いつしかこの部屋にも朝日が差し込み始めていた。明るくなりかけた部屋の隅に座り込んだリョウの顔が見える。その表情はどこか恥ずかしそうで、でもそんなリョウの姿も自分が流した涙にかすんで見えなくなっていく。
 心の中に引っかかっていたもの。それが、外れた。…ううん、壊れた。
「リョウなんか大っ嫌い!」
 自分が何を叫んだのか自分でも判らなかった。リョウがハッと顔を上げる気配がある。
「さっさと帰りなさいよ! この家から出て行って! リョウがこの村に残るなんて許さないから!」
 あたしを追い詰めないでよ。だって、どうしたらいいの? あたし。リョウが命の巫女よりもあたしを選ぶなんて――
「バカ! バカバカバカ! リョウなんか大っ嫌いよ! どうしてこん…! さっさと帰っちゃえばいいじゃない! バカ! オタンコナス! クソッタレ! リョウのクソッタレ!」
 思いつく限りの罵声を浴びせる。きっとリョウ、驚いて固まってる。
「早く出て行ってよ! この家からもこの村からも出て行って! もう2度とあたしの前に現われないで! リョウの顔なんか見たくない。…リョウの嘘つき。命の巫女のことが好きなんでしょう? だったら一緒に帰りなさいよ! これ以上あたしに関わらないでよ!」
「ユーナ…」
「そんな風に呼ばないで! あたしは命の巫女なんかじゃないんだから! ほら、さっさと動きなさいよ! 走って追いかけなさいよ!」
 怖かった。認めてしまうのが。自分でも理解してたはずなのに、リョウが命の巫女よりあたしを選んだと知って認められなくなっていた。
 未来への道を踏み出すことがこんなに辛いなんて知らなかったよ。リョウ、どうして過去にしがみついたままでいさせてくれなかったの?
 リョウに呆れて欲しいの。あたしはこんなにわがままで、リョウのことなんか少しも好きじゃない。これから先リョウにはほんの少しだって希望なんかない。だから諦めて帰って欲しかった。
「未来なんか選ばなきゃ良かった。あの時、影に言われたとおりにすればよかった。死んだリョウを生き返らせてればよかったよ。あの時過去に戻ってたら出会わなくて済んだのに。…こんな、こんな思いしなかったのに――」
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