あたしが黙ってしまったからだろう。あたしの沈黙を勝手に解釈したようで、リョウは言葉をつないだ。
「だったらユーナ、俺にチャンスをくれ。…頼むから」
 今日、初めて名前を呼ばれて、あたしの心臓が大きく鼓動した。切ないような声色。
「俺にはこんな方法しか思いつかなかった。10年…とは言わない。おまえとリョウが恋人同士だった2年間だけでいい。俺にもチャンスが欲しいんだ。…おまえがリョウを忘れていないのは判ってる。だけど、おまえは昨日、新しい恋人を見つけるって言ったな。だとしたらそれが俺になる可能性も少しはあるはずだ。そうだろ?」
「…」
「おまえが望むならこの家を出て行ってもいい。婚約者の思い出がある家だからな、他人に居座って欲しくはないだろ。だけどこの村に住むことだけは許して欲しい。もし…死んだ奴と同じ顔をした俺なんか2度と見なくないっていうならしょうがねえ。諦めて村を出て行く。ランドに習った狩人の技術があればどこででも生きられるだろう」
「…」
「だからって俺を村へ呼び出した責任を感じる必要はない。帰らないのは俺の意志だ。おまえにはなんの責任もないことなんだからな」
 知らず知らずのうちに、あたしの目から涙があふれて零れ落ちていた。
 ――リョウがなぜ帰ろうとしないのか。今までリョウが口にした言葉をつなぎ合わせて、やっとあたしにも理解できた。
 あたしのためなんかじゃなかったの。リョウはリョウ自身のためにこの村へ残りたいと思ったんだ。自分が生まれた村よりも、命の巫女の存在よりも、ここに残ることの方を選んだの。この村に残って、あたしの傍にいたいって、リョウ自身が心から望んで。
 あたしの婚約者としてじゃなかった。偽りの婚約者だった関係を白紙にして、すべてをここから始めたいって、そう思ってくれているの。リョウとあたしはまったく同じ気持ちでお互いを求めていたんだ。込み上げてくる想いがあたしに涙を流させていた。今まで、リョウと2人で過ごした時間が現われては消えていく――
 あたし、リョウを信じてもいいの? あたしと同じ気持ちでいてくれたんだ、って、リョウに縋って泣いてもいいの…?
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