「リョウ! …どうしてこんなところにいるのよ!」
声に対する反応はない。顔を上げないリョウをあたしは眠っているのかと思った。
「早く起きて! 命の巫女たちには出発を待ってもらってるから」
リョウを起こすためにベッドのテーブルにランプを置いて近づいていく。肩に触れようとしたそのとき、不意に動いたリョウの手にあたしの手は弾かれていたの。この部屋でリョウが初めて目覚めたあの時と同じように。
「触るな! …眠ってはいない」
「リョウ。…酔っ払ってるの…?」
足元にお酒のビンが転がっている。あたしは顔を伏せたリョウを覗き込むように膝をついた。リョウはベッドの足元の方にいたから、枕元に置いたランプの灯りだけでは位置を確認するのが精一杯で、リョウの表情まで見ることはできない。
「立ち上がれないの? だったらあたしが支えていくわ。早くしないとシュウが痺れを切らして帰っちゃうかもしれない――」
「酔いなんかとっくに醒めてるさ! こんな酒、たった1瓶で朝まで持つ訳ねえだろ!」
リョウに怒鳴られて、あたしはやっとこの事態の異常さに気づいていた。リョウは目が覚めていて、今が真っ暗でもちゃんと朝だってことに気がついてる。それなのにリョウは神殿へは行かなかったんだ。どうして? だってリョウは昨日ちゃんと判ったって言ってたのに。 とにかくリョウを神殿まで連れて行かなきゃ。さっきのシュウはなんだか判らないけどすごく焦ってる様子だったんだもん。遅れて戻ったら2人とも出発したあとだった、ってことになりかねないよ。
「…じゃあ、1人で歩けるわね。まだ暗いからランプを持っていった方がいいわ。…そうか、リョウ、ランプをしまってある場所が判らなかったの? だったらもしよかったらあたしのを使って。あたしは明るくなってから帰るから」
これから神殿までの道のりをリョウと一緒に歩いて、神殿でリョウを見送ったらあたしは泣いてしまうかもしれない。それなら今ここで別れた方がいいと思った。
「あんまり命の巫女たちを待たせられないの。シュウにはすぐに戻るって言っちゃったから。だからできるだけ急いで支度して」
次へ
扉へ
トップへ