――なにが正しいのかなんて、今のあたしには判らない。


 1ヵ月後の9月2日、あたしとリョウは結婚して、やがて子供が生まれて、家族が増えていく。
 その先の未来はあたしには判らない。あたしの選択が村をどんな運命に導くのかなんて、あたしには判らない。あたしは村の運命を歪めたのかもしれないんだ。今の運命の巫女にだって、100年後の未来すらも判らないだろう。
 影は言っていた。このまま村が存続すれば、1000年後にはまた世界を破壊するほどの力がこの村に生まれてくるんだ、って。
 その時代の祈りの巫女が世界を滅ぼすのか、それともそれより前に村が滅びるのか、結末は誰にも判らないんだ。

 だけどあたしは、今ここでリョウの手を取ったことを後悔はしないだろう。
 なぜなら、1人の人間が自分の幸せを求めることは、ぜったいに正しいことだと思うから。
 あたしは祈りの巫女。村人の幸せを神様に祈って、みんなを幸せにすることがあたしの仕事。
 でも、あたしが祈るのは自分が幸せになりたいから。村のみんなが幸せになってくれなかったら、あたし1人で幸せになることなんてぜったいにできないから。

 1000年後、この村は大きな力を得て、やがて破壊の村と呼ばれるのかもしれない。
 だからあたしは未来の祈りの巫女に伝えたい。人は独りでは幸せになれないけど、それは村も同じなんだって。
 それは、祈りの巫女の禁忌を破ってしまったあたしだからこそ伝えられることだと思うの。周りの村を滅ぼしてしまったら、この村だけ幸せになることなんてぜったいにできないんだって。
 なぜならこの村は、既に周りの村と助け合って生きているんだから。


 あたしは祈りの巫女。村人の幸せを神様に祈って、みんなを幸せにすることがあたしの仕事。
 だから、ずっと未来の村人にも幸せになってほしいって、願いを込めて祈り続けていく。


次へ
扉へ
トップへ