その夜、あたしはまったく眠ることができなかった。
リョウには寝ぼけまなこのあたしを覚えていて欲しくなんかなかった。だけど、次から次へといろいろなことを考えてしまって、ぜんぜん眠気が訪れてくれなかったの。そのうち今眠ったら朝起きられないかもしれないなんて、変な緊張もしてきてしまった。別れに眠そうな顔も見せたくはなかったけど、きちんとお別れも言えないまま別れるのはもっと嫌だと思ったから。
今、思い出そうとしても、リョウのことはあまり思い出せなかった。リョウとの時間は飛ぶように過ぎていって、思い出そうとすると影との戦いやさまざまなことが一気によみがえって混乱する。同時に込み上げてくる感情があって、勝手に涙が出て来るんだ。きっともう少し冷静になればいろいろ考えることはできるんだと思う。だけど今のあたしには冷静になることなんかぜんぜんできなかった。
リョウのことは諦めなきゃいけないって、頭の中では判っているの。でも心がついてきてくれない。
あたしのリョウは死んだんだ。もしもリョウが生き返らなかったら、あたしは今でもあの悲しみの中にいて、村が滅びていくのを黙って見ていることしかできなかっただろう。起きた出来事に意味を与えるなんてことは今までしたことがなかったけど、もしもあのリョウが現われたことに意味があるのだとしたら、きっとその2つだった。あたしがリョウの死から立ち直るためと、村の平和を取り戻すため。
あの時リョウがきてくれたから、今のあたしは自分が大丈夫だって思える。リョウはあたしに、本来ならあたしが立ち直るために必要だったはずの長い時間をプレゼントしてくれたんだ。もちろんそれだけじゃない。もしかしたら村と一緒に死んでしまうかもしれなかったあたしの命を救ってくれた。…それで十分だよ。それ以上なんて、あたしは望んじゃいけない。
自分を説得する言葉ならいくらでも考え付くことができる。あたしはちゃんと納得しているんだ。でも感情はあたしの意志を離れてあたしに涙を流させてる。
笑ってリョウを送り出したい。そう、思ってるのに――
今、望みを言葉にしたら、きっとリョウを目の前にして零れ落ちてしまうだろう。リョウの胸に縋りついて叫んでしまうだろう。人は村から離れては生きていけない。リョウとあたしとはまったく違う村に根付いた人間同士なのに。
命の巫女たちと約束した時刻まで、あたしはずっとベッドの上で人知れず涙を流し続けていた。
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