「タキにだけは、話しておこうと思って。…たぶん、リョウがいきなりいなくなったら、神殿のみんなが驚くから。あたし1人じゃみんなに上手な説明ができないかもしれないから」
「…リョウに渡した、って。あの、ランドに預かってもらってた?」
「うん。ケータイデンワと血のついた服が入ってた」
「それで? リョウは帰るって?」
「はっきりそう言った訳じゃないけど、嘘がバレたらここにいる理由はないもの。あたしが1人でも大丈夫だって言ったら、判った、って。…優しい人だから、あたしを気遣ってはっきり帰るって言えなかったんだと思う」
あたしが言葉を切ると、タキは少しの間うつむいて考え込んでいるように見えた。ようやくあたしは顔を上げて、タキが次の言葉を言ってくれるのを待っていたの。
「そう、か。…まあ、その方がいいかもしれないけど」
つぶやくようにそう言って、タキはあたしの顔を見上げた。
「昨日さ、シュウと命の巫女が見舞いにきてくれたんだけど、実はオレの方はついででね。命の巫女がライを一緒に連れて帰りたいって、ローグに相談しにきたらしいんだ。ライは両親もいないし、大きな怪我をしていて、命の巫女の世界なら医学もここよりずっと進歩しているからちゃんと歩けるようになるんじゃないかって。ただ、シュウに言わせればそんなに簡単でもないらしい。ローグも反対していたから、けっきょく2人して命の巫女を説得することになってたみたいだけど」
そういえば、さっきタキがあたしと命の巫女を間違えたとき「まだ諦めてないのか」って訊ねた。命の巫女は、最初にライを見たときに「連れて帰れないかな」って言ってた。それは些細なことで、あたしは忘れていたのに、命の巫女はちゃんと覚えていたんだ。
「そのときにシュウが言ってたんだけど、本来ならいないはずの人間がとつぜん現われたら、シュウたちの世界にどんな影響が出るか判らない、って。ライはこの村に属する人間で、シュウたちの世界では存在しないはずの人間なんだ」
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