LAST YOU おまけ
救護室から出た木暮は、とりあえずまっすぐ体育館に向かっていた。赤木と安西先生に報告しなければならないけど……自分の顔は赤くはないだろうか。にやついてはいないだろうか。一応鏡で確認はしたけれど、ちょっと不安で、ちょっと幸せだった。
体育館の扉は閉まっていた。さしたる苦労もなしに扉をあけると、練習中の部員が気付いたのだろう、振り返った。赤木の「集中!」の一言でほかの連中は練習を再開したが、赤木一人はなにやら血相を変えて木暮に走ってくる。怒っているような、恥ずかしがってでもいるような赤木の迫力に、木暮は押されて立ちつくした。やがて目の前まで来た赤木は無造作にタオルを放った。
「持ってろ」
肩にひっかかったタオルを、木暮はいぶかしみながらも無意識に持ち替えようとする。さらに赤木はタオルごと肩を抑えつけたのだ。
「赤木」
「いいからそこに持ってろ。……で、どうした。三井は帰るのか」
「ああ、これから送ってくる。俺はまた戻るつもりだけど……」
「戻らんでいい! ……ちょっと待ってろ。俺が先生に許しをもらって来てやる」
赤木はもう一度木暮の肩を押えて、先生のところへ行った。そうして二言三言会話を交わす。木暮には、赤木がなぜ自分を怒っているのかが判らなかった。戻ってきた赤木はさらに、木暮を体育館から追いだしたのだ。
「いったい何なんだよ、赤木。先生に失礼じゃないか」
体育館のドアをきっちり締めて、ようやく安心したのだろう。赤木は木暮の肩にあったタオルで、自分の汗を拭いた。そして照れたように言ったのだ。
「ついてるんだよ」
「何が?」
「歯形! お前の肩に歯形がついてるんだ! くっきりはっきり」
「……ええっ?」
み……三井の奴ぅ!
人にはキスマークつけるなとか散々言っておきながら!
「なにがあったかはだいたい想像がつく。なにも言わんでいい。だからそいつが消えるまでお前は部活禁止だ。……まあ、その……よかったな」
遠くで三井の高笑いが聞こえる気がする。そんな空耳を聞きながら、木暮自身にも判らなくなってきた。本当によかったのだろうか。本当に自分は幸せなのだろうか。
「とにかく頑張れ。道程は険しいかもしれんが」
赤木の言葉は木暮にはずっしりと重たかった。
おわり
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