赤と黒のイノセンツ おまけ



「あーっ、終わった。やっと帰れるぜーっ!!」
 ゴリの解散コールのあと、オレたちは喜び勇んで体育館をあとにした。もちろん花道の呼ぶ声なんか無視だ。部室の方へと歩きながら、四人はやっと終わったという思いにほっと胸をなでおろしていた。
「さあて、花道の奴、うまくやれるかな」
「あいつのことだからな。きっと手も握れねえでおわるんだぜ」
「だいたいオレ達が気いきかせたことすら判らねえだろうしよ」
 花道と晴子ちゃんとを二人っきりにさせてやる作戦、発案者はオレだ。花道は晴子ちゃんが好きな訳だし、めでたく二人がまとまってくれりゃ、オレも諦めざるを得ないだろうから。ま、結局はオレが楽になりたい一心でやったことだな。
 三人がわいわいやりながら渡り廊下を歩いてくのをおっかけながら、オレはふと気配を感じて振り返る。視線を辿るとそこには流川。立ち止まったオレに三人は気づかねえで行っちまって、逆に流川はオレの方に近づいてきた。
「よう、久しぶりだな。合宿どうだった?」
 これでこいつが晴子ちゃんをふってくれさえすりゃ、オレの作戦も8割方成功なんだけどな。
「お前……顔つきが変わったな。桜木と何かあったのか」
  ―― これだよ。オレに何かあるとすぐに花道と結び付けやがる。こいつはオレと花道をくっつけたがってやがんのか? ……まあ、それならそれでいっこうにかまわねえけど。
「お前の目にどう見えるのか知らねえけどな、花道とはどうにもなっちゃいねえよ。ただ、オレもいろいろあったからな。顔も変わるさ」
 流川の奴は僅かに目を伏せた。こいつは本当に表情の判らねえ奴だが、最近はオレもなんとなくこいつの表情をよむのに慣れてきたようなところがあって、ちょっとした変化が判る。オレに判るのは表情が変わったって事だけで、それ以上は判らねえけどな。
「女々しいとか思うかもしんねえ。だけど、お前はもうオレのところに来る気はねえんだな」
 その流川の言葉で、オレは奴の気持ちをはっきりと理解していた。こいつもオレと同じなんだって事。オレのこと忘れたくて、忘れるつもりでオレと花道のことしつこく聞いて納得しようとしてる。本気、なんだなお前。オレが花道に本気なように、お前もオレのこと……。
 オレはきっと今までずっとお前に対して残酷だったな。だけど、オレはもう判ったから。きっともっとお前にやさしくなれるよ。オレの最大限のやさしさを、お前にやれる。
「ああ、オレはこれからもお前に戻る気はねえよ。誰のものになってもお前のものにゃならねえ」
 最大限の残酷な言葉が、たぶん流川の一番欲しい言葉だったんだろう。それは、今のオレが一番欲しい言葉でもある。

おわり

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