん似合わないと思うし。……桜木君て、すっごく大きくなる人だと思う。きっともっと桜木君に似合う人が現われるわ」
「……それじゃあ晴子ちゃん、花道の気持ちに気づいてて今までああいう態度とってた訳?」
 そっけなくする訳でもなく、目一杯おだててその気にさせて、それって花道の気持ち利用してたって事じゃねえか。それじゃあんまりにも花道がピエロだ。
「桜木君はただでさえ才能がある人なの。本物の天才よ。だからあたし、天才の発掘者になるんだ。いつか桜木君が本当に好きな人を見つけるまで、あたしが桜木君を育ててあげるの」
 ……つまり、花道がその才能を開花させるためなら、晴子ちゃんはずっとその知らないふりを続けるって事。
 オレが晴子ちゃんの言葉にある種の感動を覚えていると、脇から松井さんが顔を出した。
「晴子の言葉なんか本気にとっちゃだめよ、水戸君。このコって理論は立派なんだけど行動が伴わないんで有名なんだから」
「……どういう事?」
「ひとの恋心にならいくらでも注釈つけられるけど、自分のことはからっきし見えてないのよ。だいたい天才は桜木花道だけじゃないわよ。流川君の恋人にこのコが似合うと本気で思う?」
 今、判った気がする。昨日の松井さんの溜息の意味が。けっきょく女の子って、どんなにかわいく見えても男を影から操ることに快感覚えるような人種なんじゃねえか。
 先人の『女は魔物だ』という言葉を、オレは改めて実感していた。

おわり

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