真夏のメリーゴーランド おまけ
バイトの帰り、オレはまたポカリを買って学校への道を歩いていた。と、前から身体に似合わねえママチャリに乗ったでかい奴。オレは何のこだわりもなく声をかけていた。
「よう、流川。練習終わったのか?」
そういやこいつと会うの、あの夜以来か。流川の奴、ちょっと驚いたようにオレに振り返った。
「水戸……」
オレが笑って声かけたのがそんなに意外だったか? まあ、確かにあんときああいう別れ方したしな。奴の方にこだわりが残ってたとしても無理はねえか。何かオレの方は花道の一言で全部すっ飛んじまったけど。
「……お前、桜木に戻ったのか……」
なに言ってんだよお前。ったく、こいつの頭ん中ではオレはどっかの男とくっついてねえ事には納得出来ねえらしいな。オレはどっから見ても正真正銘立派な男だ。戻るとか戻らねえとか、そういう言い方以外にももっとほかに言葉があるだろうに。
「オレと花道は何でもねえよ。てめえとオレとが何でもねえようにな。あんまオレのこと変な目で見るなよ。ホモじゃねえぞ、オレは」
オレの言葉に何を思ったのか、流川は悲しそうにオレを見た。まるでオレを憐れんでるみてえな目だ。何か腹立ってきたぞ。何でそんな目で見られなきゃなんねえんだ。
「何が言いてえんだよ! はっきりしろよ」
「桜木はお前に必要なものはくれねえぞ」
「必要なもの? 何だよそれ」
「必要なものは必要なものだ。お前が奈落まで落ちねえために必要な」
……どうしてこいつはこう、判らねえ言葉でしゃべるんだよ。聞いてるこっちが疲れちまうじゃねえか。何か、一日の疲れがどどっと来た感じだ。
「で? てめえならオレに必要な何とやらをくれる訳か? この前の感じじゃとうてい信じらんねえな」
「もう一度チャンスがあればその時はやれる。だけど桜木にはたぶん一生判らねえ。水戸、オレの言ってる事理解できたら、桜木なんかやめてオレにしろ。今度は失敗しねえ」
「オレもばかだからな」
オレは流川に背を向けて歩き始めた。オレに必要なものって何だよ。オレが欲しいものと違うのか? もしも万が一お前の言うことが判ったとしても、それをお前に求めることはたぶんしねえよ。何でだか判んねえけど、お前はオレとは生きてる世界が違う。オレにはやっぱ、どあほうの花道が合ってるんだ。
花道の顔を思い浮かべながら、今夜の一コマはすっかりオレの頭から消えうせていった。
おわり
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