リョウがあたしを抱きしめたところで動きを止めてつぶやく。
「…眠い」
…そうだよね。リョウ、昨日はほとんど眠ってなかったはずだもん。あたしだって昨日はぜんぜん寝てなかったんだ。
「あたしも眠いみたい。このまま眠っちゃいそう」
横になったら急に眠気が襲ってきた。今まで気を張ってたからぜんぜん気づかなかったけど、たぶんほっとして気が緩んだの。
「だったらお互い眠らないうちにとっとと済ませるぞ。…リョウとの結婚式はいつの予定だった?」
「えっと、リョウが20歳になってからすぐにするって言ってたわ。秋祭りまで待たない、って」
「正式に決まってた訳じゃないんだな? リョウの誕生日は」
「9月20日」
「結婚式は9月2日にやる。予定より早いかもしれないが、今から1ヶ月あれば準備くらいできるだろ。なにか用意するものはあるのか?」
「神殿に予約を入れて…あたしの衣装は儀式用の巫女の衣装を手直しするくらいでいいと思うわ。リョウも狩人の仕事着に飾りをつけるだけだと思うし。あと、狩人が結婚するときは前日までにつがいのカザムをしとめて神殿に奉納するの。それが一人前の狩人だって証明する儀式になるんだって」
以前リョウに教えてもらったことを、働かない頭で必死に思い出す。だんだん言葉が危うくなっていた。でもそれはリョウも同じみたい。
「つがいのカザムか。今の状態だと何日かは泊まり込みになるな。…で、9月2日、俺と結婚してくれるか? ユーナ」
なんでいまさら? って思ったけど、すぐに気づいた。あたし、まだちゃんとリョウに返事してなかったんだ。
「9月2日にあたし、リョウのお嫁さんになりたい。でも、どうして9月2日なの? 20日じゃなくて」
「この村で俺は、死んだリョウが生き返ったことになってるから、誕生日は20日なんだ。だから2日を結婚記念日にする。そうでもしなかったら、俺は一生おまえに自分の誕生日を祝ってもらえないだろ――」
そうか。9月2日はここにいるリョウの誕生日なんだ。死んだリョウとは違うリョウのことを1つ知ることができたんだって、疼くような喜びがこみ上げてくる。
でもあたし、この頃にはすっかり夢と現実との境があやふやになっていて、本当にリョウがそう言ったのかどうかはっきり判らなくなっていたの。どちらが先に眠ったんだろう。眠りにつく直前、命の巫女たちのことがふと頭をよぎったけど、それきりリョウの声も聞こえなかったからあたしは夢の中へと落ちていった。
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