「…怖がってないわ。あたし、リョウのこと怖いと思ったことなんかない。だから安心して」
この時リョウが初めてハッとしたように顔を上げたの。その表情が今にも泣き出しそうで、あたしはまたドキッとしていた。今までとはまったく違う気持ちで。
リョウのことが好き。この人があたしのリョウだったら、今すぐにでも抱きしめて「大丈夫だよ」って安心させてあげるのに。
どうしてこの人はあたしのリョウじゃないんだろう。どうして彼は命の巫女の騎士で、別世界の村の人なんだろう。
こんなにあたしのリョウにそっくりなのに。誰にも判らなくたってあたしには判るの。このリョウはあたしのリョウと同じ心を持ってる。違うのは、この人が命の巫女を好きだってことだけ。
あたしは一生命の巫女の身代わりでいるべきなのかもしれない。だって、あたしにとっては、リョウが傍にいることが1番の喜びなんだから。
――ううん、たとえリョウが身代わりを欲していたとしても、そのためにリョウにすべてを捨てさせるなんてことはしちゃいけない。
「リョウが優しい人だって、あたしは知ってる。だから怖いと思ったことなんかないわ。…恋人を亡くして、リョウのことを記憶を失った恋人だと思い込んだあたしに、リョウは黙って記憶喪失の恋人を演じてくれた。影の攻撃から精一杯守ってくれようとして、あたしが恐怖に囚われたときにはずっと傍にいてくれた。リョウはあたしが立ち直るための時間をくれて、その上あたしのために村へ残ってくれようとした。…もう、十分なんだよリョウ。これ以上あたし、リョウの優しさに甘えられないもん」
「…違う。優しいから俺はおまえの傍にいたんじゃない。俺は」
「ううん、リョウは優しい人だよ。だからあたしがリョウを怖がってるとは思わないで」
「からかってるのかおまえ! それとも俺が村に残ったらなにか都合が悪いことでもあるのか?」
…え? あたしがリョウをからかうって、どうしてそんな言葉が出てくるの? あたしがリョウをからかったりする訳ないのに。
「ほかに好きな奴でもできたのか? だから婚約者の俺が邪魔になったって訳かよ! そうだよな。俺はただおまえのリョウの身代わりで傍にいただけだからな。死んだ奴の身代わりなんて、ほかに好きな奴ができればお払い箱決定だよな」
次へ
扉へ
トップへ