「でもさ、やっぱりシュウはあたしよりもほかの人に対しての方が親切だよ。祈りの巫女にだってすっごく素直だし。それじゃ誤解されてもしょうがないんじゃないの?」
「いまさらおまえに着飾っても意味ないって。オレに言わせれば、おまえに対する態度の方がオレの素なんだよ。おまえだって祈りの巫女とオレとじゃ口のきき方がダンチで違うぜ」
「だって、…祈りの巫女にお下品な言葉遣いなんかできる訳ないもん」
「オレだって同じだよ。この村の人たちって、普通にしててもどこか品があってさ、ここにいる間中ずっと緊張なしにはしゃべれなかった」
「まあ、それはそうだよね。…でも運命の巫女に誤解させたのはシュウが悪いけど」
 1度は同意するように見せて、そのあとしっかり主張を繰り返してくる。まあ、確かにオレに悪いところがまったくなかったとは言わない。だけど、書庫で何度か会って普通に会話しただけで、いきなり運命の巫女に付きまとわれる羽目になったオレにも少しくらいは同情して欲しいよ。
 一昨日の会議のとき、守護の巫女に出立時刻を訊かれて正直オレは冷や汗が出た。正面に座った運命の巫女が、目をらんらんと光らせてオレを見つめていたから。
 早朝としか答えられなくて、見送りたいって言う守護の巫女にオレは、現地時間と到着場所を考慮するとどうしてもその時刻じゃないといけないんだって必死に嘘八百並べ立てなければならなかったんだ。その早朝って言葉を運命の巫女がいったいいつだと捉えたのかが判らない。もしも夜明けの頃と取ったのなら、既にいつ現われてもおかしくないくらいなのに。
「もう諦めて見送ってもらったら? 運命の巫女に。あの子何気にかわいいじゃん。2歳も年下らしいし」
「嫌だよオレは。追いすがられて泣かれたらマジ困る。人のことだと思って面白がってるだろおまえ」
「っていうかものすごく呆れてる――」
 そのとき、不意に神殿の扉を叩く音が聞こえて、オレはびくっと身体を震わせた。神殿の扉がゆっくりと開いて、やってきたのが祈りの巫女だと判ったときには心の底からほっとしたんだ。
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