シュウが言うことは、いつものようにあたしにはほとんど理解できないものだった。たった1つだけ判ったのはシュウが最後に言った言葉。もしもあたしがシュウの本を読んだとしたら、あたしはシュウが書いた神様をそのまま信じてしまうだろうということ。それはあたしがシュウを知っているからなんだ。シュウは頭がよくて、誰よりも深い考えを持っているってことを、あたしは知っている。
 だけど、これから先のシュウを知らない世代の村人たちなら、もしかしたらシュウの神様を信じないかもしれない。
「なんとなく、しか判らないわ。シュウは自分の神様をあたしに信じて欲しくないのね。でも、それならどうして本を残していくの? 本を書かなければ誰もシュウの神様を知らずにいられるのに」
「真実は変わっていくものだ、って言ったよね。おそらく、これから先村の神様は何らかの変貌を遂げていくだろう。神官たちが神様を研究して、やがてどうしても解けない矛盾を見つけたとき、オレの本が役に立つかもしれない。あの本は今回の戦いでオレが経験した事実を克明に記してある。それに対するオレの解釈も書いてあるけど、本当に伝えたいのは事実の方だ。真実は人それぞれ違うけど、事実はたった1つしかないからね。それが、オレが本を書いた本当の理由だよ。…ほら、君は影の世界でオレと同じ経験をしているから」
 そうか、あの本はあたしには必要がない本なんだけど、これからの村人には必要になるかもしれない本なんだ。少なくともシュウはそう思ってる。だからあたしが生きている間は解読されないようにしたの。でもあたしは、シュウの言葉に少しのごまかしを感じていた。
 きっと丸め込まれたんだと思ってたけど、でもあたしはそれ以上シュウを追及しなかった。そのあと少しだけカーヤやオミと話をして、命の巫女たちは帰っていった。
 あたしは部屋に戻って日記の続きを書いた。今日の出来事を克明に。シュウが言った、真実は人の数だけあるけど、事実は1つだということも。この日記はあたしにとっては真実を集めたものだけど、でも人によってはそうとも言えないのかもしれない。シュウが言うのはきっとこういうことなんだろうな、なんてことを考えながら。
 あたしにとっての真実と、シュウにとっての真実は違う。たぶんリョウにとっての真実も違うんだろう。言葉では理解できたような気がしたけど、実はあたし、本当の意味はぜんぜん判っていなかったのかもしれない。
 今日の出来事のすべてと、シュウの言葉の意味とを結びつけることが、今のあたしにはできなかったんだ。
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