そうか。あたし、さっき部屋で髪飾りをはずしてそのまま出てきちゃったんだ。
「ごめんなさいタキ。あたし、髪飾りをつけ忘れたみたい。あたしは祈りの巫女で間違いないわ」
「そう。でも珍しいね。髪飾りを外した祈りの巫女なんて、オレはここしばらく見てなかったから」
 タキと話しながら枕もとの椅子に腰掛けて、あたしは自分でちょっと驚いていたの。15歳の誕生日でリョウにプレゼントされたときから、あたしはあの髪飾りをはずして外に出たことなんてほとんどないんだ。それなのに、さっき髪を整えたあと髪飾りをつけ忘れるなんて。
「…あの、タキは元気そうね。本なんか読んでて大丈夫なの?」
「さすがに退屈でね。祈りの巫女は? まだ体調が悪そうだって聞いたけど」
「うん、身体の方は元気よ。今日は村へも行ってきたくらいだから。早ければ明日にも仕事復帰できるわ」
「それは良かった。君がいなくなったって聞いたときにはみんな心配したんだけどね。大きな怪我もなく帰ってきてくれて本当によかったよ。やっぱり君は、神様に守られているんだね」
 そう言ってタキは微笑んでくれる。うつ伏せのままのタキの怪我はまだ長引きそうに見えたから、あたしは少し胸が痛んだ。
「…で? どうしたの? …オレは別に、祈りの巫女が見舞いに来てくれるのはいつでも大歓迎なんだけど。なにか心配ごと?」
 タキの方から聞く態勢に入ってくれていた。それはもしかしたら、あたしのちょっとした表情を読み取ったからなのかもしれない。
「タキ、命の巫女たちが明日帰るって話は聞いてる?」
「昨日きてくれたときに話してたからね。本当はもっといろいろな話をシュウに聞きたかったけど、彼らも自分の世界での生活があるから。オレも身体が動きさえすれば本の執筆なんかも手伝いたかったよ」
「…リョウも」
「え?」
「リョウも帰るの。…命の巫女たちと一緒に、リョウも自分の村へ帰るの。…さっき、リョウに服と持ち物を渡してきたの」
 タキが驚いたように目を丸くした。あたしはタキの視線に耐えられなくて目を伏せた。
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