タキの病室を出て宿舎に戻ったあと、カーヤと夕食をともにして自室で今日の日記を書いていたとき、命の巫女が来たという知らせを受けていた。すぐに部屋を出て食卓へ向かう。命の巫女とシュウは午前中に話していた通り、各宿舎へ挨拶に回っているところだった。
「本はもう書き終わったの?」
「タイムリミット。文章には自信がないけど、もう直している時間がなさそうだからね」
「量が多すぎるからあたしも諦めたわ。しゃべる言葉は同じだから、多少接続詞を間違えてても意味は判るでしょ。さすがにシュウはカンジケンテイ持ってるだけあって文字の間違いはないし」
「むしろおまえの悪筆の方が問題だよな。"ゆ"と"わ"と"れ"の区別がつかないのはなんとなく判るんだけど、どうして"キ"と"オ"が同じになるのかが判らない」
「同じじゃないよ! よく見ればちゃんと違いがあるんだから!」
「未来の神官たちに暗号解読をさせるつもりはなかったんだけどね。ユーナのあの文字じゃ結果的にはそうなりそうだ」
昼間のときは言われっぱなしだったシュウが、今度はしっかり言い返していた。この言い合いも明日からは見られなくなるんだ。
「神官のみんなはすぐに解読したくなるわねきっと。タキなんか真っ先に始めちゃいそう」
「そう思ったからね、解読禁止にしてある。神官たちが約束を守ってくれさえすれば君が生きている間に解読されることはないよ」
「そうなの? そういう約束になってるの?」
「ああ。まあ、とうぜんその前に書き直しがあるだろうからついでに解読しちまうかもしれないけど。…ユーナの文字、そのまま書き直されたら完全に解読不可能になるだろうな」
「判ったわよ! あとでちゃんと解読表残していくから。それでいいんでしょ!」
そういう約束があるのなら、きっと神官たちはちゃんと約束を守るだろう。そうか。あたしはシュウたちが書いた本を読むことはできないんだ。たぶんリョウやタキなんかも。
「ねえ、どうしてあたしが読んではいけないの? たとえ神様の正体が理解できなくてもあたしも読んでみたいのに」
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