シュウは少しだけ、あたしにどう話をしようか迷ったみたいだった。
「そうだな。…祈りの巫女、君は神様をどういう存在だと思う?」
「どうって。この世にあるすべてのものを作った存在だわ。村の過去も未来も、人間の運命も、すべてを司っている。あたしに祈りの力を与えて、あたしの祈りを聞き届けて村人を幸せにしてくれるのも神様よ。…影はあの時、神様を「計算するもの」と呼んでいたけど」
シュウは一瞬だけ目を見開いたけど、でもそのあとに口調を変えることはしなかった。
「君は君なりに神様を感じて、今までの祈りの巫女や運命の巫女たちが感じてきた神様についての解釈を信じている。その解釈と信じるという気持ちはね、正しいことなんだ。ところが、正しいと思うことは時を経て変わっていく。それは人間が「探求するもの」だからだ」
その「探求するもの」という言葉を聞いたとき、命の巫女が反応を示した。もしかしたら以前自分が探求の巫女と呼ばれていたことを思い出したのかもしれない。
「オレたちの歴史でもね、神はいろいろな信じ方をされてきた。この村では神を目に見えるものに投影することがないけれど、オレたちの歴史ではたとえば太陽に投影したり、身近な動物や時には実在する人間に投影したりね。オレたちの世界ではさまざまなものが解明されているけれど、まだ神様の存在に関しては未知のままだ。だからその中のなにが正しいのか、それともすべてが間違いなのかも判らない。オレがそのすべての解釈を正しいと思うのは、神を信じることでそのときの人間たちに与えられたものが計り知れないからなんだ。もう1つ、神を探求することで人間が得たものは更に貴重なものだと思ってる」
「…」
「影が言った「計算するもの」というのは、影にとっての真実だ。そして、オレにとっての真実はオレが書いた本の中にある。だけど、それらは君の解釈ほどにはこの村で真実じゃない。正しいものはいつも、そこに生きている人々の中から生まれてくるものなんだ」
「…よく、判らないわ。真実は常に1つだけじゃないの? いくつもあるものを真実と呼んでもいいの?」
「真実は人間1人1人、動物や植物にとってもそれぞれ違う。影の真実は必ずしも君の真実じゃない。だからオレは、君が真実を探求することを邪魔したくはないんだ。オレという存在を身近に感じた君は、きっとオレの真実を自分の真実だと勘違いしてしまうだろうから」
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