「すぐに連れてくるわ! もしかしたら寝坊してるのかもしれない」
あたしが言うと、シュウは焦ったような手振りと苦笑いで返した。
「え? 別にいいよ。こんな時間にわざわざ起こすことないって――」
「ぜったい待ってて! ほんとにすぐに連れてくるから! …もう、どうしてこんな大事なときに寝坊なんかするのよ!」
そう言いながらあたしは既に駆け出していた。うしろからシュウが呼び止める声が聞こえたけどかまわなかった。きょろきょろ見回しながら広場を横切って、神官宿舎の裏手にあるリョウの家への坂道を降り始める。ここは1本道だからリョウと行き違ってしまう心配はなかった。
まさかこんなことになるなんて思わなかったよ。見送りのあたしでさえあんなに緊張して起きたのに、どうしてリョウが寝坊するの? だって、リョウは命の巫女たちに置いていかれたら一生帰れなくなっちゃうの。しかも、命の巫女たちに自分が帰ることを伝えてなかったなんて。
走っているうちにちょっとだけ不安になった。もしかしてリョウ、あたしと顔をあわせたくなくて、神殿の近くに隠れてたのかもしれない、って。あたしがリョウの家に向かっている間に命の巫女たちと帰るつもりなのかも。万が一にもあたしに追い縋られたくなくて。
――それならそれでいい。リョウがもうあたしの顔を見たくないって思っているなら。
足元をランプで照らしながら、もう数え切れないくらい歩いた坂道を下っていく。リョウの家に灯りはなかった。眠っているのか、それとも既にリョウはいなくなっているのか、どちらにしても遠慮はいらなかった。形だけノックをしたあと大きな音を立てて扉を開ける。
「リョウ! 入るよ!」
食卓のテーブルに昨日あたしが置いていった箱が浮かび上がって、ちょっとだけ驚いた。でもそれだけで、今はその箱は無視して再び声をかけながら寝室の扉を開ける。ベッドの上には誰もいなかった。やっぱりリョウはもう出発してしまったんだ、って、ズキッと胸に痛みが走る。
だけど、部屋の中を再び見回してみたそのとき、部屋の隅でベッドに寄りかかるようにうずくまるリョウの姿を見つけたんだ。
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