「そんな…そんなことないよ! あたしリョウのほかに好きな人なんて――」
「昨日言ってた新しい恋人ってのがそれかよ! そのうちじゃなくて、既にそういう奴がいるってことなんだな? おまえ、タキのことが好きなのか? だから俺を追い出そうとしてるのかよ!」
 リョウ、あたしがリョウを死んだリョウの身代わりにしてるって、そう思ってたの? あたしに新しい恋人ができたって…。
「リョウのことが邪魔だとか、そんなこと思ったことない」
「だったらなんでそんなに俺を帰らせようとするんだよ!」
「それは…だって、リョウはリョウの村へ帰るのが1番いいことだから。このままこの村にいたら、リョウは親しい友達や家族と永遠に別れなきゃならないんだよ?」
「俺に親しい人間なんかいない。両親もだ。…ここへ来る前に父親の葬式を出してきた」
 影の世界でリョウの母さまを見たとき、あたしはリョウの母さまは既にこの世にいない気がしていた。リョウには父さまもいなかったんだ。だけど。
「命の巫女は? あたし、リョウが命の巫女のことを好きだって気づいてたよ。あたしが気づいてないとでも思ったの?」
 あたしが命の巫女の名前を出したとき、リョウはハッとして動きを止めた。…やっぱりそうだったんだ。確かめたことなんかなかったけど、あたしはずっと感じていた。リョウは命の巫女のことが好きで、だからあれほどすんなり影と戦うことを決められたんだって。
「…確かにそうだったかもしれない。母親の病気が発覚して、子供の頃に過ごしたあの町を離れてから、俺は病気と戦う両親の姿しか知らなかった。楽しい思い出として残ってるのはユーナとあの町のことだけだった。だから成長したユーナと再会したとき、俺はあいつのことを守ろうと思った。たぶん好きだったんだろ。いつも一緒にいるシュウの奴が妬ましかったからな」
「…」
「だけどこの村にきて、俺はおまえに会った。脆いくせに一生懸命に強がって、両親や婚約者を殺されながら影と必死で戦ってるおまえに。…成長したあいつとは数えるほどしか話したことがないんだ。そんな奴のためにおまえと一生別れようなんて思えるはずがねえだろ」
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