最初、戸惑うように息を飲む気配がして、やがておずおずと応えてくる唇を感じた。一瞬だけ激しく押し付けたあと、あわてたようにリョウがあたしを引き離す。あたしを見つめるリョウの眼は驚きに見開いていた。ううん、たぶん驚き以外の感情もその中には含まれてる。
「2人が好きだって、どういう意味だ。身代わりとは違うのか?」
あたしの方が首をかしげちゃったよ。だって、たった今リョウが言ったばかりなのに。あたしは死んだリョウのことを忘れなくていい。リョウは死んだリョウと一緒にあたしの傍にいてくれる、って。
「違うよ。だって、リョウの代わりは誰にもできないもん。あたしは、これから先あたしと一緒に生きてくれるあなたが欲しい。この先、未来でどんなに変わっても、死んだリョウと別人のようになったとしても、あたしはあなたと一緒にいたいの」
タキと同じように、リョウにも判らないんだ。同時に2人の人に恋をする、って気持ちが。リョウは視線をそらしてため息をつく。たぶん、自分なりになにかを納得しようとしたんだろう。
「…つまり、リョウが死んだ今は俺だけだってことだな」
「そう思ってくれていいわ。あたしには今は目の前にいるリョウだけよ」
なんだか面倒になってそう答えた。確かにリョウがいなければこの人だけだもん。もし、万が一、死んだリョウが生きていたとしたら、今のあたしはどちらを選ぶこともできなかったかもしれない。…たぶん罪悪感に負けて死んだリョウの方を選んでいただろうけれど。
「…だったら、村を出て行かなくてもいいか?」
いまさら何を言ってるのかってちょっと首をかしげた。でもすぐに判ったの。リョウ、さっきあたしが泣きながら叫んだこと、まだ気にしてたんだ。
そんなのあたし、リョウが「大切なものなら忘れることはない」って言ってくれたことで忘れちゃってたよ。
「出て行ったりしないで。それからこの家も出なくていいよ。あたし、リョウがあたしのために建ててくれたこの家に住みたいもん」
そう言ったらリョウ、いきなり立ち上がってあたしを抱き上げて、ベッドの上に降ろしたの!
「おまえの気が変わらないうちに俺のものにする。…おまえ、この期に及んで逃げるなよ」
ベッドに横たわったあたしの靴を脱がせて、そのままあたしに覆いかぶさってくる。その仕草がちょっとだけ乱暴に思えて少し怖くなってしまった。リョウがしようとしていること、とっさに判らなかった。少し考える時間があれば判ったかもしれないけど。
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